皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
弾十六さん |
|
---|---|
平均点: 6.14点 | 書評数: 483件 |
No.483 | 5点 | ブラック・マスクの世界1 ブラック・マスクの英雄たちI- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/02 23:22 |
---|---|---|---|
1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。このシリーズ、買おうか迷ってたけど、NDLdcで読めるようになっていたとは!
---------- (1) Straight from the Shoulder by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1929-10) 「ネックレスを奪え」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 エド・ジェンキンズもの。テンポが良くて実に素晴らしい作品。「探偵雑誌を読む少年は見込みがある」とさりげなく雑誌販促してる。 ---------- (2) 「賭に勝った女」ロジャー・トリー (3) 「黒い手帳」ホレス・マッコイ (4) 「新しいボス」N・L・ジョーゲンセン (5) 「KKKの町に来た男」キャロル・ジョン・デイリイ (6) 「帰路」ダシール・ハメット (7) 「帰ってきた用心棒」ノーバート・デイヴィス (8) 「最後のしごと」L・V・アイティンジ (9) 「白い手の怪」スチュワート・ウェルズ (10) 「裏切りの街」(1)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ウィリアム・F・ノーラン (構成: 木村二郎) 1985-03-22LAの自宅にて。HMM1985-10掲載のものを再編成。 ノーランは「心はいつも27歳」と言っているが、どうしてそのトシなんだろう。1969年当時、ブラックマスクが一冊2ドルで買える古本屋があったらしい。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) ---------- <解説>で小鷹さんはブラックマスク一時離脱前のハメットの稿料が「破格の…一語三セント」(p232)だった、としているが、ほんとうかなあ。ブラックマスク創刊号の表紙が当時はビル・プロンジニーニもノーランも見たことが無い、という話題で盛り上がっているが、現在はFictionMags Indexでちゃんと見ることが出来る。 |
No.482 | 5点 | 13の判決- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:52 |
---|---|---|---|
1978出版。ジュリアン・シモンズ編。こちらはデテクション・クラブ主催のテーマ別書き下ろしアンソロジー。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
インクエストねたもあるかも?と期待していました。 (6) Pelly and Cullis by Michael Innes 「ペリーとカリス」マイケル・イネス作、池央耿 訳: 評価5点 アプルビイもの。もう隠居している。裁判において陪審員の評決は、どこで確定するのか?という点が面白い。いつも携帯してる、というのがヘンテコだが… タイトルは何かに懸けてるのでは?と直感したのだが、ググっても出てこない。 |
No.481 | 6点 | 密室大集合- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:26 |
---|---|---|---|
1981出版。MWA主催のテーマ別アンソロジー。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
編者「まえがき」で発表された有名な「密室傑作長篇10傑」って僅か17人参加のお遊び企画(ホック自身がそう書いている)だったんだね。 (1) The Shadow of the Goat by John Dickson Carr (初出: 大学校内誌The Haverfordian 1926?) 「山羊の影」ジョン・ディクスン・カー作、島田三蔵 訳: 評価6点 バンコラン初登場らしい。豪華な複数密室。当時の1000ポンドは英国消費者物価指数基準1926/2025(78.11倍)で£1=15090円なので、ここでの使い方は異常。舞台は英国の古い屋敷。バンコランは「86人の警察長官のうちの一人」とされている。私は好かんタイプの解決だが、ギリギリOKかな。作者が後年も多用するラッキーパンチ要素もちゃんとある。JDCは最初から密室大好きだったのか!と感慨深い。 |
No.480 | 6点 | 37の短篇(傑作短篇集)- アンソロジー(国内編集者) | 2025/03/31 08:50 |
---|---|---|---|
1973年出版。確か書籍でも持っているはずなのだが、書庫を探すのが大変。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
巻末の石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光の座談が非常に楽しい。稲葉さんが「C・O」と言ってて何?と思ったら「コンチネンタル・オプ」のことでした。 一つ一つ、ゆっくり読んで行きますよ。総合評価は暫定6点で。 ---------- (2) Human Interest Stuff by Davis Dresser(Brett Halliday) (初出Adventure 1938-09、挿絵画家不明)「死刑前夜」ブレット・ハリデイ作、都筑道夫 訳: 評価6点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。初出誌は全ページ無料公開されている。イラストは二枚だが雰囲気良し。 原文と比べると最後の一行はなんか違う。ハリデイさんの長篇は読んだことはないけど、短篇数作を読んだ印象からとっても良い人なんだろうと感じる。何せヘレン・マクロイを妻にしてた人だしね。 ---------- (8) Don’t Look Behind You by Fredric Brown (初出?EQMM1947-05) 「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン作、曽我四郎 訳: 評価6点 稲葉さん推薦作。座談会では最初は雑誌の最後の短篇として印刷…というふうに書いてあって、そういう組み方の初出?雑誌(イラストもあった)をどこかで見た記憶があるのだけれど、上記EQMMでは三番目の短篇。あれ?と思った。短篇集Mostly Murder(1954)では最後になってるけど… 作品の書きっぷりから言って、雑誌最後の短篇じゃないと成り立たないようにも感じるので、本当の初出はマイナーなパルプ雑誌なんだろうか? ところで翻訳の曽我四郎って誰でしたっけ?早川関係だったような朧げな記憶が… 作品内容は才人ブラウンらしいちょっとトリッキーなもの… ってみんな大体知ってるよね? p157 ロナルド・コールマン(Ronald Colman)◆ 1920〜30年代のスター。なので1947年だとすこし古臭い感じ。 p158 細字の思い切った草書体(freehand cursive style) ---------- (9) Off the Face of the Earth by Clayton Rawson (初出EQMM 1949-09) 「天外消失」クレイトン・ロースン作、阿部主計 訳: 評価7点 稲葉さんが本作を推してるのが意外だった。マリーニ探偵の不可能犯罪もの。トリック、ちゃんと出来るかなあ、と思うのと、やる側の心理(プラン立てたとして、これで上手くいく、と思える?)がちょっと不満。TVドラマで見てみたいなあ。 p176 ジプシー・ローズ・リー◆ Gypsy Rose Lee(1911-1970) 1930年代後半ごろからが最盛期か。英Wiki参照。 p177 ペパーの幽霊魔術(Pepper’s ghost)◆ 1862年ロンドンで大評判になったマジック。 p177 ドロシー・アーノルド◆ 米国で有名な失踪者。英Wiki “Dissapearance of Dorothy Arnold”参照。1910年12月10日午後、ニューヨークで失踪。五番街で友達と別れたときセントラル・パークを通って帰ると話していた。当時25歳。 p180 クレイター判事◆ Joseph Force Crater(1889年生まれ) ニューヨーク州最高裁判所判事。1930年8月6日午後9時半ごろ、ニューヨーク西45番街のレストランを出て、二人の連れと別れ、一人タクシーに乗り込んだ後、行方不明となった未解決事件。 ---------- (26) Contents of the Dead Man’s Pocket by Jack Finney (初出Collier’s 1956-10-26) 「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ作、福島正実 訳: 評価7点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。とってもコワイ話。まあ結末はこれで綺麗だけど、でも不満だなあ。 ---------- (29) The Sailing Club by David Ely (初出Cosmopolitan 1962-10) 「ヨット・クラブ」デイヴィッド・イーリイ作、高橋泰邦 訳: 評価6点 小鷹さんお勧め。言いたいことは何となくわかるけど… ファンタ爺に過ぎる。当時作者35歳か。ならジジイの気持ちなんてわかるはずないよね。 ---------- (32) The Man Who Read John Dickson Carr by William Brittain (初出EQMM 1965-12)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン作、伊藤守男 訳: 評価7点 小鷹さんお勧め。実に気が利いている。 p632 ドアは五インチもある厚いかしの木製で、それをしめるためには、両側の壁にがっちりとはめこまれた鉄のとめ金に重い木のかんぬきをさしこまなければならない(a two-inch-thick oak door... could be locked only by placing a ponderous wooden bar into iron carriers bolted solidly to the wall on both sides of the door)◆ 密室ドアの鍵関係のサンプル ---------- (37) The Gemminy Crickets Case by Christianna Brand (初出EQMM 1968-08)「ジェミニイ・クリケット事件」クリスティアナ・ブランド作、深町真理子 訳: 評価7点 上記のお三方が三人とも「お気に入り」と認めているのが、本作。大昔に読んだはずだけど、すっかり忘れていた。自然な流れが非常に良い。タイトル、由来はJiminy Cricket(ジーザス・クライスト!の言い換え語)なんですね。クリケットが登場するのかな?と期待しちゃった。ワールド・カップ決勝の日(土曜日)が事件の日となっているが、1966年サッカー・ワールド・カップはイングランドがホスト国で、イングランドが初優勝している。(1960年にイングランドで開催されたラグビー・ワールド・カップの可能性もあるかな。こちらも英国が二度目の優勝)。まあ戸外に誰も出ていない、という熱狂ぶりなのでフットボールのほうだろう。ただし「二十年以上前」の事件のはずなので、作中現在は未来なのかな?(1990年ごろか) 「[ワールドカップなので]誰もがテレビにかじりついてる」という文言があった。最初のTV中継は1954年のワールドカップが最初。(訂正: 事件が二十年以上前、ではなくて、登場人物が再会したのが二十年ぶり、という事でした。とすると、作中現在は初出1968年でも大丈夫ですね) |
No.479 | 8点 | 三人の名探偵のための事件- レオ・ブルース | 2025/03/28 04:25 |
---|---|---|---|
1936年出版。扶桑社ミステリー文庫で読みました。翻訳は素晴らしいが、スミス師の喋りを中村保男サン風にしてくれたらもっと良かった。
レオ・ブルースさんは前からずっと気になって、翻訳書はたくさん買い溜めていたのだが、初めて読んだ。 ポアロ、ピーター卿、ブラウン神父のファンなら必読。同時代のTorquemada評を見ると、ポアロ味は健闘、ブラウン神父味も時々良いが、ピーター卿はちょっと違うなあ(特にビールとダーツのくだり)と書いていた。(Webサイト "The Grandest Game of the World" 参照) まあでも素晴らしいパロディ作品。こういうトリックや筋書きは、探偵小説ファンなら誰もが自分で創作してみたい、と夢見て、そしてなしえることが稀だろう。 ところで作者(本名Rupert Croft-Cooke)は1923-1924にブエノスアイレスで過ごしている(どういう事情なんでしょうね。ヘイスティングスの例でもわかるように、当時アルゼンチンは成長が著しかったので一旗組か)。でもボルヘスが創始したミステリ叢書「第七圏」の初登場は1982年。#354. El caso de la muerte entre las cuerdas, de Leo Bruce (Case with Ropes and Rings 1940『ロープとリングの事件』)。ペンズラー&スタインブランナー編 "Encyclopaedia of Mystery and Detection"(1976)にも作者の項目は無かった。1970年代までは忘れられた作家だったのかも。 トリビアは後ほど。 |
No.478 | 6点 | 三角館の恐怖- 江戸川乱歩 | 2025/03/24 02:27 |
---|---|---|---|
原作はロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』(1932)、乱歩さんは光文社から連載探偵小説をせっつかれて、原著者と出版社の了解を得られたら、という条件をつけて自由訳を提案したところ、意外にも光文社がちゃんと条件をクリアしたので、連載することになった、と書いている。
初出: 光文社「面白倶楽部」昭和二十六年一月号から十二月号まで連載(挿絵:富永謙太郎)。私は創元推理文庫の電子版で読みました。初出時の挿絵や読者への挑戦(賞金付き、一等五千円)もちゃんと再録されています。結果も載っていました。 当時の五千円は日本物価指数(戦前東京区部)昭和25年/令和6年(8.46倍)なので42300円。 乱歩さんは原作を最初に読んだ時、探偵小説史上でも素晴らしい傑作だと思ったが、後で良く読んで見るとそこまでの作品ではない、と思い直したようだ。 私は原作を先に読んで、文章が辿々しいところがあるなあ、キャラも書き込み不足だなあ、と思ったが、乱歩さんの翻案がある、と知って、乱歩さんならああいうところを上手く扱っているかも、と思って読んでみた訳です。 でも翻案ではなくて、登場人物を日本に移しただけのかなり忠実な翻訳というレベルだったので、ちょっとガッカリ。まあでもチカラの抜き差しとかメリハリはさすがで、非常に読みやすい。乱歩作品、というほどガッツリ魂はこもってないのが残念です。 以下、トリビア。 p(5%) 双生児です。昔の習慣でわしの方が後に生れたので兄◆ 昔はそういう考えもあったようだ。現在は、先に生まれた方が「兄、姉」と定められている。(2025-03-24追記: 翻訳文からの印象だが、原作では、どちらが長子であるか、明示していないように思われる。兄、弟とあるが、いずれもbrotherの訳語であろう) p(7%) 明治の末… 百五十万◆ 日本物価指数(戦前東京区部)明治43年/令和6年(3425倍)で51億円。 p(10%) 妻のろ◆ こういう言い方があったのか p(16%) 千円札… 百円札◆ 一万円札の初登場は昭和33年(1958)なので、この小説には登場しない。当時の千円札は聖徳太子の肖像、サイズ164x76mm、百円札も聖徳太子の肖像、サイズ162x93mm。 p(21%) 煙硝◆ 現代なら「硝煙」だろう p(24%) 自動拳銃◆ 原作では「45口径の廻転拳銃(revolver)」挿絵はオートマチック拳銃が描かれているが、もしかして乱歩さんはオートマチックではなくリボルバーのつもりで使っているのかも。オートマチックなら薬莢を探すはずだが、全然言及が無い。 p(33%) 自動エレベーター◆ 探偵が不慣れという描写がある。 p(36%) 落語◆ 「松鶴」に「しょうかく」というルビが振ってある。文楽、志ん生、松鶴という並びが良い。 p(36%) 億を超える財産◆ 原作でも本作でも財産の額はぼかされている。 p(51%) 交換機の故障◆ 当時の日本では電話交換機の故障がよくあったのか。原作では単に繋がらない、という場面。 p(91%) 万年筆型の豆懐中電灯◆ 当時でもそういうのがあったようだ。原作では「小さな懐中電灯」 |
