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[ ホラー ]
死の猟犬
短編集/別題『検察側の証人』(創元文庫版)、『クリスチィ短編全集 1』
アガサ・クリスティー 出版月: 1966年09月 平均: 5.71点 書評数: 7件

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東京創元社
1966年09月

早川書房
1971年01月

早川書房
1979年03月

東京創元社
2004年01月

早川書房
2004年02月

No.7 7点 レッドキング 2022/04/15 21:43
アガサ・クリスティー第五短編集。 ドイルだけでなくクリスティーも「こんな」の書いてたのね
  「死の猟犬」 "第六の啓示"を受けた修道女と敵軍を消滅させる超能力。(採点対象外)
  「赤信号」 危機予知降霊会に冤罪殺人トリックネタが付いて・・4点。
  「第四の男」 群衆が単一国家"Who"に成り得る様に、一個人に多重"Who"が棲み分れる事も・・(採点対象外)
  「ジプシー」 ”ジプシーの幽霊”と過ごしたファンタジーから、日常への帰還のメルヘンへ・・(採点対象外)
  「ランプ」 まんま怪談ホラー幽霊話にして、「合理的(=筋の通った)」な非合理話。(採点対象外)
  「ラジオ」 完全犯罪の完璧な完遂が、カワイソ過ぎる(悪党と言え)皮肉どんでん返しへ・・7点。
  「検察側の証人」好意者の証言は否定されるが悪意者の反証は受入れられる群衆心理・・からの・・素晴しい!9点
  「青い壺の謎」 「超常現象短編集」逆手にとって、読者も騙す完全犯罪。7点。
  「アーサーカーマイクル卿の奇妙な事件」 洋館バケ猫話のホラー味チト切れ悪く・・東洋人偏見つき。(採点外)
  「翼の呼ぶ声」 通俗オカルトを超えて、諸宗教も超えて、"真の神秘"、普遍的形而上学にまで至るメルヘン。
          (かくも素晴らしき作品を、ミステリとして採点できず、残念!)
  「最期の降霊会」 霊媒女と降霊会スポンサー女のキャットファイトのオカルトエンド。(採点対象外) 
  「S・O・S」 幽霊屋敷に迷い込んだ男と屋敷の家族に隠された秘密。6点。
で、12作中、ミステリと言える 5作の平均点は、(4+7+9+7+6)÷5=6.6。切上て 7点。

