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[ ハードボイルド ] 悪夢の街 |
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ダシール・ハメット | 出版月: 1961年01月 | 平均: 6.33点 | 書評数: 3件 |
早川書房 1961年01月 |
早川書房 1981年01月 |
No.3 | 7点 | クリスティ再読 | 2020/11/14 12:49 |
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ハメットの長編はクノップ社のラインナップで売り出されたわけだけど、ブラック・マスクに書かれた短編の「短編集」は実はなかなか出版されなくて、「ブラッド・マネー」を長編扱いにして出版したのが1943年、本来の「短編集」となると 1945年にまで遅れる。コンチネンタル・オプの真髄は短編にこそあるだが、なかなかそういうわけにはいかなったようだ。
ここでハメットの短編集の編者として、大いにハメット短編の面白さを紹介したのが、エラリー・クイーン(というかダネイ)なのがいろいろな含蓄があると思うんだ。ダネイから見たら年上(約10歳差)の先輩作家(長編こそ同年だが)であり、アメリカ的なミステリ(エラリイのアメリカ性って無視できない)を築き上げた先達として敬意を払っている。日本のマニアが思うような党派性って、評者は架空のものだと感じてるんだがね。 でそのクイーン編集のハメット短編集の第5弾がこの短編集の底本。残念なことにクイーンの序文は割愛。収録はノンシリーズの「悪夢の街」「アルバート・バスターの帰郷」とオプ登場の「焦げた顔」と「新任保安官」。編集に何かテーマ性が...というと、さほど感じない。しいて言えば「悪夢のような犯罪ビジネス」かなあ。「悪夢の街」にひょんなことで紛れ込んだ荒くれ者の主人公が、犯罪ビジネスまるけの街全体と対決することになる話。アイデアストーリーとしては「こんなのありか」と思わなくもないけど、最後の方はゾンビ物みたい。アイデアストーリーとしてサクッと皮肉に纏めたら傑作だったかもしれない。 「焦げた顔」は失踪した姉妹を探すのを依頼されたオプが...という話。この失踪と自殺などの背景には....となって、一種の犯罪ビジネスが暴かれることになる。捜査が行き詰って、オプのアイデアでこの背景を割り出すやり方が、リアルだし着眼がいいと思う。作品の出来は標準的。 「アルバート・バスター」は既読。ショートショートだけど、犯罪ビジネスのインサイド・ストーリーといえば、そうか。 で、こうなったら既読でも「新任保安官」を読まずに済ませられないや。オプ主演の西部劇。どっちかいうと黒沢「用心棒」は「赤い収穫」よりこっちをベースにしているのかもよ。訳者は稲葉由紀なので、創元ハメット短編集とまったく同じ訳。荒馬に乗せられて頑張る話とか、元ボクサーを殴りあうとか、西部劇を楽しんで書いてるワクワク感みたいなものがある。やっぱねえ、評者とかはバディに萌える。保安官補オプと保安官助手ミルク・リヴァー、いいねえ。ミルク・リヴァーはモンゴメリー・クリフトか、リチャード・ウィドマークか。オプにうまくハマる役者が思いつかないのが問題だが....アンソニー・クインとかクロード・レインズどうかしら。二枚目じゃないんだよね。 (「西部劇」の影響って過小評価されていると思うんだ。まあすっかり馴染みがなくなっちゃったからね。たとえば居合切りって、西部劇の早撃ちの日本版じゃないのかしら) |
No.2 | 6点 | 弾十六 | 2020/05/02 23:21 |
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1948年(Mercury Mystery No.120)出版。底本はDell #379 (1950) Mapback版のようだ。いずれもEQ(ダネイ)の序文付き。なぜハメット短篇発掘の功労者ダネイの序文は翻訳されなかったのだろう。(ミスマッチだと思われたのか) HPBは1961年6月が初版。1月に死んだハメットの追悼短篇集か。(HPBあとがきの(S)[=菅野 國彦]のちょっと間違ってる初出情報はEQ序文からのネタのように感じる。) (2022-2-12訂正: どうやらこの(S)は当時編集部で孤軍奮闘していた常盤新平のようだ。菅野圀彦だと年齢が合わない)
Dell版の表紙絵はRobert Stanley。地図はRuth Belew、悪夢の町 Izzardの雰囲気が出てる良い仕事。他、本文にもイラスト(Lester Elliot作)がついており、WebのDavy Crockett’s Almanackで7枚全部を見ることが出来る。 初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。 --- ⑴ Nightmare Town (初出Argosy All-Story Weekly 1924-12-27) K32「悪夢の街」 井上 一夫 訳: 評価5点 初出誌は後のArgosy誌。出だしはすごく良い。米国の小さな町を手探りで進んでゆく感じ。多分、ハメットがピンカートンに雇われて西部の小さな町に派遣された時の心情風景。でもアクションたっぷりの中盤以降はつまらない。悪夢っぽい大ネタは良いのだが、構成に難あり。主人公の妙技はフランス人の言う「シャルロ」の立ち回りを思い出してしまった。(映画にそんなシーンはなかったと思うが…) Dell版のイラストでは長い胡瓜みたいな棍棒にしか見えない。 p12 すもう(wrestle): 米国チームは1924年パリ・オリンピック、男子フリースタイル・レスリングで4階級の金メダルを獲得している。当時、話題になっていたのかも。 p12 十五ドルにたいして十ドル賭けろ(Bet you ten bucks against fifteen): 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)で$1=1662円。 p13 連邦保安官(MARSHAL): Wiki「連邦保安官」に詳細あり。