No.477 | 5点 | エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット | 2025/03/23 21:39 |
---|---|---|---|
1932年出版(Doubleday Crime Club)。創元推理文庫を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。
文庫あとがきでは謎とされたブレアさんのやや詳しい情報が英Wiki "Roger Scarlett"に掲載されています。Roger Scarlettは女性二人の共同筆名、二人とも女子大出(Bryn MawrとVasser)で1920年代にホートン・ミフリン社で出会ったようですね。 多分EQ同様、ヴァンダイン・バブルの影響で探偵小説は金になる、と書き始めたのでは?と思いました。 本作はシリーズ4作目。二人の老人に支配されたボストンの屋敷が舞台で、作中現在は1932年と明記されています。図面が豊富なのが楽しいのですが、キャラが非常に弱いですね。ミステリ的には大ネタを粗末に扱っている感じです。こうなると乱歩さんの翻案が気になりますね。キャラを上手く扱うと面白い話になりそうなんですが… 弁護士がかなりのアレな人で、この人大丈夫かなあ、と思いました。 原文も入手出来ず、トリビア的に面白いネタもありません。 |
No.476 | 7点 | ビッグ・ヒート- ウィリアム・P・マッギヴァーン | 2025/03/23 00:50 |
---|---|---|---|
1953年出版。初出週刊Saturday Evening Post誌1952-12-27〜1953-2-7(7回連載、挿絵William A. Smith)。私は創元推理文庫版を国会図書館デジタルコレクションで読みました。
最近、人並由真さまのマッギヴァーン作品評を読んで、そういえば昔フリッツ・ラング監督の『ビッグ・ヒート』(1953)を観たことがあり、マッギヴァーン原作だったのか!と気づいて、さらに初出がポスト誌だと知って、原作を読みたくなりました。 映画の筋はあらかた忘れていたのですが、読んでみると、ところどころぼんやり覚えていて、まあでもとても楽しめる娯楽作品です(嫌なシーンも多いけど)。米国人が空気を読めない、なんて嘘だよね。皆んなこの作品では圧を感じてるじゃないか、と思いました。 マッギヴァーンは短篇を読んだことがあるのですが、長篇は初めて。FictionMags Indexで短篇を年代順に見ると、1940年から1945年まではほぼSFばっかり、1946年以降はミステリや西部小説などが増えている。1952年末に突然スリック雑誌のポスト誌連載から映画化の流れ。その後、映画化作品が続き(過去の長篇も映画化されている)… という感じで、本作が出世作なのではないか、と思う。 SF出身なので、本作でも見せる理想主義的な青っぽさがある人なのかも、と感じました。 ポスト誌アーカイヴ(有料)で挿絵を見ましたが、実に良い絵ですよ! そして映画も再見しました。結構場面を覚えてましたが、原作クレジットが「サタデー・イヴニング・ポスト誌連載による」となっていて、一種のタイアップか。ステーキの夕食がポテトを丸ごと焼いた?のをゴロンと付け合わせで食べててビックリ。バーでのビールの値段は35セント。脚色は工夫されてて、原作にかなり忠実ですが、いきなり中ネタを割ってるので、読んだ後で見た方がいいかなあ。 戦争を体験した市民のシーンも再現されてて、ああ、そういう感じが残ってるのね(映画公開当時は朝鮮戦争が休戦となったばかり)と感じました。 小説のほうでも映画でも、結構上手に構成されてて、ハラハラ、ドキドキ出来ます。まあ現在の管理が行き届いた世界では、組織と対決するなんて、個人では無理無理感が強すぎて、とてもシンジラレナイ、と感じちゃう人が多いと思いますけど… |
No.475 | 7点 | 忘れられた殺人- E・S・ガードナー | 2025/03/21 22:49 |
---|---|---|---|
1935年出版。当初はTHE CLEW OF THE FORGOTTEN MURDER by Carleton Kendrakeとしてお馴染みモロウ社から出された。私は創元推理文庫で読了。
この探偵と相方のコンビが良い。いつものESG流の込み入ったプロットだが、展開が良くてあんまり混乱しないように鼻面を引き回される楽しさがある。 残念ながら原文は入手出来ませんでした。 トリビアは後ほど。 |
No.474 | 5点 | キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/16 05:03 |
---|---|---|---|
1923年出版。初出Westminster Gazette紙連載1923-04-07〜1923-06-25(挿絵無し)。私はちくま文庫版で読みました。
著者「まえがき」に書かれている「著名な警察幹部に起きた大変な災難」が気になるだろうけど、「訳者あとがき」でちゃんとネタバラシしてくれてるから、ご安心ください(さすが渕上さん)。でも何で長篇に触れて無いのかな?あっちの方があの事件にバッチリ言及してますよ! 作中現在は『アンジェリーナ・フルード』(作中現在1919年)の前であることだけが確実(こちらも「訳者あとがき」で触れている)。自動車の時代になってるので、1910年代後半だろう。私は未読なので『ヘレン・ヴァードン』との関連はよくわからない。そちらの作中現在からもっと年代が絞られる可能性はある。実は本書の細かい分析はまだ行なっていないので、年代確定のヒントがもっとあるのかも? 本作には、英国歴史と聖書の話題が出てくるので、日本人にはちょっと取っ付きにくい作品だろう。あのズレは英国人には常識?私は古楽関係で知識はあったけど… ミステリ的には、推理味が薄い。色々振り回されるのが楽しい人向けだろう。ソーンダイクは、いつもの通りダンマリだしね。アンスティを無邪気に危険に晒すなんて結構酷い人だ。 冒頭から事件が発生して、テンポいいなあ、傑作かも?という期待は裏切られたが、一晩で一気に読んじゃいました。アンスティ・ファンにはおすすめです!(そんな奴、いるのかなあ) トリビアは後ほど。 |
No.473 | 6点 | 偽装を嫌った男- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/14 05:55 |
---|---|---|---|
1925年出版。原題 “The Shadow of the Wolf” (『狼の影』という素敵なタイトルを、なぜヘンテコな訳題にしちゃうんだろう?) 中篇The Dead Hand(Pearson's Magazine 1911-10&-11)の長篇化。Kindle版は私家版であるが、翻訳は直訳調だが、読みやすい。夫の手紙(第12章)をもっと乱暴な文体にすべき、と思った以外、大きな不満は無い。
訳者あとがきで言及している、原文の変な点って、二十ポンドと五ポンドの齟齬だろう。第1章では「二十ポンド」と書かれているのに、第8章では同じものが「五ポンド」とあり、第7章&第8章で五ポンド紙幣のサイズとして記載された数値(eight inches and three-eighths long by five inches and five thirty-seconds wide, =213x134mm)は、二十ポンド紙幣のもの(8 1/4" x 5 1/4", =211x133mm)なのだ。実際の五ポンド紙幣は一回り小さい7 11/16" x 4 11/16", =195x120mmである(数値はいずれもBank of Englandより。ものによって若干違う場合もあるらしい)。中篇では二十ポンドだったものを、一旦はそのまま長篇化したけれど、後で状況を考えると五ポンドのほうがあり得るなあ(なにせ危険が高まっているのだ)と修正したが、第1章の「二十ポンド」と第7章&第8章のサイズを直し忘れた、という事だと思う。 本作にもフリーマンの社会改良の視点があり、今回は離婚問題である。だが、ちょっと間違っている。作中現在は1911年だが、この年だと妻からの離婚申立は、夫の不倫だけでは認められず、本件のケースなら、夫の不倫に加えて二年以上の遺棄がなければ申立理由とはならない。本書の状況は遺棄が数か月程度なので、今回、離婚申請が認められる可能性があるように書かれているのはおかしい。しかし1923年の離婚法改正で夫の不倫だけでも訴えは可能となったため、出版時なら離婚が認められる可能性はある。なので事件を1911年に設定していたはずなのに、作者がうっかり出版時の状況を読み込んでしまったのだろう。離婚が申立可能な状況設定は、長篇のテーマのキモの一つなので、長篇化を行ったのは1923年以降の可能性が高いと推測できる。 肝心の本書の内容は、中篇を引き延ばしたので、ちょっと軋みを感じるところがあるが、情感のある小説に仕上がっている。ミステリ的には小ネタな作品。妻が夫を冷静にディスるところが面白かった。 トリビアはのちほど。 |
No.472 | 6点 | 謎解きエドガー・アラン・ポー- 評論・エッセイ | 2025/03/13 11:01 |
---|---|---|---|
2025年新潮選書。
「犯人はお前だ」(1844)を丁寧に読み込む企画。確かに合理的な分析でとても面白いけど、全然ポー自身の姿が浮かんでこない。著者が人工的な世界で遊んでいるだけ。 ところが本書を全部読んでみると、ポーの諸作品には共通テーマが隠れてるのでは?という印象になる。じゃあ、この分析を応用して、この本では全く触れられていない「マリー・ロジェの謎」を読み解いてみたくなる。なぜ探偵小説がテーマの本書に、他のデュパンもの(「モルグ街」&「盗まれた手紙」)は分析されているのに、「マリー・ロジェ」だけが言及さえされていないのか?それは著者の論旨に全く合致してないからという理由だけなんだろうか? ちらりと紹介されてるジョン・アーウィンの『解決の謎--ポー、ボルヘス、そして分析的探偵小説』(The Mystery to a Solution: Poe, Borges, and the Analytic Detective Story by John T. Irwin)が気になるなあ。 まあ私は当時の日常世界とか思想世界とかが気になるタチなので、歴史的記述が全く欠けているこういう分析にはあまり面白さを感じないのです… |
No.471 | 6点 | 冷たい死- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/03 09:47 |
---|---|---|---|
1937年出版。Kindle訳は私家版。
検査官(inspector)、チャンバー(chamber)とか、変な訳語が時々出てきて、原文が透けて見えるような直訳調。でも意外と読むのにストレスがあまりない日本語になっている(平明な文章のフリーマンだからだろう)。小説の文章としてはメリハリの付け方が不十分だが… 夫が英国人のようで、英国の風習や制度などにも誤解は無さそう。これが初めての翻訳らしいけど、訳者は翻訳ミステリの読者ではなかったのでは?(inspectorを知らないからねえ…) この翻訳者のソーンダイクものは、変に工夫したタイトルが多いけど直訳のタイトルにして欲しいなあ。今回の場合は米版Death at the Innという代案もある。まあどっちもパッとしないタイトルになっちゃいそうだが… (『自殺か?』『インにて死す』) まだ細かく分析してないけど、私は結構楽しめました。なにせこの小説、インクエストの情報が豊富なんですよ。Felo de Seという用語もインクエスト用語と言って良いだろう。それに作中現在は1929年のロンドンですからね。私の興味の中心どストライクです。 ミステリ的には、そうくるか?という話。ゆっくりした話の流れは、いつものフリーマン調で、牡蠣のごとく口を閉ざすソーンダイクにイライラしなければ、楽しい読書です。 トリビアは後ほど。 |
No.470 | 7点 | エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ | 2025/02/25 16:42 |
---|---|---|---|
いや、素晴らしい。
ディケンズの長篇を読むのは初めてですが、文章の充実が半端ないですね。全てのモノ(生物・無生物を問わず)に生き生きと息を吹き込む魔術的表現力。隙があったらこのテクニックをねじ込むので、長くてくどい文章ですが、クセになったら病みつきになりますよ。それにキャラクターの個性の演出が凄い。悪ガキのデピュティが特に気に入りました。 『アンジェリーナ・フルード』を読まなければ、書庫の片隅に確実に眠っていたはずの作品なので、フリーマンさんに感謝です。 まあ作品としては「未完」なのですが、途中までの筋だけでも非常に面白い。「未完だから有名」ではなくて、完結してても名作として評価されたのでは?と思いました。 映像化もぜひ見たいです。なお、BBC2012[1時間x2]が某動画サイトで見られます。見どころ数カットが冒頭にあったので、それだけ見ました。当時を再現したドラマ化のようで、雰囲気は良さそう。でも、見どころでも犯人を明示しちゃってる。話も完結させてしまっているようですけど、そこはちょっとどうかなあ。(まあ原作に忠実に途中でぶち切ったら、視聴者が怒るからしょうがないのでしょうけど) さて、トリビア的なものは『アンジェリーナ・フルード』に書きます。 ついでに『エドウィン・ドルードの失踪』も発注しちゃいました。後でHMMに載ってたアームチェア・ディテクティブ誌の解決篇も読んでみる予定ですが、当面の間は、本書の解説も読まず、自分のアタマの中でぼんやり続きを妄想したいです… しばらくディケンズ漬けになるかも… という恐ろしい予感がいたします。 |
No.469 | 6点 | アンジェリーナ・フルードの謎- R・オースティン・フリーマン | 2025/02/19 05:39 |
---|---|---|---|
1924年出版。私は平凡社 『世界探偵小説全集16』(1930)を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。本字旧かな遣いですけど、邦枝 完二さんの翻訳は非常に読みやすい。ざっと原文を見ましたが逐語訳のようです(訂正: 七割ほどの抄訳でした)。ただ平凡社版はタイトルがね… (あえてタイトルを明記しませんよ!)一応ミスディレクションは施されている?のですけど、ダメだコリャ物件でした。どうしてこう言うタイトルが良いと思ったんだろう?見たら脳から消してくださいね(無理です)。全くの白紙状態で読むには、新訳を読むのが吉です(解説で戦前訳のタイトルに触れていますので、解説は読後に読んでくださいね)。
