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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
玉嶺よふたたび
陳舜臣 出版月: 1969年01月 平均: 5.20点 書評数: 5件

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徳間書店
1969年01月

徳間書店
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1987年11月

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No.5 5点 クリスティ再読 2024/02/12 09:48
陳舜臣の協会賞受賞作(の1本)。
陳舜臣らしいあっさり目の歴史ロマンに殺人とその真相が隠されている話。ミステリってホントはエゲツない色と欲がある世界ではあるけども、陳舜臣は「品がいい」のが強みの作家だ。そこらへんもいわゆる「ミステリ三冠」でとくに直木賞選考委にウケた理由のようにも感じている。
直木賞(1968)に「青玉獅子香炉」で先んじられ、名作の誉れ高い「炎に絵を」が惜しいところで協会賞(1967)を逃したことが響いて、やや変則的に本作と「孔雀の道」で1970年の協会賞受賞となったようなイメージを持っていたよ。とくに本作あたりはミステリとしては小粒というのもあって、「賞って水物」ってものだ...なんて感じるのは仕方がない。
まあそれでも中国で女性を巡る石仏彫刻競争の故事と、日本の菟原処女伝説(謡曲の「求塚」)を日中で重ねて、さらに戦時中の事件とイメージを重ね合わせる技が、ロマンの香りを引き立たせている。ちなみに菟原処女伝説の故事旧跡は陳舜臣の地元神戸にある。

No.4 5点 2019/06/18 09:53
 S県訪中視察団の一員として二十五年ぶりに中国を訪れた入江章介は、訪問希望地として思い出深い江南の磨崖仏を選んだ。『玉嶺五峰』と呼ばれる岩ばかりの山塊にこつこつと掘りつけられた仏身は当時、若かりし頃の入江の胸中にひそむ戦争への反発や、東洋美術史研究者としての古拙なものへの憧憬をこよなく満足させたものだった。
 入江は出発前夜の床の中で、戦時中玉嶺近郊の瑞店荘に二年ばかり滞在したときの思い出と、かれを魅了した下宿先の娘・李映翔の面影を脳裏に蘇らせる。その記憶は当時玉嶺を中心として活動していた抗日ゲリラ、スリーピング・ドラゴンと、入江自身も関係したある殺人に密接に絡むものだった――
 「孔雀の道」と併せ第23回推理作家協会賞を受賞した長編で、1969年発表。ですが分量自体は長めの中編といったところで、力作風の「孔雀」と比べると、こちらは淡彩の小品という趣き。この前後3、4回の協会賞は「受賞作なし」が続いているので、二作での受賞はそういったいきさつがあるのかも。
 長江南岸の日本軍駐屯地近辺を舞台にして、現地守備隊とゲリラとの角逐が点景のように描かれますが、大枠としては中国農村部の叙情的な風景のなかでゲリラに協力する映翔の姿と、ひそかな想いを彼女に寄せる入江の日常描写が中心。清初の著作「玉嶺故事雑考」に記された磨崖仏に纏わる伝説と、時代を越えてそれに重なり合う殺人事件が物語の軸となります。
 骨格はしっかりしているものの、どちらかと言えば短編向きの題材で物足りない感じ。それを無理なく肉付けして長編に仕立てているのは流石ですが。協会賞作品とはいえあまり構えずに、軽い気持ちで読む方が良いかもしれません。

No.3 4点 nukkam 2016/07/03 06:21
(ネタバレなしです) 1969年に発表された本書は小説としてのプロットは非常にしっかり作られており、日中戦争時代の中国という時代背景描写も巧みです。派手な個性表現はありませんが人物の描き分けも見事です。しかし波乱があるとはいえ内容的には恋愛を絡めた旅行記といってよく、あまりミステリーらしくありません。終盤になってやっと犯罪小説風な展開を見せますがミステリーとしては物足りなく感じる人がいるかもしれません。小説要素と謎解き要素のバランスが絶妙だった「枯草の根」(1961年)や「炎に絵を」(1966年)とは全く異質に感じられた作品でした。

No.2 7点 蟷螂の斧 2016/03/07 10:07
(再読)「BOOK」データベースより~『訪中視察団の一員として中国を訪れた東洋美術史専攻の入江は、25年ぶりに玉嶺へと向かう。抗日ゲリラの疑いのあった中国人の娘・映翔を愛し、不可解な別れを味わった思い出の地である。戦火の渦のなかに隠されたその悲恋の真相たる彼女の心境を今ようやく入江は知るのだった。』~

解説・権田萬治氏によれば、「見事なミステリー・ロマンである。」ということです。異論はありません。ミステリーよりロマンスに重点が置かれていますので、ラストは感動しました。ロマンスものに弱いので・・・(苦笑)。「本作」および「孔雀の道」とで1970年日本推理作家協会賞受賞しています。ちなみに、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞、直木賞の三冠王(?)は、現時点で陳舜臣氏、高橋克彦氏、桐野夏生氏、東野圭吾氏の4名だけのようです。

No.1 5点 こう 2008/06/25 23:54
 日本推理作家協会賞受賞作です。裏表紙通りで25年前中国人女性を愛し、不可解な別れをした主人公が25年ぶりに中国の玉嶺に向かう所から始まり、あとはひたすら回想シーンとなります。文庫で250ページ程度ですが最後の5~6ページまで回想部分でその後の数ページで不可解な別れの真相が語られる構成になっています。
 一応伏線もありますが、謎があまり大きくなくそれほどの衝撃はありません。個人的には最後の落ちは小噺の様でした。
 日中戦争当時の回想部分は叙情性豊かに語られておりそこに感動すれば評価は上がるとは思いますし、文章は巧いと思いますが、ミステリとしての評価はそこそこでした。 


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