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[ 青春ミステリ ]
ぼくの好色天使たち
「青春三部作」
梶龍雄 出版月: 1979年11月 平均: 5.80点 書評数: 5件

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講談社
1979年11月

講談社
1985年10月

No.5 6点 nukkam 2021/09/11 16:39
(ネタバレなしです) 1979年発表の青春三部作の第3作の本格派推理小説です。過去の2作品は主人公が芦川高志でしたが、本書の主人公は全くの別人です。作中時代は刑事がボールペン(まだ輸入品しかなかったようです)を見て驚いている1946年で、まだまだ闇市場が当たり前のように社会に存在しています。登場人物の大半が闇商売と関係しており、脅迫、リンチ、人には言えない過去などが描かれていますが、18歳の主人公の揺れ動く心や周囲の人情も織り込まれているのでハードボイルドほど非情で冷酷な世界にはなっていません。とはいえ通俗性がかなり濃いので読者の好き嫌いは分かれるでしょう(非常に短いながら官能描写もあります)。しかし本格派推理小説としての謎解きは「海を見ないで陸を見よう」(1978年)に遜色ない出来映えと思います。どんでん返しが実に鮮やかで、その後に続く劇的な結末、そして虚しさの残る締め括りと着地が見事に極まっています。

No.4 6点 2020/04/09 09:32
 昭和二十一年。下落合の邸宅を空襲で焼かれ軍医の父親も失い、邸内の物置小屋で母と共に暮らす男爵の子息・伊波弘道。彼はふとした事件から池袋のヤミ市、もと師範学校の焼跡にできた通称ガッコー・マーケットに入りびたり、さまざまな人々と奇妙なふれ合いを持つようになる。
 テツガクさん、アラクマさん、春頭さん、トラックさん、リクシ、そして愛すべき「街の天使」たち――。
 そんなある夜、マーケットの中心を占める五坪ばかりの寄合所の二階で天使の一人、元パンパンの京子が首を絞められて殺された。梯子の下で男たちが酒盛りをしている最中に。しかも殺人はこれだけでは終わらなかった。
 あっけらかんとした売春婦たちに性に対する好奇心と仄かな慕情を抱く弘道は、事件を解決しようと大人たちのサポート役を務めるが――
 第23回江戸川乱歩賞を受賞した『透明な季節』、続編の『海を見ないで陸を見よう』と共に、第二次大戦前後の学生を主人公に据えた三部作の最終編。昭和五十四(1979)年六月に刊行された長編『龍神池の小さな死体』に続き、同年十一月に同じく講談社から書きおろしの形で出版されました。文庫版あとがきによると、犯人を除き登場人物には全てモデルが実在するそうです。
 そのせいか、際どい題材を扱っている割に読んでいて心地良い。この人は手掛かりの配置に腐心するあまり、ともすると小説としての膨らみがおろそかになる事しばしばですが、実体験に根差した本書はそういう非難を免れています。
 反面この動機はちょっと無理筋かなと。安定した人格と極端な衝動性の組み合わせが強引過ぎる気がします。作中には同情的な記述もありますが、推理によると尊属殺人まで犯している事になるので余計に。その後の行動に多少なりとも変化は生じなかったのかと。あれだけの事件を起こしながらすぐにヤミ物資強奪の黒幕にのし上がったり、犯人像が若干ブレてますね。トリックとその構図がシンプルで自然なだけに残念です。
 小説部分の出来を買ってか、梶龍雄の最高傑作という評価もあるそうですがそこまでには至らない。点数は6点ですが、実際には以前評した『金沢逢魔殺人事件』よりもやや下になるかな。5.5点に好みをプラスして、やっと同点というところ。

No.3 5点 蟷螂の斧 2015/07/24 20:50
戦後の闇市。主人公(浪人生)と住人(闇商人や娼婦)との交流、殺人事件を描いた青春ミステリー。トリックは面白いと思いましたが、現場に関する一つの証言にやや納得できない点があり減点としました。

No.2 6点 kanamori 2011/04/13 20:16
戦争前後の学生を主人公にした初期青春ミステリ、「透明な季節」「海を見ないで陸を見よう」につづく三部作の3作目です。
娼婦連続殺人事件がメイン・プロットではあるものの、池袋の闇市など戦後間もない当時の風俗を描くことに力点が置かれ、ほろ苦い青春もので文芸色が強いのは前2作同様です。
ミステリ的には、動機やトリックにちょっと無理がある様に思いますが、適度にまかれた伏線の回収は相変わらず巧いと思います。

No.1 6点 こう 2009/12/14 00:01
 戦後まもない闇市を舞台に没落華族の子息を主人公として彼の周りの友人である多くの売春婦たちの連続殺人を扱った作品でした。
 本格ミステリフラッシュバックでは梶龍雄最高傑作の触れ込みでしたがそこまで面白いとは思いませんでした。
 やはり梶作品全般に感じる主人公に対する共感がもてないのがまず一つありまた当時の売春婦という題材に対してもどうしても共感をもてないので(当時のリアルタイムの読者には想像しやすい世界だったのかもしれませんが)作品世界にのめりこめなかったです。
 個人的にはリア王、龍神池の方が楽しめましたが伏線はこの作品でも見事ですし読んでいると登場人物のほとんどが善人に感じる読み心地も悪くないです。


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梶龍雄
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