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[ ハードボイルド ]
死刑は一回でたくさん
コンチネンタル・オプ、サム・スペード、他
ダシール・ハメット 出版月: 1979年09月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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講談社
1979年09月

No.2 7点 クリスティ再読 2020/03/25 20:21
さて評者もハメット短編をそろそろやらなきゃ...けど難度はチャンドラーやロスマクの比じゃない。どこまでやれるか?といろいろやり方を考えてみたのだが、どうしてもデジタル書籍のお世話にならざるを得ない、というのが結論である。で、この本、各務三郎編、田中融二訳の講談社文庫のハメット短編集だが、グーテンベルク21の同題の電子書籍はこの講談社文庫をそのまま電子化したものだ。収録と他の短編集とのダブりをまずまとめよう。

1.ダン・オダムズを殺した男 創元「スペイドという男」と重複
2.十番目のてがかり 立風「コンチネンタル・オプ」と重複
3.一時間 創元「スペイドという男」と重複
4.パイン街の殺人 重複なし
5.蠅とり紙 重複なし
6.赤い光 創元「スペイドという男」と重複
7.死刑は一回でたくさん 創元「スペイドという男」と重複
8.両雄ならび立たず 重複なし

というわけで、やや創元「スペイドという男」とダブる傾向があるにせよ、3作この本でしか読めない作品がある。とくに「蠅とり紙」は、たまに鮎哲とかパズラーで採用されることのあるトリックを巡っての話。それを実際にやってみたらパズラーみたいにスンナリ行くわけじゃなくて、予想外の方向に事態が転がって「ミステリ」を作り出すことになる...そう読んだら、同じトリックでもパズラーでの予定調和でスタティックな扱いよりも、ずっとずっと「ミステリの本旨」に沿った使い方ができる、なんてハメットが嗤ってるように思えるんだ。読む価値あり。
ちなみにグーテンベルク21の「スペイドという男」は創元同題の稲葉ハメットとは全然別編集で、文庫未収録がかなり入ったものだから、これはかなりお買い得。同じく「コンティネンタル・オプ」は六興出版~ポケミス586の「探偵コンティネンタル・オプ」(砧一郎訳)がそのまま。

こうやってまとめてみると、全短編61作あって、雑誌掲載のみで文庫などに収録の無い作品が11作、創元稲葉ハメットが17作+グーテンベルク21なら13作がプラスで30作。やっと半分...
ふう、遼遠である。

後記:ちなみに「蠅とり紙」は木村二郎(仁良)氏が「ハードボイルド/私立探偵小説ジャンルのベスト短篇」と称賛して、自分の訳をHM2006/3 に載せたそうだ。確かに名作。木村氏(ジロリンタン)のHPになかなか面白いエピソードがあって、原作と「別な」犯人を指摘している(苦笑)。一読の価値があります。