肝心の本作の内容は、ウブな新人医師がベテラン医師の不在時の代診をやってる時に、謎の事件に巻き込まれる、という発端(このパターン、結構フリーマンは使いますよね)で始まる、ちょっとのんびりした探索もの。なかなか進展しないのでイライラする人もいるかも。私は当時の英国の生活描写を楽しみました。インクエストの場面も出て来ます(翻訳では「裁判」と勘違いしてるけど)。 読後、おやおや、と思う人が多いでしょうけど、私は十分満足しました。事前情報無しで読みたかったなあ、という不満はありますが。 面白いネタが少しあるので、トリビアを後で補充します。 (以下2025-02-23追記) 結局、新訳も気になって購入しちゃいました。戦前訳と単純に語数を比較すると戦前訳は新訳の75%、確かに細かく戦前訳を検討すると、所々(特にあまり筋と絡まない固有名詞関係)を抜き、繰り返しと感じられる主人公の内省が諸所でばっさり削られている。しかし戦前訳でも全体の雰囲気は十分残しており、肝心なところは逐語訳といって言いくらい、一語一語をちゃんと翻訳している。文章も引き締まってリズムも良い。 ところで新訳の解説(井伊順彦)で重大な指摘あり。この作品ディケンズ『エドウィン・ドルードの謎』(1870)へのオマージュらしいのだ。確かにタイトルもMystery of Edwin DroodとMystery of Angelina Froodで相応関係にある。筋も似てるらしい。本作がディケンズ案件であることには気づいていたのだが(六人の貧しい旅人の宿とかディケンズが晩年住んでたロチェスターのガッド・ヒルなど)、エドウィン・ドルードを読んでからまた出直しです! (以下2025-03-02追記) Wikiでは戦前訳のタイトルがデフォルトになっちゃっている。更に「大幅な抄訳」という注釈もついているが、これは新訳の解説を鵜呑みにしただけだろう。新訳タイトルをWikiの項目タイトルに変更して欲しいなあ。(自分でも試みましたが、上手くいきませんでした…) さてトリビアです。原文はGutenberg Australiaのを参照しました。ページ数は、基本、論創社のもの。戦前訳は「平凡p999」と表記。新訳だと明示したい時は「論創p999」と表記した。 p93, p111, p220から「四月二十六日、土曜日」なので、該当は1919年だが、p173とp174では曜日がずれて該当は1914年。でも「四月二十六日土曜日」は何度も繰り返されている重要な日付と曜日であり、動かせない。なので1919年で確定。その二週間+数日前の1919年4月10日ごろが第二章(ロチェスター篇)の開幕時期だと思われる。なお冒頭は、そこから更に一年少し前(p20, p37)だが、季節すら明示されていない。 価値換算は英国消費者物価指数基準1919/2025(65.99倍)で£1=12496円、1s.=625円、1d.=52円。 まず戦前訳も新訳もどっちも当時の英国の制度、インクエストと法的別離の制度を誤解しているので、少々長くなるがここで解説。 まずインクエスト。戦前訳では裁判と同一視しており、裁判官、判決、裁判所などの用語が平気で出てくる。新訳でも「判決(verdict)」、「結審(concludes the case)」、「裁判官が席を立つや(As soon as the court rose)」など、裁判用語が顔を出している。本書で検死官が陪審員に注意している次の教示がわかりやすい。 「検死法廷は刑事裁判とは違うのです。故人の死因を特定するのが我々の役割です。もし、証拠から被害者が殺害された事実が浮かび上がれば、判決(verdict: 正訳は「評決」)の中でそう述べるべきです。さらに、もし証拠が、明らかに特定の人物を殺人犯であると示しているなら、同様に、判決の中で名指しすべきでしょう。しかし、そもそも我々は犯罪を捜査しているわけではありません。故人の死因確定がこの審問の主たる目的(we are investigating a death)であり、犯罪捜査は警察の仕事です(p254)」こんな説明が必要だという事は、英国1922年の一般人でもインクエストを正しく理解していなかったのだ。インクエスト記事、そろそろ書かなくちゃ… 次に法的別離(別居)。戦前訳も新訳も、英国のこの制度(judicial separation)を「離婚」だと勘違いしている。「論創p40: 離婚を申し立て(applied for a judicial separation); 平凡p53: 離婚の手続き」、「論創p63: 法的保護(a judicial separation); 平凡p86: 離婚の手続き)」、「論創p284: 離婚を申し出る(could have applied for a separation); 平凡p344: 別居を願い出れば[ここは正解]) 当時の離婚要件は非常に限定されており、夫側は妻の不倫で申立可能だったが、妻側からは夫の不倫は理由にはならず、男女平等の観点から、1923年法改正でやっと夫の不倫が申立事由として認められた。今回の事例で離婚事由となりそうな「虐待」が申立可能となったのは更に遅く1937年改正時である。そのため英国では古くから「法的別離」(夫婦の同居義務を免除する)という代替手段が用意され、利用されている。 さて『エドウィン・ドルードの謎』との関連性については、本作はフリーマンが考えた『ドルード』完結篇、という説に全面的に賛成。他にもディケンズ関連が豊富に散りばめられているが、私はほとんどディケンズを読んでないので、見逃しもありそう。気づいたものはトリビアに採り上げました。 登場する地名は全部が実在のものなので、訳者あとがきで推奨されてる様に、Web上でRochester観光が楽しめる。原綴りが無いと検索しにくいが、かなり長くなるので、ここではカット。原文を参照願います。StroodからRochesterを経由してChathamまで歩いて50分の距離、この位置関係をまずは把握しておこう。城壁観光にはWebのロチェスター旧城壁地図(p56に記載)が非常に便利。 p9 ばち指(clubbed fingers)◆ (平凡p7: 棍棒型) p9 巨大な洋ナシ(great William pear)◆ Williams pearは英国の言い方、米語ではbartlett pear、瓢箪型の西洋梨の代表種のようだ。日本では「バートレット」が定訳か。(平凡p7: 大きな梨) p10 外套(a cloak)◆ ここは「マント」が好み。 p14 破損した錠前と折れ曲がったレンチ(disordered lock and loosened striking-box)◆ striking-boxはボルトの受け金具。試訳「ずれたボルトと外れそうな受け金具」 (平凡p15: [訳なし]) p16 [訳し漏れ](sat down before the gas fire)◆ 季節は秋か冬だろうか。(平凡p18: ストーブの前に腰をおろし) p18 結局なんの結論も出せずに終わった(they led to nothing but an open verdict)◆ open verdictはインクエスト用語。現時点での証拠を検討しても、死亡に至る状況は不明、という評決。 (平凡p20: 別に何物を得られなかった) p19 よくないことが起きる前は、前兆の影が差すものだ(Coming events cast their shadows before them)◆ 19世紀に流行っていた言い方。元ネタ不詳。 p20 一年以上経過(Rather more than a year had passed) p22 船乗りの間で"グリーン・リヴァー"の呼称で知られる鞘付きナイフ(sheath-knife of the kind known to seamen as "Green River")◆ マサチューセッツ生まれのJohn Russellはナイフ製造業を1834年にGreenfieldで創業。1836年に工場をGreen Riverに移し、会社名をJ. Russell & Co. Green River Worksとした。ナイフの刃に会社名がしっかり刻まれている。knife green river traditionalで検索。5インチ刃が標準か。(平凡p26: 海員用の大きな短刀) p23 建築・不動産鑑定業(Architects and Surveyors)◆ 建築関係の言葉らしい。本作の描写なら「不動産屋」で良いか。(平凡p27: 工務所) p25 たぶんハビーです(Hubby, I ween)◆ Husbandか (平凡p30: 亭主の奴) p25 ベロアの帽子(a velour hat)◆ (平凡p31: 天鵞絨の帽子) p26 旧街道(old street) p30 お洒落な若者(young “nut”)◆ 当時の新語? (平凡p38: 気取屋) p30 どう見ても「風変わりな」具合に前髪を後ろに… (From his close-cropped head, with the fore-lock "smarmed" back in the correct "nuttish" fashion)◆ ファッション資料として、髪型描写を原文のみ抜粋 (平凡p38) p32 メッサーズ・ジャップ氏とバンディ(Messrs. Japp and Bundy)◆ ケアレスミス。試訳「ジャップ&バンディ社」 p33 書類をひとまとめにして赤い平ひもで束ねると(Folding the documents and securing them in little bundles with red tape)◆ 「有名な」赤テープ が比喩(官僚仕事)ではなく、実際に出てきた。(平凡p43: 書類を纏めて、それを赤いテープで縛って) p35 よく通る甲高い声(in the clear, high-pitched voice)◆ (平凡p45: ハッキリした癇高い声) p37 一年少し前の真夜中(a little more than a year ago, about twelve o'clock at night)◆ ここでも戦前訳のほうが逐語訳(平凡p47: 一年計り前… 夜の十二時頃) p38 もうすっかり知られてしまった(the cat is out of the bag)◆ 戦前訳が可愛い。(平凡p48: 猫は袋から出て仕舞った) p39 夫は別居に同意せず(He wouldn't agree to the separation)◆ 戦前訳では省略 p40 船医(ship's surgeon)としてアフリカ西岸(West Coast… West Africa)◆ フリーマン(Gold CoastのAccra)もコナン・ドイル(捕鯨船 Hope of Peterhead)も船医の経験あり。(平凡p52: 阿弗利加の西海岸; 「船医」は省略) p43 慈善家のリチャード・ワッツ(worthy Richard Watts)◆ ディケンズ他の短篇連作 "The Seven Poor Travellers"(1854)の元ネタ。コリンズ短篇集『夢の女・恐怖ベッド』(岩波)の「盗まれた手紙」(四番目の貧しい旅人の話)に詳しく書いたので参照願います。 p43 ただし悪党と弁護士は除く(must be neither rogues nor proctors)◆ proctorはp141を先取りせず、誰もが「何故そうなの?」と思う「弁護士; 代書人」と訳すべきところ。(平凡p58: 但し、乞食や浮浪人は除外する) p45 売春宿(Turkish baths)◆ ああ、昔の日本同様、そういう意味もあったのか… 周りが嘲っているので確実にその意味をこめているはず。なお日本の性風俗店として「トルコ風呂」の名称を使った店がオープンしたのは1971年が最初らしいので、戦前訳(平凡p60: 土耳古風呂)は英語のイメージか(ただの直訳か)。 p51 馬車(a cab)◆ この時代ならタクシーの可能性が高い。(平凡p69: 馬車)第16章でtaxi-cab 又はcab(戦前訳「馬車」; 新訳「タクシー」)と書かれているのはdriver(戦前訳「御者」; 新訳「ドライバー」)が運転しているので間違いなく自動車である。(論創p255) p51 十シリング(a ten shilling note)◆ 当時の10シリング紙幣は10 Shilling 3rd Series Treasury Issue(1918-10-22〜1933-08-01)、サイズ138x78mm、緑と茶。 (平凡p69: 五志の紙幣[ケアレスミス]) p54 サム・ウェラーのことばを借りると---"覗き見"(to use Sam Weller's expression—"a-twigging of me.") ◆ 元ネタ(ディケンズ "Pickwick Papers" 第20章 'They're a-twiggin' of you, Sir,' whispered Mr. Weller)は主人公を事務員たちが好奇心もあらわに上から「盗み見してる」場面で、本書の場合も「盗み見」が適切だろう。 p55 葬儀屋の女房みたいな人(Looks like an undertaker's widow)....ウィロー(柳)と韻を踏んでる(Rhymes with willow)◆ 原文では名前Gillowを揶揄っている。widowも仲間に入れてあげて。(平凡p73: 葬具屋の後家さんみたいな人… 陰気な名前) p55 おお、我が帽子の周りを取り囲む緑色の--(Oh, all round my hat I'll wear the green—)◆ willowと続く。愛した女を失った悲しみで緑色の柳を喪章としてつける、という歌。メロディに乗せて歌えるように「ぼ〜しには、つけるよ緑…」はいかが?英国19世紀の俗謡 “All Around My Hat”(Roud 567&22518, Laws P31)英Wikiに項目あり。(論創p55: 平凡p73: あはれ、わが/帽子のまはりに/われは付けむ/緑の…) p55 おお、良き知らせをシオンに伝える者よ(O! Thou that tellest good tidings to Zion!)◆ ヘンデル『メサイア』第9曲の冒頭、元はIsaiah 40:9(KJV) O Zion, that bringest good tidingsから。メロディに乗せて歌えるように「良き知〜らせを伝えよ、シオンに」でどうでしょう?「に」がちょっと苦しい。(平凡p74: シオンの御山へ、よきおとづれを告げたまえる主よ) p56 彼はいいやつ〜だ(For-hor he's a jolly good fell—)◆ メロディに乗せて歌えるように「彼はとてもいい奴…」にしたいなあ。(平凡p75: フォア、ヒーズ、ジョリー、グッド、フェロー) p56 城壁(the remains of the city wall)◆ WebサイトCastellogyに"Rochester city walls"という記事があり、ロチェスター市の城壁の地図があった。(平凡p77: 此の町に残っている城壁) p57 ステイプル・イン(Staple Inn)◆ (平凡p77: ステープル・インと云う田舎の宿屋に) 戦前訳は誤解している。ここはロンドンにある元法学院宿舎だが、のちに一般のアパートに転用された。『ドルード』第11章からグルージャス氏の住処として登場する。 p57 ジャップは... 鍵を引き抜き(he drew out the key)◆ ケアレスミス。ここは「バンディ」 p59 雇用の創出(create employment)◆ 第一次対戦後の不況で、失業対策事業が流行っていたのだろう。トミー&タペンスも戦後は貧乏に苦しんでいた。英国社会が社会主義的な福祉国家の政策を次々と実現したのもここら辺の時期からである。(平凡p80: 仕事の口を作るため) p59 生石灰(quicklime)◆ この資材は『ドルード』第12章に出てくる。そこでもブーツに言及。 p62 亡きベイツ夫人と比べなければ(without competing with the late Mrs. Bates)◆ 背の高い女の話題なのでAnna Haining Bates (旧姓 Swan; 1846-1888)だろう。カナダ生まれ(スコットランド系)で身長2.41m、史上稀な大女。サーカス在籍中のハリファックス興行の時、Martin Van Buren Bates("Kentucky Giant", 1837-1919, こちらは2.36m)と知り合い、超ビッグカップルの結婚は1871年ロンドンで行われ、非常に話題となった。戦前訳も新訳も誰だかわかってない。(平凡p84: 故人になった女優のベーツ夫人に比べても遜色の無い方でせう; 「女優」は多分当てずっぽう) 試訳「大女の故ベイツ夫人と比べたらとても敵いませんけど」 p64 ロチェスター大聖堂(Rochester Cathedral)◆ 11〜13世紀に建てられた壮麗な大聖堂。 (平凡p87: ローチェスタア寺院) 『ドルード』のクロイスタラム大聖堂のモデル。 p67 ジャスペリン水門小屋のそばに悪くないティーハウスが(very comfortable teashop close to the Jasperian gate-house)◆ (平凡p89: 附近の喫茶店)この門付家屋は15世紀初頭の建築で、『ドルード』でジャスパーが住んでいた門番小屋のモデル。