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[ 短編集(分類不能) ]
青玉獅子香炉
陳舜臣 出版月: 1969年01月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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文藝春秋
1969年01月

文藝春秋
1977年11月

No.3 7点 クリスティ再読 2024/02/21 15:35
さて陳舜臣の直木賞受賞作。当時はミステリの受賞の難度が高いとされていた時代で、ミステリ作家でも非ミステリ系作品での受賞が多かった。陳舜臣は歴史小説も得意としたわけだが、実際にこの短編集は「広義のミステリ」というか、犯罪を媒介にして人間を描く、というタイプの作品集になっている。

中では「小指を追う」が誘拐事件と仏像窃盗の意外な接点を扱って、ややミステリ色が強いかな。重要文化財の仏像を「3000万円くらい価値がある」と紹介したことで、金無垢だと誤解して盗んだ少年院帰りの不良少年。結城昌治とか書きそうな話。他の話は太湖石(「太湖帰田石」)、サンダカンでのラワン材貿易(「年輪のない木」)、バーミヤンの石窟仏像(「カーブルへの道」)と、広くアジア文化を扱って陳舜臣らしい視野の広い話が続く。

やはり表題作「青玉獅子香炉」が力作なのは当然。故宮博物館歴史秘話といった体裁で、贋作を作った職人がその香炉に執着し続けて、故宮の文物と共に中国を彷徨する話。やはりスケール感がいい。「玉」って人肌のような潤いと滑らかさがあるもので、それを師匠の息子の嫁への恋情を重ねて、女性に玉を抱かせて細工をする職人の奇矯な仕事振りなど、妙に納得するところがある。故宮博物館に行ったことがあれば、さらに趣き深い作品になると思うよ。

中学生くらいの頃に評者この本を読んだことがある。そうしてみるとそれから45年くらいぶりの再会になる。「青玉獅子香炉」の主人公が自身の作品とのすれ違いドラマを演じるさまに、自分とこの本との関係を重ねていることに気がつく。個人的な話にはなるが自分自身を面白く感じている。

No.2 6点 蟷螂の斧 2021/11/23 09:39
~動乱の世には眼もくれず、佳人の面影をひたすら託した自作の玉器を、ひとすじに追い求める工芸師の三十余年にわたる執念を描いた直木賞受賞作~
 表題作のみの評価。レオナルド・ダ・ヴィンチがモナ・リザを死ぬまで手元に置いていたというエピソードに通じるものがあります。主人公の香炉はもう誰のものでもなく、ただ「美」として存在するということでしょう。そして、こんな恋愛もあるという小説だと思います。本作はミステリーとは言えないと感じ評価は4点、でも小説の良さは8点。解説によると「贋作をめぐるサスペンスとして推理小説の一種と考えていいのではないか」とあったので、真ん中をとり6点としました。

No.1 6点 2019/05/07 02:23
 "モノ"に憑かれた人々、あるいは「物」に纏わる事件で構成された、一中編四短編を収録する作品集。第60回直木賞受賞作にして作者の代表作の一つである表題作がやはりピカイチ。
 清王朝の崩壊、辛亥革命から日中戦争、国共合作から太平洋戦争、そして内戦の再開とその終了を経た激動の近代中国史を背景にして故宮博物院の文物の流転を描きながら、ただその中の一品、己が魂を吹き込んだ「青玉獅子香炉」の行方を見つめ続ける青年の、約40年余りの人生とその再生を書ききったもの。
 1920年(大正九年)、北京正陽門外西の琉璃廠で潤古堂を営む王福生は、紫禁城の文物をコッソリ売却した宦官から、玉製香炉の複製を依頼される。彼は一世一代の傑作を作ることを熱望していたが、宦官が指差した玉は、その材料として選ばれた福生秘蔵の品だった。
 王は自分ももはや若くないと仕事を引き受けるがまもなく病に倒れ、玉器の製作は愛弟子・李同源に受け継がれる。同源は才能ある工人だったが、師匠の執念の籠もった名玉を前にしてはただ慄くしかなかった。
 既に物故していた福生にはある奇癖があった。玉がほんとうに生きるためには、女性の肌からエッセンスを吸い取らねばならない。彼は彫りつつある玉を、いつも女性に抱かせた。
 玉を彫ることができない同源を見つめる福生の義理の娘・程素英は一と晩じゅうその膚に青玉を抱き、彼女の見つめる中彼は見事に「青玉獅子香炉」を彫り上げる。だが、李の魂は素英への思慕と共に、香炉に吸い上げられてしまったと言ってもよかった。
 紫禁城に収蔵される香炉。同源は故宮博物院の前身である『清室前後委員会』の職員となり、香炉を見守りながら約四十年間、収蔵品と共に中国大陸を転々とするのだった・・・
 これは絶品。どちらかと言えば歴史小説に近いものですが、工芸に魂を絡め取られた一職人の流転の生涯が静かな感動を呼びます。戦火に伴って移動し続ける美術品の史実も興味深いもの。ラストで獅子香炉に再会した同源は、四十年に渡る呪縛から解き放たれたと解釈すれば良いのでしょうか。収録作が全てこのレベルならメモリアル級短編集なのですが、さすがにそれは無理というものでしょう。
 次点はラワン材に憑かれた老人の復讐劇「年輪のない木」と、ユーモアの利いたオチの仏像盗難事件「小指を追う」。他も悪くはないですが、総合すると6点作品。


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