海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

弾十六さん
平均点: 6.13点 書評数: 522件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.522 7点 地下鉄サム(平凡社)- ジョンストン・マッカレー 2025/05/17 18:10
地下鉄サムを追っかけて、いろいろ判明したつもりになっていたが、Aga-Searchさんの「地下鉄サム」のページを見ていたら、『平凡社 世界探偵小説全集7』(1929年、横溝正史 訳)に創元推理文庫にもグーテンベルク21にも未収録の短篇があることに気付いた!
お馴染み国会図書館デジタルコレクションで読めるので、早速調査しましたよ。
収録全15作中、6作がダブり。9作が新たに読めることが判明した(この数はAga-Searchさんの推定どおり)。従来、私が推定した原題が誤っていると思われるものも数篇あった(こっそり修正済み)。これで現在、日本で気楽に読めるのは41+1+9の邦訳51篇、英文28篇、合わせて全79篇である。(2025-05-18修正: Internet Archiveに初出雑誌DSMが大量に登録されていた。英文の数字を修正)
----------
以下、平凡社版の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。
原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) ◉はグーテンベルクor創元文庫とのダブり作品
横溝正史の翻訳も坂本義雄、乾信一郎と同様、ちゃきちゃきの江戸弁である。ダブりの数篇の翻訳は微妙に違っていて、読み比べるのも面白い。
(1)「サムと田舎者」 ?"Thubway Tham and the Rube" (初出DSM 1927-11-12) #️⃣86
ニューヨークは初めて、と言う田舎者と知り合ったサム。下心満々で地下鉄見物に案内してやるが…
(2)「サムの不景気」 ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57
◉グーテンベルク続(10)「サムの不景気」と同じ作品。
(3)「サムの双生児」 ?"Thubway Tham’s Double" (初出DSM 1918-12-03) #️⃣8
ノエルが「縄張りを荒らすな!」と文句をつけてきた。何のことだかわからないサム。
(4)「サムの恐怖」 ☆"Thubway Tham’s Terror" (初出DSM 1928-05-05) #️⃣91
つい獲物を追いすぎて大学のある北ターミナルまで来たサム。知らない土地だが、放心家の教授が膨らんだ財布を持っているのに気づき…
(5)「サムの愛國者」 ☆"Thubway Tham, Patriot" (初出DSM 1928-02-25) #️⃣88
明日はワシントンの誕生日。サムは新しい下宿人が建国の父を悪く言うのを聞く。
(6)「サムの正直」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣ 54 MegaPak4
◉創元文庫(6)「サムの紳士」と同じ作品。
(7)「サムのクロスワード」 ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73
◉グーテンベルク正(5)「サムのクロス・ワード」と同じ作品。
(8)「サムの御奉公」 ?"Thubway Tham’s Underground Loyalty" (初出DSM 1925-07-04) #️⃣72
サムは地下鉄で偶然、悪党二人が何か企んでるのを見つけたが、チクる訳にはいかない。
(9)「サムの手術」 "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6
◉グーテンベルク続(4)「サムの手術」と同じ作品。
(10)「サムと悪童(チンピラ)」 ☆"Thubway Tham’s Pupil" (初出DSM 1926-10-09) #️⃣83
マディソン広場のいつものベンチに15歳くらいのガキがいて、何か絵を描いている。
(11)「サムとペテン師」 ?"Thubway Tham and the Con Man" (初出DSM 1926-02-13) #️⃣77
ノエルがシカゴから来たペテン師をサムに紹介する。スリを馬鹿され、サムの心に火がついた。
(12)「サムの合資会社」 ☆"Thubway Tham Meetth Elevated Elmer" (初出DSM 1925-06-13) #️⃣70
エルマーがサムに持ちかけた相談とは?なお翻訳で「昇降機(エレベーター)」となっているのはElevated Train(高架鉄道)の事ですね。
(13)「サムと魔法財布」 ?"Thubway Tham’s Puzzling Leather" (初出DSM 1927-11-26) #️⃣87
サムが「ご立派な男」からスった財布は不思議な細工だった。
(14)「サムの友情」 ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56
◉グーテンベルク続(9)「サムの友情」と同じ作品。
(15)「サムの自動車」 "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText
◉グーテンベルク続(7)「サムの自動車」と同じ作品。

No.521 7点 下宿人- ベロック・ローンズ 2025/05/16 10:37
1913年8月末出版。初出Daily Telegraph連載1913-08-02〜(終了日、回数不明)。元々は英国Nash's Magazine 1911-01 挿絵A. C. Michael 及び 米国McClure's Magazine 1911-01 挿絵Henry Raleighの短篇を長篇化したもの。マクルーア誌の短篇版はWikiSourceにあり(英Wiki “The Lodger (novel)”にリンク)。短篇版の邦訳は無さそう。
私は無料でダウンロード出来る林清俊さんの新訳で読みました。端正な文章が非常に良いです。他にも面白そうな翻訳作品がありますよ!http://classicmystery.web.fc2.com
----------
同じような内省を繰り返してる部分があって、どうかなあ、という印象があったのだが、成立過程を知って、なるほど、と思った。でもディテールを膨らませたおかげで、当時の金銭感覚や生活実態が読めて良かった。インクエストのシーンも短篇版には出てこないし。
じんわりくるホラーというよりサスペンス。グロい描写は一切なし。短篇版はざっと見た程度で、熟読してない。オハナシとしては短篇の長さで十分だろうと思う。
ヒッチ映画を見たら、感想を書きますよ。
トリビアもたくさん拾えた。これも後ほど。

No.520 6点 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド 2025/05/15 16:53
1983年出版。
クリスティアナ・ブランド書誌付き。
私は(5)英国ヴァージョン目当て。
----------
(5) Murder Game 「ジェミニー・クリケット事件」深町眞理子訳: 評価7点
米国バージョン(EQMM 1968-08 as "The Gemminy Crickets Case")は早川書房 世界ミステリ全集18『37の短篇』で読めます。
英国バージョン初出は短篇集"What Dread Hand"(1968-10出版)のようだ。出版年月と米国版初出を考慮すると、二つのヴァージョンは当初から存在していたようである。作者としては英国版が本筋だったらしい。なお出版月は英国The Bookseller1968年10月新刊リストで確認しました。
私の好みは米国版の方かなあ…
ワールドカップについては蟷螂の斧さまの評文に詳しく載っていました。英国バージョンだと「数か月前の事件」と思われるのでフットボール・ワールドカップで間違い無さそうだが、米国バージョンだと「少し前の事件」なので1960年のラグビー・ワールドカップ決勝戦の可能性もあるかもです…
---------
他の短篇についてはおいおいと。

No.519 6点 地下鉄サム選集- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 15:35
2016年発行。ヒラヤマ探偵文庫の電子本。
ごく初期の作品を収録。
#️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから)
(1)「地下鉄サム、魔が差す」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出Detective Story Magazine 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText
創元推理文庫(9)「サムと贋札」と同じ作品。未訳のを収録して欲しかったなあ。
(2) 「地下鉄サムの感謝祭のご馳走」"Thubway Tham's Thanksgiving Dinner" (初出Detective Story Magazine 1918-11-26) #️⃣7 MegaPak14 WikiText
派手に五ドルのディナー(午後1時)を二十人招待する、友達のいないサム。誰を選んで、どうやって金を工面する?
(3)「洒落者サム」"Thubway Tham, Fashion Plate" (初出Detective Story Magazine 1919-10-07) #️⃣21 MegaPak1
本字旧仮名に挑戦した意欲的な翻訳。

