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ことはさん
平均点: 6.52点 書評数: 151件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.151 6点 異人館- レジナルド・ヒル 2022/10/05 01:41
「秘密」というと大げさだが、「誰にも言わずにいること」といえば誰しも持っているだろう。本作の登場人物の多くは「秘密」をかかえていて、もちろんそれは簡単には話さない。話すとしても、駆け引きを行う。「ここまで知られたのなら、ここまで話そう……」。
ダルジールものでもそうだが、ヒルはこの駆け引きの描き方が、実にうまい。物語の後半、駆け引きの中で、それが少しずつ明かされていくところは、パーツがひとつひとつ組み上がっていくような構築感があって面白い。
それでも、ダルジールものと比べると、キャラクターがいまひとつ弱いかな。未読のダルジールものがあるならば、そちらをすすめます。
本作は、カソリックの歴史が背景にあって、イギリスの歴史の知識があれば、より楽しめそうなのだが、私にはそこまでの知識はなかったなぁ。直近の日本では、ちょうど「黒牢城」で荒木村重と黒田官兵衛のエピソードを取り込んでいるが、それと同程度にはメジャーな話なのかな?
あと、女性主人公が何度も父親の金言を思い起こすが、それがまるでダルジールの言葉のようで面白い。例えば「蹴られたら蹴り返せ、むこうが蹴ってくるのをやめるまで蹴り続けろ」(208ページ)。うん、やっぱりこれはヒルの味だな。

No.150 5点 虚空から現れた死- クレイトン・ロースン 2022/09/25 14:46
すごい久しぶりのロースン。
中編2作の本書ですが、2作とも序盤の謎の盛り上げは尋常じゃない。「これ、どう説明つけるの?」と思わされる。
2作目は、序盤だけでなく、終盤まで不可解な事件が続発する。
けど、解決がなぁ。「そんなこと」という感じなんだよなぁ。「謎の演出は見事だが、解決の演出は考えられていない」という感じ。謎の演出に特化しているのは、ロースンが奇術師だからか?
だから、読み方としては、アトラクションを楽しむように、次々と起こる事件をおっていくのが吉でしょう。
謎の盛り上げが大きい分、解決にがっかり感を感じて、マイナス評価する人も多そう。私の評価は、謎の盛り上げとがっかり感で、プラスマイナスゼロとしておきます。
そういえば、ロースンの他の小説も、だいだいこんな感じだったなぁ。ただ「帽子から飛び出した死」だけは凄く面白かった印象が残っている。これは再読しようかな。

No.149 5点 鉄路のオベリスト- C・デイリー・キング 2022/09/23 00:09
「海のオベリスト」と間をおかずに読んでみた。
読んでいてまず気になったのが、捜査に関して実にゆるいこと。
死者がでる事件があるのに、鉄道の運行も止めず、新たに乗り込む捜査関係者も検死医がひとりとは、現代の感覚ではありえない。執筆当時の1930年代でも、同時期の他作品と比較するとありえないと思う。(「海のオベリスト」でも捜査に関してゆるかったが、それは「船上であるためにしょうがない」と思えた。本作では、しょうがないと思わせる状況がないので気になる)
そこを「お約束」として気にしなければ、大陸横断鉄道の旅を背景に、コージー・ミステリのような空気感で読める。
ただ、ネットで書いているひとも多いが、心理学/経済学の記述が、ミステリとうまく絡まないので邪魔に感じるし、真相も無理を感じる部分がおおく、あまりたかく評価はできない。
美点は、(事件現場捜査時に「奇妙に思えることがある」とだけ話して、具体的な内容は解決編まで伏せられている)主人公の最初の気づきで、なかなか「なるほど」と思わされた。xのxxxxのいい例だと思う。クイーンのいくつかの作例が思い浮かぶ。
「手がかり索引」も、「海のオベリスト」よりもこなれてはいるが、やはりこれも惹句以上のものではないかな。
とはいえ、プールがある(!)列車とか、(事件が起きても運行する!)数日にわたる車窓の風景など、(「海のオベリスト」と同様に)極めて映像的な作品で、ミステリ外の面白さはあるので、たまにはこんな作品もいいかな。

