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[ 本格 ] デイン家の呪い コンチネンタル・オプ |
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ダシール・ハメット | 出版月: 1953年01月 | 平均: 3.86点 | 書評数: 7件 |
日本出版協同 1953年01月 |
早川書房 1956年02月 |
早川書房 2009年11月 |
No.7 | 5点 | 弾十六 | 2020/04/04 05:45 |
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1929年7月出版。(『赤い収穫』の5カ月後、立て続けの出版だったのか) 初出Black Mask 1928-11〜1929-2 (4回連載)。小鷹信光訳で読了。
改訂内容の概要は訳者あとがきにあるが、詳しいことはBlack Mask掲載分を集めた作品集The Big Book of the Continental Op(Black Lizzard 2017)などを読んでみるしかないのか。ハヤカワ文庫(小鷹 信光 訳)で読了。 第1部、第2部までは普通の堅実なオプもの…と思ったら第3部で何だか大掛かりになって無茶苦茶に。第3部後半はまた雰囲気がかわる。まーここがこの小説のハイライト。オプが普段になく心情をわかりやすく吐露、結構女に弱いんだよね。ラストは付け足しのような長い説明。きっと当初はあっさりした解決篇だったのだろうが、クノッフ奥様がこの解決、どーなってるの?さっぱりわからん、と文句をつけ、ハメットがそんなにどーでも良いことが知りたきゃこれでも食らえ! って不貞腐れて書いたのだろう。(そんな投げやり感に満ちている) バラバラの事件を繋ぎ、長篇としての体裁を整えるのが「呪い」というキーワード。なのでマクガフィン以上の意味はない。失敗作だがハメット・ファン必見作。特にp298辺り以降。汗まみれで奮闘するオプの姿にハメットの素顔を見た。最終幕の明るさも良い。 以下トリビア。 作中年代は『赤い収穫』の後(p311)なので1928年、2月6日(p61)から数日後(感じとしては一カ月以内)が冒頭か。 現在価値は米国消費者物価指数基準1928/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算。 献辞はTO ALBERT S. SAMUELS。ハメットが広告マンとして勤めた宝石店主。詳細は注釈盛りだくさんの訳者あとがき参照。 p11 背筋がまっすぐのび、浅黒い肌(dark-skinned erect man): 例の「浅黒」だがここは正しい訳。浅黒警察にとって紛らわしい文章である。 p25 千二、三百ドル: $1300=216万円。ダイヤモンドの売値。安物。原価は$750。利益率42%か… p32 電話交換台の若い男(boy at the switchboard): ここではアパートの受付も兼務している。 p33 サンフランシスコ暮らしが5年近く(I had been there [San Francisco] nearly five years): オプのセリフ。最初のオプものはBlack Mask 1923-10-1号。約5年前である。 p33 西部をインディアンに返還する運動(movement to give the West back to the Indians): そういう運動が1920年代に盛り上がっていたのか? 調べつかず。 p34 物書きで人をだます収入り(みいり)(literary grift): ハメットの自虐ネタ。 p37 シュヴァリエ・バヤール(Chevalier Bayard): フランスの騎士Pierre Terrail, seigneur de Bayard (1473–1524)のこと。le chevalier sans peur et sans reproche(恐れ知らず、非の打ちどころなし)と言われた。Chevalier de Bayardという表記が一般的のようだ。 p38 デューマ(Dumas): ここでは大(アレクサンドル)の方だろう。謎めいた男(モンテクリスト伯みたいな)というイメージか。 p38 O・ヘンリーの見かけ倒しの三文小説(gimcrackery out of O. Henry): 小鷹さんなので詐欺師ジェフ・ピーターズを念頭に置いてるはず。 p46 全部で1170ドル: 194万円。一枚ずつ置いて金額を確認してゆくのは欧米人がよくやる行為。(ジェームズ・サーバーの登場人物がお釣りを暗算で出すのは「軽はずみ」と評していたはず) ここの記述から100ドル札7枚、50ドル札5枚、20ドル札7枚、10ドル札6枚、5ドル札4枚を持ってるようだ。米国の紙幣は額面に関わらず統一サイズだが、1928年〜1929年以降は一回り小さくなっている。(189x79mmから156x66mmに) p63 黄色ちゃん(high yellow): 黒人と白人の混血の薄い肌の色を指す語、とwikiにあり。単にyellowとも。The Yellow Rose of Texasもムラートのことだという。 p67 “踊る宗教”や<ダビデの家>(Holy Roller or House of David): Holy RollerはFree MethodistsやWesleyan Methodistsのような宗教団体。ダビデの家は正式にはThe Israelite House of Davidという1903年ミシガン生まれの新興宗教。