No.518 7点 地下鉄サム(グーテンベルク21)- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 15:03
『地下鉄サム 第1〜第3』坂本義雄 訳、日本出版協同(1952〜1953)全29篇を再構成したもの。創元推理文庫とはカブリ無し。
⚫️数字は日本出版共同版の収録巻。原題を同定しようと頑張ったけど、原文入手できず、ほとんど推定。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」#️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) 、IntAr(MGZN)はWebサイト"InternetArchiveに初出当該号のPDFあり。
発表順に読んだ方が面白い作品あり。特に続(3)→正(8)は続きものである(実は全5作のシリーズ)。正(15)は創元(10)で言及されてる、など。
----------
『地下鉄サム』収録作品
正(1)「サムの魚釣」❶ "Thubway Tham’s Fithing Trip" (初出DSM 1921-05-28) #️⃣38 WikiText
正(2)「サムのラジオ」❸ "Thubway Tham Tunes In" (初出DSM 1926-04-10) #️⃣79 MegaPak3
ラジオを買って夢中になるサム。ある日ムーアが頼み事にやって来た。
正(3)「サムと猿公」❷ ☆"Thubway Tham’s Monkey Pal" (初出DSM 1926-08-07) #️⃣82
正(4)「サムの良心」❶ ?"Thubway Tham’th Better Thelf" (初出DSM 1922-11-25) #️⃣55
路上で良心を説く男の話を受け売りしてクラドックに話すサム。だが縄張りを荒らされてると聞いて…
正(5)「サムのクロス・ワード」❸ ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73
正(6)「サムと詐欺師」❶ "Thubway Tham Meets Mr. Clackworthy" (初出DSM 1922-02-18) MegaPak21 #️⃣50
Christopher B. Boothのシリーズ・キャラクターであるシカゴのクラックウォーシー&早起き鳥(DSM連載)と共演する企画もの。お返しにBoothは"Mr. Clackworthy and Thubway Tham" (初出DSM1922-03-04)を書いている。
正(7)「サムの誕生日」❸ "Thubway Tham’s Birthday" (初出DSM 1920-04-13) #️⃣27 IntAr(MGZN)
正(8)「サムの覚醒」❷ "Thubway Tham’s Dithilluthionment" (初出DSM 1921-10-15) #️⃣44 IntAr(MGZN)
正(9)「サムの競馬見物」❷ "Thubway Tham Goeth to the Ratheth" (初出DSM 1921-10-29) #️⃣45 MegaPak10
初めて競馬場に行き、レースに賭けたサム。
正(10)「サムの義侠」❷ ?"Thubway Tham, Hero" (初出DSM 1924-11-01) #️⃣66
女は嫌いだが、若い母娘と乗り合わせたサム。
正(11)「サムの陪審員」❶ ☆"Thubway Tham’th Jury Thervithe" (初出DSM 1923-02-10) #️⃣58
正(12)「サムと犬」❶ "Thubway Tham’s Dog" (初出DSM 1922-07-01) #️⃣52 MegaPak2
正(13)「サムとクリスマス」❶ ☆"Thubway Tham’s Merry Christmas" (初出DSM 1918-12-24) #️⃣9
ポーカーに負けて素寒貧だがクリスマス・プレゼントをあげたいサム。登場キャラ: ノエル
正(14)「サムの悪日」❸ ☆"Thubway Tham’s Tough Day" (初出DSM 1924-11-29) #️⃣67
なんだか運の悪い日。登場キャラ: ノエル
正(15)「サムの新弟子」❶ ☆"Thubway Tham’th Apprentithe" (初出DSM 1922-09-30) #️⃣53
----------
『続地下鉄サム』収録作品
続(1)「サムの女嫌い」❷ ?"Thubway Tham’s Female Petht" (初出Detective Story Magazine 1930-08-23) #️⃣96
上流夫人が道楽でスリの実態調査を希望し、サムが付き合わされる。登場キャラ: 鼻のムーア
サムが南極探検のバード少将と同じくらい知られている、と冒頭にあるので時事ネタと判断。1930年くらいの作品か?
続(2)「サムの礼装」❸ ☆"Thubway Tham Dons a Dinner Jacket" (初出DSM 1923-10-27) #️⃣60
ノエルに唆されてタキシードを着てみたサム。いつもと勝手が違って戸惑うばかり。
続(3)「サムの初恋」❶ "Thubway Tham and Cupid" (初出DSM 1921-08-06) #️⃣41 IntAr(MGZN)
めかしこむサムをからかう大家。どんな娘と知り合った?
続(4)「サムの手術」❷ "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6
体調不良で耐えられず医師に行くサム。
続(5)「サムのロマンス」❸ ☆"Thubway Tham’s Romance" (初出DSM 1918-07-09) #️⃣3
地下鉄で見かけた気になる女の子。これが恋だなんて言言いたかねぇよ!
続(6)「サムの慈善家」❸ "Thubway Tham, Philanthropist" (初出DSM 1919-04-01) #️⃣14 MegaPak17
続(7)「サムの自動車」❸ "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText
続(8)「サムの百ドル」❶ ☆"Thubway Tham’th Honetht Hundred" (初出DSM 1923-03-10) #️⃣59
正直に稼ぐ、と宣言し25ドルの賭け。
続(9)「サムの友情」❸ ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56
クリスマスだというのに、サムが近所の犯罪者仲間たちと何か企んでいる様子。
続(10)「サムの不景気」❷ ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57
クラドックが元気が無い。誕生日を明日迎えるのだが、歳をとった、と憂鬱のようだ。
続(11)「サムの美顔術」❷ ☆"Thubway Tham Gets a Mud Pack" (初出DSM 1924-03-08) #️⃣62
何か良くない予感。そんな日には「仕事」をしちゃいけないんだが…
続(12)「サムと特ダネ」❸ ?"Thubway Tham’th Thcoop" (初出DSM 1924-03-22) #️⃣63
続(13)「サムの鬱憤」❶ "Thubway Tham, Delegate" (初出DSM 1921-06-11) #️⃣39 IntAr(MGZN)
ワシントンの高級ホテルでぼられ、田舎者扱いされて憤慨するサム。原文では「アトランティック・シティ」になっている。馴染みがないので訳者が変えたんだろうね。
続(14)「サムと遺産」❷ "Thubway Tham’s Legathy" (初出DSM 1921-04-30) #️⃣37 IntAr(MGZN)