No.148 7点 甘い毒- ルーパート・ペニー 2022/09/11 01:09
いくつかのネット評などをみて、解決部分以外は読みづらいのかなと構えていたが、杞憂だった。会話主体の文章で、キャラクターもきっちり書き分けられ、ストレスなく読める。
第1部では、進行形でチョコレートの盗難/廃棄事件と、関係者の人間関係、過去の事件の説明などが淀みなくすすみ、不穏な空気が感じられるなか、一旦調査は終了する。第2部で事件がおきるが、ここでも事件は証言として伝えられて、会話が主体なので、スムーズに状況理解できる。終盤、ある事実が判明して、そこからいくつが重要事実が証言され、「幕間」を挟んで、解決編に一気になだれ込む。飽きさせない構成だった。
判明する事件の構図は、ありがちかもしれないが、かなり好き。
また、解決編であげられる「ありえないこと」は、「たしかに」と思わされるもので、そこから展開される推理は(唯一とはいわないが)実に説得力がある。クイーンの初期作と比べると、推理の意外性も、推理の強度もすくないが、”読者への挑戦”があることを納得するだけの説得力はある。
全体として、確かに、キャラクターの描き込みは深くなく、主人公の個性も乏しい。ドラマ的な盛り上げも少ないので、小説にドラマを求める人とか、ミステリ的ガジェットを求める人とかには、面白みは少ないのかもしれない。
しかし、「謎とその解決」を(段取りも含めて)楽しめる人ならば、楽しめるだろう。私は、シンプルに「謎とその解決」だけになっていることに、かえって好感をもった。
クラッシックな謎解きミステリの佳作として、おすすめできる。

No.147 6点 海のオベリスト- C・デイリー・キング 2022/09/04 23:16
読み終わって振り返ると、「謎と解決」は、いまひとつ。提示された謎のうち、いくつかは途中で判明するし、それも「なぁんだ」というものもあるし、被害者の二人のうちの一人の扱いは「なんだかなぁ」という感じだし、途中でたたかわされる心理学による推理も「どうなの?」と思うし。
惹句として使われる「手がかり索引」は、初期クイーンの諸作の「手がかり」と比べると、圧倒的に薄味で、惹句以上のものではない。
逆に面白かった点は、銃撃戦のシーンや、「船が沈むかも?」というシーンや、飛行機が飛び立つというシーンで、舞台設定もあわせて考えると、極めて映像的な作品だといえる。
評判をきいて期待していた部分と、違う部分か楽しめた作品です。

No.146 6点 英国風の殺人- シリル・ヘアー 2022/09/04 23:01
解説に「戯曲が元」というような記述があって、たしかに舞台のようだった。各章、それぞれ1つの場で進行する構成は、舞台を見ている状況を思い描いて読むと、各章がイメージしやすいと思う。そのためか、全体の構成は見通ししやすく、謎やキャラクターの葛藤がすっと入っきて読みやすい。
クリスマス・ストーリーとして構想されていると思われ、雰囲気も良い。雰囲気の良さは翻訳によるものも大きいと思う。(英語がわかるわけでもないし、原書を読んだわけでもない、日本文からだけの感想だけれど)良い翻訳だと思う。
皮肉めいた状況や展開は、いかにも英国風のユーモアだなと感じる。解説で称賛されているのも、その点だと思う。
けれど、ミステリとしては、あまりみどころはないかな。真相として提示される内容も、矛盾のない仮説のひとつ以上に証拠がない。ある部分、意外ではあるが、それだけかな。
キャラクターも魅力があり、英国風のユーモアがある小説としては大いに楽しめるが、ミステリとしての楽しみとはベクトルが違う気がする。

No.145 7点 スティグマータ- 近藤史恵 2022/07/19 00:24
「サヴァイヴ」「キアズマ」と変化球がきた後、今回は「サクリファイス」「エデン」と同じ白石の語り。ああ、私は白石の語りが好きだ、と気づかせてくれた。
「サクリファイス」「エデン」も白石の語りだったからよかったんだな。抑制が効いていて、基本的に冷静で、けれどときに熱くなる。熱くなっているるときも、語り口は冷静。ああ、この語りいいなぁ。白石の語りでの続編を早く書いてほしい。
とはいえ、「サクリファイス」「エデン」とプロットとして似すぎている点は気になる。次回作は別のプロットにしてほしい。
最後に、本作を読んだとき、めずらしい経験があったので書いておきます。
本作は、本屋の店頭で文庫化したのをみつけたのだが、そのとき「早速読もう」と思って読みかけていた小説は一旦止めて、買い求めた本作を読み始めた。読んでみると、途中で重要なキャラとしてヒルダという人物がでてくるのだか、読むのを一旦止めた小説が、なんと「ヒルダよ眠れ」だった。ヒルダなんていう名前を小説で読んだのは他に記憶に無いのに、たまたまその2作をこんな風に読むなんて、「いやいや、どんな偶然だよ」と唖然とした。

