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[ 本格 ]
マギンティ夫人は死んだ
エルキュール・ポアロ
アガサ・クリスティー 出版月: 1958年04月 平均: 6.18点 書評数: 11件

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早川書房
1958年04月

早川書房
1982年01月

早川書房
2003年12月

No.11 6点 E-BANKER 2022/10/29 12:22
エルキュール・ポワロ24作目の長編。(未読のポワロ物のあと僅か)
今回は英国の田舎で発生したごく普通の殺人事件をポワロが旧知の警官に頼まれて再調査するというもの。
1952年の発表。

~ポワロの旧友であるスペンス警視は、マギンテイ夫人を撲殺した容疑で間借り人の男を逮捕した。服についた血という動かしがたい証拠で死刑も確定した。だが、事件の顛末に納得のいかない警視はポワロに再調査を要請する。未発見の凶器と手掛りを求め、現場に急行するポワロ。だが、死刑執行の時は刻々と迫っていた!~

紹介文を読むと、タイムリミットまで差し迫った緊迫感ある展開なのか?と想像してしまうけど、実際は田園風景が広がる英国の田舎で、かなりのんびりした展開が続いていく。
ポワロも要請を受けたはいいけど、関係者に話を聞きながらも、なかなかこれという手掛りがつかめないまま時は過ぎていくというまだるっこしい展開。
ただ、被害者が気にしていた「新聞日曜版に出ていた4枚の写真」という1つの手掛りをもとに、事件は大きく動いていく。そして判明する意外な真犯人・・・

まぁさすがの旨さですな。
緻密に計算された作者の「老獪な技法」が堪能できます。
他の方も書かれてますが、今回は割と登場人物が多くて、そういう意味ではフーダニットの興味は強い。どうせ、作者のことだからミスリードや「いかにも」という疑似餌が撒かれてんだろうな、という感覚で読み進めていくことになる。
で、この真犯人なのだが・・・。確かに、数多い登場人物の中では、派手めというかキャラが立っていた人物だったなぁーという読後感。この当りは、あまりに地味すぎるヤツを犯人にはできないしなぁーっていう苦しさも窺える。

今回、ポワロが自分が事件の再調査のためにやってきており、真犯人は別にいるということを敢えて喧伝して回り、真犯人の動きを炙り出すという捜査法を行っているのが斬新。自分が名探偵であるということも併せて伝えるのだが、その反応が薄いことに一喜一憂するポワロ、というところに作者のサービス精神というか、ユーモア精神(死語?)が出てて、ほほえましかったりする。
いずれにしても、よくいえば円熟期の作品。多少悪く言えば「晩年っぽい」作品、っていうことかな。決してつまらなくはないし、水準以上の面白さはあると思う。

No.10 6点 虫暮部 2022/09/08 13:52
 ちょっと入り組んでいるが、真相は面白いと思った。“そんな程度で殺すか?” と言う動機に対して、“犯人にとっては【そんな程度】じゃ済まないんだ” と外堀を埋めてあるところが良い。

 ポアロとベントリイ容疑者の一度目の会見が省略されている。書き忘れ?
 マギンティ夫人の、写真の件に対するスタンスが曖昧。秘密にしてちょっとした恩恵に与ろうとしたのか、ゴシップのスピーカーなのか、ポアロが矛盾した説明をしている。
 使用人が何人も登場するのにほぼ “背景” 扱いで、事件の捜査対象は雇う側の人ばかり。ACの保守的な階級意識はいつものことだが、被害者が使用人だと目立つな。

No.9 6点 レッドキング 2020/11/25 22:11
金を奪われ殺された雑役婦の中年女。殺される前に女が切り抜いていた新聞記事には、数十年前の犯罪絡みの4人の若い女の写真が。時を経て名を変え身分を偽って暮らしているはずの、ある初老婦人。雑役婦は過去を持つ誰かの現在を発見し、殺されたのか。早いテンポで次々と容疑者達が紹介され、ちと消化不良のまま話が進み・・もう誰が犯人でもいいよってなったあげく・・え?っと驚く真犯人の告発が「血の轍」の物語と共に明かされる。人が古い写真を捨てられないのは「虚栄」「感傷」「憎悪」からってポアロの分析が良い。
※登場する女流作家オリヴァが、自作の主役探偵を語り・・「何か書くとするわね・・なかなか評判いいらしい・・いい気になってジャンジャン書き飛ばす・・気付いた時には、思っただけで不愉快になる奴(探偵)が、あたしに一生つきまとって離れなくなっちゃってんのよ・・(こんな探偵)実際に会ったら片付けてやるわよ、今まで書いてきた方法より、ずっと・・」「・・そりゃいい、グッドアイデアだ。殺しちゃって、死後出版するといい・・」アガサ・クリスティー、本当はポアロのことが嫌いだったのかな・・とりあえず「カーテン」の予告してたんだな。

No.8 5点 ボナンザ 2019/09/11 16:56
中々練られたストーリーではあるが、無理に引き延ばしている感も否めない。

No.7 7点 makomako 2016/08/11 08:02
 被害者はどこにでもいる平凡な中年女性、どんなに探しても動機が見つからない。犯人と目された人物ははすでに裁判でほとんど有罪になっており、しかも犯人とされた人物そのものが、自分の無罪をとりわけて訴えようとしない。
こんな状況なのに実際に担当した警察官からほかの犯人がいそうだとの依頼がポアロされる。
 ほとんど無理そうな設定の中から鮮やかな推理のもとに意外な犯人が名探偵によって暴かれる。
 うーん本格推理の教科書のようなお話ではありませんか。とてもよくできたお話と思います。本格物が好きならぜひどうぞ。
 その割に評価が特別良くないかというと、このお話は現代の日本ではちょっと成り立ちにくいということと、「何とか婦人」がたくさん出てきて、名前を覚えるのが苦手な私にとって誰が誰なのかが分かりにくく、話の筋がはっきりつかめないところがあったところです。

