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[ 本格 ]
美の秘密
グラント警部
ジョセフィン・テイ 出版月: 1954年11月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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早川書房
1954年11月

早川書房
1954年11月

No.2 9点 人並由真 2025/04/25 05:56
(ネタバレなし)
 英国の地方の村サルコット・セント・メアリイには、21冊目の新刊を出したばかりの人気女流作家ラヴィナ・フィッチ女史を初め、多数の芸術家や文化人が集い暮らしていた。そんななか、アメリカから若手写真家リスリィ・シャールが同地を来訪。気鋭の美青年写真家として米国で著名なシャールは、先に戦地を取材中に死亡した写真家クニィ・ヴィギンの友人であり、そのヴィギンとやはり友人だったBBCの解説者の青年ウォルター・ウィットモアを、初対面同士ながら共通の亡き友を持っていた者同士として訪ねてきたようだ。だがウォルターの婚約者でフィッチ女史の姪でもある娘リッツ・ガロヴィがアメリカから来た美しい若者と親しくなり始めた気配があり、村には次第に微妙な空気が流れ出した。そんななか、村の周辺でとある事件が発生。スコットランドヤードの名警部アラン・グラントは、捜査に乗り出すが。

 1950年の英国作品。グラント警部シリーズの第四弾。

 翻訳が古くて読みにくいのはとりあえず、どーでもいい。
 『時の娘』も(今んとこ)正直、どーでもいい。
 シリーズ前作『フランチャイズ事件』と続けて、優秀作~傑作。

 詳しい事は書かないが、中盤で事件が起きるまでの、クリスティーのよく出来た作品に匹敵するくらいの「まだまだかまだか、イベントはそろそろか」という感じで読者をじらしながら空気を盛り上げる小説の<タメ>の求心力。

 そして後半の<そこに何かがある、何かある>(実際、ある程度は<見えていた>)と思わせながら読み手を事件の迷宮の中に引きずり回し、ああああ、残りページがどんどん少なくって行く……というハイテンションの高揚の果て、最後の最後に見せる大技のサプライズ!

 うん、自分が思い浮かべる警察捜査小説型パズラーの理想の形の一つが、ここにある。
 
 ポケミスの乱歩の解説によると、バウチャーは当時<テイが55歳の若さで早逝したのは『エドウィン・ドルード』の中絶に匹敵するくらいのミステリ史における不幸であった>という主旨の慨嘆を述べてたそうだけど、いいこというねえ。まったくその通り。テイの若死にでグラント警部シリーズが全部で6冊しかないのって、今さらながらに本気で哀しいよ。バウチャー、なんかまた大好きになったよ。それから我が国の1990年代後半以降の海外ミステリ未訳旧作発掘ムーブメントに改めて感謝するよ。
 つーても泣いても笑っても、未読のグラント警部ものは残りあと一冊なんだよな。
 とにかく、今さらながらに読んでおいて良かった本作。
 
 何しろこっちが考えていた真相の方向性は決してまったく的外れではなかったものの、実際のどんでん返しはさらにそのひとつふたつ上を行き、そしてソコには劇中キャラクターの、こちら読み手の胸を打つようなホワイダニットのときめきがある。うん、やっぱり傑作だわな。終盤のグラントと某キャラクターの対峙の図。ここで何かを感じなきゃウソでしょう。

No.1 5点 nukkam 2014/09/08 15:30
(ネテバレなしです) 1950年発表のグラント警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。「フランチャイズ事件」(1948年)では完全な脇役、しかもまるでいいとこなしだったグラント警部、主役返り咲きおめでとうでしょうか(笑)。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の骨董品級の翻訳で読みにくく(誤訳があると紹介している文献あり)、また登場人物リストに載っていない重要人物も多くて頭の整理が大変です。それでも人間味あふれるグラントの捜査描写は読み応えがあり、ぜひ新訳で再版してほしいです。使われているトリックの実現性には疑問符がつきますが、それでも「フランチャイズ事件」の(悪い意味で)驚嘆のトリックに比べればまだまともに感じられました。


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ジョセフィン・テイ
2006年03月
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1954年11月
美の秘密
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