No.517 7点 地下鉄サム- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 14:28
元は『地下鉄サム 第4』日本出版協同(1953)→『世界大ロマン全集第6巻』東京創元社(1956)→創元推理文庫(1959)という流れ。全10篇収録(全て国会図書館デジタルコレクションで読める)。
『地下鉄サム 第1〜第3』日本出版協同(1952〜1953)坂本義雄 訳はグーテンベルク21で『地下鉄サム』&『続地下鉄サム』として電子本になっている。全29篇収録。
他、ヒラヤマ探偵文庫『地下鉄サム選集』に3篇収録されてるが1篇ダブりなので、日本では手軽にこのシリーズ全百三十数篇中、41篇が読める。古いファンはEQアンソロジー『完全犯罪大百科(下)』に1篇収録されていたのをご記憶だろう。英語が出来る人ならあと28篇読める(MegaPack[Thubway Thamに10篇、Victorian Roguesに1篇]、WikiSourceに数篇、Internet Archiveに11篇)。なので頑張れば70篇のThubway Thamシリーズが読めますよ!(2025-05-17追記: あと9篇の邦訳が『平凡社 世界探偵小説全集7』に見つかった。なので日本語と英語で現在79篇が読めます!)
----------
以下、創元推理文庫の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。
原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから)
(1)「サムの放送」 ☆"Thubway Tham on the Air" (初出DSM 1930-12-06) #️⃣99
(2)「サムと厄日」 ☆"Thubway Tham’s Ides of March" (初出DSM 1928-03-24) #️⃣89
クラドックが明日は三月十五日、シーザーが殺された悪い日だ、と講釈。次の日、サムは仕事をしに出かけるが…
(3)「サムと指紋」 ?"Thubway Tham—Framed" (初出Street & Smith’s DSM 1931-05-09) #️⃣101
クラドックの様子がおかしい。何かたくらんでいるのか。
(4)「サムと子供」 ☆"Thubway Tham—Kidnaper" (初出DSM 1930-11-22) #️⃣98
最近誘拐が多くて憂鬱なクラドック、手柄を立てようとサムに張り付いてうるさい。
(5)「サムとうるさがた」 ?"Thubway Tham’s Ignoble Patht" (初出DSM 1930-12-13) #️⃣100
昔、旅先で知り合った田舎者がNYに来た。言うことがことごとくむかつく。
(6)「サムの紳士」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣54 MegaPak4
(7)「サムと名声」 "Thubway Tham and Elevated Elmer" (初出DSM 1919-03-04) #️⃣12 WikiText
地下鉄は高架線より優秀か?大きな顔はさせないぜ!登場キャラ: エルマー
(8)「サムと大スター」 ?"Thubway Tham Shakes a Star" (初出DSM 1928-03-31) #️⃣90
映画を楽しみに行ったら、意外なものを観た。映画スターを狙え。
(9)「サムと贋札」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出DSM 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText
たばこ屋で働くサム。クラドックは怪しむが…
(10)「サムと南京豆」 ?"Thubway Tham’s Skyrocket" (初出DSM 1926-07-03) #️⃣81
不景気がスリ業界にもやって来た。他業種の男がサムのところに来て…

No.516 6点 死体をどうぞ- ドロシー・L・セイヤーズ 2025/05/12 13:33
1932年出版。創元文庫で読みました。浅羽さんのお陰で上質な翻訳のピーター卿シリーズが読めるのは、本当にありがたいことだと思います。
皆さんの評価が何故か高い。これがオッケーなら前作『五匹の赤い鰊』も同じくらいの作品では?と思いました。あっちは方言(の翻訳)が足を引っ張ってるのかな?
私の不満は、ちゃんと絶体絶命シチュエーションを作ってるのに、そっちにフォーカスせず、スリルを盛り上げていないこと。どう考えても最重要容疑者はあの人だよね… 当初は、そこから救出、という話だったのでは?と思うのだが(その片鱗が第13章にある)、それじゃ『毒』の二番煎じだし、そんな関係を繰り返したくない!という事だったんだろう。それで、ピーター卿の振る舞いがワザと自己模倣してるみたいで乗れないし、ハリエットの反応もなんだか空々しい。無理にわちゃわちゃしてる、という結果になっちゃった。
犯人の計画もなんだか詰めが甘いし、訴追側もこれではヒヤヒヤものの裁判になるだろう。まあ何かの証拠が後から出てくるんだろうね…
トリビアはとりあえず項目だけ。あとで膨らませますよ。
p31 六月十八日、木曜日◆ 1931年が該当。
p61 女らしさへの回帰
p63 週に十二ギニ
p63 外科医の手術代が百ギニ
p63 地方税やら国税やら
p66 体の在り無し
p68 新聞の渾名
p70 コーナー・ハウス
p70 マフェット嬢の話
p81 デ・レシュケ
p81 バーリントン・アーケード
p84 デブレット
p94 オートバイに乗る
p97 結婚許可証… 二週間後には結婚… しばらく教区に住む必要がある
p98 フローラ
p102 ボルシェヴィキの仕業
p125 あくび… にきび
p131 速度制限が廃止されて
p170 モーガン
p176 ソブリン金貨
p178 インドの王さま
p180 イングランド銀行券
p180 紙幣のほうが確かに安全
p195 あおひげごっこ… 塔の上のアン姉さん
p195 お茶の時間(四時)
p195 六ペンス◆ 子どもへの情報料
p198 映画館に改造する
p211 クォーンやパイチリー
p211 ロシアの小麦がばかすか、安値で輸入され
p211 手間賃や国税、地方税や教区税や保険料
p211 小麦… 一エーカーあたり九ポンドの経費… [収入は] 運がよくて五ポンド
p251 五ポンド… 銀行券で
p251 F・ハルム
p251 一回二ペンス半で
p264 トーキー映画
p271 賄いこみで週に二ギニ半、もしくは家賃だけで十二シリング
p272 おばさん
p273 国会制定法
p274 パントマイム
p275 プリンシパル・ボーイ
p285 煙草のカード
p310 年収三千ポンド◆ 13万ポンドの利子か?
p315 旅券… 査証
p345 結婚許可証
p347 赤いベントレーのオープンカー
p357 コンサート
p383 多数評決(A majority verdict is sufficient)◆ インクエスト
p396 チェンバース英語辞典
p402 フリス写真館
p402 ドレ&シー社
p416 付加税だの相続税だの
p458 出典不明
p465 All is known, fly at once
p474 わしが十八の時ゃ、週に五シリングの給料で
p528 聖マーティンズ・イン・ザ・フィールズ教会の地下
p529 エドガー・ウォレスの小説
p529 離婚沙汰
p531 ほんとに機能する電気式の通話装置
p531 十シリング札
p532 フロリン銀貨
p532 コーナー・ハウス
p533 流行り歌
p534 映画館… 三シリング六ペンス席
p535 背中をごまかす
p546 金本位制
p580 探偵作家
p584 ジョン・ロード
p586 ベルサイズ・ブラッドショー

No.515 6点 Murder at Sea- リチャード・コネル 2025/05/10 13:17
1929年出版。初出The Elks Magazine 1928-06〜10 (5回連載)。最近Kindleで入手しやすくなりました。
マシュー・ケルトン探偵シリーズ、唯一の長篇。
出版時期から、もしかしてストークス社と新マクルーア誌が開催した賞金$7500(現在価値約2000万円)の探偵小説長篇コンテストに応募した作品では?と思ったが、募集は1928年8月12日あたりが開始時期なので、本作の雑誌連載の方が先。コネルさん、このコンテストのニュースを見て「失敗した!もう少し待てば良かった!」と思ったのでは?
こういう応募できなかった組も、次回のコンテストを期待して探偵小説のアイディアを練り、それが1930年代の探偵小説ブームを呼んだのだろうか(長篇デビューの有名どころ: ディクスン・カー1930、スチュアート・パーマー1931、ロラック1931、ESガードナー1933)。でもまあ不況化で売れそうなのはミステリ分野だった、という理由の方が強いと思います。
さて私が苦手なあらすじ。
第一章は、事件解決のため、ずぶ濡れで捜査したケルトン探偵、お陰で解決に至ったものの風邪をひいちゃいます。それでバミューダへバカンスを目論み、SSペンドラゴン号に乗り込みます。ツテを使って船長とよしみを通じ、気楽な旅が始まった、と思ったら船長から呼び出しが… 人が死んでるのじゃ!どう見ても殺人じゃ!
あとは目次で我慢してくださいね。
第一章 知りたがりの男
第二章 船室Bの悲劇
第三章 骸骨との饗宴
第四章 恐ろしい眼
第五章 再び眼が
第六章 悪魔がうろつく
第七章 追い詰められる
第八章 新たなもつれ
第九章 夜遅くの訪問
第十章 ヴァルガ
第十一章 声
第十二章 誰がやった?
第十三章 死より強いもの
第十四章 有能な船員ゲイブ・フェストの運命
第十五章 ジュリア・ロイドが知ったこと
第十六章 マシュー・ケルトンが知ったこと
第十七章 その後
本格ものとしては手がかりがところどころ隠され、フェアプレイ重視ではありません。怪奇風味ありです。登場人物の掘り下げも弱い。解決もまあまあレベル。残念ながら傑作じゃなかったです…

