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ʖˋ ၊၂ ਡさん
平均点: 6.05点 書評数: 128件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.128 10点 方舟- 夕木春央 2026/05/18 13:14
ペッパー警部さんへ

ペッパー警部さんの疑問にお答えします。

一見すると、閉じ込められている最中にリアルタイムで「僕」が記録を書いているようにも読めます。しかし実際には、その前提自体が読者の思い込みなのです。最も整合的なのは、事件後に生還した「僕」が回想として書いたという解釈です。
では、なぜ読者はその場で書いたと感じるのかは、叙述の巧妙さです。文章が現在進行形で緊迫感があるため、自然にこの記録は事件中に書かれていると錯覚します。しかしこれは、主人公を信用できる語り手だと思わせる演出でもあります。もし、作中で「生還後の手記」ですと明示してしまうと、ラストの衝撃が弱くなってしまう可能性があります。分かっていただけたでしょうか?
疑問は解消された場合、改めて採点し直すとのことでしたので投稿しました。

No.127 10点 方舟- 夕木春央 2026/05/18 13:04
①極限状況とミステリを融合させた設定の巧みさ。
誰か一人が犠牲にならなければ助からないという状況設定が強烈で、サバイバルそのものが物語の推進力となっている。水没までのタイムリミットが迫るという構図が、読者に強い緊張感を与えている。
②ラストの衝撃と伏線回収。
最後の数ページで作品全体の見え方が変わる構成を高く評価したい。読み返すと伏線が丁寧に配置されていることが分かる。
③犯人探しに倫理的問題を組み込んだ点。
倫理と推理の結合が作品の独自性として評価したい。
④登場人同士の疑心暗鬼の描写。
閉鎖空間で徐々に信頼関係が崩れていく過程が巧みで、サスペンス性が非常に高い。パニックホラー的な空気もあり、本格ミステリに留まらない読み味がある。
⑤読後にタイトルの意味が変わる構成。
「方舟」というタイトル自体が象徴的で、読後には救済や選別といったテーマが強く浮かび上がります。単なるギミック小説ではなく、「誰が生き残る資格があるのか」という後味の悪さや余韻まで含めて印象に残る。

No.126 6点 絵が殺した- 黒川博行 2026/05/18 12:27
富田林の竹林で発見された白骨死体の身元を洗うことになった吉永刑事と小沢刑事は、その男が黒田という画家で丹後半島で海に落ちたまま行方不明になっていたことを知る。黒田とつながりのある美術ブローカーの矢野から、黒田が二十年前の贋作事件に関わっていたことがわかる。
物語は贋作をはじめ、美術界の裏事情を背景にした追跡小説仕立ての警察小説で、容疑者が次々と死体となって発見されていくオーソドックスな展開。密室トリックあり、アリバイ崩しありだが、いかにも作者らしいのは人物描写と生き生きとした会話だろう。とりわけ捜査に強引に割り込んでくる矢野の存在が光っている。

No.125 6点 綺譚集- 津原泰水 2026/02/09 11:45
少女の骸を解体する男たちを描く「天体解体」、夏の夕暮れに殺された女性が語り手となる「玄い森の底から」、ベース弾きの主人公が知人女性の右脚の骨を善福寺で発見する「脛骨」、黄昏時の歯科医に流れるエロティックな瞬間を凝視した「黄金抜糸」、ゴッホの名画の庭園を再現しようとする老作家と、その計画に携わる室内装飾家の錯綜した関係を綴る「ドービニィの庭で」など、磨き抜かれた言葉と文体と、禍々しくも美しいイメージに圧倒される。死臭と鮮血に満ち溢れたグロテスクとアラベスクの15編からなる短編集。

No.124 6点 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ 2026/02/09 11:36
ダートムアの沼地へ休養に来ていたスコットランド・ヤードの警部補マーク・ブレンドンは、近くで起こった殺人事件の捜査を依頼される。ところが被害者の妻への慕情を抱くようになり、レドメイン家兄弟の連続殺人に巻き込まれて理性を失ってしまう。
マークと美貌の未亡人ジェニーとの恋愛心理が読者への二重の謎となっている。トリックは単純なものだが、重厚な書き込みと構成力に支えられている作品。