No.1 6点 弾十六 2020/03/23 23:30
各務 三郎 編の傑作集、1979年出版。田中 融二 訳。私は講談社文庫ですが、電子本(Gutenberg21)でも入手可能。
『赤い収穫』の助走として読んでいます。いつものように初出順に並べました。データはFictionMags Indexで補正。K番号は小鷹編『チューリップ』(2015)のハメット短篇リストの連番。オプものの#は『コンチネンタル・オプの事件簿』(ハヤカワ文庫)所載リストの連番。
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⑵ The Tenth Clue (初出The Black Mask 1924-1-1 as “The Tenth Clew”) 「十番目の手がかり」: 評価6点
K19、コンチネンタル・オプもの#6。探偵小説してるのが面白い。沢山の手がかりを用意するのも結構大変だと思う。犯人はミステリ・マニアなのか?
p35 百ドル: 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して約17万円。
p36 S・Wの四五口径拳銃用(S. W. 45-caliber): .45 Smith & Wesson(別名.45 Schofield)はリボルバー用弾丸のブランド名。スコフィールド拳銃は.45S&W弾なら発射出来るが.45Colt弾だと薬莢が長く、シリンダーに収まらないため発射出来ない。コルトSAAは.45Colt弾も.45S&W弾も発射出来る。威力も.45Colt弾に比べて低いので.45S&W弾は1920年代には廃れていたものと思われる。弾丸の底に「45 S&W」と刻まれていたのでオプ達にもすぐに種類がわかったのだろう。
p37 十ドル紙幣(ten-dollar bills): 当時の10ドル紙幣は二種類あり、United States Noteが1907年からAndrew Jacksonの肖像、Gold Certificatesが1922年からMichael Hillegasの肖像、サイズはいずれも189x79mm。
p58 銃身のずんぐりした自動拳銃(a snub-nosed automatic): スナブノーズってリボルバーのイメージしか無かったが… 25口径ならそれっぽいかなあ。
(2020-3-23記載)
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⑴ The Man Who Killed Dan Odams (初出The Black Mask 1924-1-15) 「ダン・オダムスを殺した男」: 評価5点
K20。緊張感のある文章が素敵だが、この文庫は目次がネタバレ、阿呆か。
最後のセリフは “Good girl”、翻訳が難しいですね。
(2020-3-23記載)
創元文庫の稲葉訳は表現がまだるっこしい。田中訳の方がシャープ。Don HerronのWebサイトによると、ダネイはテキストの所々で語を削っている。まったく… (詳細はDon Herron Hammett: “Dan Odams”で検索) 比較すると稲葉訳はダネイ版によるものだが、田中訳はBlack Mask版のテキストのようだ。
ところで当時の電話の普及率が気になったので調べると米国(U.S. Householdとあるので家庭用)では1920年で35%くらい。意外にも5割越えは1950年あたりで、1960年で8割。多分、家と家が離れてる田舎の方が普及率は高かったのでは? なお英国では家庭用電話(households UK)の普及率を示すデータが1970年からのしか見当たらず、これが35%という超低率(その統計で5割越えは1975年、8割は1985年)。色々調べるとCharles Higham “Advertising: Its Use and Abuse”(1925)のデータだが「電話機の普及率は英国では47人に1台、米国では7人に1台、オセアニアでは12人に1台」というのがあり、どうやら英国人にとって電話という暴力的なプライヴァシー侵略装置はお気に召さなかったようだ。
(2020-4-12記載)
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⑶ One Hour (初出The Black Mask 1924-4-1) 「一時間」: 評価6点
K26、コンチネンタル・オプもの#9。気球男の関西弁には違和感あり。(原文では訛っていない、と思う) 急展開のアクション・シーンが良い。
p76 オランダの金… 百フロリン札: 金基準1924で100ギルダー(フローリン)は38.36ドル「38ドル相当」(p82)に合致。約6万4千円。当時の100ギルダー紙幣(1922-1929)は 'Grietje Seel' 座ってる女性のデザイン、薄い青、サイズ215x122mm。
(2020-3-23記載)
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⑷ Death on Pine Street (初出The Black Mask 1924-9 as “Women, Politics & Murder”) 「パイン街の殺人」: 評価7点
K29、コンチネンタル・オプもの#12。翻訳は女性の喋りの調子が上手くない。話自体は面白い。流れがリアルっぽい感じ(脳で考えただけだとこういう展開にはならない気がする)。オチの付け方も良い。
銃マニア的には薬莢が重要証拠となってるのが興味深い。ライフルマークは銃の指紋、ということが確立したのは1925年ゴダード創始。なので、この時代は薬莢に残った撃針の痕(Firing pin impression)が銃を特定するものとしてある程度利用されていたのかも。(探偵小説で撃針痕をネタにしてるのあったかな?)
p101 六百ドル: 約100万円。政治家の所持金。
p109 [略]… 話を読んで… 30分つぶした(spent the next half-hour reading about a sweet young she—chump and a big strong he—chump): アホそうな恋愛?小説を読んで時間を潰すオプ… 結構小説好きなのかも。
p132 拳銃を二つに折り(breaking the gun): ぶっ壊した訳ではなく、トップ・ブレイクの拳銃から弾や薬莢を出すために行った動作。38口径のTop Break revolverならIver Johnson, Harrington & Richardson, Smith & Wessonなどだが、有力候補はIver Johnsonか(ざっとみたところ他社のはモデルが古そう)。
(2020-4-15記載)
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⑸ Fly Paper (初出Black Mask 1929-8) 「蠅とり紙」
K56、コンチネンタル・オプもの#34。
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⑹ Too Many Have Lived (初出The American Magazine 1932-10 挿絵J. M. Clement) 「赤い光」
K67、サム・スペードもの。
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⑺ They Can Only Hang You Once (初出Collier’s 1932-11-19) 「死刑は一回でたくさん」
K68、サム・スペードもの。
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⑻ Two Sharp Knives (初出Collier’s 1934-1-13) 「両雄ならび立たず」
K72


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