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[ 本格/新本格 ]
割れる 陶展文の推理
陶展文
陳舜臣 出版月: 1978年01月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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角川書店
1978年01月

徳間書店
1987年03月

No.2 6点 2019/08/20 03:23
 岩佐商事株式会社香港支店のタイピスト林宝媛は、十五年まえ留学でアメリカに渡ったきり消息を絶った兄・東策を探すため、一か月の休暇をもらい日本に渡った。有望な青年学者として家族の期待を一身に受けていた彼は、母国の政治情勢に動揺し突然商人に転進したのだ。少なからぬ額の金を米ドルで二度ほど送金したあと、ニューヨークをひき払ってサンフランシスコへ行くつもりだというのが最後の手紙だった。
 なんどもアメリカへ出した便りはみな差し戻され、兄との音信はつかないまま。ただ一人だけ『林東策という留学生あがりの中国人が、日本へ行きたいと言っていた、――そんな話をきいたことがある』と知らせてくれた人がいる。宝媛はそんなあやふやな情報を頼りに、はるばる神戸にやって来たのだった。
 神戸支店の元駐在員三浦達夫の斡旋で、同じビルの地階にある桃源亭主人・陶展文宅の離れを借りることになった宝媛だったが、彼女に好意を持った家主の展文は、ツテを辿って東策の行方を探そうと申し出る。係官の知り合いに頼んで外国人登録の原簿を調べるのだ。
 二人は手分けして林姓の在住者に当たるが半月後の朝、突然展文宅に生田署の神尾警部から電話がかかってくる。神戸の一流ホテル、イースタンで殺人事件がおきたのだ。被害者は知り合いの光和アパート主人・王同平。そして彼を撲殺したあとホテルから姿を消したのは、東京在住の中国人実業家となった林東策だった。ここしばらく彼のことを調べていたのが、警察の注意を惹いたのだ。陶展文は宝媛を励ますと共に、三浦や弟子の新聞記者・小島の協力を得て東策の嫌疑を晴らそうとするが――
 陳舜臣の第五長編。陶展文シリーズとしては「三色の家」に続く三作目で、いずれも同年1962年の発表。短めですが謎解き部分のアリバイ崩し以外詰め込んだ感は無く、複数の要素を絡めながらむしろ悠々と筆を進めています。先の展文もの二長編のゴツゴツした手触りに比べて余裕が増し、より手馴れた捌き具合。後の名作「炎に絵を」に通じる味わいもあります。
 肝心の展文の推理は「こう考えるのが最も自然」といった程度でさほど強力ではありませんが、筋運びは「弓の部屋」の流れを受けて格段に上手い。もっともあちらほど魅力的なトリックではないですが。
 難点を言えば、犯人がメインの偽装工作に寄り掛かり過ぎていることでしょうか。作中にも「もろいアリバイ」という言葉が出てきますが、このあたり少々安易な気がします。

No.1 5点 kanamori 2010/05/26 22:49
中国料理店店主・陶展文シリーズの第3作。
香港から来日した中国人女性と行方不明の兄の殺人容疑を絡めた本格ミステリです。
小品で派手なトリックがないのが物足りない。副題にあるような陶展文の理詰めの推理が堪能できたか微妙です。


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