それにちなんで現実世界でも「ジャスパーの門番小屋」と呼ばれるようになった。Webに"Jasper's Gatehouse, Rochester, Kent"(1911) by Ernest William Haslehust (1866-1949)という絵画あり。『ドルード』を読んでたらJasperian gate-houseで気づくはずだが… p67 表向きは医師として働いている(Nominally... I am engaged in medical practice)◆ (平凡p90: 医院の権利を買った) p69 橋を渡り、ストラッド駅へ向かった。駅の中央改札で(over the bridge to Strood Station, at the main entrance)◆ 英国や欧州の駅には、出入口はあるが「改札口」はないはず。 p70 盗賊の洞窟にこっそり隠れて暮らすチャーリー王子(Prince Charlie, lying perdu in the robbers' cavern)◆ Charles Edward Stuart(1720-1788)のことだろう。Battle of Culloden(1746)に負け、スコットランド北部を逃げ回ったときにBorrodale beachの洞窟に隠れたという伝説あり。もしかして作者は意図的にこの人物に言及してるのか? p72 サム・ウェラー言うところの"修道院の附属物"(Sam Weller would call a 'priory attachment')◆ ディケンズ "Pickwick Papers" 第39章 ウェラーは"prior attachment"(先に惚れる)を"priory 'tachment"と言い間違えている。「訳注: 内緒の恋人」はちょっとずれてるかも。試訳「イロの目遣い」「流しの目を送る」 p78 ギャズヒル(Gad's Hill)◆ (平凡p98: ガッド丘) この散歩は歩いて一時間ほど。Gad's Hillはディケンズが1856-1870に住んでいたGad's Hill Placeだろう。'Gad's Hill' The Residence of Mr Charles Dickens 1870で検索。 p79 通りの向かいにある穀物取引所の建物から吊り下がる、寝床用あんかのような形の巨大な時計(at the great clock that hangs out across the street from the Corn Exchange, like a sort of horological warming-pan) ◆ (平凡p99: 青物市場の大時計; 戦前訳は大幅に描写を省略) この時計はWiki "Corn Exchange, Rochester"に項目あり。ディケンズは「世界最高の時計」と評している。 p82 十シリングの懸賞金 (ten shillings reward)◆ 紛失物に提供 (平凡p102: 十志の賞金) p83 探偵きどり(sleuth-hound)◆ (平凡p105: 探偵犬) p85 金魚を出す手品(the gold fish trick)◆ WebサイトMagicpediaに項目あり。Professor Mingusが1893年に創作し、ロンドンで活躍していたChung Ling Sooも演じていたが、トリックをバラしたようだ。(平凡p107: 金魚の手品) p86 賞金額が多すぎるんじゃないかな。支払い可能な額か、確認しなくちゃ (Japp writes a shocking fist. I must see if it is possible to make it out)◆ ここは戦前訳が正しい。(平凡p109: ヂャップの文字は読みにくいんですからね。どんな風に書いたかしら) p90: パートリッジ医師のラベル(Dr. Partridge's labels)◆ 原文には何の説明もないが、引き継ぎ後、間がないので、前任者が残してあったラベルを貼ったのだろう。(平凡p114: パアトリッチ医師のレッテル) p91 新聞(Sunday paper)… 四月末日(at the end of April)◆ p111で判明するが、この日は27日であり、末日ではない。(平凡p115: 今朝の新聞... 四月末) p92 玄関が施錠されていない(I found the door unbolted and unchained)◆ ボルトとチェーンを省略 (平凡p117: 閂が懸かって居り; 戦前訳はケアレスミス) p93: 時間が遅すぎます。いくら土曜の夜とはいえ(but it was rather late, though it was Saturday night) ◆ 日曜日は店が閉まるので、多少夜遅くても買い物に行く可能性はあるが… というニュアンスかな?(平凡p117: 時刻は遅うございましたけれど、土曜日でしたから) p97 ジャップは態度をがらりと変えて言った(he replied, with a sudden change of manner)◆ ケアレスミス。ここは明白に「バンディ」 p99 病院(the hospital)◆ St Bartholomew's Hospital, Rochester、英Wikiに項目あり。 p99 軍事病院(military hospital)◆ Fort Pitt Hospital, Rochester、第一次大戦の負傷者用に拡大されたが1922年閉鎖。英Wiki "Fort Pitt, Kent"に解説あり。(平凡p126: 衛戍病院) p101 第一便の配送物(by the early post) p104 デルモニコ・レストラン(Delmonico's)◆ ニューヨークのレストラン(1827-1923)が英国でも知られていたようだ。(平凡p130: [訳なし]) p106 判決が下される(the verdict agreed upon)◆ 試訳「評議が一致した」 (平凡p132: 裁判の終わった) p107 『荒涼館』に出てくるクルック氏の悲劇的末路(the tragic end of Mr. Krook in 'Bleak House,')◆ 詳細未調査 p110 警察署(the police-station) p111 四月二十六日(Saturday, 26th April)◆ 新訳は「土曜日」抜け。(平凡p139: 四月二十六日、土曜日) p111 [人相書] Age 28, height 5 ft. 7 in., complexion medium, hazel eyes, abundant dark brown hair, strongly marked black eyebrow◆ 年齢、身長、肌の色、瞳、髪、眉の順 (平凡p139) p116 紅色の用紙(sermon paper)◆ is actually Foolscap Quarto, nominally 8 x 6 1/2 inches (but there were slight variations between batches). The paper was sold 'ruled feint', i.e. lined with the thinnest line a nib could produce.(ブログWarmwoodianaのAngelina Froodのページから) 薄いピンクの紙に薄いラインが引かれてるのが鮭肉っぽい? p125 半クラウン(half-a-crown)◆ (平凡p157: 半クラウンの銀貨) ここら辺、戦前訳は丁寧。p51も「紙幣」と訳している。 p131 死体の発見には二ポンドの賞金が(there is a reward of two pounds for the body)◆ (平凡p164: 屍体には二磅の賞金が) p140 市庁舎(ギルドホール)(Guildhall)◆ 1697建造。英Wiki "Rochester Guildhall" 参照。(平凡p175: ギルド・ホール) p141 穀物取引所(the Corn Exchange)◆ 前出。(平凡p176: コーン・エキスチェンヂ座) 19世紀末にはコンサート・ホールとして使われ、1910年にロチェスター初の映画館(The Old Corn Exchange Picture Palace)に改装、1920年代まで使われた。休館後、名称がThe Corn Exchangeに戻り、結婚式場、パーティ会場、音楽やビジネスイベントの会場として使われている。当時の実態を考えると、戦前訳が正しい。 p141 映画館なんぞに(to be turned into a picture theatre)◆ 当時はまだサイレント映画の時代。 (平凡p176: 活動写真の小舎に) p141 プロクター(弁護士) Proctor◆ cadger or swindlerの意味らしい p149 クモ(mosquito)◆ 「蚊」だよねえ。他にも出てくるが翻訳では全部「クモ」になっている。 p152 がっちりと腕を組んで(hooking my arm through his)◆ ヴィクトリア時代の風習が残っている。p158も同様。 p156 ポプラー遺体安置所(Poplar Mortuary)◆ ロンドンのPoplar Public Mortuary(127 Poplar High Street London E14 0AE)のことだろう。地図を見ると、検死審問廷に併設されているようだ。 p158 私の脇から腕を差し入れ、私の腕にそっと手を添えた(slipped his arm through mine, and pressing it gently with his hand) p173 五月二十五日月曜日(On Monday, the 25th of May)◆ 直近は1914年 p174 六月二十日土曜日(On Saturday, the 20th of June)◆ 直近は1914年 p175 有罪判決を勝ち取りたい。それなのに、今もって、検視審問に差し出す遺体すらないとは(I want to get a conviction, and so far I haven't got the material for a coroner's verdict) p175 七月初めの土曜日の午後(one Saturday afternoon at the beginning of July) p176 ベルティヨン式人体測定法(Bertillon measurements)◆ 原文はif we had them(もしその人の身体データがあれば)と続くが、相応する訳文なし。続く原文ではソーンダイクは別の科学的方法を言っているのだが、訳文ではベルティヨン式のこと、として繋げてしまっていてヘンテコになっている。 p178 テニス(playing tennis)◆ 流行 p185 イエール錠がかけてある不審さ(oddly enough, provided with a Yale lock)◆ 簡易錠前で充分だろうに、なぜ戸棚に高価なイエール錠が?という当然の疑問。 p185 ゴミ収集人は、勝手口から出入りしていると思う(the dustman must have used the side door)◆ 家人がゴミ箱(dust-bin)を抱えて階段を上がって、玄関脇に置くはずがない、とソーンダイクは言う。ゴミ収集人が個々の家屋内のゴミ箱を勝手に持っていく仕組みなのか。Webサイト “Consumption, Everyday Life & Sustainability” に Bins and the history of waste relationsというページがあり、ゴミ収集人が家屋内から歩道までdust binを運び、収集車に中身を出してからdust binを家庭内に戻す、という仕組みだったようだ。dust binとは大型の「ごみ収集容器」なのだろう。カナダのバンクーバーに住んでた知人は、裏通りには各家屋のゴミ収集容器が並んで置かれて、ゴミ収集車が収集日に裏通りを回り、各家屋のゴミを持って行く仕組みだ、と話していた。 p185 科って口のドアを開け--そこにもイエール錠が下りていた(opened the side-door--which had a Yale night-latch)◆ 冒頭のは 「勝手口」の誤植。ナイト・ラッチのイエール錠ヴァージョンは初めて見た。ナイト・ラッチの利点は、内側から鍵を使わず簡単に施錠出来ることである。 p186 質問というものは、往々にして情報を引き出すより、与えてしまうものです(A question often gives more information than it elicits◆ ソーンダイク名言集 p186 色彩調整(a colour control)◆ 試訳「色の比較」 p186 女性の多くは、抜け毛を入れる袋を持っている(Many ladies keep a combing-bag) ◆ 何だろう? ググっても出てこない。続く文はXXX's hair was luxuriant enough to render that economy unnecessary. p188 気づく(aware) p192 ルムティフー司教と同名(I am called Peter—like the Bishop of Rumtifoo)◆ from The Bab Ballads by W.S.Gilbert "The Bishop of Rum-ti-Foo" (Fun n.s. VI - 16th Nov. 1867) p201 ロチェスター、ハイ・ストリート(High-street, Rochester)◆ ジャップ&バンディ商会の住所 p214 裁判官が専門家の参考人を毛嫌いする(why judges are so down on expert witnesses) p214 バンズビー船長(Captain Bunsby)◆ ディケンズ Dombey and Son(1848) Chapter 23 p224 聖火ランナー(a sporting lamp-lighter)◆ 試訳 「元気な(街灯の)点灯夫」 p232 詳細な身元確認は検死官の仕事だ(Detailed identification is a matter for the coroner)◆ p249&p259参照 p237 召喚状(your summons)… 青色の紙(the little blue paper)◆ インクエストの。 p238 単なる"死体の発見"、つまり"溺死体の発見"でしかないのです(it would have been merely a case of 'found dead,' or 'found drowned.')◆ いずれもインクエストの評決に使われる決まり文句。試訳「[インクエストの評決は]"死んだ"又は"溺死した"ということにしかなりません」 証拠不十分なので殺人とは認められませんよ、というニュアンス。(平凡p287: それは単なる溺死と云ふことになります) p238 故意による殺人だと断定されるでしょう---警察は検死官の判断に依存してはおりません(There is sure to be a verdict of wilful murder—not that the police are dependent on the coroner's verdict)◆ インクエストの評決が「故意の殺人になるはずです---[もしそういう評決が出なくても]もちろん警察はインクエストの評決とは無関係に動くんですけどね」というニュアンス。 (平凡p287: 検屍官の判決を待つまでもなく、謀殺犯に違いありませんね) p239 二日(two whole nights)◆ 「夜」が抜けてる。昼は無理だった。(平凡p288: 二晩続けて) p241 公式な検死審問(the formal inquiry)◆ 試訳「公式の査問会」 p242 市庁舎(the Guildhall)◆ (平凡p291: 裁判所) p242 霊安室(the mortuary)◆ あらかじめ市庁舎に常設しているとは思えないので、会議室を転用しているのだろう。「遺体安置所」でどう? インクエストのview the bodyのために用意されている。 