No.144 6点 キアズマ- 近藤史恵 2022/07/19 00:18
「サクリファイス」シリーズ扱いだが、同じ自転車競技を題材にしている(同じ世界線の?)別キャラの話。シリーズとしていいのか?
「サクリファイス」シリーズとしては、疾走感に劣るので少し点は低い。(つまらなくはない)

No.143 7点 サヴァイヴ- 近藤史恵 2022/07/19 00:17
「サクリファイス」での周辺キャラを主人公にしたサイドストーリー。
「サクリファイス」の世界が楽しめたなら、楽しめます。とはいっても、「サクリファイス」を読んでキャラを知っていないと、そんなに楽しめないかも、と思われるところはある。

No.142 8点 エデン- 近藤史恵 2022/07/19 00:16
「サクリファイス」と比べるまでもなく、ミステリ要素はほぼ無しです。ミステリを期待する人は読む必要はないかもしれません。
ただ、美点は「サクリファイス」と同様なので、「サクリファイス」が楽しめたら、本作も楽しめます。「サクリファイス」にあったミステリ的無理がない分、かえって本作のほうがまとまっているかもしれない。舞台も海外になって、スケール感が大きくなっていて楽しめます。
とはいっても、「サクリファイス」と楽しみの質が同じすぎるので、「サクリファイス」より採点は下にします。

No.141 9点 サクリファイス- 近藤史恵 2022/07/19 00:15
他の人も書いているが、ミステリとしては無理を感じる。それは、ある人物の心理がまったく理解できないから。といっても、それは本作のポイントでないと言いたい。
ミステリとしてではなく、スポーツ小説として傑作だと思う。
文章は軽快で疾走感があり、エンタメ小説としては最高。自転車競技のルールや駆け引きもストーリーの中でスムーズに語られ、キャラも立っている。(青春というには年齢が高いが)青春小説としての雰囲気もある。夢中になって一気読みでした。
どのジャンル読みにも、遠慮せずにおすすめできる傑作です。

No.140 5点 孤独の島- エラリイ・クイーン 2022/06/24 00:09
再読。まったくクイーンらしくない話だが、それなりによかった印象がある。はたして再読でどう感じるだろう?
まず冒頭、悪役側から描かれるが、この悪役に魅力がない。設定は類型的で、知性が感じられず、げんなりしてしまった。
主人公が登場してからは持ち直すが、中盤の裏のかきあいも、いまひとつもりあがらない感じがした。とはいえ、クイーンらしい部分もある。なにしろ、主人公が考える。行動する前に、まず考える。ああ、これはクイーンらしいなぁ。まあ、そのために捜査小説の味がでてきて、サスペンスが弱まってしまっているところがあるかもしれない。
終盤には熱い展開があり、全体的には悪くない。初読時はこの終盤の印象がよかったんだなぁと納得。
「最後の一撃」より後のクイーン長編では、上位になりますね。
1つ小ネタ。主人公が登場の直後、映画の感想をいう場面がありますが、内容からすると、映画は「明日に向かって撃て」ですね。ディリンジャーは「ジョン・デリンジャー」(日本語ウィキペディアに記載あり)のことでしょう。本作も「明日に向かって撃て」も1969年の発表です。

No.139 8点 ブルー・シャンペン- ジョン・ヴァーリイ 2022/06/19 01:04
「プッシー」と「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」以外は既読。この2作を目当てで読んだ。
「プッシー」
ちょっと切ないSF話。いい話だけど、これがヒューゴー賞/ローカス賞受賞はちょっとできすぎ。
「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」
これはいい。
最初はどういう状況かわからない。説明抜きで現場の描写がされる。それから少しずつ、どこで、なにが起きていて、以前になにがあったのか、これからどうなりそうなのか、見えてくる。状況が見えてくるにしたがい、どんどん深刻さがわかってくる。そこからはスリリング。一気読み。最終盤はかなり深刻な状況なのに、描写は淡々としていて、これもヴァーリイの味だ。これが絶版か。残念。
解説の「あらゆる悲劇がTVカメラの眼でとらえられ(中略)提示される、今の現実の世界の苦さ」というのは秀逸。解説が書かれたのは1995年だが、これは今のほうが皮膚感覚でわかる。
また解説に、「ブルー・シャンペン」の続編とあるが、メインストーリーは「ブルー・シャンペン」と全然絡まず、バッハ以外にも共通の登場人物が登場して「ブルー・シャンペン」の後日談が近況報告のように少しあるだけなので、続編といっても、映画のシリーズ(007シリーズでQとかMとかは毎回でるといったような)ものの第2作というほどの感覚だろう。シリーズ第3作がないのが残念だ。
短編集全体としては、これも『逆光の夏』と同レベルのベスト盤といってもいい。個人的には「残像」がもっとも好きなので、『逆光の夏』を押すけれども。

