皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ハードボイルド ] 闇の中から来た女 |
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ダシール・ハメット | 出版月: 1991年04月 | 平均: 5.67点 | 書評数: 3件 |
![]() 集英社 1991年04月 |
No.3 | 5点 | 弾十六 | 2025/05/06 03:18 |
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初出Liberty 1933-04-08〜22(三回連載)。別冊宝石79号(乾信一郎訳、昭和33年9月発行)で読みました。あまりに短いので抄訳だろうなあ、と思って、原文と比べたらかなり抜いており全体の六割ほどの翻訳でした。
元々、梗概みたいな、骨組みだけのオハナシ。ハメットは手を抜いて真面目に書いてない感じです。ディテールを膨らませるのもめんどくせー、というような作品を三回分載してもらえるなんて、当時のハメットはよっぽど売れっ子だったんだなあ、と変に感心しちゃいました。 空さまが言及してる主人公の最後のセリフ?は原文には無し。多分船戸先生の創作でしょう(彼女の最後のセリフは"All men are"なんですが、空さまがこれを指してるとは思えませんでした)。 まあこの出来ならちゃんとした全訳は望めないですね。どこかでハメット短篇全集を企画して欲しいなあ… なお、船戸与一訳については小鷹信光『翻訳という仕事』のなかで24ページにわたって誤訳が指摘され、クズ本、と結論されている。原文をカットしている箇所も多く、その上、原文に無い言葉がたくさん加えられ、ふやかされているようだ。誤訳指摘の公開後に小鷹さんが深町真理子さんから贈られた言葉が良い。「他人の欠陥は目につきやすい」 (以下2025-05-07追記) RKO映画(1933)も見ました。映画権は$5000ですぐ売れたらしい。米国消費者物価指数基準1934/2025(24.60倍)で$1=3505円。1753万円か… ちょろい商売だと作者が思っちゃうよね。 フェイ・レイとラルフ・ベラミー。非常にわかりやすいB級ノワール。某Tubeで見られます。まあでもハメット・ファンが参考のために見れば良い程度の内容だった… |
No.2 | 5点 | クリスティ再読 | 2020/10/22 20:56 |
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極めてヘンテコな本だが、このヘンテコさにハメットが全然かかわってないことでも、さらにヘン。
R.B.パーカーの序文も何かテキトーで、全体の半分が「マルタの鷹」のフリットクラフト話と、チャンドラーによるハメットの文体論の引用。で結末を強引にハッピーエンドにしたがっている。 で、小説は3章183ページの中編...ということになるけども、割り付けがスカスカで見るからにページ数が足りなくて単行本にしづらいのを、水増ししようとしている。こんなことするなら、1つでも2つでも、雑誌掲載だけで入手困難な短編でも訳してくれればいいのに。 訳者&解説は船戸与一。パーカーの序文を「パーカーはハメットの地下水系の流れに鈍感だから、そんなふうに浅薄な読み方をするのだ」と軽くバカにする。まあ、パーカーの序文に問題はあるんだけど、船戸だってハメットをマルクス主義で読むのを言葉で否定してるのに、中身はゴリゴリの左翼的な社会学テイストの評論。でも「W.ブレヒト」って誰よ。編集者チェック入れないのかしら。 空さんもご指摘だけど、訳文の視点で違和感が...と評者も感じた個所がある。それが訳者曰く「読みやすさを考えてのうえでである」。だから本作はハメットが「マルタの鷹」で到達した三人称カメラアイの世界を、かなり甘口に仕上げたのでは...なんて疑惑を持たれても仕方がないんじゃないかしら。 肝心のハメットの小説の中身は、行きずり男女の逃亡話。ブリジッドやらダイナのような意識的に「悪い女」じゃなくて、「無意識的にだけど、悪い女にならざるを得ない」悪いといえば悪い、不幸だけど強い女性の肖像。魅力はあるから強引にキスされたり、膝をなぜられたりするけども、されたらしっぺ返しをする女。「危険なロマンス」って言うけど、オトコ以上にハードボイルドな女のようにも感じる。まあだから、たとえばフリットクラフト話が明らかにすることっていうのは、ハードボイルドのオトコたちが「シアワセになれない不幸な男たち」だというアカラサマな現実だったりするわけで、同様に本作のヒロイン、ルイーズ・フィッシャーも、この一件がかたづいてもシアワセになれそうな気配が、全然、しない。見方を変えるとハードボイルドって「悪い女の小説」と読めるんだけど、この「悪い女」のリアル版みたいなところもある。そこらで「郵便配達」に通じるのでは、なんて思う。 そういう小説。そこそこ面白いけど、タゲ層がよくわからない。 |
No.1 | 7点 | 空 | 2011/07/26 10:38 |
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集英社から出版された中編1編だけの本書については、ロバート・B・パーカーによる序文と、その序文だけでなくチャンドラーまで批判する、船戸与一氏の大上段に振りかぶった訳者解説がおもしろいという評をWEB上で目にしました。
2つの説に対して、個人的には、パーカーと同意見ではないのですが、ハメットには珍しく、ご都合主義的(悪い意味ではなく)に最後をまとめていて、とりあえずハッピー・エンドには違いないのかなと思えます。将来については、「そんな先のことはわからない」かな。ルイーズ・フィッシャーの最後のせりふについては、原文はどうなのだろうと思いました。 原文といえば、この翻訳には違和感を覚えて、原文がどうなっているのか疑問に感じたところがかなりあったのです。ところが訳者解説最後を読んで、唖然。答は、原文にはそんなことは書かれていなかった、というものだったからです。三人称多視点で書かれた原文を、訳では「ルイーズ・フィッシャーの一視点に統一した」ということで、その理由は「読みやすさを考えてのうえ」だそうです。個人的にはそのため逆に気になって読みにくくなっていたと思われるのですが。 |