1920年代に教祖と13人の信者(若い女性)とのスキャンダルが発覚した。いずれも英wikiに項目あり。 p69 村の鍛冶屋さん(village-blacksmith): しばしも休まず槌うつ響き、で始まる文部省唱歌「村の鍛冶屋」(1912)の日本語wikiではLongfellowの詩(1840)のことが出てこないが、無関係なのだろうか? p199 百五十四ドル八十二セント: 26万円。男のポケットにあった現金の総額。 p245 スタッド・ポーカー… 12時半には16ドル勝っていた: 26592円。新聞記者4人・カメラマン1人とのオプの対戦成果。 p275 ニック・カーター調の冒険談のほうがましだ(I like the Nick Carter school better): 1886年初登場の探偵。人気が出たらしく1915年までNick Carter Weeklyという雑誌があった。1924-1927にはDetective Story Magazineに連載があったが、あまり成功せず、1933年にザ・シャドウやドグ・サヴェージの人気にあやかろうと冠雑誌が復活、Nick Carter Detective Magazineが創刊された。以上、英wikiより。1928年当時のイメージは「冒険談」なのだろうか。 p317 十ドル: 16620円。ガロン入りの最高級ジンの値段。大瓶2本分なので一瓶あたり8310円。禁酒法時代なので高いのか。(値段は2〜6倍になったという) p293 わかりました、コンティネンタル殿(Aye, aye, Mr. Continental): ラインハンがオプにふざけて言う。「ミスター・コンティネンタル」はミスター・タイガース(藤村富美男、自他ともに認めるチームの代表者)のような意味あいか。 |
No.6 | 4点 | クリスティ再読 | 2020/02/09 21:26 |
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結局人は何人死ぬんだっけ...9人?なので目まぐるしく人死にがあるんだけど、大ざっぱ。三部構成の1パートごとに謎解きみたいなことをして、最後にまたひっくり返す趣向。人死にが多すぎることもあって、読者の理解力を軽く超えてしまい、推理もどっちかいうと邪魔。「血の収穫」は4パートのそれぞれで意外な真犯人を指摘し、それでうまく完結してたから後を引かないのに、「デイン家」は大した事件でないのに後を引く。解明されてもあまりうれしくない。
キャラとしてはもちろんガブリエル。ペイ中は頂けないが、もっと不思議少女風の印象を持ってたなあ。まあメンヘラちゃんなんだけど。本作を「家モノ」とか「オカルト趣味」と見るのは、そういうギミックを(わかって)楽しむ読者の心構えみたいなものが前提なんだけど、オプはそういう「家系の呪い」とかオカルトを鼻で嘲ってる風に読んだ方がいいようにも思うんだ。タイトルもマジに捉えなくて「デイン家の呪(笑)」でもいいのかもね。オプがそういうのを真に受ける(フリをする)のも、らしくないや。ま一人称探偵のクセに内心をあまり語らないオプだけどね... それでも始まり方は素晴らしい。おっさん様が引用されているので、改めて引き直さないが、ハメットのクールさが如実に出た幕開けなのが、なんとも惜しい。 さてこれで御三家長編はコンプになる。ハメットの短編もできるだけやりたいが、創元の稲葉ハメット全集は2巻で中絶したし、手に入れやすい小鷹訳を草思社「チューリップ」まで併せても、カバー率は約6割。まあできるだけ頑張るとしよう。 |
No.5 | 3点 | おっさん | 2014/06/20 16:54 |
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コンチネンタル探偵社の「私」(名無しのオプ)が、宝石盗難事件の調査の過程で知り合った娘、ゲイブリエル。彼女の家系(デイン家の血)は呪われているのか? 所を変え繰り返される、惨劇の連鎖。その中心には、つねにゲイブリエルの存在があった。個々の事件は、一応の解決を見ていくが、「私」は納得しない。これが偶然であるものか。裏で糸を引いているのは誰だ――?
Black Mask 誌の1928年11月号から翌29年2月号まで、四回に分けて掲載されたのち、改稿を経て(三部構成に改められ)、『赤い収穫』と同じ29年に単行本化された、ハメットの第二長編です。 村上啓夫訳のポケミス版で所持しながら、ずっと“積ん読”だったこの作品を、小鷹信光の新訳(ハヤカワ・ミステリ文庫 2009)で読了しました。 う~ん、これはねえ・・・駄目。 ミステリ的にどうこういう以前に、シリーズものとして、駄目。 前作『赤い収穫』は、ヒーローのはずの主人公が、暴走し壊れていくという異様な物語でした。あきらかに一線を越えてしまった「私」の、その後をどう描くか? しかし作者は、そこに目をつむってしまった。 あたかも、アレは“ポイズンヴィル”という町の毒気にあてられたオプの、一時的な乱心だったとでもいうように。 殺戮ゲームを無事に生き延びたサラリーマン探偵の「私」は、上司にお灸をすえられたあと、もとどおりのワーカホリックに戻りましたとさ。 でも・・・そこでオプというキャラクターは終わってしまったのです。 本作において、オプは、麻薬に溺れたヒロインの身を案じ、彼女が無事に社会復帰できるよう尽力します。その“優しさ”は、のちのチャンドラーのフィリップ・マーロウ(あるいは島田荘司の御手洗潔w)にも通じるもので、そうした新生面を評価する向きもあるだろうとは思いますが、ドライなキャラクターからの変貌が著しく、筆者にはキャラ崩壊としか受け取れません。 