No.514 7点 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー 2025/05/09 01:44
この作品、ずっと懸案だったのだが、⼭形浩⽣センセーがチョチョイと翻訳を開始したので、(今のところまだ6章まで)読み始めた。(2025-05-15追記: もう第15章まで進んでいた!)
清水俊二訳でかなり昔に読んでるが、内容はもうすっかり忘れてた。
⼭形センセーは村上訳のダメさに憤慨して、趣味的に始めたらしい。ぜひ終わりまでやって欲しいなあ!
https://cruel.hatenablog.com/entry/2025/05/07/015430
引き締まった良い翻訳。商業としたらブラッシュアップが必要な細かい誤りやもっと推敲した方が良いところが残ってるけど、タダだから、一見の価値あり、と思います。
もうチャンドラーも著作権が切れてるんだなあ、と驚いた。
小説の内容は、マーロウとレノックスの変な関係性が面白いけど、チャンドラーの性格の弱さがハッキリ出てるねえ… 小さいことで無闇にムカついてるし。こういう大人はカッコ良いとはとても思えないなあ。
続きが早く読みたいけど、山形センセーの気まぐれにかかっている。
我がブログでもあの名文句やテリーの拳銃について語っていますよ!
https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/20/204714
https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/13/000601

No.513 5点 闇の中から来た女- ダシール・ハメット 2025/05/06 03:18
初出Liberty 1933-04-08〜22(三回連載)。別冊宝石79号(乾信一郎訳、昭和33年9月発行)で読みました。あまりに短いので抄訳だろうなあ、と思って、原文と比べたらかなり抜いており全体の六割ほどの翻訳でした。
元々、梗概みたいな、骨組みだけのオハナシ。ハメットは手を抜いて真面目に書いてない感じです。ディテールを膨らませるのもめんどくせー、というような作品を三回分載してもらえるなんて、当時のハメットはよっぽど売れっ子だったんだなあ、と変に感心しちゃいました。
空さまが言及してる主人公の最後のセリフ?は原文には無し。多分船戸先生の創作でしょう(彼女の最後のセリフは"All men are"なんですが、空さまがこれを指してるとは思えませんでした)。
まあこの出来ならちゃんとした全訳は望めないですね。どこかでハメット短篇全集を企画して欲しいなあ…
なお、船戸与一訳については小鷹信光『翻訳という仕事』のなかで24ページにわたって誤訳が指摘され、クズ本、と結論されている。原文をカットしている箇所も多く、その上、原文に無い言葉がたくさん加えられ、ふやかされているようだ。誤訳指摘の公開後に小鷹さんが深町真理子さんから贈られた言葉が良い。「他人の欠陥は目につきやすい」
(以下2025-05-07追記)
RKO映画(1933)も見ました。映画権は$5000ですぐ売れたらしい。米国消費者物価指数基準1934/2025(24.60倍)で$1=3505円。1753万円か… ちょろい商売だと作者が思っちゃうよね。
フェイ・レイとラルフ・ベラミー。非常にわかりやすいB級ノワール。某Tubeで見られます。まあでもハメット・ファンが参考のために見れば良い程度の内容だった…

No.512 5点 恐怖通信- アンソロジー(国内編集者) 2025/05/05 00:40
1985年出版(河出文庫)。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
SF系の作家が多い怪奇小説アンソロジー。見慣れない作品が多いので、編者がちゃんと選んでる感じがします。翻訳者は耕治さん主催の翻訳教室に所属していた人たち、ちゃんと弟子の面倒を見る良い師匠ですね。
収録短篇を発表年順に並び替えました。
----------
(8) Rose Garden by Montague Rhodes James (1911)「バラ園」モンタギュ・R・ジェームズ作、長井裕美子訳: 評価7点
ご婦人を怪奇小説に絡めるのが上手なMRJ。物語の流れが巧みです。そしてエンディングも素敵。
(2025-05-04記載)
----------
(4) The Ghost of Versailles by Frank Usher (1940)「ヴェルサイユの幽霊」フランク・アッシャー作、南波喜久美訳: 評価6点
マリー・アントワネットの幽霊譚。ちょっと変わったアプローチが面白かった。
(2025-05-05記載)
----------
(12) The October Game by Ray Bradbury (1950)「十月ゲーム」レイ・ブラッドベリ
(7) Devil's Henchman by Murray Leinster (1952)「悪魔の手下」マレイ・ラインスター作、成田朱美訳
----------
(5) Poor Little Saturday by Madeleine L'Engle (初出Fantastic Universe 1956-10)「愛しのサタデー」マデリーン・レングル作、笹瀬麻百合訳: 評価4点
基本、ファンタジーは好きじゃないのです。魔女が出てくる話。サタデーは面白いが、概ね凡庸。
(2025-05-04記載)
----------
(11) Operation Salamander by Paul Anderson (1957)「サラマンダー作戦」ポール・アンダースン作、川勝彰子訳
----------
(3) Victim of the Year by Robert F. Young (初出Fantastic Stories of Imagination 1962-08)「犠牲の年」ロバート・F・ヤング作、風間英美子訳: 評価6点
失業と職安とハロウィン。楽しげで面白い話だけど、ちょっとピンとこない。
(2025-05-05記載)
----------
(6) Unholy Hybrid by William Bankier (1963)「おぞましい交配」ウィリアム・バンキアー作、中山伸子訳
(1) The Ghost by August Derleth(1966)「幽霊」オーガスト・ダーレス作、羽田詩津子訳
(9) My Mother was a Witch by William Tenn (1966)「ぼくのママ魔女」ウィリアム・テン作、大久保庸子訳
(2) Bradley's Vampire by Roger. W. Thomas (1968)「ブラッドレー家の客」ロジャー・W・トーマス作、坂崎麻子訳
(10) Charles Kean’s Ghost Story: “Nurse Black” by Michael & Molly Hardwick (1969?)「ブラック乳母」マイクル・M[sic]・ハードウィック作、伊藤美帆訳
この人だけ作者の紹介が無かった。色々調べると "50 Great Horror Stories" ed. John Canning (Hamlyn/Odhams, 1969)にマイケル&モリー・ハードウィックの作品が多数収録されており、その中の一篇。タイトルも微妙にヘンテコに紹介(Chavles Keau’s Ghost)されていた。

