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[ 青春ミステリ ]
影なき魔術師
梶龍雄 出版月: 1977年12月 平均: 3.00点 書評数: 1件

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朝日ソノラマ
1977年12月

No.1 3点 おっさん 2014/10/09 12:06
本書『影なき魔術師』は、梶龍雄が『透明な季節』で江戸川乱歩賞を受賞した昭和52年(1977)に、“乱歩賞受賞作家のジュニア・ミステリー”として、当時、“推理”と“SF”を二本の柱にして、新旧とりまぜたラインナップを繰り広げていた(いまは無き)ソノラマ文庫から刊行されました。本書のちょっと前には、新作として、赤川次郎の『死者の学園祭』だとか、高千穂遥のクラッシャージョウ・シリーズの第一作『連帯惑星ピザンの危機』なんかが出ています。
筆者の少年時代の記憶の一ページを、懐かしく彩る文庫です。ただし、本書はまったくスルーしており、まさか後年、読みたくなって探しまわる羽目になるとは、そして古書価の高さに絶句することになるとは、思ってもいませんでした (^_^;)

さて。
なんとなく書き下ろしの長編だとばかり思い込んでいた本書ですが、実際には、原稿枚数二百枚程度の「影なき魔術師」と、もう少し短めの「消えた乗用車」の二作を収めた、中編集でした。おそらく中学生向けの雑誌などに発表された旧作(それまで、児童向けの仕事を多くこなしてきた梶なのです)が、乱歩賞効果ではじめて本になったものでしょう。

医者に面会謝絶を申し渡され、恋人のマリ子に会えなくなった「ぼく」の前に、“影なき魔術師”と名乗る不思議な紳士が現われ、マリ子に危険が迫っていると告げ、彼女が転地療養に向かった、疑惑渦巻く伊豆の港町を舞台に、善玉悪玉入り乱れての冒険活劇が展開していく表題作は、話の運びはまことに達者でベテランの風格すら感じさせますが(もとより “本格”を意識したお話ではないものの、ラスボスの正体に関しては、早い時点できちんと伏線を張っています)、「困っている人や、危険なめにあっている人を見ると、つい手助けしたくなる性分」だという、“影なき魔術師”のキャラ設定がいささか中途半端で、余韻を残すはずのラストが消化不良に終わっています。正義の味方としての、彼の普段の活躍を描く作品が他にあれば、対比で生きてくるエピソードだと思うのですが・・・。

併録の「消えた乗用車」は、主人公の少年・健一の、大好きな女の子が事故で失明し、その手術費用を得るため彼女のお兄さんが銀行強盗を働いたのではないか? という疑惑から、一転、逮捕されたお兄さんの“アリバイさがし”に移行するお話で、手術を終えた女の子が目の包帯をとるその日を(心情的な、兄妹再会の)タイムリミットに設定し、ウィリアム・アイリッシュばりのサスペンスで読ませます。ばりの、というか、証人となるはずの「乗用車」の女性が名乗り出ず、その存在自体が謎めいてくるというあたりは、モロ『幻の女』がお手本ですw 彼女がなぜ名乗り出てこなかったのか? という部分に関しては、いちおう工夫されているのですが、事件を少年に解決させるため、あまりにも大きな偶然を使っているのが難。シリアスなお話が、いっぺんに作りものになってしまいました。

――などと、いいトシしたおっさんがジュヴナイル(サイトのジャンル登録は「青春ミステリ」でしておきます)に難癖つけるのは、野暮のきわみというものですがw
もし少年時代に読んでいたら、どうだったかな? ふと考えます。
きっと面白く読んで――でも、作者の名前を記憶することもなく、忘れてしまったかな。
同じソノラマ文庫の、当時の新人でいえば、『仮題・中学殺人事件』の辻真先、前述の『死者の学園祭』の赤川次郎などには、ミステリ的な工夫とは別に、小説自体に“刺さる”要素があったんですよ。健全な児童小説にあるまじき、毒というか、苦みのようなもの。でもそれが、少なくとも筆者にとっては、大人の世界に踏み込む前に、大人の世界を垣間見せられたような衝撃となって、深く刻み込まれたわけです。
カジタツの本書に、それはありません。健全な、あくまで健全な世界。それは決して、悪い事ではないのです。しかし・・・。


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