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[ 本格/新本格 ]
三色の家
陶展文
陳舜臣 出版月: 1962年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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講談社
1962年01月

講談社
1978年12月

講談社
1988年01月

扶桑社
2002年11月

No.3 6点 nukkam 2021/03/11 21:29
(ネタバレなしです) デビュー作の「枯草の根」(1961年)で手応えを感じたのでしょう。1962年の陳舜臣の創作意欲は燃え上がり、陶展文シリーズ第2作の本書、非シリーズの「弓の部屋」、陶展文シリーズ第3作の「割れる」、非シリーズの「怒りの菩薩」、そして短編集「方壺園」が矢継ぎ早に発表されました。本書の作中時代は1933年、留学生だった陶展文は大学を卒業して帰国の準備中という設定です。青春小説要素はあまりありませんが陶展文が自分のことを「ぼく」と呼んだりして若さは十分に感じられます。殺人現場から誰にも目撃されずに消えた犯人という不可能犯罪要素はありますがプロット展開は非常に地味です。日本人や中国人が多数入り乱れますので登場人物リストを作って整理することを勧めます。トリックは小手先感が強いですが陶展文の推理はなかなか理詰めです。

No.2 6点 2019/05/25 06:08
 昭和八年三月の末。中国人留学生陶展文は大学の法学部を卒業し、帰国のための荷造りを終えていた。そんな折彼は、寮でまる三年間同室暮らしだった在留華僑の子弟、喬世修からの「こちらにすぐ飛んできてくれ」と書かれた速達を受け取る。彼の父・全祥が病死したのだ。展文はその晩の夜行で、世修のもとに向かった。
 新たに乾物会社・同順泰公司の主人となった世修の頼みは、突然あらわれた異腹の兄・世治の尻尾をつかまえてほしいというものだった。亡父全祥は母国の妻をすてて逃げ出したあと、神戸で再婚したのだが、妻とともに置き去りにした息子がその『兄貴』喬世治だという。かれを迎えた父の態度もなんだかおかしく、田舎者のふれこみにしては日本語も英語も解するようだ。おまけに妹の純が、この兄貴に夢中なのだ。
 妻子を捨てたばかりでなく、国にいた頃の喬全祥にはよからぬ噂があった。渡し舟の船頭時代に或る金持を乗せたとき、助手の杜自忠と組んで金持を殺し、携えていた金を盗んで逐電したというのだ。その自忠は公司でコックとなり、番頭の呉欽平をさしおき全祥の腹心として振舞っていた。展文は友人の請いを要れ、しばらく公司に泊り込むことにした。
 同順泰は赤煉瓦の一階倉庫、白色モルタルの二階部分、青色ペンキのトタン板で囲った三階部分があることから『三色の家』と呼ばれている。展文が客となってまもなく建物三階の海産物干し場で、日課の昼寝をしていた杜自忠が頭を割られた死体となって発見された。だが殺害時刻には女中の銀子や同順泰の労務者たち、近隣の桑野商店、関西組の労務者たちが作業中で、干し場は一種の密室状態だった・・・
 第7回江戸川乱歩賞受賞作「枯草の根」を受けた受賞後第一作。1962年発表。前作に引き続き名探偵・陶展文が登場しますが、こちらは彼が二十代の頃の事件。シチュエーションもさることながら折りにふれ描かれる海産物問屋の作業風景が生々しく、物語に彩りを添えます。
 父を殺されたとおぼしき桑野商店の店員・郭文昇、気になる目つきの関西組の黒子の男・佐藤など怪しい人物もわらわら。『兄貴』の正体は妹さんがのぼせあがってる事からまあ見当は付きますが。
 現場入口には女中が腰を据え、取引先の桑野商店と繋がる梯子の下にはナカマ、オンナと呼ばれる労務者たちが。現場に至るルートは完全に封鎖されているのですが、それを掻い潜るトリックはさほど鮮やかではありません。後半部分で付け加えられるもう一つの消失事件も地味で、手堅く作られているとはいえ、少しは華がほしいところ。ただ解決直前に提示されるダミーの真相には、ものの見事にひっかかりました。全般に人工性よりも濃厚な生活臭を感じさせる作品です。ラストシーンから「陶展文自身の事件」みたいな所もありますね。

No.1 6点 kanamori 2010/05/26 18:25
陶展文20歳代の青春時代、昭和ひと桁の神戸を舞台とする本格ミステリ。
シリーズ第2作でいきなり番外編を書くのは異例だと思いますが、他の作品でもいくつかこの時代の神戸を舞台にした作品があるので、作者の思い入れがあってのことだと推測します。
密室からの二つの消失トリックは、あまり巧妙とは思いませんが、試行錯誤の上犯人を特定するロジックは面白いと思いました。


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