No.511 5点 15人の推理小説- アンソロジー(海外編集者) 2025/05/04 22:37
1956年出版のCWAアンソロジー。原題Butcher’s Dozen。編者はJosephine Bell, Michael Gilbert & Julian Symonsのようである。国家図書館デジタルコレクションで読んでいます。
( )内の数字は翻訳本の順番。【 】内の数字は原書の順番。
「あとがき」によると、この手のCWAアンソロジーの最初のものだったようだ。
----------
(1) Dinner for Two by Roy Vickers 【14】(初出EQMM 1949-01) 「二人前の夕食」ロイ・ヴィカーズ作、井上一夫訳: 評価6点
迷宮課もの。1933年の事件。面白いアリバイだが成立するかなあ。解剖でわかるはず。
(2025-05-04記載)
----------
(2) Money Is Honey by Michael Gilbert【4】「お金は蜂蜜」マイケル・ギルバート作、橋本福夫訳 [Henry Montague Bohunもの]
----------
(3) Diamonds for the Million by Maurice Procter【10】 (初出Collier's 1952-11-01 as “The Bowstring Murder”)「百万ドルのダイヤモンド」モーリス・プロクター作、中田耕治訳: 5点
なんだか語り口が下手くそでわかりにくい話になっている。英国警察と米国警察が共同して犯人を追い詰めるのだが…
(2025-05-06記載)
----------
(4) The Tallest Man in the World by Janet Green【5】「世界一背の高い人間」ジャネット・グリーン作、橋本福夫訳
(5) Portrait of Eleanor by Marjorie Alan 【1】(初出EQMM1947-12)「エリナーの肖像」マージャリー・アラン
(6) The Thimble River Mystery by Josephine Bell【2】(初出The Evening Standard 1950-05-08 as "The Thimble River Murder")「シンブル川の謎」ジョジフィーン・ベル[Dr. David Wintringhamもの]
----------
(7) A Death in the Black-Out by Mary Fitt【3】(BBCラジオドラマ)「灯火管制中の死」メアリー・フィット作、井上勇訳: 評価5点
田舎の開業医フィッツブラウンFitzbrownもの。作中現在は1944年11月。オートバイ事故で呼ばれた医師。三人ブリッジをしている場面あり。ミステリ度は普通。
(2025-05-05記載)
----------
(8) Strange Journey by Frank King 【7】(初出Britannia and Eve 1949-09)「奇妙な旅行」フランク・キング作、中田耕治訳
(9) The Killer by Vivian Stuart【12】「殺人者」ヴィヴィアン・ステュアート
----------
(10) Death at the Wicket by Bernard Newman【9】「打席に死す」バーナード・ニューマン作、井上一夫訳: 評価5点
田舎のクリケット試合で起きた出来事。専門用語たくさんだけど、さすが井上先生は上手く処理している。ミステリ度は低いなあ。
(2025-05-04記載)
----------
(11)Rubber Gloves by L. A. G. Strong【11】「ゴムの手袋」L・A・G・ストロング作、中田耕治訳
(12) The Dupe by Julian Symons【13】「かも」ジュリアン・シモンズ
(13) The Lost Village by Cecil M. Wills【15】「失われた村」セシル・M・ウィルス
(14) He Got What She Wanted by Nigel Morland【8】「魔につかれて」ナイジェル・モーランド
----------
(15) Remote Control by Alan Kennington【6】(初出Esquire 1950-02 as “Fingerprints Can’t Talk”)「遠隔操作」アラン・ケニングトン作、橋本福夫訳: 評価6点
ちょっと面白い工夫。戦後の話。三角関係の顛末は…
(2025-05-06記載)

No.510 8点 裁かれる花園- ジョセフィン・テイ 2025/05/03 23:30
1946年出版。テイ名義第二作。翻訳は上質。
この時点では戯曲家Gordon Daviotと同一人物だと明かされていない。
この作品はミステリを期待せず、普通小説として読んだ方が良いだろう。卒業間近の体育大の女学校で、とある事件が起こる物語。
登場人物(ほぼ女性ばかり、たまに出てくる男たちも良い仕事)が生き生きとしてとても良い作品だと感じた。いつものように話の流れが良い。このまま事件が起きないで欲しい、と思うくらい、キャラに感情移入してしまった。京都アニメーションでアニメ化して欲しいくらい。
テイさんは体育学校での経験を書き留めておきたくなったのだろう。
伝記を読んでいて1949年にセイヤーズがテイさんをデテクション・クラブに誘っていた、という事を知った。残念ながら父の介護でロンドンになかなか自由に行けないのでテイさんが断ったようだが。
トリビアは後ほど。

