皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 夜と霧の誘拐 矢吹駆シリーズ |
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笠井潔 | 出版月: 2025年04月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
![]() 講談社 2025年04月 |
No.2 | 6点 | nukkam | 2025/07/09 05:45 |
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(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズ第8作となる本格派推理小説で、前作の「煉獄の時」(2022年)と同じように雑誌連載版(2010年)から改訂作業に時間をたっぷりかけ、単行本出版は2025年になりました。「哲学者の密室」(1992年)のダッソー家が再登場し、誘拐事件と殺人事件の2つが絡み合います。前半のカケルは謎解きよりも哲学議論の方で目立っていますが、それでも中盤でのアドバイスで謎解きが大きく前進します。7つの疑問点を列挙しているところは「バイバイ、エンジェル」(1979年)を連想させます。哲学議論は私には難解過ぎですがシリーズ作品中では控え目な方で、読みやすいということはさんのご講評に賛同します。といっても大作なので読書時間はそれなりに求められますが。某米国作家の1930年代の本格派推理小説をもっと複雑で緻密にしたような真相が印象的です。最後の数行の哀愁漂う演出も巧みで、こちらについてはクリフォード・ウィッティングの「知られたくなかった男」(1939年)が頭に浮かびました。 |
No.1 | 8点 | ことは | 2025/05/05 11:40 |
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期待以上に面白かった。「哲学者の密室」以降の大作の中では、ミステリ的構成は最も充実していると思う。
序盤にタイトル通りに誘拐が起きるのだが、並行して別の事件が語られる。この2つの事件がどう繋がるのか、興味をひかせながら、身代金の受け渡しがサスペンスフルに進行していく。すると、身代金の受け渡しの終盤に、意外な形で事件がつながる。いや、ここからなかなかよい。 さらに、本書の中盤にカケルが提示する構図が、かなり魅力的。途中で気づく人も多いと思うが、私は気づけなかったので、「おぉ、なるほど」と胸の中で声を出してしまった。その上、本書の終盤では、それを踏まえて、何回も構図を変えて見せる。これは力作。 分刻みで事件の進行を検討するので、ここはかなり気合が必要だが、それに見合う読み応えがある。 思想部分について、本作では犯人の動機の拠り所となるものであるが、それ以上に関わっていなくて、判りやすく整理されていて、読みやすい。構成的には、序章、中盤、終章の三箇所で、「バイバイ、エンジェル」のテロリズムの問題を引き継ぐ形で、第二次大戦後の政治的分析が行われるが、それ以外はあまりページを割かれず、事件の進行を妨げない。シリーズの中でもかなり読みやすいと思う ただ、本シリーズは10作で完結とのことだが、イリイチとの対決はあまり進行した感じはなく、この対決がシリーズできれいに完結するのか、すこし心配になった。 |