No.6 5点 弾十六 2020/02/22 06:07
1933年10月にOdhams Pressが雑誌The Passing Show(セイヤーズのモンタギュー・エッグものが連載されています)の販促企画として製作した本のひとつ。(雑誌添付のクーポンが無いと入手出来ない本だった) そういう本なら最初の掲載誌がわからない5作は単行本初出なのかも。Collins Crime Clubで出版されたのは1936年。早川クリスティー文庫で読了。
なるべく発表順に読む試み。カッコ付き数字は文庫収録順。初出データはwikiを基本にFictionMags Indexで補正。英語タイトルは初出優先。
**********
⑵赤信号 The Red Signal (Grand Magazine 1924-6 挿絵Graham Simmons): 評価5点
冒頭からの流れは良いのだが、でも最後はしゃべりすぎ、全然詰めが甘い感じ。なおその法律は後で是正されました…
p53 また潜在意識か。この頃はなんでもかんでもそれで片付けられちまう
p54 以心伝心(テレパシー)
p63 こうした場合のしきたりで、あらたまった紹介はなかった(No further introductions were made, as was evidently the custom)♠️へえ、そうなんだ。
p63 シロマコ(Shiromako)♠️日本の霊(Japanese control)の名前
p63 ウェルシュ・ラビット(Welsh rabbit)♠️Welsh rarebitで英Wikiに美味しそうな写真あり。
p80 下男(His man)
p81 回転拳銃(リヴォルヴァー)… あまり見なれない型(a somewhat unfamiliar pattern)♠️英国陸軍のリボルバーなら第一次大戦中からずっとWebleyだが、米国製の上質なSmith & Wessonだったので、この登場人物には馴染みが無かった… という意味か?(考えすぎです) そのような描写は一切無く、この解説は私の妄想にすぎません、念の為。
(2022-4-26記載)
**********
⑻青い壺の謎 The Mystery of the Blue Jar (Grand Magazine 1924-7 挿絵Graham Simmons): 評価5点
ゴルフもの。アガサさんはアーチーとゴルフを楽しんでいたようだ。美人と怪奇現象という取り合わせ。初期アガサさんならではの軽さ。
p259 あと一、二分というところで◆この頃の英国では列車は時間通りなんでしょうね。
(2022-4-26記載)
**********
⑺検察側の証人 Traitor’s Hands (Flynn's 1925-1-31) 単行本タイトルThe Witness for the Prosecution: 評価5点
Flynn’s [Weekly]は有名な探偵小説系パルプ誌Detective Fiction Weeklyの前身。10¢(=160円)192ページ。当時はH. C. ベイリーとかオースチン・フリーマンとかの英国作家を結構掲載しています。この作品がアガサさんの米国雑誌初出の最初。その後、この雑誌にクィン氏ものを多く掲載することになります。
久しぶりに再読したが、思い出の中の印象より、かなりキレが悪い。翻訳のせいかなあ(昔読んだのは創元文庫 厚木 淳 訳)。戯曲版(1953)を読みたくなりました。短篇版の結末はとてもロマンチックなものだ、と急に気づき、それが戯曲版での変更に繋がっているのかも。たくさんのソリシタやバリスタの助言を得て戯曲版を書く前は、法廷関係の知識は全く無かった、と自伝で告白しています。
p212 彼女はいきなりむちゃくちゃに人が好きになる性質(たち)のお年寄り(an old lady who took sudden violent fancies to people)
p222 鉄梃(かなてこ)(crowbar)♣️今なら「バール」の方がわかりやすいか。
p227 掃除婦(charwoman)♣️メイドはいないが掃除婦はいる。貧乏な若夫婦なのだが…
p234 警察裁判所の予審(The police court proceedings)
p236 二百ポンド♣️英国消費者物価指数基準1924/2022(64.78倍)で£1=10548円。
p240 一ポンド紙幣♣️当時の£1紙幣は£1 3rd Series Treasury Issue(1917-1933)、茶と緑の配色、ジョージ五世の肖像と竜と戦う馬上の聖ジョージ、裏はウェストミンスター宮、サイズ151x84mm。
p243 チャールズ卿♣️唐突に名前が出てくるが、この事件の被告側バリスタ(法廷弁護士)。法廷での弁論はバリスタが専門に行い、ソリシタ(事務弁護士)は法廷外の仕事をする、というのが英国弁護士の分業制。現代ではソリシタでも弁論が出来るようになっているようだが、よく調べていません…
(2022-4-27記載)
**********
⑶第四の男 The Fourth Man (Pearson’s Magazine 1925-12): 評価6点
Wikiでは初出Grand Magazine 1925-12だが、同号にはThe Benevolent Butler(単行本タイトルThe Listerdale Mystery)が収録されてるのでFictionMags Indexにより修正。グレアム・グリーンのThe Third Manを連想してしまうタイトルですが、あっちは第二次大戦後の話です。
子供の頃に読んでずっと心に残っていたことに、今回再読して気付きました。子供の残酷な感じとか、嫌いだけど意志の強い相手に何故か従ってしまう感じとかが上手に表現されている、と思います。
p97 色は浅黒く(a slight dark man)♠️「外国人らしい」という印象を語り手は受けている。でも私は肌の色ではなく髪の色では?と思うのだが…
(2022-5-15記載)
**********
(12)S・O・S 原題S.O.S. (Grand Magazine 1926-2): 評価4点
バランスの悪さを感じさせる作品。もしかすると記事は実在のもので、当時の読者は、ああアレね、と思ったのかも。
(2022-5-15記載)
**********
⑹ラジオ Wireless (米初出Mystery Magazine 1926-3-1, 英初出Sunday Chronicle Annual 1926-12): 評価5点
英国初出のSunday Chronicleは週刊新聞(1885-1955) 掲載誌はクリスマス特集号だと思われる。
英国でラジオの公式実験放送は1920年6月15日(火曜日)が最初らしい(正式にラジオ放送が始まったのは1922年11月)。ラジオは当時の最新流行。外国の放送が聴ける、というのもウリだったのだろう。
老婦人を描くと生き生きしてしまうのがアガサさん。ちょうど母の死(1926年4月)の頃の作品だが、書いたのはその前なのでは?と感じた。
(2022-5-18記載)
(2022-9-11追記: 初出が米雑誌Mystery Magazine 1926-3-1らしいと判明したので、順番を変更した。やはり母の死の前の作品だった)
**********
(11)最後の降霊会 The Woman Who Stole a Ghost (Ghost Stories 1926-11) 単行本タイトルThe Last Seance: 評価4点
Ghost Storiesは米国のホラー系パルプ誌、当時25¢(=400円)96ページ。 (1927年1月号は無料で入手出来ます。知ってる名前はレイ・カミングスくらいですが、広告がとても楽しい)
工夫のない話だが、米国ホラー誌には、こんな話がよくあるよね… その線を狙った? 同時期のクィン氏もの『闇の声』にも交霊会が出てくるが、扱い方は全然違う。
(2022-5-18記載)
*****************(以下は掲載誌不明。単行本1933-10が初出か?)
⑴死の猟犬 The Hound of Death (初出不明): 評価5点
七つの宮はヨハネ黙示録に繰り返される「七」(封印、ラッパ、鉢)を思いだしました。(ただし第五は「青」などという連想p36を見ると黙示録にある象徴の順番とは対応していない) 変な話だねえ、という感じだが、理に落ちすぎてないのが良い。語り口はちょっとぎこちない。少なくとも作者1930年代の作品とは思えない。未発表、というより初期の売れなかった作品か。
(2020-2-22記載)
自伝に出てくるMay Sinclair作「水晶玉の傷」(The Flaw in the Crystal)に影響されたデビュー前の習作で、後年短篇集に収録したという超自然小説「幻影」(Vision)はこれかも。(Visionという題の作品はアガサさんの短篇集には見当たらず、雑誌発表タイトルにもないようだ) 自伝での評価は「今再読してみてもやはり気に入っている。」
(2020-2-23追記)
**********
⑷ジプシー The Gipsy (初出不明): 評価6点
いろんな要素を詰め込んでて話は散らかってるが、その散らかり具合が程良くて好き。自伝によるとデビュー前の娘時代に「霊魂小説」(psychic stories)を書くのにハマってたらしいから、これもその頃の作品なのかも。
p143 ジプシー女が/荒野に住んで…: 歌の一節のようだ。調べつかず。
p147 ファーガスン: 妙な注がついてるが、多分架空ネタ。
(2020-2-23記載)
**********
⑸ランプ The Lamp (初出不明): 評価5点
ムードは悪くない。死という概念を弄べる未成年にしか書けないような話。大人ならトーンが変わると思う。なので、デビュー前の娘時代に「霊魂小説」(psychic stories)を書くのにハマってた頃の作品だと思います。
(2020-2-23記載)
**********
⑼アーサー・カーマイクル卿の奇妙な事件 The Strange Case of Sir Arthur Carmichael (初出不明): 評価4点
超自然もの。これはつまらない。明明白白なものを勿体ぶってぼかしても仕方がない。
(2020-2-23記載)
**********
⑽翼の呼ぶ声 The Call of Wings (初出不明): 評価5点
自伝に出てくる、小説を書き始めたばかりの娘時代の最初期の作品かも。自伝での評価は「悪くなし」(not bad)。
夢の内容が面白い。冗長な部分が見受けられるけれど、最初期の作品と考えれば悪くない。
p347 一シリング: 辻楽師へのチップ。成立年代不明だが1910年基準(118.57倍)で841円。
(2020-2-23記載)