No.138 7点 さようなら、ロビンソン・クルーソー- ジョン・ヴァーリイ 2022/06/19 01:01
短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編2。
「びっくりハウス高価」
これは描写を楽しむ話だろう。ストーリーは好みではなかった。
「さようなら、ロビンソン・クルーソー」
書評済みなので略。本短編集のベストの1つ。
「ブラックホールとロリポップ」
メインの設定が途方もない。そこから展開されるサスペンスフルな1編。本短編集のベストの1つ。
「イーノイノックスはいずこに」
1巻の「歌えや踊れ」で説明された”共生者”の冒険譚。本作は「歌えや踊れ」の後のほうが”共生者”のイメージがわいていいかも。
「選択の自由」
”変身”がまだ日常になっていない時代の人々の戸惑いを描いた話。現在のほうが、より現実のジェンダー問題とつながるというのは、さすがの視点というべき。
「ピートニク・バイユー」
異世界での法の問題が面白い。
以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。

No.137 7点 汝、コンピューターの夢- ジョン・ヴァーリイ 2022/06/19 00:59
短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編1。
「ピクニック・オン・ニアサイド」
少年の冒険譚。ただし舞台は月。ほろ苦い青春物の味わい。
「逆光の夏」
書評済みなので略。
「プラックホール通貨」
遠い宇宙空間でのぎりぎりでの交流を描いた話。孤独感と切なさがいい。
「鉢の底」
『逆光の夏』の解説にあった「太陽系名所案内の趣」がもっともでている1編。
「カンザスの幽霊」
人体改造などの〈八世界〉の設定がひねって使われたサスペンス風味の作品。本短編集のベスト。
「汝、コンピューターの夢」
サイバーパンク風の、おかしいような怖いような1編。どこか既視感があるが、本作の発表が1976年ということを考えると(『ニューロマンサー』が1984年)、これが最初期の作で、以降、類似作が作られたのだろう。
「歌えや踊れ」
”共生者”という設定を掘り下げた話。”共生者”については、次巻でまた使用される話がでてくる。
以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。

No.136 8点 悪魔を呼び起こせ- デレック・スミス 2022/05/26 00:22
再読。(いまひとつだった記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。犯人も仕掛も忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
結果……。いや、これよくできてるなぁ。傑作。
事件が起きるまでが案外長く、視点人物もぶらつきがあり(複数の人物の心理が3人称記述で行われる)読みづらく、少し退屈して「やはり、記憶どおり、いまひとつかな」と思ったが、読み終わってみると、事件が起きるまでの退屈な部分にも、いくつもの伏線がはられていて、唸らされた。もちろん、事件発生後にも、いくつも伏線がはられていて、うん、これはすごくよい。
推理の取っ掛かりになる情報は(解説にある通り)少しフェアでないが、そこからパタパタと展開される論法もかなり説得力があってよい。解決編では、正面衝突しそうな2つの乗り物がするっとすり抜けるイメージが浮かんだ。エピローグに相当するシーンも(ちょっとピント外れ感もあるが)微笑ましく好感。途中に挟まれる密室談義(ロースンの小説が、作品内では現実扱いになってるし!)も楽しい。
なぜ、昔の私は楽しめなかった? 思うに、密室の解法が”知恵の輪”のように丁寧に外していくもので、一読、インパクトに欠けたからかもしれない。そして、そのひとつひとつは、どこか既視感があったからかもしれない。また、xxxのxxがxxならxxxxできると思ったからかもしれない。
まあ、探偵も個性に欠けるきらいはあり、ストーリーは一本調子といった感じもある。しかし、逆に言えば、謎解きミステリとして不要なものは入っていないとも言える。
もう一度いうが、よくできている。これは好き。

No.135 6点 ジョン・ブラウンの死体- E・C・R・ロラック 2022/05/14 19:04
最近「エラリー・クイーンの事件簿1」を読んだが、その中の「消えた死体」が、そのまま「ジョン・ブラウンの死体」(ジョン・ブラウンという人物が殺される)だったので、思いついて、積読だった本書を読んでみた。
冒頭、盗作の疑いがある作品の話で目を引くが、これはすぐ背景になり、その後はムーア地方で地道に捜査の過程をおっていく。このあたりの読み心地は、クロフツにきわめて似ていて、それでいてクロフツより情景描写に味わいがある。
そして、終盤、盛り上げて締め。と、よく出来た作品だった。
私は好感だけど、捜査の過程をおっていく部分が、人によっては単調と思うかもしれないなぁ。また、会話は常に冷静な感じで、もっといきいきとしていれば、より面白かったと思う。
推理については、心理の推定が説得力があって、実によかった。うん、クラシカルな英国ミステリを読みたいなという人には、文句なしにおすすめできる良作です。

