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[ 本格 ]
フランチャイズ事件
グラント警部
ジョセフィン・テイ 出版月: 1954年09月 平均: 7.00点 書評数: 4件

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早川書房
1954年09月

No.4 9点 人並由真 2024/04/22 06:10
(ネタバレなし)
 イギリスはミルフォード州の、その年の春。15歳の少女ベティー(エリザベス)・ケーンがひと月にわたって、養父と養母のウィン夫妻のもとから消息を絶った。やがてベティーは保護されるが、顔に打撲の痕のある少女は、自分はフランチャイズ屋敷のオールドミスとその老母によって力づくで監禁され、女中仕事を強いられていたのだと訴えた。だが屋敷の住人である40歳代の女性マリオン・シャープとその母は、当の娘など会ったこともないと主張する。しかしベティーの証言で語られる屋敷の内部の景観は、実際のものとほぼ一致していた。果たして実際に誘拐と監禁の事実はあったのか? マリオンの依頼を受けた同世代の独身弁護士ロバート・プレーヤーはベティーの嘘? を暴こうとするが。

 1948年の英国作品。テイの長編、第4作。
 現実の騒ぎをもとにした、少女の誘拐&監禁? 事件が主題らしい、作者のシリーズキャラクターのアラン・グラント警部が一応は登場する(これが3作目)が、ほとんど脇役らしい……などの情報は、読む前から耳知識として知っていた。
 それでも後者については、そのグラント警部の実作内での扱いぶりに思わずアゴが外れた(……)。ある意味で、これほど生みの親に(中略)にされた「名探偵」も少なかろう。
 作者は本作の前にノンシリーズ長編を一冊書いてるので(評者はまだ未読だが)、本当はこれもノンシリーズ編として書こうとしたところ、版元か周囲の意見で、グラントの登場作品にしたんじゃないかと邪推する。それくらい、ミステリ史に名を残した名探偵キャラとしては、すんごいあしらいぶり。その件だけでも、話のネタとして読む価値はある(笑)。

 果たして誘拐&監禁事件は本当にあったのか? 二極の真実を探るなかで主人公のロバートは一応はシャープ母子側の陣営として動くが、最終的に物語がどこに落着するかはわからない。

 これ以上ないシンプルな構造の物語といえるが、地味なストーリーを丁寧な書き込みと英国風のドライ・ユーモアで外連味豊かに語り、最後までサスペンスフルに飽きさせない。翻訳は70年前のもの(1954年9月だから、初代ゴジラの封切り二カ月前だね)で巷で定評の悪評ながら、思っていたよりは読みやすかったのも有難い。いっきに数時間で読み終えてしまった。
 いや、謎解きパズラーの要素はあまりない純然たる捜査ミステリだったが、簡素化された物語の主題が強烈な訴求力に転じて、たぶんこれまでに読んだテイ作品のなかではイチバン面白かった。
 
 本当の悪人か? 冤罪か? いずれにしろシャープ母娘に疑惑の目を向ける(あるいは当初から悪党と決めつけてかかる)一般市民の暴走ぶりもハイテンションで書かれ、テイが裏テーマとして特に書きたかったのは、実はその辺の衆愚さの表出だろう。牧村家を囲む悪魔狩りの市民(原作版『デビルマン』)みたいであった。

 最後の真相が明らかになったのちに感じる、何とも言えない慨嘆の念も鮮烈。そのなかで某メインキャラが洩らすあの一言が、魂に響く。クロージングの余韻もいい。

 何十年もなんとなく気になってはいた一冊(少年時代に買ったポケミスがまたどっかに行ったので、一年ほど前に古書をまた入手した)だが、予期していた以上に満足度は高い。

 他のヒトの評価は知らないが、私の好みにはドンピシャに合致ということでこの高得点。
 できるなら新訳が出て、新しい世代の人にも読んでもらいたいなあ。全員が全員、高い評価をすることはないだろうが、ハマる人はかなりハマるとは思う。

