皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] リトモア少年誘拐 ヴァイン主任警部 別題『リトモア誘拐事件』 |
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ヘンリー・ウエイド | 出版月: 1958年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 2件 |
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画像がありません。 東京創元社 1958年01月 |
東京創元社 1961年01月 |
No.2 | 5点 | 人並由真 | 2020/12/18 04:40 |
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(ネタバレなし)
1955年のイギリス。地方都市のハーボロー市。そこでは地元紙「ハーボロー・ポスト」が、風紀粛清のスローガンを掲げる。だが4月のその夜「~ポスト」発行者ハーバート・リトモアの長男で、10歳の少年ベン(ベンジャミン)が何者かに誘拐される。捜査が長引くなか、スコットランドヤードはベテラン刑事のヴァイン主任警部を同市に派遣。やがて走査線上に、意外な容疑者の名前が浮上してくる。 1954年の英国作品。評者は創元の旧クライム・クラブ版で読了。 いつもお世話になっているミステリのデータベースサイト<aga-search>によれば、本作は1952年の『Be Kind to the Killer』に続く2作目のヴァイン警部もののようだが、本シリーズはこれしか翻訳がないので、この名探偵の詳しい実績は知らない。たしかに作中には、何か過去の事件簿っぽい話題は出てくる。 被害者の少年の父親で主要人物のひとりハーバートが社会正義に邁進する完全無欠な聖人かと思いきや、現在は更生しているが、過去に小切手横領を働いた前科者だったりする。この辺のちょっとひねったキャラ設定とか、序盤のうちはなかなか面白そうに思えた。 が、正直、多人数の警察官を動員した捜査の軌跡を子細に語るだけの話で、かなり退屈。 途中の山場で「え?」と思わされる展開がひとつあるが、そこを過ぎると、あとのストーリーは丁寧な描写の積み重ねながらほとんど曲はない。 ゆったりした叙述を崩さない作法にある種の格調は認めるが、作品全体のミステリとしてのトキメキは薄く、これまで評者が読んだ旧クライム・クラブ収録作品のなかでも、やや~相応に下の方だろう。 一応はフーダニット作品だが、残念ながらパズラーとも言い難く、悪い意味で<手堅く地味すぎる警察小説>という感じだ。 そもそも旧クライム・クラブ巻頭の登場人物一覧表には17人しか名前が載ってないが、評者がメモったら端役までふくめて名前のあるキャラの総数は70人近くに及んだ。そんな数の多さに比例して、捜査官も人海戦術でどんどん事件に駆り出される。そういった流れはリアルかもしれないが、謎解きミステリにはなりにくい。 この作品は作者の遺作らしいが、最後の微笑ましいクロージングは、存命ならまだまだこのシリーズを続けるつもりだったのでは? とも思わせた。結局、ヴァイン警部はいろんな意味で不遇なシリーズキャラクターだったみたいで、ちょっと気の毒かも。 ごく細部には、まあまあ面白い箇所もあったので、評点は0.5点ほどおまけして、この点数で。 |
No.1 | 5点 | nukkam | 2018/02/17 22:47 |
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(ネタバレなしです) ヘンリー・ウエイド(1887-1969)最後の作品となった1957年発表の本書は誘拐事件を扱った珍しい本格派推理小説です。少年が誘拐され、家族の不安や慎重に行動せざるを得ない警察を丁寧に描いていますが、この作者の手堅い文章だと誘拐ミステリーとしてはややサスペンスが不足気味に感じます。少年が無事戻るのか最悪の結果になるかはここでは紹介しませんが中盤で一応の決着を見せます。もっともその後の警察の捜査も依然として石橋を叩くように慎重です。まあ容疑者たちを片っ端からぎゅうぎゅう締め上げるなんてこの作者の作風では想像も出来ませんけど。登場人物リストに警察官が7人もいて何を考えているかも読者に対してかなりの部分をオープンにしているので意外性はありません。犯罪の謎解きと関係のない最後のオチが1番意外だったかも(笑)。 |