No.123 5点 世紀末ロンドン・ラプソディ- 水城嶺子 2025/12/22 12:31
H・G・ウェルズの発明したタイムマシンに乗って十九世紀末のロンドンに飛んだ日本の女子学生が、シャーロック・ホームズとともに後の事件簿では未解決となっている事件に挑む冒険譚。
着想自体は珍しくないし、現代側の状況設定にも今一つ食い足りなさは残るが、女性の視点から描かれたロマンチックなホームズ譚として好感の持てる作品ではある。

No.122 5点 ヒポクラテスの暗号- 山崎光夫 2025/12/22 12:27
製薬会社のPR誌を編集する西畑は、生命保険会社の友人から政財官界の重要人物の寿命を把握した「ヒポテーブル」という極秘資料があることを聞く。そんな折、現役大臣の死を予言した男と知り合った彼は、その男から教わった住所にある「現代寿命工学研究所」を訪れるが、そんな人物はいないと言われる。
社会派要素、人間ドラマとしては読み応えがあるが、医学サスペンスとしては今一つ。

No.121 8点 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー 2025/10/22 10:06
タイトルの「火刑法廷」とは、十七世紀にフランスで行われた魔術や毒物を用いた怪奇な事件を審理する法廷のことである。
そのタイトル通り、この作品では毒殺魔と現代の事件とがうまく重なり合い、妖しい世界に導いている。一方では、大理石によって固く閉ざされていた納骨所から死体が消失するなど秀逸なミステリにふさわしい合理的な謎解きが展開される。また身近な人間が疑われて窮地に追い込まれていくサスペンスも加えられていて贅沢な内容となっている。

No.120 7点 告白- 湊かなえ 2025/10/22 10:00
冒頭で担任の春口悠子が「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」と生徒の前で独白するシーンはインパクトが大きい。
娘を殺された教師が復讐する物語を登場人物5人のそれぞれの視点で描かれていく。森口が残した仕掛けによって、犯人たちがどのような反応を見せるのか目が離せなくなる。人が変われば同じ情景でも見える景色がここまで違うのかということに驚き。最後は共感できるところもあった。

No.119 7点 渚にて- ネビル・シュート 2025/09/19 15:34
第一次大戦のさなかにパイロットになり、以来四十年以上にわたる人生のすべてを空を飛ぶことに捧げてきた男の栄光と挫折、誇りと愛を綴り上げている。
「空を飛ぶことはこの世で最も大きな冒険、殆ど確実に死をもたらす冒険だった」という時代に飛ぶことに魅せられ、老齢となった今、避難して瀕死の重傷を負った伝説のパイロット・パスコー。三十年来の知人で恩師でもある彼を救うために駆け付けたベテラン飛行士のロニーが、天候の回復を待つ間にパスコーの家で微睡み、師の人生を追体験するという幻想的なスタイルで鮮やかに再現されるドラマが胸に迫る。

No.118 6点 厭な小説- 京極夏彦 2025/09/19 15:24
それぞれのタイトルになっている「厭な子供」「厭な老人」などのキャラクター描写、希望のない展開、薄汚いデザインの装丁など、すべてが厭で読後感は胸糞悪い。
ページをめくると汚い沁みだけでなく、潰れた蚊の死骸まで印刷されて入りるという徹底ぶり。だが厭だと思い不快になりながらも、妙に期待を抱かせてしまう変な小説。

No.117 9点 利腕- ディック・フランシス 2025/08/04 14:27
シッド・ハレーは騎手を引退後、自分の探偵事務所を経営し、二つの事件を抱えていた。一つは元妻の無実を晴らすこと、もう一つは元の雇い主に持ち込まれた依頼である。最も有望な馬が行方不明になったのは、何かの陰謀なのか、あるいはヒステリックな妄想なのか。
本書はシッドの最も奥深くに眠る恐怖感を抉り出している。また獣医学についても、人間の強欲さについても興味深い洞察を行っている。そして非常に巧妙なプロットと、息をのむような結末を備えている。

No.116 5点 鎖された夏- 大西赤人 2025/08/04 14:23
ゲーム好きの学生、風戸隆は奇妙なアルバイトに応募する。経済界にのさばる浜村財閥の御曹司、新司の家庭教師なのだが、家庭教師といっても軽井沢の別荘で十日間、病弱な新司の話し相手になるだけというもの。
別荘に集まった一族はいずれも欲の面の皮が張った連中ばかりで、その彼らが次々と殺されていく。よくあるパターンではあるが、途中で開示される「弱者を巡る対話」から俄然この作者の持ち味が発揮される。自身が血友病という難病を抱える作者の人間観や社会観が大きく物語に投影されてくる。惜しむらくは舞台がほとんど別荘から動かず、殺人の仕掛けにオリジナリティや工夫が見られないところか。