No.5 3点 ことは 2019/12/12 01:10
これは駄目でした。
「検察側の証人」は、無駄なくよくできた好作だと思いますが、後半のホラーテイストの作品は全く駄目。「最後の降霊会」にいたっては、「どこを楽しめというのか?」と思ったほどです。超常現象をありという設定で、「はい、超常現象が起こりました!」といわれて、どうすればよいのか……。
「検察側の証人」がなければ2点にしていたところです。
「謎のクィン氏」は大好きなのですが、同一人物の作品とは思えない程です。翻訳によるところもあるのかなぁ。

No.4 6点 クリスティ再読 2017/01/04 17:57
さて短編集も残り少なくなってきたけど、満を持して本作。超常現象が絡むネタ(「検察側の証人」は別だが、これは戯曲と合わせて見るので、ここでは対象外とする)だけど、カーナッキ主義というか、ミステリのオチが付くケースも多く、どっちか言えば「反則(オカルト)ありのミステリ」という感じの短編集である。ミステリ/オカルト比は作品によってそれぞれで、内容もうまくいってるのもあれば、それほどでもないのも...という感じで、割と玉石混淆(ミステリでうまくオチてるのもあるし、オカルトでうまくまとまってるのもあるし、逆もある)。でも初期のキャラ系短編集の時代の短編集に入るわけだから、時代を見れば上出来、になる。
個人的には表題作の「死の猟犬」が純オカルト的だが好き。ちょっとクトゥルフっぽいテイスト..というか、クトゥルフ物のアンソロに入っててもそう違和感がない気がする。最後の「S.O.S」は何かよくわからない小説なんけど、妙に引っ掛かる。ちょっと「クィン氏のティーカップ」に似た話かも。
ホラー/ファンタジー色のあるミステリって、クリスティ実はかなり適性があるわけで、どっちか言うと評者そういうの非常に好きだったりする(「クィン氏」とか「終わりなき夜に生れつく」とかね)。まあだけど、本作だと一つ一つが短いこともあって、ちょっとうまくまとめようとし過ぎかな。だから余白多めの「死の猟犬」とか「S.O.S」の方が印象がイイように感じる。