No.509 7点 フランチャイズ事件- ジョセフィン・テイ 2025/05/01 23:28
1948年2月出版。テイ名義第3作。グラント警部シリーズ第3作。国会図書館デジタルコレクションNDLdc(元本HPB)で読みました。翻訳チェックは第二章途中までですが、数行大きく抜いてる部分もたまにあり(ちょっと脇にそれた無駄口や固有名詞関連が多そう)、誤りも結構ありました。まあなんとか物語の趣旨は分かりますが、ニュアンスずれはかなりありそう。新訳希望です。
肝心の話はテイさんの丁寧でユーモアたっぷりの物語。ロンドンの演劇サークルに身を置きながらも、故郷のインヴァネスで病身で高齢の父(1950年死亡)を介護していたテイさん。そんな生活と母娘の二人暮らしが、本書を読んでいて重なりました。
ミステリ的には地味すぎる話。派手な展開もない。でもじっくり読ませる。非常に良い小説ですが、私には飛び抜けた高得点は無理でした。最後までちゃんと翻訳チェックをすればもっと点数が上がるかもです…
本作で初めてダストカバーにTey=Daviotと明記。18世紀の有名事件を現代に置き換えた、ということもダストカバーに書いています。元ネタはリリアン・デラトーレ『消えたエリザベス』(1945; これもNDLdcで読めます。良い時代ですね!)で取り上げられてるElizabeth Canning事件(1753)。
正直、なぜこの題材?と思ったのです。でも毎日、老いる親をみていると不安だったのかな、と思いました。その感じを伝えるのに格好な題材だったのでしょう。あと映画化も狙っていたのでは?と思いました。フォトジェニックなところが色々ありますよね。
映画(1951)もなんとYouTubeで見られるのです!冒頭20分ほど見ましたが、グラント警部が出てきます。ヒッチコックはカットしたので映画初登場ですね。これも見終わったら感想を書きますよ。
Affairがタイトルなので、英国ミステリ三大Affairを考えました。
・The Mysterious Affair at Styles by Agatha Christie (1920)
・The End of the Affair by Graham Greene (1951)
『スタイルズ』はaffairという語では軽すぎる気がします…
以下トリビア。
p7 今頃ゴルフ友達はどこかでやっていることだろう(His golfing cronies would by now be somewhere between the fourteenth and the sixteenth hole)
p7 ミルフォードでは晩餐の招待は今でも手紙で書いて郵送されることになっている(in Milford invitations to dinner are still written by hand and sent through the post)
p7 バターを入れないビスケット(biscuits; petit-beurre)… たっぷりバターを入れたビスケット(digestive)
p8 有名な辯護士(a respectable solicitor)
p8 大戦中に… 雇われ(war-time product)… 約四分の一世紀の後(nearly a quarter of a century later)◆ 第一次大戦の人手不足で初めて女性を雇って、それから約25年後が現在、ということらしいので、少なくとも1914+25= 1939以降。作中現在は第二次大戦後と思われるので1946年で良いか。(2025-05-02追記)
p8 法律事務所は… うまく戦争を切り抜けた(But the firm had survived the revolution)◆ このrevolutionは女性を法律事務所で雇用する、という「革命」
p8 タフ嬢がこの事務所の人気者になった(Miss Tuff had ever been a sensation)◆ 誤魔化し訳。タフ嬢が最初の女性として弁護士事務所に雇われた時のセンセーションは、遠い昔のものとなった、という趣旨。
p10 奥の部屋に住んでいた。彼は別にこれという仕事もなく(was occupying the back room at this moment. Occupying was the operative word, since it was very unlikely that he was doing any work)◆ 試訳「この時も奥の部屋を使っていた。「部屋を使っていた」というのは適切だろう。彼が仕事をしている可能性はほとんどなかったからだ」
p10 アン・ボールウィンの評判(Ann Boleyn’s reputation)◆ 試訳「アン・ブーリンの名声」
p11 彼は足を早めて家に着いた(He had gathered his feet under him preparatory to getting up)◆ ここは明白に誤訳。まだ事務所を出ていない。試訳「立ちあがろうとして、足を寄せた」
p11 外出したと(was departing for the day)◆ 試訳「本日は帰宅しましたと」
p11 みんな単に月並みな興味をそそるだけものだった(would have had only academic interest for him)◆ 試訳「彼にとっては単なる理論上の興味に終わったことだろう」
p11 四十がらみの背の高いやせた色の浅黒い女(A tall, lean, dark woman of forty or so)◆ 「黒髪の」
p12 ホイスラーの母親(Whistler’s mother)◆ ホイッスラーが描いた母親の肖像画Arrangement in Grey and Black No. 1 (1871)の通称。
p12 この前に警視庁にいったのは地方警部とゴルフをした時だった(The nearest he had ever come to Scotland Yard was to play golf with the local Inspector)◆ 試訳「警視庁関連での一番近い体験は、地元の警部とゴルフをしたことだった」
p14 そんな馬鹿なことってございませんわ(I am sorry... That was silly)◆ ここは、前の会話で興奮して思わず悪口を言ったことを反省して、謝っている。翻訳はI am sorryを飛ばしている。試訳「ごめんなさい… 馬鹿なことを言いました」
p14 ほんとうかいとロバートは思った(“Wasn’t it, indeed,” thought Robert)◆ ここは半畳を入れてるのではなく、「本当にそうじゃないんですよ」と訴えるようなロバートの内心。
p15 ハリス・ウィルシェナーの事件(Harris and Wilshere)◆ Harris and Wilshere's Criminal Lawという刑法の解説書のようだ。
p15 貸馬屋(livery stable)
p15 三台の古びた貸馬車(three tired hacks)◆ 貸馬屋とちゃんと訳してるのになぜ馬車にする? 試訳「三匹の疲れきった貸馬」
p15 フランチャイズ家という有名な家(the house known as The Franchise)◆ ここは英国人がよくやる屋敷にニックネームをつけるやつ。試訳「フランチャイズ荘という屋敷」
(以下追記2025-05-02)
p18 本庁(Headquarters)
p22 はっぱの入っていないサンドウィッチ(Sandwiches without tops)… スモガスボード(Smorgasbord)◆ 上のパン(tops)がないサンドウィッチ。パンの上に色々食材を載せて食べる。
p22 車附きベッド(a truckle bed)◆ 使わない時には高いベッドの下に押し込める低いベッド。キャスターが付いていて動くのだろう。ここでは低いベッドだけ臨時用に置いているのかも。
p24 もしその娘がずっと屋根裏部屋にいたとしますれば…(If she ever was in an attic)◆ 翻訳では途中で途切れたようになっているが、前文を受けたセリフ。試訳「もし彼女が本当に屋根裏部屋にいたならね」
p25 さっき塀と門を見た際に彼女はああこの家だと思ったに相違ありません(When the girl saw the wall and the gate today she was sure that this was the place)◆ あやふやではない。試訳「… ここがその場所だ、と彼女は断言しました」
p25 法廷証人(legal witness)◆ 試訳「法律家の立会い」
p26 無論、普通の人間ならそんなことは誰だって出来やしません(No normal person, of course)◆ 長々しい。試訳「もちろん、まともな人ならやりません」
p26 グラントは、ロバートがマリオンの方を見ないように彼の視線をロバートの目の上に注いで(Grant... keeping his eye steadily fixed on Robert’s so that it had no tendency to slide over to Marion Sharpe)◆ 意味不明の文章。試訳「グラントはロバートの目をじっと見ており、その視線はマリオン・シャープの方には向かなかった」
p26 三月二十八日(the 28th of March)
p26 私の家は世間とのつきあいってものがないもんですから… (The Franchise is so isolated)◆ 試訳「フランチャイズ荘はどこからも遠くて不便なんです」
p27 貧しい子供としてアイルスベリー教区へひきわたされた(She was evacuated to the Aylesbury district as a small child)◆ 「貧しい」はどこから? 試訳「まだ小さい時にアイルスベリー教区へ疎開してきた」
p27 ほんとうに嘘をいわぬ子供(‘Transparently truthful’)◆ まあこういうのはニュアンスが難しい。試訳「目立たないがちゃんとしている」 これで正解かどうか…
p28 秘密を守って貰わなくちゃ困ります(Needs re-tiling)◆ タイルの貼り直しが必要?老女の挨拶にしては変だなあ… ああ、その前のセリフで、ロバートを紹介する際に事務所の建物に言及してるので「外壁のタイルが剥がれているよ」と指摘してるのだろう。試訳「(事務所は)タイルの張り替えがいるね」
p30 ほのかな微笑を顔に浮かべた(something that was like the shadow of a smile)◆ ここはもっとデリケートに。試訳「微笑の影のようなものだった」
p30 しゃぼん玉で(with a cake of soap)◆ 試訳「固形石鹸で」
まあこのへんでやめておこう。クリスティ再読さまが怒っていらっしゃるように、最低レベルの翻訳である。ニュアンスがずたぼろ。意味の取れない適当訳も多い。日本語のセンスも無い。
本書の内容面では、改めて読み返すと、初動捜査が酷すぎる。指紋など科学捜査の軽視、面通しの不適切なやり方。第二次大戦後の物資不足の混乱期だったとしても、流石にこれは無いだろう。

No.508 7点 黒檀の箱- ミセス・ヘンリー・ウッド 2025/05/01 05:53
初出The Argosy(UK) 1883-01〜03(三回) 国会図書館デジタルコレクション(元本は東都書房版)で読了。翻訳(原 百代)は流麗です。
東都書房 世界推理小説大系 第6巻 グリーン・ウッド篇に収録で、かたや長篇『リーヴェンワース事件』は単独登録。そのオマケのやや長い短篇なので、登録はどうしようかなあ、と思いつつ、単独エントリーにしましたよ。
Johnny Ludlowシリーズは、他に『探偵小説の世紀(下)』に収録されています。いずれも19世紀英国の香る、のんびりした、でもハラハラするなりゆきの優れた小説だと思います。
本格ミステリではありません。謎の事件が起こる人情噺。
本作は、金貨の詰まった黒檀の箱が現れたり、消えたりする話で、ジョージ三世のギニー金貨(直径25mm)がいい仕事をします。作中現在は1880年代でしょうね。
「年二百ポンド」が話題に出てきます。英国消費者物価指数基準1880/2025(153.73倍)で£1=29291円。

No.507 6点 五匹の赤い鰊- ドロシー・L・セイヤーズ 2025/04/30 03:33
1931年出版。ピーター卿第五作。浅羽さんの労作。原本は スコットランド風味を方言で、という作者の意欲があり、それが魅力なのだろうが、翻訳者にとっては地獄である。
皆さまの評価が意外と低い。
私は十分楽しめました。
なんせ作者のキップが良い。ネタバレ嫌なのでここには書きませんが、読書メーターにはネタバレ・フィルターがあるので書いています。
本格ミステリの形式で当時の英国 スコットランドの日常生活を書いた小説。
拾えるネタがたくさんあったように記憶してるので、トリビアは気が向いたら。
BBCのTVシリーズ(イアン・カーマイケル主演1975)にも取り上げられてるので、これも観たらここに書きます。