p245 ホィットスタブルの牡蠣なみに口が固い(about as communicative as a Whitstable native)◆ (平凡p294: 自分の考えを容易に云わない) p246 陪審員が遺体検分から戻ってきました(the jury have come back from viewing the body)◆ 1926年の改正までview the bodyはインクエストの陪審員にとって必須の行為。(平凡p295: 陪審官達が検屍から帰って来た) p247 [証人の証言が終わるごとに、検死官が陪審員に質問の機会を与えている] p249 証言を吟味して故人の身元を推定するのは、陪審に任せられています(Inferences as to the identity of deceased, drawn from the evidence, are for the jury)◆ p259のようなことも多かったのだろう。 p255 閉廷する(complete the inquiry)◆ 主動詞hoped toなので「審問を終えたい」が正解。 p255 タクシー(taxi-cab)... ドライバー(driver) p259 むろん、身元を確認するための、費用と手間のかかる手続きは省かれました(but of course, no expensive and troublesome measures were taken to trace his identity) p259 オーク材の階段を二段上がって(up a couple of flights of oaken stairs)◆ flightは踊り場までの階段のひと繋がり。試訳「階段を二回上がって」 p270 検死審問では認められています。そこまで厳格な規則に縛られていないのです(It is admissible in a coroner's court... We are not bound as rigidly by the rules of evidence as a criminal court, for instance)◆ 新訳は 「刑事裁判と比較して」が抜けている。(平凡p325: 此処は検屍法廷ですから採り上げても差支はありません。刑事法廷の様に規則に拘泥する必要はないでせう) p272 発見された遺体が消失した(The destruction of this particular body)◆ 誤解されそうな表現。試訳「この遺体については骨以外がすっかり分解している」 (平凡p327: あの死骸が腐食した) p273 親展(Esq.) p282 この質問に答える義務はありません(you are not bound to answer that question)◆ 当然の注意。自分の罪を認める証言は拒否できる。 p282 四ポンド十四シリング十三ペンス(four pounds, fourteen and threepence)◆ ケアレスミス。次の頁では正しく訳している。 p287 縁起良く、人数が偶数になった(the advantage of even numbers)◆ 昼食の出席者が偶数になって、この感想。"odd numbers were carefully avoided, particularly at wedding feasts and funerals" (The Penguin Guide to the Superstitions of Britain and Ireland 2003)でも、この場面とはちょっと違う。Webでも見つけられず、良く知られた迷信ではなさそう。 p289 居間を作らなかった(dispensed with a drawing-room)◆ drawing roomは居間じゃないと思うけど… 私の印象では「食事が終わって男たちがタバコを吸う時に、女性たちが引っ込み(drawing)おしゃべりする部屋」。試訳「女性向けの客間(ドローイング・ルーム)」 p293 上流階級の女性(A woman of good social position)◆ upper-classと誤解されるので、適切ではない。goodは「並み」だろう。試訳「普通の社会生活を送っていた女性」 p295 わなを仕込む(plant) p297 カモ(chosen victim) p302 男女間の平等(The equality of the sexes)◆ ちょうど英国ではThe Sex Disqualification (Removal) Act 1919が成立した時期である。 p303 産毛(the lanugo) p309 まるで、どの容器に豆が入っているか当てさせるゲームを、透明な容器でやっていたような気分(I feel as if I had been doing the thimble and pea trick with glass thimbles)◆ 街頭で小銭を掠める賭博ネタ。英Wiki "Shell game" (英和辞書では「豆隠しゲーム」) shellはクルミの殻が普通。英国ではthimble(小さなカップ状の指貫)が多い印象あり。透明な容器ならタネがバレバレだ。このイカサマをカードでやるのがスリー・カード・モンテ(私も昔、練習しました。カードを折るのが嫌なんだけど…)。 p313 日時計(the dial)◆ 『ドルード』第19章に怖い場面があるよ。作者は連想しているはず。 |
No.468 | 7点 | 夜の恐怖- ゴーグ | 2025/02/18 22:53 |
---|---|---|---|
1922年出版。The Terror by Night by George W(oolley) Gough 原文は入手出来ませんでした。邦訳は『世界探偵小説全集15 夜の恐怖・泰西大盗物語』大佛次郎 訳(平凡社 1930)に収録。「泰西大盗物語」は大佛クレジットですが、実際は野尻抱影訳でしょうね。私は国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。文章は非常に読みやすいです。本字旧かな遣いが気にならない人はぜひ。
自称「夜の恐怖」という強盗が出てくる連作短篇集。ウォルポールが首相を辞めるかも、と文中にあるので、1740年ごろの英国が舞台なんでしょうね(一箇所、1909年に出版された本、というのが出てくるけど、なんかの間違いだと思う)。原本には14作?が収録されているようですが、翻訳は以下の5作を収めています。(訂正: 誤解してこう書きましたが、多分全訳だと思います) (1) 金扇 (2) 黄ろい胴着 (3) 緋色の女車 (4) 琥珀の象 (5) 実のある花 ちょっと意外な展開が工夫されていて非常に面白い。原文入手したいなあ。 二作目は尾行をしてる相手が消える一種の不可能状況。Adeyのリストには載っていませんでした。結末は不可能状況とは全く程遠いものでした。 三作目は、三角関係とダイアモンドの話。展開が面白い。 四作目は、失われた遺産の話。でも琥珀の象の価値は1ギニーの安物だという。 「ちょつと、十分ばかりお邪魔をする」 私は傍に寄って、彼のがっしりした手を握って云った。 「十分?十五分にしたまひ!」 『夜の恐体』は、険しい空に目を投げてから答へた。 「よし、特別に五分だけお負けをしよう。その間に短銃の用意をして頂きたい」 来たな!と、私は思った。行く先も用件も云はず突然に呼び出しに来るのが彼の筆法である。短銃の用意をしろと云ふからには、また何か血湧き肉踊るやうな活劇の渦に飛込んで行く為に誘ひに来たのに違ひない。 かふ云ふ調子です。(←出鱈目な旧仮名遣いです…) クリスティ再読さまがお好きだと思う、世界大ロマン全集にピッタリの話。「夜の恐怖」を中心に因果はめぐる糸車。筋の起伏が良くて、文章の調子も良い。古い日本語が好きな人はぜひどうぞ。おすすめです! (追記) 抜粋訳、と書きましたが、私はGoogle Playに目次だけあるのを見て、誤解していたようです。どうやら短篇を連作長篇に仕立てた感じの構成で、目次の一章=短篇一作という関係ではなさそう。目次と話の内容との関連や、全体のページ数から考えても、全訳のように思います(原本は229ページとのこと)。 (追追記) 作者の素性がちょっとわかった。George Woolley Gough (1869-1943), historian and economist 歴史家の余技の歴史小説、という感じだろう。 (追追追記) 具体的な金額がところどころに出てくるので、1740年当時の価値換算をしておきます。 いつもの英国消費者物価指数が1750年以前には遡れないので、英国cpi基準1750/2025で283.35倍、金基準1740/1750は1.055倍、従って混合基準1740/2025(298.93倍)で当時の£1=56349円 |
No.467 | 7点 | 殺意- フランシス・アイルズ | 2025/02/09 22:15 |
---|---|---|---|
1931年出版。初出Daily Express紙1931-08-10〜09-15、挿絵Lance Cattermole。私はグーテンベルク21、宮西 豊逸 訳で読了。元本は東都書房 世界推理小説大系18(1962)と思われる。英国生活を熟知されている感じの非常に良い翻訳。
以下、バークリーの私生活はWEBサイトSheDunnItの"The Psychology of Anthony Berkeley"とWEBサイトA Crime Is Afootの"Berkeley, Anthony (1893 – 1971) [updated 26/02/2022]"を参考にしました。 当サイトでは意外に評価が低い。私もしばらく途中でぶん投げていたんですが、Daily Expressの挿絵(我がブログの「アイルズは苦手」参照)をオカズに再チャレンジしたら結構面白く読めました。 最大の問題は、主人公に感情移入できないことだろう。同情される者を主人公にした方が良いのはわかりきってるのに何故?と思ったが、女たらしの主人公に自分を反映し過ぎて読者の反発が分からなかったのかも、と途中で思った。バークリー名義の作品では悪い女たらしは大抵被害者役だ。 後はラストがね。残念ながらあんまり面白くない。 本作は意外とバークリーの本音が出ちゃっているように感じる。バークリーはSherborne SchoolからUniversity College, Oxfordをでているが、弟はケンブリッジ大学を出て、妹も優秀。一家の中でバークリーは劣等生だったのだ。母がオックスフォード大学の女性卒業生の第一世代という才女で教育熱心だったが、バークリーは母の希望にそえず、コンプレックスとなったらしい。本作の妻ジュリアは、なんとなくこの母親のイメージを投影してるのでは?と思った。また、執筆当時のバークリーは不倫と離婚(1931)で揺れていたはず。バークリーの人妻好き、という性癖もコンプレックスのなせる技か。本作中にも人妻に興奮する場面が出てきて思わずニヤリとした。 以下、トリビア。電子本なのでページ数はパーセント表示。 作中現在はp(1%)冒頭で1927年6月25日。 価値換算は英国消費者物価指数基準1927/2025(80.28倍)で£1=15064円、1s.=753円、1d.=63円 p(なし) 献辞 To Margaret◆ バークリー最初の妻Margaret Farar、結婚1917年12月(ロンドンでの戦時休暇中)、離婚1931年。マーガレットさんもすぐ再婚したようだが、離婚してもバークリー側に悪感情はなかったようで、バークリーはマーガレットに£1000を遺贈している。アイルズ名義第二作はバークリー二度目の妻Helen Peters(旧姓MacGregor)に捧げられている。 p(1%) 六月の末… ある土曜日(Saturday afternoon towards the end of June)◆ この冒頭場面はp(88%)から1927年6月、月末に向かう土曜日なので25日と思われる。 p(1%) テニス・パーティ(tennis party)◆ 流行 p(1%) びんからビールをグラスにつぎ(poured himself out a glass of beer from the bottle)◆ 冷蔵庫は普及してないので常温保管 p(1%) 自分で呼鈴を鳴らしたりするのは、中流階級の作法(middle-class manners to ring a bell herself)◆ ロウワー・ミドルの呪縛 p(2%) ツイードの上着、フランネルのズボン… 田舎医者(Country practitioners .... in old tweed coats and shapeless flannel trousers)◆ いかにも田舎の保険医というイメージなのだろう p(2%) トリルビ帽(trilby hat) p(4%) 「屋敷(The Hall)」◆ かなり大がかりな邸宅のイメージ。この小説中では常に大文字でThe Hallと呼ばれている。 p(4%) イートン校のブレザーコート(Etonian blazer) p(7%) 土地の狐狩協会会長(the local MFH)◆ Masters of Foxhounds p(7%) 上品に眉を上げる秘術(the art of eyebrow-lifting) p(10%) 小柄(his small body)... 五フィート六インチ(five feet seven inches)◆ バークリーは小柄だったのかな? ここら辺の文章から、なんとなく背は高かったのでは、と想像した。 p(10%) 近ごろでは、コンプレックスとか、抑圧とか、病的執着とかという言葉を… (In these days of glib reference to complexes, repressions, and fixations on every layman’s lips) p(10%) スコットランドの医学校(a Scottish hospital)◆ 「医学校」というよりインターンで実務を経験して医者になる、という流れか p(11%) すくなくとも三代にわたる紳士階級の先祖(at least three generations of gentle ancestors)◆ 三代という感覚は江戸っ子と共通だね p(11%) 古い医師の人名簿(a medical directory of ancient date)◆ 郵便局発行のdirectoryは色々役にたつ p(12%) 名流婦人(a Personage) p(12%) 訳者さんはクリケットをちゃんと理解している。以下、ちょっと解説(半可通のひけらかし!) ◉最後の優勝決定戦で活躍する(selected to play for England in the last Test Match to decide the series)◆ 試訳「テスト・マッチ(国際対抗戦)の勝負を決する最終戦に選ばれた」テスト・マッチは五回戦。イングランド対オーストラリア戦はAshesと呼ばれ最高のライバル・シリーズだった。野球ならリアルに世界一を決める日米選抜決戦みたいなもの。イングランド代表チームはプロ、アマ問わず最優秀の選手が選ばれた。なお現実のイングランド主催Ashesの直近は1926年イングランドが1勝0敗4分で勝利。 ◉イギリス・チームはやっと四六点(England all out for 46)◆ イングランドの1回裏は10アウト(all out)でたったの… という悲惨な得点。多分11人目の打者ビクリー博士の打順が来る前に10アウトになってしまったという設定。 ◉続行第二回戦(The follow-on)◆ 敵が1回表に大量点をとり、味方が1回裏で追いつかない場合、2回表(テスト・マッチは2イニング制)は負けている側が引き続きプレイする。時間短縮の工夫。なおイニングが変わると再び一番打者からスタートする。 ◉最後の打者として位置につく(last man in)◆ 既に九アウト、点差は559点。強打者でも100点取れれば素晴らしい出来なので、絶望的な場面。なおテスト・マッチでの一打席200点越えはDon Bradman(豪)が1930年に記録(254点)したのが初。 ◉六点打が、ローヅ・クリケット競技場の観覧席をこえて飛ぶ(hit for six right over the pavilion at Lord’s)◆ Lord'sはクリケットの聖地、イングランド主催の場合必ず一試合はLord'sで行われる。六点打は野球のホームラン ◉その日じゅう打ちつづけ、あくる日も半日打ちつづける(the batting all that day and half the next)◆ イニング(10アウト)が終わるまで試合は延々と続く。日没になると次の日に持ち越す ◉ついにもう一人の打者がアウトとなる。