No.3 6点 りゅうぐうのつかい 2016/05/15 11:59
「検察側の証人」、「ラジオ」、「青い壺の謎」以外は、超常現象を扱った話。
超常現象を扱った話は、ストーリー自体に面白みがなく、すぐに忘れてしまいそうな作品ばかり(実際、既にほとんどの作品が思い出せない)。
唯一、「翼の呼ぶ声」は、お金持ちが持つ悲哀をうまく描けていると感じた。
「死の猟犬」は、意味不明な作品。"第六のみしるしの秘密"とは何だろうか。"円を閉ざさないように気をつけて"とは、どういう意味なのだろうか。なぜ、こんな意味不明の作品が表題作なのだろうか。
「ジプシー」と「S.O.S」は、ややこしい話で、一読では理解できずに読み返したが、たいした話ではなかった。
「検察側の証人」は、結末で読者をあっと言わせる短編小説の傑作。以前に戯曲版を読んだことがあるが、戯曲版では続きがあって、さらに驚くべき内容になっている。
「ラジオ」は、皮肉な結末が面白い。
「青い壺の謎」は、意外な真相ではあるが、こんな、確率が低くて、面倒くさいことをわざわざするとは思えない。

No.2 6点 2012/07/28 11:57
戯曲化、映画化(ビリー・ワイルダー監督の『情婦』)で有名な『検察側の証人』の原作は、30数ページ程度の短編です。全体的な構成はさすがですが、短くまとめすぎていてどんでん返しがあわただしくなり、物足らないような気もします。
収録作のうちこの作品を除く他の11編すべてが超常現象がらみということでも、クリスティー短編の中でも特に有名なこの作品は、集中で目立つ存在になっています。まあ他の作品も、超常現象と言っても中にはディクスン・カーのような見せかけだけのタイプもありますが。
多重人格(短編集発表が1933年ですよ!)に対するある解釈『第四の男』、現象から予測はすぐつくものの、最後のひねりがうまい『ラジオ』、痛快とも言える『青い壺の秘密』あたりがよくできていると思います。ただ個人的には、完全に幽霊ホラー系の『ランプ』が怖さと哀しさをあわせ備えていて、一番好きな作品です。

No.1 7点 mini 2010/01/25 10:09
本日発売の早川ミステリマガジン3月号の特集は”犬も歩けば謎に当たる”
やはり”犬”も入れとかないとね

でも作中には具体的に犬が出てこないんだよな(苦笑)
特定の探偵役が出てこない非シリーズ短編集『死の猟犬』は、次の2つの理由で有名である
1つは名作と言われる短編「検察側の証人」が含まれていることで、戯曲の1巻としてクリスティ全集にも入っているが、普通の短編としてはこの短編集の収録作なのだ
もう1つは、この短編集が全体としてホラー中心の短編集であることだ
その為か「検察側の証人」1篇がこの短編集の中で浮いてしまっている感も有り、別の短編集に収録しても良かったんじゃないかという気もする
ただ内容ではなく探偵役による分類だと、初中期の短編集は探偵役別の短編集が中心だったりで、ノンシリーズ短編を収めるとなると適した短編集が他に『リスタデール卿』くらいしか見当たらず仕方なかったかも知れない

クリスティは意外と非本格のホラー短編が上手く、中期の短編は別だが初期のポアロものの短編群の質を考えたら、ホラーの方が質が高いとさえ言える
きっちり謎が解かれて終わらないと気がすまない本格偏愛読者には合わないかも知れないが、相性は読者側の問題であって作品の質とは無関係だ
私は異色作家短篇集なども読むので全然無問題
ホラーは本格より格下などと思い込むような狭量な視点は持ちたくないものである


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アガサ・クリスティー
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