この人は町に常駐してるので Deputy Marshalなのだろう。 p20 大事な、自分にとって本気な場面にぶつかると… 道化役をやっちまうんだが、なぜだろう?: この反省はハメットの本音っぽい。生を受けて33年、世間と渡り合って18年、と主人公は言う。当時ハメット30歳、世間に出たのは14歳の頃なので、大体一致する。ここでは、俺は自意識過剰の子供なのだ、と結論付けている。 p26 五十セント出して指一本見せれば(cost of fifty cents and a raised finger): 831円。密造ウィスキー(1フィンガー?)の値段。 p31 大きなニッケルめっきの廻転式拳銃(a big nickel-plated revolver): なんとなくコルトだと言う直感が… (全く根拠はありません!) 候補は45口径のコルトM1917民間用(ただの妄想)。 (2020-5-2記載) --- ⑵ The Scorched Face (初出The Black Mask 1925-5) K36 #17「焦げた顔」丸本 聰明 訳 オプもの。『チューリップ』で読むつもり。Dell版のイラストが不気味。 --- ⑶ Albert Pastor at Home (初出Esquire 1933秋号) K70「アルバート・パスター帰る」小泉 太郎 訳: 評価5点 『チューリップ』で読んだ。Dell版のイラストにはLeftyと「おれ(Kid)」の姿が。(『チューリップ』に掲載されてるイラストは一部分だけ) (S)の解説ではエスクワイア誌創刊号とミステリ・リーグ誌創刊号の争いで譲ったのはエスクワイアとなっているが、どう考えても高級誌側が譲るとは思えない。『チューリップ』小鷹解説では譲ったのはミステリ・リーグ側になっている。 内容の評価は『チューリップ』参照。 (2020-5-2記載) おっさん様が発見した「設定的に矛盾」が私の「馬鹿目」では見つからない… 原文はエスクワイア掲載号の無料公開(Internet Archiveのサイトで「esquire 1933」と検索、雑誌34ページ目)で確認できるので、ぜひ結果を教えていただければ… (202-05-03追記) --- ⑷ Corkscrew (初出The Black Mask 1925-9) K37 #18「新任保安官」稲葉 由紀 訳 オプもの。創元文庫『フェアウェルの殺人』で読むつもり。Dell版のイラストは珍しいカウボーイ・ハット姿のオプ。 |
No.1 | 6点 | おっさん | 2013/04/04 14:42 |
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ハヤカワ・ミステリ642番(1961年刊)。エラリイ・クイーンが編者になって刊行された、計9冊にのぼるハメット短編集のうち6冊目、Nightmare Town(1948)の翻訳です。
収録作は―― ①「悪夢の街」(1924 Argosy All-Story Weekly)井上一夫訳 ②焦げた顔(1925 Black Mask)丸元聡明訳 ③「アルバート・パスター帰る」(1933 Esquire)小泉太郎(生島治郎)訳 ④「新任保安官」(1925 Black Mask)稲葉由紀(稲葉明雄)訳 ①は、酔っ払って砂漠の中の新開地に紛れ込んだ主人公――重りを仕込んだステッキを武器にするタフガイ――が、そこで出会ったヒロインを助け、その“悪夢の街”を脱出するまでの冒険譚。スケールの大きな、街ぐるみの秘密がプロットの眼目で、アイデアに魅力はありますが(当時のアメリカなら、紙上のリアリティはあったか?)結局、関係者の告白で一切が明らかになるのは、謎を解くヒーローの物語として弱いですし、カタストロフをへた“その後の事ども”がフォローされていないのも、ミステリとしては物足りません。 ②④はともにコンティネンタル・オプが語り手――にしては、一人称が「おれ」「私」とマチマチ。統一してほしいなあ、早川書房編集部殿――で、のちのオプもの長編の原型となりました。前者が『デイン家の呪』、後者の進化型が『赤い収穫(血の収穫)』です。そう思って読むせいか――④のほうは再読ですけど――帯に短し襷に長し、という印象ですね。 上流階級の娘たちの失踪が、やがて悪魔的な背景w を浮かび上がらせる②は、「謎解き型」としては、ストーリーの転機となる部分に飛躍が大きすぎます。ミステリ的な真相よりも、オチのつけかたで記憶される一篇。 秘密の任務をおびたオプが、アリゾナ砂漠のとある小さな町に“新任保安官”として赴任してくる④は、大西部時代の終りを活写したリアリズム・ウエスタン(?)としては楽しめるものの(オプいわく「外部資本がはいり、外部の人間が住みつくようになる。それはきみたちでも、どうにもならないことさ! 人間は昔から反抗を試みてきたが、みんな時世には負けたよ」)、お話の決着の甘さは否めない。オプというキャラが本当に際立つのは、やはり非情に徹したときなのですよね。あ、フーダニット部分にはいちおう伏線が張ってありますが・・・別にそれで作品の評価があがるほどのものではありませんw ③は、すでに『マルタの鷹』(1930)や『ガラスの鍵』(1931)を発表し、作家としての名声を確立したハメットが、創刊されたばかりの男性誌に投じた、軽い趣向のショート・ショート。 なんですが、じつは中編サイズの他の作にくらべても、本書のなかでは、これが一番面白かった。 故郷に帰ったタフガイが、地元のゆすり屋を相手に一戦交えた話――が、ラストでそう転ぶか、というオドロキ。なんだハメット、こういうのも書けたんだ! ②のオチのつけかた、そのテクニックにも通じますが、あちらは夾雑物が多すぎた。その点、より切りつめられた枚数だけに、“そこ”に焦点を絞り込んだ、作者の情報操作の手際が光ります。 かりに筆者が、短編ミステリの書き方講座を開講するなら、教材のひとつに使いたいくらいですよ(って、誰が受講するんだw)。 ただ、オチと関係ない部分で、設定的に矛盾しているんじゃないか、という箇所があるので、そこは誤訳によるものかどうか、今後、調べられるものであれば調べておきたいな、とは思っています。 |