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[ 本格/新本格 ]
オイディプス症候群
矢吹駆シリーズ
笠井潔 出版月: 2002年03月 平均: 6.31点 書評数: 13件

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光文社
2002年03月

光文社
2006年10月

光文社
2008年11月

東京創元社
2022年11月

No.13 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ 2022/08/09 14:41
七〇年代後半、ギリシャの孤島に集まった男女十二人が次々に殺される。奇病オイディプス症候群をめぐる謎とギリシャ神話への言及、そして宿敵の国際テロリストの影が絡み合う難事件に、ナディアと矢吹駆コンビが挑む。
お約束の、駆の独断的な現象学的直感は健在だが、あまり鼻につかない。推理小説の成立のネタに単純な権力論が展開され、モデルを知る人は楽しく読めるだろう。

No.12 8点 じきる 2021/12/22 18:42
前作同様、思想哲学部分とミステリ部分のグルーヴ感が心地良く、作中の哲学論をクローズドサークルという舞台で演出する手腕が鮮やか。ミステリの大筋も不満点が無い訳ではありませんが、満足出来るものでした。
語りがくどいのが瑕だけど、まぁ笠井潔なのでと個人的には割り切ってます。

No.11 6点 2021/09/17 20:45
 中央アフリカ・ザイールのアブバジで発見された新種の流行病。その奇病に冒されたパストゥール研究所の青年ウイルス学者にしてリセ時代の旧友、フランソワ・デュヴァルに頼まれ、ナディア・モガールと矢吹駆は急遽アテネに向かう。目的はフランソワたちの成果であるアブバジ病の研究報告書を、共同研究者のピエール・マドック博士に届けるため。だが博士はなぜか指定場所のアテネを離れ、クレタ島南岸に浮かぶ孤島〈タウロクラニア〉こと牛首(ミノタウロス)島に渡っていた。
 彼を追い対岸のスファキオン村に到着したナディアたちの前で起こった、突然のホテル宿泊客墜死。その裏でまたも蠢く悪霊、ニコライ・イリイチの影。そして岩だらけの小島に集められた、ナディアとカケルを含む十二名の男女たち。彼らを迎える最初の晩餐のさなか、古代クノッソス宮殿を模した豪奢な別荘「ダイダロス館」で早くも血塗られた惨劇が・・・。圧倒的迫力とミステリの魅力溢れる本格推理傑作、待望の文庫化!
 隔月刊誌『EQ』1993年9月号~1994年11月号連載分に大幅加筆して2002年に発表された、矢吹駆シリーズ第五作。初期バージョンの掲載から刊行まで九年以上、前作『哲学者の密室』からは丸十年が経過している。
 終盤辺りいんちき臭さが目立つが、基本的には本格的なクローズドサークル型の犯人当て作品。九人もの犠牲者が転がる中風変わりな凶器の手掛かりを中心に、序盤からしっかりした構想に基づいて哲学論や舞台背景、及び過去エピソードが配置されており、『探偵小説論序説』と並んで2003年度第3回本格ミステリ大賞を受賞している事からも分かる通り、内容的にはそこまで過去作に劣らない(次作『吸血鬼と精神分析』で一気にガタ落ちした感はある)。
 ただしウイルスその他一部題材の向き不向きは否めず、特に悠長な哲学論と孤島サスペンスの食い合わせは最悪。第七章では主人公二人にミシェル・フーコーモデルの哲学者を加えた権力論が展開されるのだが、哲学部分のハイライトとはいえ、四人も殺されてるのにそんなもん語り合う余裕なんてあんのか? と思ってしまう。あまり重要でもないギリシャ神話絡みの薀蓄や、『バイバイ~』『サマー~』の回想抜粋も同様。そのまま抜き出さずとも、著者ならばいくらでも刈り込めただろう。他はともかく、ノッてきた解決部分に来てのこのくどさはかなり苦痛だった。
 他にもヴィラ・アリアドネの件など苦しい処理もあり、完成度はここまでの五作中最も落ちる印象。相変わらずナディアの事など眼中に無いカケルの真意と、皮肉極まるマニキュアのオチは良かったが。それでも孤島物だけあって、読んでるウチは結構楽しめる小説である。

No.10 5点 ぷちレコード 2020/08/26 20:10
クローズド・サークルテーマの変型と思われていた「孤島ミステリ」に哲学的なアプローチを試み、それを壮大な思索小説にまで昇華させている。
語りはしばしば渋滞し、全体の仕組みも見えにくいので読む人を選ぶ小説といえるでしょう。

No.9 7点 ことは 2019/11/17 13:20
哲学者の密室を期待すると、思想部分とミステリ部分が乖離している気がする。
でもこの作品から、ナディアの心情にフォーカスしてきて、小説的な面白さを出そうとしているように思う。
シリーズでは、この時点では一番下と思う。6点と迷った7点。
雑誌連載時は、駆が島にわたっていないとのことで、いつか「初版版」なんてでないかなぁ。雑誌連載時のほうが面白いって意見もあるみたいだしね。