「エドマンド・ビクリーは六四五点かせいでアウトにならない」(The other man out at last. ‘Edmund Bickleigh, 645 not out')◆ クリケットの打者は同時に二人がグラウンド上にいて、投手を中心とする直線上に設置された二箇所の打席に相対して一人づつが立つ。オーバー(6球の正規投球)ごとに投手は交代し、今までとは反対側の打席に投げる。また、奇数点打(たいてい1点、稀に3点)の場合、打者は走って反対側の打席に到達しているので打席は相方と交換している。なので打ち続けていても同じ打者がずっと打順を迎えるわけではない。ビクリーは無茶苦茶打ったが、相方の打者もずっとアウトにならず打ち続けたのだ。打っても点数にならない場合もあるので、相方が何点稼いだのかは不明。 ◉つぎから次へアウト(clean bowled one after the other)◆ clean bowledは野球の空振り三振 p(13%) ウインブルドン全英庭球選手権大会におけるビクリーのハ短調交響曲(Wimbledon, Bickleigh’s Symphony in C minor)◆ テニスではなく、1910年オープンのNew Wimbledon Theatreのことだろう。特に戦間期に人気があった劇場のようだ。 p(14%) 鳴りわたるティアペーソン(a booming diapason)◆ パイプオルガンの主音栓の1つ。ディアパゾンが普通か。 p(14%) 郵便局は、食料品店でもあり、小間物屋でもあるとともに、また金物屋でもあった The post office... was the grocer’s too, and the haberdasher’s as well as that, and the ironmonger’s besides. p(14%) すがすがしい(refreshing) p(14%) パイプ・オルガンの人声音栓(vox humana)◆ 人の声を思わせる音栓 p(15%) ジョウエット(Jowett)◆ 1920年からのJowett Seven(Short 7、二人乗り)かな?四人乗りサルーン(Long Four)は1923年からで£245だった。安くて軽いのが特徴。 p(15%) 鼻唄をうたった(hummed a little song) p(16%) 自転車(bicycle) p(19%) 半どん(early-closing day)◆ The Shops Act 1911 was a United Kingdom piece of legislation which allowed a weekly half holiday for shop staff. This became known in Britain as "early closing day". It formed part of the Liberal welfare reforms of 1906–1914. p(19%) ロック・ケーキ(rock cakes) p(19%) 名刺(a card) p(20%) なにでもいいイかげんに考えてはいけまッせんッ(Itt doesn’tt do to take things casu-ally) p(21%) はねかえり(precious) p(21%) 冷(ひえ)症(frigid) p(22%) マドンナみたいに、まん中で分け(parted in the middle, like a madonna)◆ ここは「聖母マリア」を示す。確かに古いイタリア絵画を見るとみんな真ん中分けだ。 p(25%) 刺繍やクローセ編み(a piece of embroidery or crochet-work) p(25%) ラジオ(the wireless)… 受信機がなかった(they had no set) p(29%) 喫茶店でお茶を(had tea at a café) p(30%) 平底舟(punt) p(33%) 離婚してくれるといい(might divorce me) p(33%) あなたがわたしを離婚するのは許せそうもない(I’m afraid my decency doesn’t carry me to the point of letting you divorce me)◆ 落ち度のない相手に対して、離婚できないはずだが… 当時の英国では離婚訴訟の訴因は不倫や重度の虐待に限られる。ただしイカサマ離婚は可能だった。架空の不倫相手をしたてあげ、裁判所が誤認すると離婚出来る。このネタ、我がブログで取り上げたいなあ…(アガサさんの離婚関係の情報を最近知ったので) p(38%) 膝掛け(the rug round her)◆ 11月、自動車の助手席に乗った女性に対する配慮。古い車なので隙間風も多いのだろう。 p(40%) わななきながら(in a flutter of welcome)◆ ちょっとニュアンスずれ? 試訳「うれしげに出迎えた」 p(41%) ジェイコブ・エプスタイン氏の制作した記念碑(The public monuments of Mr Jacob Epstein)◆ 1925年建立のW. H. Hudson Memorialのことだろう。当初、評判が悪かった。 p(41%) 医者として、もう役にたたなくなった愛玩用の動物たちを(In his duties he had put away plenty of pet animals who had passed their usefulness)◆ 地域の医師は、ペットの始末もしてたんだね p(41%) 田舎の医者には、国民保険患者はすくなく、私費の患者が多い(In a scattered country practice such as his the panel is not large, and there are plenty of private patients)◆ 地域の医者だと担当区域の国保加入人口が多くないので、私費で契約している患者が頼りなのだろう p(43%) マダム・タッソー蝋人形館(Madame Tussaud’s) p(48%) 同意による離婚(a divorce by consent) p(50%) 結婚許可証を手に入れる(to buy a special licence)◆ 急いで結婚したい場合の手続き。英国国教会の高僧が交付。通常なら結婚予定の公表後、三回の日曜日を経過する必要がある。「特別許可」は19世紀末の平均で£30という情報あり。 p(51%) ダービー磁器の茶道具一式(The Crown Derby tea service)◆ Royal Crown Derbyは1750年創業の老舗。「世界で最も高品質な磁器メーカー」と自社HPに書いてあった p(51%) エセルは十四歳… 十二歳から(午前中は九時から十一時まで、午後は特に用事のある時だけ)◆ メイドの年齢&稼働時間。当時は普通?これでは学校に行けないだろう p(51%) ふくらし粉(baking-powder)… 一罐(a tin)… 七ペンス(Sevenpence)◆ バークリーでは珍しく物の値段が書いてある p(51%) ケーキいろいろ、原文のみ表示(a chocolate cake, iced with chocolate, an orange cake, iced with orange, and a great quantity of rock buns and Eccles cakes, not iced at all) p(52%) 水道がなかった(there was no piped water)◆ 小さな集落なので引いていない p(52%) 水洗式便所(a water closet) p(52%) 膝までもない(to her knees)◆ スカートの長さか p(52%) 既婚の男と土地の映画館に入っている(seen at a local cinema with a Married Man)◆ ゴシップ p(53%) 人差し指(The forefinger)… 曲がって(being crooked)◆ 魔女のイメージ? p(53%) 検死法廷(the inquest) p(54%) 「過失死」(“accidental death”)◆ 「過失致死」を連想させるので「事故死」のほうが良い、と思う p(54%) バクー帽(baku hat)◆ 麦わら帽で良いのかな? p(56%) 流行の食養生(this fashionable dieting) p(58%) 六月はじめ… 十三か月◆ 事件から約一年後 p(58%) 五シリング六ペンスの赤葡萄酒(five-and-sixpenny port)◆ ここは「ポートワイン」で甘味を感じたい。 p(59%) 毎日、一人の女が村から通っていた(a woman came in from the village now daily) p(59%) ろくに運転を知らない(hardly knew how to) p(59%) 深い味が(with the spice of interest)◆ 人妻好きの本音がチラリ p(61%) 検死法廷(coroner's court) p(62%) 本物の絹靴下。こりゃ、すっかり本物の絹なんだろうね(And real silk stockings. Real silk all through)◆ all throughで「でへへ、ずっと絹なの?」と手を奥に滑らせる場面だと思いました… p(62%) 犯罪捜査部の大警部(a chief inspector) p(63%) 反対尋問(cross-question) p(64%) 八千ポンドの年収(eight thousand a year) p(65%) デ・クインシーの「芸術としての殺人」(de Quincey on Murder as a Fine Art)◆ 正しいタイトルは“On Murder, Considered as one of the Fine Arts”(1827, 1839, 1854) 1818年12月にラドクリフ街道で二家族が惨殺された事件を扱っている。デクインシーは事実を随分と間違えているらしい。現行の邦訳は『トマス・ド・クインシー著作集 1』(国書刊行会)だけ? p(67%) 本物のネズミ取り器(a veritable rat trap) p(67%) 「フィガロの結婚」の一曲を鼻で歌いながら(humming an air from The Marriage of Figaro)◆ アリアの題名は書いてないが「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」なんてどう? p(67%) ピアノを弾いた(strummed on the piano) p(68%) バターをつけないトースト(dry toast) p(68%) 医者としての儀礼を無視する極悪の行き方(a heinous breach of professional etiquette) p(70%) 善きことのほか死者について語るなかれ(De mortuis nil nisi bonum) p(70%) 証拠(evidence)◆ インクエストや裁判では「証言」の方が適切かなあ。 p(70%) サイフォン(syphon) p(72%) ファウラー氏液(Fowler’s solution) p(74%) ミルス手榴弾(Mills bomb) p(77%) すいとり板(blotting pad) p(78%) [三十]九度三分(a hundred and two point eight)◆ もちろん原文は華氏 p(79%) ダブルベッド… 旧式な男(the big double bed... old-fashioned)◆ 結婚したら使うべき、という考え方のこと? p(82%) 漁業権(fishing rights) p(83%) ラベージ会社(Rabbage & Co.)◆ 架空 p(84%) 浮浪者(loiterers) p(84%) 一九二九年九月十四日(14th September, 1929) p(86%) 内務大臣(the Home Secretary)◆ そういう決まりなんですね p(86%) 大陪審(The grand jury)◆ 裁判に値するかを決める p(88%) 一九二八年四月九日(9th day of April, 1928) p(88%) 十二人の善良で誠実な人たち(Twelve good men and true)◆ 陪審員の異名。少なくとも17世紀から使用されているようだ。 p(89%) 検事長(Attorney General)◆ 定訳は「法務長官」か。内閣の一員。国王と政府への法的助言を行うのが主務だが、特に重要な事件の場合には自ら法廷で検察側として立つこともあるらしい。当時の現実世界ではThomas Inskip(1876-1947)が勤めていた(保守党、ボールドウィン内閣1928-03-28〜1929-06-04)。この程度の事件に出馬するものかなあ… p(96%) 場おくれ(Stagefright) p(97%) 千ポンド以上の経費(the expenditure of a few more thousand pounds)◆ 高いなあ BBC1979年のTVドラマが某チューブで1時間ものx4本が全部見られる。実に丁寧な作りで1920年代が再現されている。ジョウエット(フォードア)もちゃんと登場する。食事の場面や銅鑼を鳴らすところとか、あの「キャップ」(むしろ頭巾?)って助手がかぶせるんだ!というような映像資料が満載でした。配役のイメージもピッタリで、おすすめです。 |
No.466 | 7点 | Locked Room Murders Supplement - 事典・ガイド | 2025/01/14 05:50 |
---|---|---|---|
2019年出版。出版社はLocked Room International(すごい社名である)。
Robert Adeyの名著Locked Room Murders, 2nd edition(1991年、2019作登録)の追補。1150作を追加。1991年以前の作品だが漏れていたものも含まれる。 本書は「密室殺人」と言うタイトルだが、ここでリストアップされている作品は「不可能犯罪」全般。なので「密室」を含まないものも登録されている。ただし全員にアリバイがあって「不可能」なものや、解決後に不可能を構成していたとわかるもの(具体例が想像できないなあ)は除いた、と序文に書いてあった。 私はまだAdey 1991を手にしていないが(2月ごろ我が家に到着予定)、本書の形式は以下のようになっている。序文から判断する限りAdeyのフォーマットも同様だろう。 (1)リストは作家名順、作家別に個々の作品を記載(p17-197)。 (a)登録番号, (b)作品名, (c)探偵, (d)不可能状況。なお作品の評価は記されていない。 (例) Masterman, Walter S. 2745 BACK FROM THE GRAVE novel U.K.: Jarrolds, 1940 Detective: Sir Arthur Sinclair Problem: Death by poisoning in a locked room with the disappearance and reappearance of a human skeleton. (2)ネタバレ解決は別にまとめられ(p199-306)、登録番号で参照することができる。 なのでネタバレを気にせず、不可能犯罪を扱った長篇、短篇、ラジオショー、TVドラマやマンガ(名探偵コナン君も数作紹介されていた)などのリストとして使うことができる。 別にアンソロジー、TVドラマ、参考図書の短いリストが付録として付いている。 英訳のある日本人作家も登録されている。詳しくないのでどれくらい網羅されているのかよくわからないが… 英語も平明で不可能犯罪作品の読書案内として最適だと思います! Adey本が届くのが楽しみ! |
No.465 | 8点 | ビッグ・ボウの殺人- イズレイル・ザングウィル | 2025/01/05 04:07 |
---|---|---|---|
1891年出版。初出は大衆向け夕刊新聞スター紙連載(1891-8-22〜9-4)、挿絵があったのかなあ。評判が良く、すぐ書籍化されたようだ。私はハヤカワ文庫で読みました。しばらく倉庫を捜索してたんですが、文庫本が見当たらず、国会図書館デジタルライブラリに旧訳(妹尾アキ夫版及び長谷川修二版)があったので、試してみたら二つとも最初から意味を捕まえきれてないボンヤリ文が続き、だめだこりゃとなって結局ネットでポチりました。
