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[ サスペンス ]
弓形の月
泡坂妻夫 出版月: 1994年04月 平均: 4.50点 書評数: 4件

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双葉社
1994年04月

双葉社
1996年08月

No.4 5点 虫暮部 2020/07/31 12:20
 ミステリをとろとろ煮込んで、半分煮崩れたところでハイどうぞ。スープは珍味だけど具の歯応えは無くなっちゃった。両方の美味さを具有するタイミングで火を止めるのは難しいんだろうなぁ。

 真吹三津雄の血縁つながりでの関係者と、劇団つながりでの関係者が、同じマンションに住んでいて互いにそれと知らずに知り合いになっている。これはどうも御都合主義的。現実には有り得るその手の偶然も、フィクションだと私は気になる。
 本作に限らないが、泡坂作品は隙あらば和服の販促小説になるので苦笑。

No.3 7点 2019/12/21 11:59
 間違って配達された速達を届けに、同じワンルームマンション居住者の小川弓子を訪れた五月は、ドアが閉まる間際封も切られずに捨てられているそれを見て軽い衝撃を覚える。その二日後ある試験を受けにいく途次、五月は階下のごみ集積場から離れて行く弓子に気付いた。無意識のうちにポリ袋から問題の封筒を取り出す五月。それは開封されていなかった。そのまま後を追けていくと、ラッシュアワーが一段落した駅前で若い女性と抱き合う弓子の姿が見えた。彼女は弓子に激しく頬をすり寄せていた。
 サインペンで書かれた封を切ると、便箋にはカタカナで暗号めいた文面が書かれている。差出人の〈李京久重〉という人物と弓子はある鍵によって、二人だけの間で意志の疎通を図っていたらしい。彼らがその内容を第三者に知られることを極度に恐れている、ということだけは判った。
 東海道新幹線に乗り換え三島駅に着いた五月は、劇団「孔雀座」主宰の真吹三津雄に出迎えられる。真吹と共に車で〈試験場〉の山荘「桂華荘」へと向かう五月。このテストに合格すれば、今度の芝居の主役に抜擢されるのだ。失敗は許されない。
 今は彼の手を離れているものの、三津雄の亡き父である日本画家・真吹蘭秋が建てた桂華荘。二日前の出来事とこの建物での出会い、そして謎の封筒の発信元である蘭秋がこよなく愛した小笠原の離島・知足島が、決定的に自らの運命を変えるとは、五月には知るよしもなかった・・・
 『小説推理』1994年1、2月号掲載。「湖底のまつり」以降連綿と書き継がれてきたセクシャル系の集大成で、おそらく泡坂妻夫最大の問題作。初読の際には「えええ?」「なにこれ!?」という感じでハッキリ言ってパニック状態でしたが、じっくり読めば非常に注意深い筆致で書かれた作品なのが分かります。
 ラストでは一見して幻想小説に転化しているように見えますが、五月が小学校に入る前、意識を失い呼び戻された体験談が大きな伏線として敷かれており、これをいまわの際の幻視と解釈すれば齟齬は生じません(呼びかけに芙二子は返事をしていますが、五月は拒否しています)。「湖底~」や「妖女のねむり」のように全てが合理的に説明される訳ではありませんが。おそらくより深く主題に迫るために、民族学的アプローチを選択したのでしょう。序盤の〈おふりかわり〉や暗号部分も、あくまでそれを補強する道具の一つです。
 果たしてX→Yのような医学的事例が実在するのかは分かりませんが、本書刊行時の『驚愕の結末!』という惹句は明らかに出版者側のフカシ。そういった意外性で勝負する作品ではありません。薀蓄がややくどくはありますが、運命的なストーリー展開から来る偶然や暗合の多さ以外の部分は、舞台設定その他を含め周到に構築されています。

No.2 4点 kanamori 2010/08/19 17:30
二人の女性を中心にした”特異な愛のカタチ”が主題のミステリで、扱われているネタは「湖底のまつり」と共有するものです。
しかしながら、「湖底のまつり」は終始幻想的な雰囲気の中で展開するものの、最後は論理的に閉じる物語だったのに対し、本書は通常のミステリが最後は幻想ミステリになってしまいます(そのように理解しました)。その点が、ちょっと嗜好を外れていて楽しめませんでした。

No.1 2点 Tetchy 2007/11/01 18:05
当時『このミス』で驚愕の結末!と謳われていたが、何が驚愕なのか、わからなかった。
もしかして「あの人」=「この人」ってこと?


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