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[ 本格/新本格 ]
黒き舞楽
泡坂妻夫 出版月: 1990年03月 平均: 7.14点 書評数: 7件

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白水社
1990年03月

新潮社
1993年12月

No.7 6点 メルカトル 2021/08/01 22:27
東京郊外の都市で一刀彫りの郷土人形を作る旧家に嫁いだ女性が次々に不審な死を遂げる。最初の妻は交通事故に遭って家に戻ったその晩に、二番目の妻は心臓発作で急死。どちらの場合も夫は不在だったという。その家には江戸時代から伝わる美しい浄瑠璃人形があり、それにはただならぬ因縁が絡んでいるらしい…。謎と官能に彩られた男女の異形の愛を描きだした禁断の恋愛ミステリー。
『BOOK』データベースより。

短い中で色々詰め込み過ぎて、途中方向性を見失いかけました。確かな謎が中心に据えられているのに、直接触れようとはせず周りから徐々に埋めていく手法は、好悪が分かれそうなところだと思います。作者らしい浄瑠璃人形に対する執着ぶりにはなるほどと思わせますが、事件との繋がりに尤もらしさが感じられません。トリックらしきものはあるものの、付け足しの様なものです。

普段からホラーもそれなりに読んでいる私には、残念ながら真相に対する驚きはありませんでした。世の中には様々な愛の形が存在している訳で、決して本作の様な愛が歪んだものだとは思いません。古来からこういった人間のさがは結構描かれており、これもかなり古いですが、今更取り立てて称賛する程の作品とは言えないと思います。

No.6 7点 2020/06/15 09:03
 東京近郊の目岩では毎年、一月十五日の小正月には小学校の近くにある八窪神社の境内に、正月用の飾り物などが運び込まれて焼かれる。それが小正月のどんど焼きである。劇団あぷるの真枝からの封書を燃やしに神社を訪れた研石小学校の女教師・胡島奏江は、昔の教え子の照山純から、同級生の目岩一刀彫筧屋主人、銛口繁雄の妻・森三千代が、心臓病で入院すると知らされる。三千代は繁雄の再婚相手で、先妻の房子は事故で亡くなったとのことだった。
 その翌日奏江は電話で、どんど焼きに出された古い行李の中に、由緒ありそうな浄瑠璃人形が新しく二体も見付かったと伝えられる。それは三人で一体を動かす文楽とは違う種類の〈目岩人形〉と呼ばれるもので、独自の操法によって演じられるその調査は、これからの課題となっていた。彼女は電話をくれた教育委員会の阿尾木晴香とともに、八窪神社での人形改めに立ち会う。若い立役頭と女形の人形、雅のうちにも野趣を持つ貴重な人形はなぜ、誰の手によって捨てられたのか?
 その一週間後に三千代は死んだ。また人形の入っていた行李からは、江戸期の手紙が現れる。それは浅草の曾根駒太夫という人物へ宛てた手紙だった。当時目岩にいた駒太夫の寄宿先は、筧屋東之助といった。とすると浄瑠璃人形は、元々銛口繁雄の家に伝えられていたのだろうか。
 奏江は十数年ぶりに繁雄に再会し人形のことを尋ねるが、やはり江戸から来た人形遣いが残していった品だという。そして繁雄に好かれていたそのお夏人形を捨てたのは、妻の三千代だった。彼女は夫に黙って、お夏を処分しようとしたのだった。
 その年の秋、銛口繁雄と阿尾木晴香は祝言をあげた。だが翌年彼女は喀血し、夏休みが終わって間もない、九月八日に息を引き取った。二番目の妻である三千代と同じように――
 『斜光』に続き1990年3月に出版された、泡坂妻夫のノンシリーズ第十一長編。海方・小湊シリーズ第一作『死者の輪舞』を含めれば、作者の第十二長編という事になります。ちなみに第二作『毒薬の輪舞』はこのちょうど一ヶ月後、1990年の4月に刊行。日影丈吉『泥汽車』と同じく、白水社「物語の王国」シリーズの一冊でもあります。
 第三長編『湖底のまつり』以来連綿と書き継がれてきた、泡坂官能ミステリーの到達点。この後第十七長編『弓形の月』がありますが、完成度的にはこれが一番でしょう。長さ的には中編程度ですが、ある青年の妻が次々変死していく謎に先祖からの因縁模様が絡み、やがて性愛の極みともいうべき結末を迎えます。小学校教師である奏江が、繁雄たちを幼少期から見つめてきたという設定が出色。『斜光』と同じく母性愛も入ってますねコレ。
 乱歩のアレよりも木々高太郎のある短編を思い出しました。加害者と被害者との快楽とも恐怖ともつかぬ死の交情。短めですが濃密な作品です。

No.5 7点 fareastnorthern 2017/01/28 18:22
泡坂妻夫でなければ描けない純和風な世界観の中での、
恋愛官能ミステリーとサイコホラーの合わせ技。
都筑道夫の雪崩連太郎シリーズにも似たモチーフの作品があり、そちらもオススメです。

No.4 7点 蟷螂の斧 2014/01/07 18:33
(ネタバレあり)裏表紙「謎と官能に彩られた男女の異形の愛を描き出した禁断の恋愛ミステリー」とありますが、異形の愛というより、異形の性の印象が強かったですね。小学生時代の出来事が、うまい伏線になっていました。浄瑠璃人形の因縁がうまく絡み合っていると思います。

No.3 7点 kanamori 2010/08/18 17:48
青年人形師の妻が次々と不審死していく謎に、古い浄瑠璃人形の因縁話を絡めた恋愛風ミステリ。
人形師の小学生時代に教師だった30代の女性の視点で、地方都市の人間関係が語られていきます。連続する死が描かれているものの、女性の母親の造形など日常の情景が読み心地のいい香気をはなっていましたが、最終章で明らかになる真相には唖然となりました。本書は”特異な愛のカタチ”を追及してきた作者のミステリにおける到達点といえる作品だと思います。

No.2 6点 2009/05/19 23:02
これは凄い。これが究極の愛なのだろうか。
中篇で、プロットは一見単純だが、だからこそ謎は重なり合ってくる。そして体が震えるほどの真相がラストに明かされる。伏線の張り方も実にうまい。
歪んだ愛、それを受け入れる女性たち。こんな女性たちを理解できない、リアリティに欠けるなんて批判したら、笑われそうだし、逆に批判を受けそうだ。

No.1 10点 Tetchy 2007/10/23 19:23
呆然。
真相が語られる最終章20ページは、途轍もない内容。
しかもそれが理解できる、いや共感できるが故に恐ろしい。
論理などという左脳的驚愕ではなく、狂おしいほどの愛情という情念の、右脳的驚愕とでも云おうか。
なぜこれが今絶版!?勿体無い!


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