ザングウィルさんは、チャンスがあったらすかさずボケなくては!というボケ芸人タイプで、細かいくすぐりが随所にある。こういう皮肉っぽい文章が大好きなので、ザングウィルさんの別の文章も読んでみたい、と思いました。 ハヤカワ文庫の吉田訳は非常に快調で、英国的ユーモア感を見事に再現してるのですが、鍵関係だけは取りこぼしあり。その他の解釈違いなども含めトリビアで細かく書きます。私は本書でようやくlatchkey、lockとboltの概念がはっきりしました。(このネタは長くなるので我がブログで... <予定は未定!>) 後述するが最大の謎 big lock の事については詳しい人の解釈を聞きたいなあ! また、この作品の特徴として、警察の無能に対する非難が激しい。ザングウィルは切り裂きジャックの事件(1888)を解決できなかった首都警察が避難を浴びたことを経験している(掲載誌のスター紙も切り裂きジャック事件で部数を伸ばした)。シャーロック登場時(1887)でも、それほど警察の無能をあげつらってはいない。もちろんコリンズ『月長石』の元ネタであるコンスタンス・ケント事件(1860)で警察は不手際を非難されていたのだが、警察=無能が確立したのは切り裂きジャック事件なのではないか。 以下、トリビア。 作中現在はp38から1888年で良いだろう。 価値換算は英国消費者物価指数基準1888/2025(166.10倍)で£1=32437円。1s.=1622円、1d.=270円 序の日付は1895年9月なので、リプリント版に付けられたものだろう。 p4 海竜(the sea-serpent)◆ ネス湖の恐竜のことか?英Wiki "Loch Ness Monster"に以下の記述があった。Sightings in 1856 of a "sea-serpent" (or kelpie) in a freshwater lake near Leurbost in the Outer Hebrides were explained as those of an oversized eel, also believed common in "Highland lakes". ネス湖の恐竜が有名になったのは1933年だがスコットランドの湖水地域には昔から海竜(実は巨大ウナギか)の噂があったようだ。 p9 二度とは語れない(cannot tell a story more than once)◆ 同じ話を別のやり方では語れない、という感じ? p14 週一シリングの一定料金でガスを(to pay a fixed sum of a shilling a week for gas)◆ なんで定額制にしたんだろう。計算が面倒? p16 六時四十五分を告げる聖ダンスタン教会の荘厳な鐘(St Dunstan's bells chiming the three-quarters)◆ 教会の鐘は15分ごとに鳴るのが多いのだろう。ビッグベンのアプリがあるよ(Westminster Chimes)。 p16 電車(tram)◆ 当時は馬引きか? p17 議会に打って出ようという野心… 亭主持ちの女主人(おかみ)… 一票もうかる◆ 女性には投票権は無かった p17 労働者は、あんなに水をふんだんには使わない(working men were not so lavish in their patronage of water) p17 型どおりに、わざと目をつぶったりせずに大きく見ひらいていて、それがいささか得意らしい(not first deliberately shutting his eyes according to the formula, the rather pluming himself on keeping them very wide open)◆ 食事の描写のようだが、どういう情景なのか、よくわからない… p18 紅茶と緑茶との粗悪な混合物(the coarse mixture of black and green) p19 玄関のドアは差し錠も鎖もはずされていて、鍵であけしめする掛け金が掛かっているだけ(The door was unbolted and unchained, and the only security was the latchkey lock)◆ 最近、探偵小説の翻訳では重要だと思ってるラッチキーがここに出てくる。内部からはボルト(ラッチ)をスライドさせて錠を掛け、外からは鍵で開けられる仕組み。この訳文だと内外とも鍵が必要だと受け取れてしまう。造語だがlatchkey lock=night latch=「夜閂錠(やかんじょう)」を提案したい。latchkeyは「夜閂鍵」とか「閂鍵」が良いかなあ。 p19 大きい錠の舌を押える輪をすべりこませて(slip the loop that held back the bolt of the big lock)◆ この部分が本作最大の謎(私にとって)。どうやってドアの外からドアの内側にある(と思われる)big lockを閉めるのか、全くわからない。前述のように、おかみがちょっと見た時は、big lockのことは見逃して、ラッチキー以外は外れてる、と誤解している。p32に同じ場面の記述があるが、どうやらbig lockは玄関ドア全体をしっかり施錠できるような錠前で、普段はボルトを縛りつけて(tie back)いるのだが、出がけにその結び目?を解いて(slip the loop)ドアを閉めると、重力かバネか何かの作用でしっかり鍵をかけるような仕組みなのではないか、と妄想した。何か似たような写真や絵がないか、ググったが見当たらない。こんなに簡潔に書いてある、という事から、当時の人にはすぐイメージ出来るようなポピュラーな方式なのだろう、と推測するのだが… p20 いつも奇妙な取り合わせだが(always a strange assortment) p23 午前十時から午後十時まで家政婦を(a female factotum between ten a.m. and ten p.m.)◆ ここら辺、くどい表現だが、妾じゃないよ、というニュアンスか。 p25 鍵がかかっているだけでなく、掛け金もかかっているらしい(the door seemed bolted as well as locked)◆ ここは部屋のドア。boltはスライド式の簡易錠で、lockはドアをくり抜いて設置した鍵で開ける本格錠という区別なのだろう。boltとlockの概念の違いに注目。 p25 鍵の舌が納まっている木の部分… 掛け金が肘壺からはずれ(the woodwork enclosing the bolt of the lock splintered... the large upper bolt tore off its iron staple) p32 大きい錠の舌を滑らせて… いつもは押さえてある… だれも入れなかったはず… たとえ鍵を使っても(slipped the bolt of the big lock, which was usually tied back. It was impossible for anyone to get in even with a latchkey)◆ ここも単なる「鍵」ではなく「ラッチキー」と明示されないとわかりにくい。下宿人が外から解錠する仕組みである「ラッチキーを使っても(big lockがかかってるのでドアは開かない)」という事である。この翻訳文だと、鍵さえ持っていればbig lockも開くのでは?と思ってしまうだろう。翻訳の別解はp19で示した。p19で私はbig lockを家の内側からドアを閉める機構だと考えていたが、実は外で閉める仕組みで(だからおかみが内部から一瞥してもわからなかった)ドアの内からでも外からでも鍵で開けられるものかも。big lockの鍵はラッチキーと違って下宿人には提供されていないのだろう。lockはkeyで開け閉めする、という基本概念とも合致するから、これが正解か。 p33 当の陪審員は気づかぬふりをしようとする(the juryman tries to look unconscious)◆ こういうくすぐり、好き! p35 部屋の窓は二つともしっかり差し金が掛かっている(both the windows were firmly bolted) p35 自分の寝室のドアに鍵をかけるのが習慣(in the habit of locking his door when he went to bed)◆ 屋敷の中でも用心のため部屋に鍵をかける。人口が急に増えた大都市ならではの習慣が密室を作り出すのだ。 p36 差し錠は上に滑る式のやつで、ドアの上端についていた(The bolt slid upward, and was at the top of the door)… 外から鍵がかけられないと文句を言った(could not fasten his door behind him)… 金をかけて錠を取り付け(put to the expense of having a lock made)◆ ドアの上のボルトが垂直方向に動く仕組み。内部からしか鍵を掛けられない。ここでも原文ではbolt(keyで開け閉めしない)とlock(keyで開け閉めする)という錠前概念を区別して翻訳しないと、訳がわからなくなる。 p36 神経質(nervous)… とてもよいかた(a very nice gentleman) p36 三シリング二ペンスはいった財布(a purse with 3s. 2d.) p38 十二月四日火曜日(Tuesday, 4th December)◆ 該当は1888年。その年、グラッドストンは自由党党首だったが首相ではない。 p38 窓は二つあって、その一つには掛け金が掛かっていた(There were two windows, one bolted)◆ ここは二つとも鍵がかかっていたはず(p35,p51など)。p199に説明がある。結構細かいところまで考えられているなあ。 p40 問題の家と故人の寝室を実地検証した(view the house and the bedroom of the deceased)◆ インクエストでは犯行現場の実地検証(view)が行われる場合がある。 p44 ぺちゃんこな胸をした女工(a flat-chested factory girl)◆ ヴィクトリア時代はコルセットで胸を強調した時代。その後、1920年代に至るまで英国ではだんだん胸平になっていった。 WebサイトTuppence Ha'penny "Abreast of Developments: The Changing Shape of Décolletage in Fashion"参照 p46 十ギニーの小切手◆ 寄附なのでギニーなのだろう。ヴァージニア・ウルフ『三ギニー』など。そして支払い方法は古いギニー金貨ではなく小切手だ。 p51 窓が二つあり、両方ともしっかり掛け金が掛かっていた(with two windows... both securely bolted) p51 表側のドアは錠がおりているだけではなく、差し錠までかけてある(The front door... is guarded by the latchkey lock and the big lock)◆ 翻訳だと錠前の区別が全く不明瞭になっている。"big lock"も無視。試訳「表口のドアはラッチキー錠で締まっているだけでなく、大錠前もかけてある」 p53 ”天の配剤による死”なる評決(a verdict of ‘Death from visitation by the act of God’.)◆ 突然死(前日まで異常が全くなかったのに朝死んでいた、など)の場合に、多分何かの発作によるものだろうが、当時の医学では原因が突き止められなかった場合、「神の訪れ(Visitation、たいてい大文字で始める)が現実にあったら生身の人間は耐えきれず死ぬ」という趣旨で、時々こういう言い回しの評決が実際に採用されることがあった(20世紀になると廃れた。赤ちゃんの突然死での適用例などあり。inquest verdict visitation of godで検索)。この登場人物は、今回、奇跡じみたことが起きたので、宗教がかったこの言い回しを採用しようと主張しているのだろう。 p54 犯罪ありと決定しようとするXXXの熱意(XXX's burning solicitude to fix the crime)◆ Visitationの評決が採用されても「犯罪あり」とはならず、むしろ逆(奇跡的な自然死)である。ここのfixは「犯罪を(神の)せいにする」という意味だろう。試訳「犯罪を神の思し召しに帰そうというXXXの熱意」 p54 存疑評決(open verdict)◆ 翻訳語としては非常に良い。正確な意味は「今回のインクエストでは、証言や証拠を検討しても死の要因が(殺人とも自殺とも)決めかねる」という事である。インクエストの最終目標は、死の要因が事故か自殺か殺人か自然死かを評決することである。 p55 演歌師(vocalists) p55 モルグ街の殺人(The Murder in the Rue Morgue) p56 《ランセット》紙(Lancet)◆ 著名な医学雑誌ランセットは医師で検死官でもあったThomas Wakelyが創刊。医学の進展や死因の複雑化(特に毒物)により、検死官の資格をめぐって従来の法曹系ではなく医学系を重視せよ、という主張がなされるようになった。Wakelyは「検死」には当然に豊富な医学知識が必須、という立場から多くのインクエスト批評記事をランセットに掲載している。 p56 医師でないものが検死官をつとめている(having coroners who are not medical men)◆ 検死官の資格要件に医学的知識は含まれていなかった。 p57 "かかる傷なれば、刃物はそのなかに没す"というシェリーの詩句の引用(the quotation of Shelley’s line, ‘Makes such a wound, the knife is lost in it')◆ 元ネタはHis fine wit Makes such a wound, the knife is lost in it.('Letter to Maria Gisborne' (1820) l. 240 on Thomas Love Peacock)のようだ。シェリーの文の意味は「彼の優れたウィットにはナイフが隠れており、たいそう人を傷つける」という感じ。引用元の詳細未調査。試訳「ひどい傷が出来る、ナイフはそこに隠れているのだ」 p58 マスケラインとクックのコンビ(訳註 英国の奇術師)(Messrs Maskelyne and Cook)◆ 正しくはMaskelyne and Cooke、Cook表記はフィル・マク『迷路』でも。 p64 ケンジントンやベイズウォーターの金持ち連中(so fashionable as those in Kensington and Bayswater)◆ ベイズウォーターも高級住宅街なんだ… p65 警視庁の元刑事(a former servant of the Department)◆ ここは「公僕」という語を入れた方が良い。 p66 巻きタバコ(a cigarette) p67 凡人、だから知りたい(I am only a plain man and I want to know) p67 ヴィクトリア公園(Victoria Park) p67 エレミア第二章、コリント第一章(The second chapter of Jeremiah... the first chapter of Corinthians)◆ 矛盾があるらしい。未調査。 p70 滑稽詩(comic verse) p70 二ペンスの散髪代(for lack of twopence) p73 パンは四ポンドで四ペンス三ファージング(bread at fourpence threefarden a quartern)◆ 1283円。ほんの一例だが2023年英国のスーパーで800gの最安スライスは36pという情報があった。これを4ポンド換算すると648円。当時は結構高価だったか激安スライスが安すぎるのか p73 授業料… 週に七ぺンス(sevenpence a week for schoolin’)◆ 子供七人分らしいので一人当たり1ペニー。 p74 かあちゃん、妻◆ 下層階級は奥さんをmy motherと呼ぶが、上流だとthe wifeと呼ぶらしい。