No.8 6点 文生 2017/11/05 22:17
哲学者の密室でハイデガーの実存主義をテーマにしたのに対して本作ではフーコーの構造主義が主題となっている。ただ、哲学者の密室が事件の謎と実存主義の思想が密接に結びついていたのに対して、本作は両者の関係がやや遊離している点が完成度を低くしていると言えるだろう。それでも、個人的には推理と哲学論議を強引に結びつけていない分、本作の方が読みやすく、肩の力を抜いて楽しめることができた。本格ミステリとしてもまずまずの出来で、哲学論議も実存主義よりは構造主義の方が興味深いものがあった。まあ、せっかくの孤島ものなのにサスペンス感があまりなかったのはどうかと思うけれども

No.7 4点 nukkam 2016/02/03 14:03
(ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズは第3作の「薔薇の女」(1983年)と第4作の「哲学者の密室」(1992年)の間に長期間の空白がありましたが、シリーズ第5作である本書も2002年の出版とこれまた久方ぶりです。光文社文庫版で上下巻合わせて1000ページを超す大作の本格派推理小説で内容も濃厚です。このシリーズの特色である哲学に加えて、神話や性愛に関する議論がびっしりと作中に織り込まれています。ただ過去のシリーズ作品に比べてそれらの議論と謎解きとの関連性が弱いように感じられ、無用に長大な作品になってしまったような気がします。また読者へのフェアプレーを意識したのでしょうが、早い段階で共犯者や便乗殺人の可能性が指摘されるのですが、そこまで可能性を広げられると私のような凡庸な読者では真相を当てようとする気になりません(理解するのも難儀でした)。過去作品のネタバラシをする悪癖は相変わらずで、「バイバイ、エンジェル」(1979年)や「薔薇の女」の犯人名を明かしています。これは本当にやめてほしいです。

No.6 7点 rintaro 2010/09/02 01:52
 「孤島の連続殺人」における被害者(候補者)と犯人の「見る」「見られる」の権力関係をフーコーの一望監視装置と結び付ける発想は面白いと思いました。しかし、フーコーの思想それ自体については、以前の作品でとりあげられていた哲学者や思想家ほど深く考察されていない点で少し不満を感じました。
その一方でギリシア神話についての蘊蓄が少々多すぎるうえ、結局事件とそれほど深くかかわってくるわけではないので、ここはもっと刈り取ったほうがいいと思いました。
密室トリックや意外な犯人は一応水準以上のものはあった思います。ということで6点
さらにフーコーに擬したキャラクターが物語の後半になかなかの活躍を見せてくれ点が個人的にうれしかったので+1点です。
(前作のハイデッガーの扱いはひどかったです、、)

No.5 5点 VOLKS 2009/01/04 23:35
途中、本を持ったまま何度寝そうになったことか・・・(汗)
とにかく長い。正直、無駄に長い気がした。
殺人の経緯、その心理には納得する部分も多かったが、カケルの魅力も今回は薄れていたことと
とにかく登場人物達の会話(アソビ)の部分が長過ぎて辟易せざるを得なかった。
そしてただただ驚いたのは、事件のきっかけ。

No.4 7点 イオン 2004/03/31 21:47
意外といえば以外な犯人だが・・・・。そんなことより、せっかくの孤島と館なのだから、もう少し盛り上げるなり工夫してほしかった。

No.3 6点 ドラキュリア 2002/07/31 15:45
読んでまず最初に、京極夏彦の『鉄鼠の檻』に似ていると思った。おそらく著者も少し意識したのだろう。
全体的には力作である。テーマは最後までずれることがなかったし、”孤島”をこのように扱うのもなかなか独創的だった。笠井潔はもともと重厚な描写をする作家であるが、今回は不要な会話やありきたりな展開が目立った。それに矢吹駆の存在感が薄かったと感じた人は多かったと思う。雑誌掲載時は矢吹駆は物語の最後にしか登場しなかったらしい。それを書き直すのにこれだけの年月がかかったらしが、そのせいもあるのかもしれない。
前作『哲学者の密室』の後にどのようなものを出すのか楽しみだったが、期待を裏切らない出来だった。『オイディプス症候群』の素材や思想は笠井潔に馴染みの薄いものだと思うかもしれないが、決して付焼刃や一発モノではない。

No.2 8点 okuyama 2002/07/29 16:15
状況は「そして誰もいなくなった」で動機は「オリエント急行」らしい、そしてシリーズものということもあって、重い話ながら先へ先へとズンズン読めました。「お約束」が好きな方にお勧めです。
動機も犯人もトリックも十分納得です。ミステリの骨格がしっかり作られている上で、さらにギリシャ神話やフーコーとの思想対決、AIDSといったトピックも魅力的ですね(長いけど)。10年前の雑誌掲載当時に読んでいたら、もっと衝撃が大きかったと思います。

No.1 7点 フリップ村上 2002/07/15 23:20
畢生の大作ともいうべき『哲学者の密室』に比べると、正直ツライかな。孤立した島での連続殺人に対する《本質直観》も、シリーズ前作における《密室の本質直観》ほどの説得力はなし。笠井潔と名を聞けば、正面切って批判するのも勇気がいるが、ミステリーとしての出来は……。
でも、それでも良いの。なぜってこれは矢吹駆というスーパー・ヒーローを主役にした冒険小説なのだし、自意識過剰のフランス娘の一人称による大河すれ違いロマンスなのだから。本筋そのものより、ほとんど《ダーク・ピット》シリーズ並みに大風呂敷のイリイチの陰謀と、揺れ動くナディアの恋心が読みどころと断言しちゃいましょう!


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