No.115 7点 そして誰もいなくなる- 今邑彩 2025/07/11 12:58
名門女子高の開校百周年記念行事の一環として上演された「そして誰もいなくなった」。その舞台上で、毒を飲んで死亡する役の生徒が実際に死んでしまう。
舞台の筋書き通りに現実でも事件が起きるという展開は秀逸で、次の展開を予測させながら次々とそれを裏切っていく手腕には脱帽するしかない。また終盤では眩暈を感じさせるようなどんでん返しの中で、「そして誰もいなくなった」でも描かれていた「裁かれざる犯罪」というテーマが別の形で浮上し、作品に深みを与えている。

No.114 6点 夜明け遠き街よ- 高城高 2025/07/11 12:53
バブル期のススキノを舞台にしたノワール小説。キャバレーの副支配人、黒頭悠介を主人公にススキノの夜の世界を描いて間然とするところがない。時代考証、風俗考証も行き届いている。
緩やかな連関を持つ連作短編集で、一つ一つのエピソードに工夫があり、それが全体としてススキノを浮かび上がらせる凝った構成になっている。登場人物の風貌や服装、表情の動きなどを精細に描写し、それによってその人物の性格、心理を描き出している。

No.113 6点 嗤う伊右衛門- 京極夏彦 2025/06/26 11:03
伊右衛門と岩、互いを想うはずの夫婦のすれ違いに周囲の思惑や悪意が絡み合い、徐々に一同を壮絶な運命へと導いていく。
結末では真相をすべて明らかにせず、真実を知った伊右衛門と岩、二人の想いが交差する瞬間について、あえて核心を語っていない。その描かれない部分の妖気。数々の悪意や悲運を織り込みつつも、根底に流れるものは、あくまで美しく、哀しくそして怖い。

No.112 9点 そして扉が閉ざされた- 岡嶋二人 2025/06/26 10:58
核シェルターに閉じ込められた四人の若者が、三カ月前に起きた事件の真相を探っていく。舞台はごく狭い空間で、関係者四人と限られているが、そこで繰り広げられる推理は濃密。
四人の中に確実に犯人が存在すると同時に、存在しない不可解な事実が徐々に明らかになっていく展開に惹きつけられた。真実が分かった瞬間、タイトルに込められた意味に納得。

No.111 6点 ぼくの好色天使たち- 梶龍雄 2025/06/05 18:44
終戦から一年後、闇市バラック街で、在日米軍将校を相手にする街娼だった女性が殺害された。華族の子弟、弘道は暴漢に襲われた娼婦たちを助けたことがきっかけで、被害者を含むバラックの住民たちと親しくしている。弘道は事件を追うが新たな殺人事件が起きてしまう。
貧しく混とんとした状況なのに、明るく人情味あふれる作風で五感の一つが決め手となるトリックが巧い。

No.110 6点 そして二人だけになった- 森博嗣 2025/06/05 18:41
互いに正体を隠した「僕」と「私」が向かったのは、A海峡大橋を支える巨大なコンクリート建造物の内部。そこには秘密裏に「バルブ」と呼ばれる核シェルターが作られており、そこで実際に生活するという実験が行われることになったのである。「僕」とともに「バルブ」に入ったのは五人。しかし、実験開発早々、殺人事件が発生し、その後も何者かによって一人ずつ殺害されていくのだった。
影武者同士を視点人物にするという捻りも上手く活用されており、意外な展開と結末を演出することにも成功している。

No.109 7点 下町ロケット- 池井戸潤 2025/06/05 18:36
佃製作所の社長佃航平は、元宇宙科学開発機構の技術者でロケットエンジンの開発に携わっていた。ところが肝腎のロケット打ち上げに失敗、その責任をかぶって辞職し、父親が創業した精密機械の製造工場を引き継ぐ。しかしロケットへの夢は捨てきれずにいた。
町工場と大企業の攻防、そして社員同士の反目や確執が、次から次へと繰り出される。夢の実現にこだわる佃の頑固一徹な性格、それに反発しながらも最後には協力する社員たちの対比が絶妙。予定調和的な結末だが爽やかな読後感。

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