なかなか貴重な情報。 p82 一ポンド金貨(a sovereign) p85 プロット売ります(PLOTS FOR SALE)◆ この「売り物」実際にあった商売なのか? p86 チンフォード教会(Chingford Church)◆ St Peter and St Paul, Chingford (Church of England parish Church) 1844年建設。 p87 アン女王("... is dead"... “So is Queen Anne”)◆ アン女王はis deadと強く結びついている。(以前どこかに書きました) p89 ダーウィンとファラデー(a Darwin or a Faraday)◆ 当時の有名な学者の例 p92 婦人服の仕立てをしていた(She was a dressmaker) p92 週給36シリング(earning 36s. a week)◆ 植字工の給金、月給にして25万円ほど。 p94 フローラ・マクドナルド(Flora Macdonald、訳註 1722-90 スコットランドの女傑) p97 本当のレディー(real ladies)... XXXだけがいわば素人(XXX was only an amateur) p98 おきゃん(the minx) p99 サラゴーサの乙女(the Maid of Saragossa)◆ Agustina of Aragón(Agustina Raimunda María Saragossa i Domènech) (1786-1857) the Spanish Joan of Arcとして知られている。 p102 九柱戯(skittles)◆ 英Wiki "Skittles (sports)" p104 クリスマスのプラム・プディング(Christmas plum-pudding) p104 迷信(prejudice)◆ 翻訳では間違って訳しているのだが、この前段はグロドマンに対して「クリスマスは一人ぼっちより大勢の方が良いよ」とウィンプが誘っている(Wimp said that he thought it would be nicer for him to keep Christmas in company than in solitary state) p109 クリスマスの鐘の音(Christmas Bells)◆ 教会の鐘。特別な鳴らし方なのだろう。 p110 休日(Bank Holiday)◆ p123の「休日」も同じ。この人は特別な休日にしか出かけないのだろう。 p114 グレイス・ダーリング(Grace Darling 訳註 難破した船の水夫九人の命を、灯台守のちちと一緒に救った女性)◆ 英国中の話題となった。生没年1815-1842、海難事故1838年 p119 上流の人々(the fine folks) p123 ゴクツブシ… 低級な詐欺師(a sponger and a low swindler) p125 うちのいちばん上等なグラス… 三ペンス(one of my best glasses... threepence)◆ 一番上等でもやっと三ペンス p127 女優の写真(portraits of actresses) p129 晴着(サンデー・クロウズSunday clothes) p130 二人乗りの馬車(a hansom) p131 ニューヨーク・ヘラルド(New York Herald) p132 この電気時代(these electric times) p132 ドルリー・レーン劇場(Drury Lane)◆ 有名な劇場といえば、ここ p133 オランダ麻(brown holland) p133 まるで政治集会のように、だれかが《彼はすてきにいい男》を歌いはじめた(someone starting ‘For He’s a Jolly Good Fellow’ as if it were a political meeting)◆ こういう場面で歌うのね p141 ドニブルック市(いち)に(at Donnybrook Fair 訳註 飲み騒ぎやけんかなどで有名) p141 ドヴォルザークの不気味な悪魔的な楽章(one of Dvorák’s weird diabolical movements)◆ どの曲のことだろうか p142 元栓… ガス(the gas at the meter)◆ 当時の照明はガス灯 p143 アルニカ・チンキ(arnica) p145 治安判事(a magistrate)◆ 専門職ではない。英国では地方の名士がそのポジションに就く。現在でも「ボランティア」と表記されている(ということはほぼ無給なのか)。「判事」は誤解を招く訳語だと思う。 p147 自分の鍵を用いて、掛け金だけかけておいた表口のドアから中に入り(got in with his latchkey through the street-door, which he had left on the latch)◆ この翻訳の「鍵」、掛け金」は「ラッチキー」、「ラッチ錠」と明示しないとわからないだろう。on the latchはWikitionaryに(of a door) Closed but not locked, so that it can be opened by operating the latchとあった。試訳「自分のラッチキーで、ラッチ錠だけかけておいた表口のドアを開け中に入った」 p147 ドアに鍵をかけ、掛け金がかかって(locked the door…being bolted)◆ lockはkeyで開閉、boltは部屋の内側で操作、という含意を明示したいのだが、日本語では難しいかも。試訳「鍵でドアをロックし… ボルトがかかって」 p147 錠前の掛け金をはずし、外に出てドアを閉め(unslipped the bolt of the big lock, closed the door behind him)◆ 翻訳ではbig lockを省いているので非常にわかりにくい。この原文の順番ならp32の私の想像は誤りで、やはりドアの内側でbig lockを操作して、ドアを閉めるとスプリングか何かで自動的にロックされる方式のように感じる。だがどんな錠前なんだろう。Webでいろいろ探したが「コレだ!というのは見つからなかった… 試訳「大錠前のボルトをロック位置に動かし、外に出てドアを閉め」(前半はゴマカし訳文です…) p148 お茶をいただく… 濃く淹れて、砂糖なしで(I like my cup o’ tea. I take it strong, without sugar)◆ 夜の飲茶 p151 りっぱな紳士… [彼は]たかが植字工(a thorough gentleman… only a comp)◆ 植字工はgentlemanではありえないのだろう。 p154 死亡時刻推定(the approximate hour of death) p156 『全英鉄道案内』(“Bradshaw”)◆ 固有名詞好きなのでブラッドショーは残して欲しい。 p158 差し金の入る壺釘(the staple containing the bolt)◆ p25では同じ語が「肘壺」と訳されている。 p158 掛け金は上下に動く式(The bolt... worked perpendicularly) ◆ p36では「差し錠」と訳されている。錠前の翻訳語の統一又は区別がちゃんとしていない。 p160 演芸場に(at the music-halls) p161 金貨で(in gold) p162 宣誓を拒み(refused to take the oath)◆ ああ、当時から法廷であっても聖書に誓わなくて良いんだ… p163 東洋古代の伝説(the old Oriental legend) p167 辻馬車(二一三八号)(the cabman(2138))◆ 馬車にはナンバーが明示されている。 p172 黒帽(black cap) p177 大々陪審(訳註 "民衆の声" "世論"のこと)(The Greater Jury) p177 密教(Esoteric Buddhism) p186 ベイコンやミル(Bacon and Mill)◆ 帰納論理学の理論家として挙げられている p194 暗号文の中から"e"の文字を見つけ出す(detect the letter ‘e’ in a simple cryptogram)◆ ポー『黄金虫』(1843)でポピュラーだったのだろう。ドイル『踊る人形』(1903)はモリスン(マーチン・ヒューイット)の暗号短篇(1896)よりも後。 p199 一方の窓しか掛け金がかかっていなかった(only one window fastened)◆ なるほどね。ここでわざわざこの説明がある、というのは「食い違い」について新聞連載中に投書か何かがあったのか。なお、fastenedという語はもっぱら窓に使っている印象あり(本作品で調べると一箇所だけドアで使用(p36)、後の九箇所は全て窓だった。日本語なら「ドアを閉める」と「窓を締める」の違いか)。 ドン・シーゲル監督のデビュー作The Verdict(1946)[邦題『ビッグ・ボウの殺人』] シドニー・グリーンストリート、ピーター・ローレ出演を日本語版が入手できなかったので怪しいロシア・サイトで観ましたよ。英語で字幕無しなのでセリフの大半は聞き取れなかったのですが、概ね原作に忠実な感じだったので理解に支障なしでした。ヴィクトリア朝ロンドンの再現性は非常に満足。残念ながらインクエストのシーン無し、注目のbig lockやnight latchも全く登場せず。陪審員に部屋のドアの模型が提示されていたのが面白かった。囚人服のbroad arrowにも注目!(変なデザイン…) |
No.464 | 7点 | 真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅡ〔増補版〕悪人たちの肖像- 評論・エッセイ | 2025/01/03 04:52 |
---|---|---|---|
元版2020年6月荒蝦夷(初版500部)を増補して再刊。最初の同人誌?を買いそびれた私はヤフオクなどを探す毎日でした。
こういう書籍はネタバレが怖くて読めないのですが、著者は★★★や☆☆☆マークで文中で事前に注意するという工夫をこうじていて安心ですね! ネタにされてるのが結構ここにも感想文を書いたのとかぶっていて、読むのが楽しみです! 以下、目次。版元も全貌を公開してないので一覧を作りました。 冒頭の★はこの増補版で追加されたもの。タイトル後の[ ]内は初出です。 <1>イングランド・スコットランド・アイルランドの作家たちの章 ●ゴシック・ロマンを読みすぎた少女[ROM2015-01] ●魔神アスモデの裔[本棚の中の骸骨2011-08] ●『月長石』の褪せぬ輝き[ROM2011-12] ●シャーロック・ホームズという人生[ROM1995-01] ●クロフツ『樽』を論ず[ROM1996-10] ★『樽』のミスを論ず[ReClaM2020-04] ★クロフツ『ポンスン事件』を論ず[ROM2002-07] ●クリスティ『スタイルズの怪事件』を論ず[ROM1998-06] ●セイヤーズ短篇集『顔のない男』解説[創元推理文庫2001-04] ●ヘンリー・ウェイド入門の記 『The Missing Partners』読後感[ROM2000-12] ★紳士が警察官を志すとき(ウェイド『ヨーク公階段の謎』解説)[論創社2022-09]【「ウェイド既訳長篇ガイド」と差替え】 ●フィルポッツ問答(ヘクスト『テンプラー家の惨劇』解説)[国書刊行会2003-05] ●フィルポッツ『灰色の部屋』を論ず[ROM2000-03] ●なぜに「駒鳥」名付けたか?[ROM1984-12] ●わたし とキューピットがいいました(ヘクスト『だれがダイアナ殺したの?』解説)[論創社2015-07] ●あるエゴイストの犯罪(フィルポッツ『極悪人の肖像』解説)[論創社2016-02] ●また一人、<悪人>の創造(フィルポッツ『守銭奴の遺産』解説)[論創社2016-06] ★エドガー・ラストガーデンの『ここにも不幸なものがいる』 レディに薦める殺人物語⭐︎その第三冊[謎謎通信1986-05] ●<鬼>を呼び起こす密室物の傑作(デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』解説)[国書刊行会1999-11] ●時計が巻き戻されるとき(ディヴァイン『ロイストン事件』解説)[現代教養文庫1995-05] ●いま一人の女王、再登場(メアリー・スチュアート『霧の島のかがり火』解説)[論創社2017-08] ●ファンタジーの巨匠が残した唯一のミステリ作品集(ダンセイニ『二壜の調味料』解説)[ハヤカワ文庫2016-11] ●探偵小説とウッドハウス(『エムズワース卿の受難録』解説)[文藝春秋2005-12] ●ウッドハウスの二大人気シリーズ[ROM2003-09] <2>大西洋と太平洋の彼方の作家たちの章 ●異彩を放つ超本格派(ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』解説)[国書刊行会1997-05] ●文豪、座談家、ときたま探偵(デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』解説)[論創社2013-11] ●動かす力としての愛(マーガレット・ミラー『雪の墓標』解説)[論創社2015-10] ●バンコランの変貌(カー『四つの凶器』解説)[創元推理文庫2019-12] ★レーン四部作を論ず[ROM2015-10] ●探偵小説が若かった頃[SRマンスリー1990-05] ●江戸川乱歩の「探偵小説の定義」をめぐって 紀田順一郎『乱歩彷徨』の読後に[ROM2012-06] ●犯罪と探偵 --- 「陰獣」論[書斎の死体1985-02] ●夢の終焉 --- 「パノラマ島奇談」論[書斎の死体1985-02] ●明智小五郎の部屋[書斎の死体1985-02] ●乱歩に対峙する気魄の目録[世界探偵小説全集 月報18(第22巻)国書刊行会1997-08] ●三読して『本陣』の美質を知る[創元推理倶楽部秋田文科会1998-12] ●金田一耕助はなぜ留置場へ入れられたか[創元推理倶楽部秋田文科会2003-12] ★よくわかる『ドグラ・マグラ』 創元推理文庫版・日本探偵小説全集4『夢野久作集』読書会報告[謎謎通信1986-02] ★パズルを超えて[地下室1984-12] ●第四の奇書『生ける屍の死』[SRマンスリー1990-01] ●欲望と論理のアラベスク(「狩久全集」第五巻解説)[皆進社2013-02] ●六十年前のアンソロジイから[ROM1989-07] ●Revisit Old Memories 「ROM」百号に寄せて[ROM1997-08] ●加藤さんの最後のご厚意 「ROM」主催者・加藤義雄氏追悼[ROM2013-12] ★集める・読む・生かす[日本近代文学館2020-11] ★古典探偵小説の魅力[河北新報2021-05-12] (以下2025-01-03 13:52追記) p125 『灰色の部屋』で "ヘンリー・ジェイムズが「二流の作家」と言われている…" とありますが、ここは前に私の感想文に書いたとおり、誤訳です。 【以下再録】 創元文庫 p254 アンドレア・デル・サルト… ヘンリー・ジェームズは二流の画家だといってるけど、ジェームズ自身が二流の作家だからでは(Andrea del Sarto… but Henry James says he's second-rate, because his mind was second-rate, so I suppose he is)◆ここの代名詞(he, his)は常にデル・サルトを指す… 試訳「ヘンリー・ジェームズは二流の画家だと言う、了見が二流だからと。そうかもしれない」【再録ここまで】 話者はヘンリー・ジェイムズに同調してるのです。 今回、Henry Jamesの元々の発言を探してみました。 Andrea del Sarto, that most touching of painters who is not one of the first... ["Italian Hours"(1909) Italy Revisited, part VI] これが見つかりましたが、 mindについてどっかで言ってるのかなあ… この文章を見るとヘンリーさん、かなりサルトが好きそう。今日はこんなところで。 |