No.506 6点 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー 2025/04/30 03:03
1947年出版。フェル博士第17作。国会図書館デジタルコレクションで読みました。元本はミステリ文庫。NDLdcでは旧訳のHPBも読めます。
これJDC名義のある作品と好一対。あっちは「男心はわからない」で、こっちは「女心はわからない」(作品名は人並由真さまの奥ゆかしさを尊重してボカしました)。ミステリ的には不可能状況が提示されるが、そっちはオマケの扱い。
でもXXXの正体が、実は… というのは全然いただけない。JDCのやりすぎ。
恋愛模様も、描写が不十分なので、それぞれのキャラが立っていない。作者の登場人物はいつもそうだが、行動が中途半端。球際に弱く、いざという時に第一歩が遅れる。設定は結構良いのになあ、と残念に思う。
一つトンデモない不可能状況があった。フェル博士にあんなXXXは無理。元スパイを向こうに回して大活躍しすぎだ。
以下、トリビア。
作中現在はp11に明記。
英国消費者物価指数基準1946/2025(53.52倍)で£1=10193円。
p11 七月十日水曜日(Wednesday, July tenth)◆ 該当は1946年。
p17 年三百ポンドで生計を(with three hundred a year and my keep)◆ my keep(食費)は別、というように読める。実家暮らしだった? 七年前の話なので英国消費者物価指数基準1939/2025(83.53倍)で£1=15908円。
p25 スリラーや犯罪もの(a thriller or a book of trials)◆ ちょっとニュアンスずれ。試訳「ミステリ小説か裁判実録」
p54 電報なら急用(Telegrams convey a sense of urgency)
p62 かみそりのとぎ皮(a razor strap)
p67 ジャン・ピエール・バキエ(Jean Pierre Vaquier)
p70 ヴィクトリア時代… 医師の社会的地位はあまり高くなかった(his Victorian boyhood: when the social status of medical men, for some reason, was not very high)
p81 昔風の殺人ゲームをやる(play an old-fashioned game of Murder)◆ 後ろの方ではthe Murder gameと表記。
p87 おおスザンナ
p114 かんぬきやさし錠(bars and bolts)
p128 ボルテールやアナトール・フランス◆ JDCはアナトール・フランスが嫌いのようだ。
p128 あたしは十九だから結婚できるのよ(I can get married at nineteen; don't think I can't)◆ 当時の英国では保護者の承諾のない結婚は21未満では無効のはず(Age of Marriage Act 1929; The Family Law Reform Act 1987で18歳に引き下げ)。なので挑戦的にdon't think I can't「(無効になったって)やったるよ」と言っているのか? なお結婚可能年齢は両性とも16以上。
p174 ルーガー拳銃(Luger pistol)
p181 前の世代の人々には自殺は恐ろしい罪(suicide.... before our generation that was thought to be a fearful sin)
p184 湯タンポ(hot-water bottles)
p208 ボルネオの蛮人(the Wild Man of Borneo)◆ デビュー当時、ジミヘンもこう呼ばれていた。
p210 アトリー首相(Mr. Attlee)◆ 英国首相(26 July 1945 – 26 October 1951)
p212 いまでは離婚はたいしたスキャンダルにならない(divorce is hardly a scandal nowadays)
p227 {リスト} ◆ 名前だけ検索用として。
・Maria Manning (London, 1849.) Patrick O'Connor.
・Kate Webster (London, 1879.) Mrs. Thomas.
・Mary Pearcey (London, 1890.) Phoebe Hogg.
・Robert Buchanan (New York, 1893.) Annie Buchanan.
・George Joseph Smith (London, 1915.)
・Henri Desire Landru (Versailles, 1921.)
p253 五六bは通りの右側にあるはず(55b should be on the left-hand side of the street)◆ 数字はケアレスミスか。ロンドンの番地の付け方のルールはどこかに書いてあったのを読んだ記憶あり。
p276 九九九番を回して救急車を◆ 1937年から英国の緊急電話番号。警察、火事、救急車、コーストガードを呼び出せる。英Wiki "999"
p290 ホワイトホール1212(Whitehall 1212)◆ 英Wikiに項目あり。1932年からこの番号とのこと。
p328 彼の方から離婚しても、彼女の方から裁判で離婚しても(Whether she officially divorces him, or he divorces her)◆ 原文ではofficiallyは「彼」にも「彼女」にもかかっている。英国での離婚は両方の同意があっても裁判が必須。1923年以降は夫も妻も不貞だけを理由に離婚を申し立てることが出来るようになった。

No.505 5点 In the Night- ロード・ゴレル 2025/04/29 19:09
1917年出版。Spitfire Publication 2025のKindle版(とても安いよ)で読みました。
献辞 To LT. VIVIAN MORSE (誰だろう?)
デテクション・クラブの創立メンバーで、アガサさんが会長だった時に実際の会長仕事をしていたゴレル卿。私には英国の離婚法改正前に先進的な意見書を提出した先代のゴレル卿(1848-1913)がお馴染み。第一次大戦が無ければ、もっと前に1937年の改正が実現していたはずなのだ。
翻訳が無い場合はあらすじを、というここのルールだが、フェアプレイを宣言した序文の全訳で我慢してちょうだい。
------
このミステリ物語は戦争からの気晴らしにすぎない。戦争は話自体にはちっともでてないのだが。フランスの病院で思いつき、回復期に家で書いた。似たような境遇の人や塹壕にまだいる人が、これで一二時間の気晴らしを得られれば、この本の存在価値が十分にあったと言えるだろう。なんとか読者にフェアでいるように努めた。読者が自分で推理出来る機会を奪われて、ただ作品中の賢い推理を賞賛するだけ、というふうにはしたくなかった。最高にイライラするのは、よくあることだが、犯罪の捜査中に「探偵は満足した様子で立ち上がり、拡大鏡をしまった」というような文章を読むときである。したがって、本書の中では、全ての重要な事実は、発見されたそのままに語られ、読者は、可能な限り、捜査者の目で観察が出来、捜査者同様に、真相に至る機会をあたえられている。
-------
本書の内容を簡潔に説明しておこう。これは屋敷ものである。屋敷の平面図もついている。 スコットランド・ヤードの若き警部も登場する。
ミステリ度は「ふうん、そんな感じか」レベル。努力賞程度かな。文章は平易なので、読みやすいですよ。