訳者の小鷹氏は、解説のなかで「『デイン家の呪い』が『赤い収穫』とはまったく風味の異なる小説である」とし、「探偵役のオプの役柄もまるで別人だ」と述べられていますが・・・ 異なるタイプの小説に、無自覚にオプを流用したのは(本書の第二部は、既発表のオプもの短編「焦げた顔」が原型になっているので、仕方ない面もあるとはいえ)、大きな失敗でした。 そしておそらく、ハメットもそれを自覚した。このあとの長編で、一作ごとに、その“世界”にふさわしい探偵役を創造しているのは、そういう反省に立ってのことだろうと筆者は考えます。 さて。 ではミステリ的にはどうなのか、というと・・・これがまたパッとしない。 本サイトのジャンル設定が「本格」になっているのには驚きましたが、たしかにこれは、本格とハードボイルドが対立する概念ではないことをしめす、サンプルではあります。 ありますが、でも、あまりにゴチャゴチャしすぎて、種明かしされてもスッキリ納得できない。 オプのまえに出現する“幽霊”とか、密室状況下で炸裂する手榴弾とか、個々のパーツは面白いんですけどね。 本書に関しては、正直、当時のパルプ・マガジンの通俗小説の域を出るものでは、ないでしょう。 ヴァン・ダインを酷評したことで知られるハメットですが、この作を読んだ(ら)ヴァン・ダインも、言いたいことはあったろうなあwww ただ。 これは翻訳だけ読んで語ってはいけないかもしれませんが・・・ 筋立ては、当時の「通俗小説の域を出」ないとしても、それを表現する、簡潔で淡々とした文体には、時の経過による腐食をこばむ、パワーを感じます。 書き出しの一節――いっさい余計な説明を抜きに、ショッキングな発見とそれに続く「私」の対応を描くハメットの筆致は、かくの如し。 それはまぎれもなくダイアモンドだった。青く塗られたレンガの歩道から六フィートほど離れて芝生の中で光っていた。台座がついていない四分の一カラット以下の小さな粒だ。私はそれをポケットにおさめたあと、四つん這いにこそならなかったが、できるだけ芝生に目を近づけて探し始めた。 まぎれもなく練達の士です。 |
No.4 | 6点 | 空 | 2013/07/03 22:11 |
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ハメットの長編中一般的に最も低評価な作品で、昔最初に読んだ時も、へんな小説だという印象を持ったのでした。しかし今回新訳版で再読してみると、意外に楽しめました。ハメットの長編ということで期待するものと実際の作品とのギャップがあり過ぎるのが、不満の原因かとも思われます。
まず、本作はむしろ3編の連作中編集と捉えた方がよい構成になっています。そして最後には3編全体をまとめる結末を用意しています。また、事件そのものもタイトルどおり一族の呪いがモチーフになっていて、ギャングの世界等とは無縁です。コンチネンタル・オプも、無名なわけですから別人ではないかという疑念さえ持ったのですが、これはポイズンヴィルでの事件(『赤い収穫』)のことが語られるので、思い過ごしでした。 ひねりのある3部構造に加え、カー並みの怪奇趣味や不可能犯罪まで出てくる本作は、むしろ最近の国内本格ファンに受けそうにも思えます。 |
No.3 | 3点 | 臣 | 2010/12/20 11:12 |
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コンチネンタル探偵社モノの異色作、オカルト風ハードボイルド・サスペンス。これだけハチャメチャなストーリーだから、むしろオカルト風な○○家物ドタバタ劇といったほうが的を射ている。
登場人物が多いことと、3部構成により、乗ってきたところで話が途切れてしまうこととによる読みにくさはこのうえない。途中で何がなんだかわからなくなってしまい、惰性で読み終えたという感じ。 前半、直感で予想した犯人は当たっていた。が、これだけこねくり回した話を読まされると、最後のサプライズな真相(動機)にも、犯人が当たっていたことにも、なんらの感動も沸いてこない。 見方によれば、すべてが著者の仕組んだミスディレクションだったとも言えるため、もしかして賞賛に値する作品なのでは?いやいやそんなことはない、やはりどうみても失敗作だと思う。 |
No.2 | 1点 | あびびび | 2010/04/30 18:36 |
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途中で話が終わったのかと、目次を見た。もともとつまらない話なのに、また別の展開が始まって投げだしてしまった。
そういう意味では点数をつけられないのかも知れないと思い、再読。しかし、一向に話は進まず、登場人物が増えるだけでまったく興味が湧かなかった。 作者自身、この作品は「思い入れがない」と言っているらしい。 |
No.1 | 5点 | Tetchy | 2009/12/17 23:51 |
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いわゆる“ファム・ファタール”物の系譜になるのだろうか。
ゲイブリエル・レゲットという女性に関わる者が次々と死んでいく。彼女の旧家であるデイン家の呪いなのかという、サスペンスと本格ミステリの妙味が合わさったようなプロットなのだが、登場人物が多すぎるのと事件の構造が複雑すぎて、最後の真相が明かされても、こんなの解るかい!と憤慨してしまった。 あと、悲劇のヒロインであるゲイブリエルがあまり、ほとんど魅力的でないのが難点か。 チャンドラーが書くとまた違った印象になったのだろうけれど。 |