No.6 7点 青い車 2016/07/18 17:32
 騙しのやり口がミスディレクションの達者なクリスティーらしく、もはや老獪ささえ感じます。老婦人が殴り殺され、要領が悪く冴えない青年が逮捕される、という派手さはまったくない事件でありながら、終盤の畳み掛けるような推理にはやはり感心させられました。TVドラマ版も原作の伏線をちゃんと盛り込んだいい出来だったのでオススメしたいです。

No.5 6点 クリスティ再読 2015/10/31 22:45
本作の被害者は家政婦+下宿経営で生計を立てている未亡人...しかも、ポアロ自身が自分の活動を「下手な鉄砲も数打ちゃあたる」と評するくらいに「考える前に動いて」いる、ハードボイルド?な作品。だから直接の物理的襲撃を受けたことを方針の正しさを証明する「すばらしいニュース」と言ったりする...あれこの人ホントにエルキュール・ポアロなんだろうか??

初期のクリスティっていうとセレブ・金持ちワールドでの殺人、というシチュが普通だったんだが、戦後で作家的にも成熟してくると、そういうのにリアリティを感じなくなってきたんだろうね。だから、いろいろと私立探偵小説としての試行錯誤をしているわけで、たとえば「複数の時計」はウルフ=アーチー方式をやってたりするわけだが、本作だと真相がどうもロスマクの某作を連想させるところがあって、なおさらハードボイルドっぽく感じたりもする....まあロスマクでも人間関係のトリックが軸だし、ホントはロスマクがクリスティの後継者だったのかも、と妄想をたくましくしてもいいかもね(最近そう読むのが流行だそうだね)。

とりたてて大きな狙いとかトリックはないんだけど、細かいミスリードは多くて、緻密にできているのがGood。登場人物にそれぞれの決着をつけるなど、きめ細かい小説になっている。ある意味クリスティ「らしくない」かもしれないし、小説としては小粒かもしれないが、それでも「みんなの知らないクリスティ」って感じで妙に気になる....

No.4 5点 了然和尚 2015/04/23 13:15
全体的にはまとまった本格ものだと思うのですが、焦点がぼやけている感じで、印象が薄いです。犯人の必然性や手がかりは、もうひとつスッキリしませんでした。容疑者のほとんどが、なんらかの暗部を持っているというオチですが、その場合、結論が不確かになってます。

No.3 7点 nukkam 2015/03/05 16:54
(ネタバレなしです) 1952年出版のポアロシリーズ第24作の本格派推理小説で、「ひらいたトランプ」(1936年)以来となる推理小説家アリアドニ・オリヴァが登場する作品でもあります。クリスティー自身をモデルにしたともされるオリヴァ夫人を気に入ったのか、彼女は本書以降の作品で何度もワトソン役として登場するようになります(その推理力はまるで当てになりませんが)。さて本書は既に有罪判決の出た事件の再調査という点で名作「五匹の子豚」(1943年)と共通しています。さすがに作品完成度では「五匹の子豚」に一歩譲るし、死刑執行前に解決しなければいけないというタイムリミットものにしては切迫感に乏しいですが、1950年代の作品の中では上位に属すると思います。どんでん返しの謎解きが鮮やかです。でも一番の謎はロマンスの行く末だったかも(笑)。

No.2 7点 あびびび 2014/07/21 15:13
村の掃除婦と下宿人ひとりを相手に生活していたマギンティ婦人が殺された。貯め込んでいたタンス預金目当ての犯行とみられ、すべての要素を満たしていた無職の下宿人が逮捕される。しかし、その事件を担当したスペンス警視が長年の刑事としての勘で彼は無罪…との思いがどうしても拭えなかった。それでポアロの元へ個人的に事件再捜査の依頼に訪れる。

ちょうど暇を持て余していたポアロは村のホテルへ投宿へし、周辺の家を訪ね歩き、情報を収集するが、マギンテイ婦人が新聞の日曜版で、「往年の悲劇に登場した女主人公は今いずこに…」という記事を読み、インクをひと瓶買ったことを知るー。

(ネタばれ?)またしても犯人は予想外だったが、なるほど犯行のチャンス、アリバイ作りは盲点を突いていた。

No.1 6点 2009/07/22 21:58
一見ごく平凡なマギンティ夫人殺害事件。容疑者が逮捕され死刑判決が下されたものの、事件を担当した警視は納得できずポアロに再調査を頼む、という筋立てですが、『幻の女』のような緊迫感はさっぱりありません。
田舎の宿に泊まった美食家のポアロがひどい食事に悩まされるのん気なユーモアが楽しめます。久々に登場するミステリ作家オリヴァー夫人の、自分が創造した名探偵に対する考えも、興味深く読めました。さらに登場人物の一人が提案するオリヴァー夫人最後の作品のアイディアは爆笑もの。本作より前にクリスティーは『カーテン』を書いてしまっているはずです…
さて、真面目にプロットを考察すれば、犯人の意外性はさすがです。新聞の件が明らかになっても、動機がどうも弱い感じがしていたのですが、ポアロに説明されて、なるほどとすっきりしました。


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