No.134 6点 龍神池の小さな死体- 梶龍雄 2022/05/07 18:47
古書が高価になっていた本書が復刊。過去の作品が容易に読めるのは喜ばしい。
さて、世評が高かったので期待をもって読み始めたが、期待ほどではなかったのが正直なところだ。
(プロットに少しふれてしまうが)タイトルのとおり、「昔の龍神池の事件を主人公が調べ直す」というかたちで物語は始まるが、途中から現在の事件に少しずつ焦点が移動していく。これがまず残念。昔の事件は、伝承などが絡んだ幻想的なものなのに、現在の事件はきわめて現代的(”現在”といっても、作品発表時期の”現在”なので、学生運動が盛んでかなり古色蒼然としているが)なので、味わいが違いすぎて、違和感が拭えなかった。
たしかに世評のとおり、メインの趣向は大胆なものだし、伏線はたくさん存在する。これはなかなか楽しめたが、見せ方が魅力的とは思えなかったのも、残念なところ。伏線の魅力は、「あれが伏線だったか!」という気づいたときの驚きにあると思うが、驚きを演出するようには感じられなかった。
とはいえ、かなり読みやすく、一気に読めるので、読んで損はないかな。
(ただし、1章はかなりの違和感があった。主人公が状況説明をするが、主人公がどういう人物かの紹介もないので共感もなにもないし、会話の相手も、会話をすすめるためだけの質問を適時入れていくだけ。これは読みすすめるのがちょっとしんどいかなと考えたが、2章からはかなり普通の描写になった。なんでだ?)

No.133 7点 赤の組曲- 土屋隆夫 2022/05/04 18:53
再読。(面白いと思った記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。メインの仕掛けすら忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
メインの仕掛けは、とても好み。これに気づけば、パタパタとすべてがはまるようにできている。いいなぁ、これ。ただ、新本格以降の作品をたくさん読んでいれば、想定の範囲内になってしまうかも。
構成も、(目次にあるとおり)きれいな4章構成。各章毎に、カタリと事件の様相が変わるポイントがあって、飽きさせない。
ただ、別作の感想にも書いたが、土屋隆夫の文学味はやはり好きでない。本作では、(多分当時でも)保守的な考えが散見して、気が削がれるところがあった。動機も「またか」というもので、土屋隆夫の文学的射程はせまいだろうと思う。
とはいえ、それらは少量で、ほぼ「事件の発生と、その解明」に費やされているので、ミステリを楽しむ邪魔にはならない。「ビゼーよ、帰れ。シューマンは待つ」という言葉や、真相に気づくきっかけなど、印象的な部分も多い。土屋隆夫の私的ベストは本作で決まりです。

No.132 4点 エラリー・クイーンの事件簿1- エラリイ・クイーン 2022/05/02 23:50
数十年ぶりの再読。
ノベライズのため、心理描写が薄いからだろう。読み応えが軽い。
・「消えた死体」
元の長編から、事件の構図はそのままで、周辺状況を変更させた作品。
若いときは、タイトルになった「死体を消す理由」が気がきていると感じてかなり評価が高かったが、今回の再読では、それ以外がかなり評価が低い。
エラリーは名探偵らしくないし、警察連中はポンコツだし、オリジナルはこんなキャラじゃないよ、と残念だった。さらに、これはノベライズの悪いところがでてしまったのだと思うが、会話が安っぽいし、味気ない。特に、エラリーとニッキーの会話は、目も当てられない。(事件簿2の「完全犯罪」は、エラリーとニッキーの会話が少なかったので目につかなかったのだと思う)
「死体を消す理由」も、「最終的な落とし所はどうするつもりだった?」という点が疑問で、少し評価がさがった。
総じて、おすすめはできないかな。
・「ペントハウスの謎」
これもノベライズのためだと思うが、エラリーが、違法侵入したり、タクシーで追跡したりと、私立探偵小説の探偵のような行動をして、キャラが違う。ガジェット満載だが、定形のガジェットで面白みは少ない。

ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.52点   採点数: 151件
採点の多い作家(TOP10)
エラリイ・クイーン(20)
レジナルド・ヒル(18)
アンドリュウ・ガーヴ(12)
アガサ・クリスティー(9)
笠井潔(8)
クリスチアナ・ブランド(6)
近藤史恵(5)
ディック・フランシス(5)
東野圭吾(5)
アンソロジー(国内編集者)(5)