No.504 7点 ロウソクのために一シリングを- ジョセフィン・テイ 2025/04/29 16:21
1936年出版。グラント第二作。HPBで読みました。翻訳は安定していました。
初のテイ名義のミステリ長篇。驚くべきことに、グラント第一作『列の中の男』(1929, Daviot名義)と同じ出版社なのに、第一作との関連性を一切表に出して宣伝していない。普通なら『列の中の男』の作家の第二作!とカバーや表紙に麗々しく書き連ねるはずだ。第一作の名義をテイに直して出版したのは英Wikiによると1953年のことだった。ヒッチコックが映画化する時のインタビューを見つけたが「テイの最初の作品で… 出版社経由で、彼女にシナリオ書きに参加してもらおうとしたが、断られた。謎の女なんだ…」とあった(News Chronicle 1937-03-05)。映画化されるタイミングでも第一作をテイ名義で再発して売ろうとすらしていない。のんびりした出版社だなあ。気になってテイさんの伝記(Josephine Tey: A Life by Jennifer Morag Henderson 2015)を購入して読んでみたが、当時、テイさんの活動の中心は演劇で、あんまり上手くいかなかったので、執筆時にはお金が必要だった、という事が書いてあった。でも特にDaviotとTeyを同一人物だと知られるのを拒否した風はなさそうだった。だいたいグラント警部も、忠義なウィリアムズも再登場してるのだから、隠すつもりなんて全くないのだろう。だからこそテイ名義での『列の中の男』のリプリントが死後だった、という事実が気になるなあ…
さて、本作にはマータ・ハラードが初登場。伝記によるとモデルはMarda Vanne(1896-1970)、テイさんを熱烈に愛してた舞台女優で、気に入った新人女優を誘惑する癖があったらしい。テイさんは百合の人ではなかったようだが、当時の舞台人には結構同性好きが多かったようだ(こういうゴシップが好きでない人、ごめんね)。
本作も大変面白い小説だった。だいたいテイさんは本格ミステリ・パズルを書いたつもりはないはずだ。サブタイトルはThe Story of a Crime、本人は軽スリラーのつもりだっただろう。第一作同様、面白い登場人物が出てくるハラハラする物語。楽しい読書だったが、第一作よりヴァラエティが少ない。エリカはアニメの登場人物のようにやや非現実的だが面白い。青年の設定も非現実すぎてちょっとついて行けないが面白い。軽く読み飛ばすべきオハナシである。
ヒッチ「第三逃亡者」(1937)も観ましたよ。エリカが普通の女の子になってて残念。結構面白かったけどね。アガサさんも乗ってたモリス・ブルノーズが大活躍するのが嬉しかった。犬も良かったよ。
人並由真さま絶賛の「フランチャイズ」、「美の秘密」が非常に楽しみ。
トリビアは後ほど。
一つだけ大きな誤訳を指摘しておこう。
p55 「ビュード・チャンプニズの五番めの息子エドワード卿(チンズと呼ばれている)」の原文はLord Edward Champneis(pronounced Chins), old Bude's fifth sonである。つまりChampneisと長ったらしい名前だが、発音はchinsだよ、という事。こういう発音しない文字がある難読綴りは時々ある(Cholmondeleyチャムリーなど)。なので登場人物表は「エドワード・チンズ」に書き換えが必要だね。

No.503 5点 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン 2025/04/29 10:38
1946年出版。HM卿第17作。ミステリ文庫で読みました。翻訳(小倉多加志)は問題なし。HPB(別れた妻たち)もミステリ文庫も国会図書館デジタルコレクションで読めますよ!
冒頭は素敵な感じですけど、連続で上手くいくっていうのが、かなりアンビリーバブル。なので解決ががっかりだと評価は低くなっちゃいます。
もったいぶったおもわせぶり風味を多用するJDCは小説が下手。あんまり乗れずでした。作者は無駄なアクションシーンが好きなんだよね。いつものようにぜんぜんハラハラしないのよ。
トリビアどうしようかな。
(以下追記2025年5月1日)
トリビアのために読み返していますが、筋立てが変な流れでやっぱり乗れないなあ…
作中現在はp21から1945年9月はじめが第二章。
p5 九月(September)… 一九三〇年(year 1930)
p6 二週間後、二人はロンドンの登記所で結婚(They were married a fortnight later, at a registry office in London)◆ 知り合って二週間しか経っていないが、教会じゃないので可能だったのかな? 教会の場合は公示して三回の日曜を経る必要がある。
p7 ロンドン・フィルハーモニックがクイーンズ・ホールで演奏中(a concert of the London Philharmonic at Queen's Hall)◆ ロンドン交響楽団は1932年10月7日のクイーンズ・ホールが初演奏だったという。最初の曲はBerlioz's Roman Carnival Overture。じゃあそのイメージなのかも。
p7 弦楽器と管楽器がシンバルのジャンジャンいう音に合わせて高まってゆき(strings and wood-winds rising to a triumphant cymbal-clash)◆ これだけでは楽曲の特定は無理だよね
p9 一九三三年の春(the spring of 1933)
p9 官報と呼ばれる報告書(A bulletin, called the Gazette)
p9 一九三四年夏の一日(one summer day in 1934)
p11 重婚罪(bigamy)… 五年の刑(Five years)… 裁判官が重労働を科するとすれば二年(Two years, even, if the judge adds hard labour)
p11 紺サージの服(in his blue serge)◆ p60でこれに山高帽を被っている。マスターズの私服。他の作品でも紺サージを着ていた。
p14 一九三四年七月六日(July 6th, 1934)
p16 くたくたになった十シリング紙幣(a bad ten-shilling note)
p21 九月はじめ(early September)◆ 灯火管制が終わったばかり、という描写なので1945年だろう。
p24 会うといきなりとびついてキッスし合う、この芝居仲間のやり方(This awful theatrical habit of people rushing up and kissing each other when they meet)◆ 普通の英国人はやらないのだろう
p25 芝居… 最終日(らく) the show's closing day
p31 "ね、あんた"(darling)という言い方が気にくわなかった
p38 黒ビール(the Guinness)
p38 はずしたズボン吊りを背中の方からはずし(drew the trouser-braces back over his shoulders)◆ 肩から外して後ろの方に下げる感じだろう
p45 写しを十二通とる(have a dozen copies made)◆ 昔、コピーは大変な手間だった
p60 ピンボール(pin-ball)◆ 1ペニーで五回やれる
p61 口径〇・二二インチの射的銃(a .22 target-rifle)◆ 今なら「二二口径の射的ライフル」と訳すだろう
p63 コナント『大犯罪者伝』Conant's Remarkable Criminals◆ A Book of Remarkable Criminals by H. B. Irving 1918のこと? 犯罪学に関係あるConantは調べつかず。
p63 ディテクション・クラブ編『殺人の解剖』Detection Club's The Anatomy of Murder◆ 1937年出版の実在の犯罪についてのエッセイ集。Helen de Guerry Simpson, Margaret Cole, Dorothy L. Sayers, John Rhode, E.R. Punshon, Francis Iles & Freeman Wills Croftsの七編を収録。JDCが好きそうなテーマなのに、なんで参加してないんだろう。バークリーではなくアイルズ名義で参加してるのが面白い。セイヤーズのは邦訳あり(『ピーター卿の事件簿Ⅱ』収録)。
p67 一ペニー入れるとストリップを見られる覗きからくり(the peep-show where you put in a penny to see the strip-tease)
p69 力持ちサンドー(Sandow the Strong Man)◆ Eugen Sandow (本名 Friedrich Wilhelm Müller, 1867–1925) プロシアの芸人。
p70 十二フィート打ち(a twa'-foot putt)◆ ここはスコットランド訛りで言っている。訳註では「未熟なゴルファーが一か八かで打つロング・ショット」とある。twelve foot puttは12フィート(3.6m)のパットだが…
p72 亀の甲より年の功(I’m the old man)
p76 煙が目にしみる(Smoke Gets in Your Eyes)◆ 作曲Jerome Kern, 作詞Otto Harbach、1933年のミュージカルRobertaの曲。
p78 チェスターフィールド公(Lord Chesterfield)◆ Philip Dormer Stanhope, 4th Earl of Chesterfield (1694-1773)のことか。
p80 ドナルド・ダック(Donald Duck)◆ ディズニーのドナルド・ダックは初登場1934年。訳註では「ハロルド・L・アイクスの異名」と書いているが、ディズニーの方で良くない?
p96 十月四日木曜日(Thursday the fourth of October)◆ 1945年で間違いなし。
(続きます)

キーワードから探す
弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.13点   採点数: 522件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
ジョン・ディクスン・カー(29)
A・A・フェア(29)
カーター・ディクスン(19)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アガサ・クリスティー(18)
アントニイ・バークリー(13)
ダシール・ハメット(12)
R・オースティン・フリーマン(12)
ドロシー・L・セイヤーズ(12)