No.3 7点 クリスティ再読 2019/08/15 09:32
欧米のオールタイムベストによく入る作品なんだけど、日本での人気は「時の娘」と比較しても今一つ。たぶん本作、流し読みしただけだと掴みどころがないじゃないかな。「時の娘」もそうだけど、実にキャラ描写が的確で、ユーモアも十分、「いい小説読んだな」と思わせる小説読みに愛されるタイプの作品なのは、間違いない。
イギリスの郊外の田舎町で開業する弁護士ロバートは、町はずれの古びた邸に住むシャープ母娘から、事件に巻き込まれたので相談に乗ってほしいという依頼を受ける。この母娘は人づきあいの悪い変人と周囲から思われていた....この家に15歳の少女が1か月の間監禁されていたと告発されたのだ。少女の証言は詳細で、警察も取り上げないわけにはいかない。赤新聞がこの事件を嗅ぎつけて報道したことから、「魔女」のように思われていたシャープ母娘は、町の人々からの嫌がらせを受けるようになる。しかし、ロバートはシャープ母娘との付き合いが深くなるにつれ、どうしても少女の告発が信じられないものになってくる。ロバートは少女の告発の事実を崩すべく、調査に真剣に乗り出す。
はい、これ解説の乱歩は気がつかなかったみたいだが、有名な歴史上の事件の「消えたエリザベス」の設定を現在に持ってきたものだからね。なので本作も「時の娘」同様に「歴史ミステリ」である。まあ本作はフィクションなので、調査は難航しても最後には証人もちゃんと見つかって大団円、なんだが、ミステリとしては謎解きというよりも、やや偏屈で人づきあいが苦手なシャープ母娘、極端な体裁屋で「あまり善良すぎて却て信用出来ない。十五の娘なんてあんなに善良な筈はない」と評される被害者の少女、シャープ母娘のメイドだったけども盗みでクビになって、仕返しに「屋根裏での少女の叫び声を聞いた」と証言する少女、などとくに女性キャラの描写が深くて、これが読みどころ。ここらへんクリスティに近い味わいがある。主人公のロバートも田舎の事務弁護士の日常の繰り返しから、目覚めて立ち上がるさまなど、ロマンス小説風に読んでもいいんじゃないかな。「魔女狩り」風の嫌がらせに対して、ロバートの周囲の人々(これもキャラがしっかり)がロバートとシャープ母娘をがっちり支えるのが、なかなか感動的。
事件も監禁傷害と地味、手がかりや証人も徐々に見つかっていくだけ、といわゆる「本格」を期待したら全然ダメな作品だけど、リアルで小説的充実感バッチリなエンタメを読みたいなら、どうぞ。
(けどねえ、翻訳はサイテーの部類。こんなんでも改訳せずにポケミスを再版するんだなあ、とちょっと呆れる)

No.2 7点 2013/05/24 23:53
ずいぶん前に1度読んだことのある作品ですが、内容はすっかり忘れていました。覚えていたのは、なんとなくよかったなという印象のみ。
事件そのものは誘拐暴行事件、それもその嫌疑をかけられた人間の無罪を証明しようと事務弁護士が奮闘するというだけの話ですから、地味にならざるを得ませんし、意外性のある真相が明かされるというわけでもありません。途中に、誘拐されたという娘の証言の一部に矛盾点があることが指摘されるところだけは謎解き的な興味がありますが、それもフェアプレイが守られているわけではありません。この作家のレギュラー、グラント警部も今回は敵役で、出番もごくわずか。それにもかかわらず、読んでいてやはり、「なんとなく」おもしろいのです。
古風な訳文表現はそれほどひどいとまでは思いませんでしたが、「調らべる」「難ずかしい」等の妙な送り仮名だけは、ちょっとねえ…

No.1 5点 kanamori 2010/04/22 22:02
フランチャイズ家の母娘が少女を監禁暴行したと訴えられた事件。
グラント警部シリーズ第3作ですが、弁護士ロバートが当初の探偵役でもあります。
母娘に不利な証拠ばかり出てくる中、冤罪だとすれば少女はその間どこにいたのか・・・・サスペンスにユーモアもまぶせた著者の本領が発揮された佳作だと思いますが、「美の秘密」同様に訳文がひどく、出来を損ねているのが残念です。


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ジョセフィン・テイ
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