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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ] 大臣の殺人 |
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梶龍雄 | 出版月: 1978年11月 | 平均: 5.75点 | 書評数: 4件 |
主婦と生活社 1978年11月 |
中央公論社 1984年08月 |
No.4 | 6点 | 雪 | 2021/09/04 06:33 |
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西郷・大久保既に亡く、巷には自由民権運動の嵐が吹き荒れる明治十四(1881)年七月のこと、旗本崩れの隠密探偵・結城真吾は警視庁から〈東京に潜入した北海道からの殺人逃亡犯・岡田国蔵とその情婦・角田のぶの行方を探索せよ〉との密命を受ける。真吾は北海道と東京の間を往復する汽船・尊神丸に目を付け、国蔵らしき女連れの男に声を掛けた松浦毅船長に面会を求めるが、既に船長は彼と行き違いにバッテラを降りた、色白で頬に傷痕のある美男児に刺殺されていた。
その後も捜査を進めるうち、次々と転がってゆく死体。核心に迫る彼を黙らせようとする上からの圧力と、幾度も殺人現場に立ち現れる頬傷の美青年の影。やがて真吾はこの探索行が北海道開拓使で薩閥の大物・黒田清隆と、三年前に黒田が起こしそのまま闇に葬られた、暴虐な妻殺しに深く関わっていることを知る。彼は不快感を押し殺しながら国蔵たちの行方を突き止め、同時に警視庁の密偵の手から証人のぶの身を守ろうとするが・・・ 「逃げてきた男」「噂の男」「踏み迷った男」「怒れる男」「血まみれの男」「解き明かす男」の全六章で、各章冒頭に意味ありげな黒幕たちの密議を配したポリティカル・ノベル風の構成。同様の趣向は山本周五郎の大作『樅ノ木は残った』でも用いられているが、本書の場合はサスペンスを盛り上げる為以上の周到な企みが隠されている。加えて犯人である「頬傷の男」のベールの剥がし方など読み手を瞞着する気満々。これらを含め二重三重の罠が仕掛けられており、第四章の終了までに真相を見抜くのは容易ではない。 いつもの〈伏線の鬼〉ぶりも健在で、第二章のある描写に仕掛けられた手掛かりなどは見事。言及される事は少ないが、乱歩賞受賞の『透明な季節』よりも格上の作品で、ひょっとすると『透明な~』に始まる旧制高校三部作より出来は良いかも(第二作『海を見ないで陸を見よう』のみ未読)。さすがに『龍神池の小さな死体』には及ばないが、しょせん時代物と侮っていると思わぬ所でうっちゃりを食らう。 難点があるとすれば主人公がフェードアウトしてしまう非エンタメ的な結末部分か。無条件の佳作とはいかないが、梶龍雄の事実上の処女作として十分読む価値のある時代ミステリである。 |
No.3 | 5点 | おっさん | 2014/06/13 18:57 |
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明治初頭。
もと旗本で、いまは心ならずも警視庁の密偵をつとめる、結城真吾。そんな彼への、上層部からの新たな指令は、北海道を出奔し東京に潜り込んだ、ある殺人犯の捜索だったが、詳細を知らされないこの仕事、なにやら胡散臭い。果たして彼の行く先々で、関係者が殺されていき、どうやら事件の背景には、元勲・黒田清隆(北海道開拓使。のち内閣総理大臣となる)絡みのスキャンダルがあることが、わかってくるのだが・・・ 昭和53年(1978)に、主婦と生活社の21世紀ノベルスから刊行された本作を、当時中学生だった筆者は、リアルタイムで書店で手にとっていますが、地味でつまらなそうなので、すぐ棚に戻した記憶があります。同シリーズの、後続の辻真先や赤川次郎(ともに期待の新人でした)の本は、小づかいをやりくりして求めたのにw 今回の初読は、古本で捜した中公文庫版によります。 ジュヴナイルの『影なき魔術師』をのぞけば、これは乱歩賞受賞作『透明な季節』、『海を見ないで陸を見よう』に続く、梶の第三長編にあたりますが、執筆自体はそれらより早く、昭和五十一年度第二十二回江戸川乱歩賞応募作品の、予選通過作品リストに、そのタイトルを見ることができます(二次予選は通るも、最終候補には残れず)。 史実の中に架空の殺人事件をはめ込む試みは、あるいは、政治家・田中正造が大きな役割を果たす、小林久三の第二十回受賞作『暗黒告知』に、刺激されたものかもしれません。 さて。 出版にあたって、多少の加筆修正はされているのでしょうが、それにしても、これはプロットといいキャラクターといい文章といい、とても予選落ちするレヴェルではないですよ。堂々本選に残り――伴野朗の『五十万年の死角』に惜敗するのがふさわしいw どちらかというとハードボイルド寄りの、マンハントの興味で展開していたストーリーが、ある事件を契機にガラリと様相を変える、そのチェンジ・オブ・ペース、ストーリー仕立てのミスディレクションには感心しました。ああ、やっぱりカジタツは“本格”の人だ。 ただ真相を知ってしまうと、主人公の動きと並行するように第一、第二の殺人が起こったのが、あまりに偶然すぎる気はします。この犯人、それまで何をやっていたんだw あと、全体の構想は、都筑道夫流にいえばモダーン・ディテクティヴ・ストーリイなんですが、いざ本題の事件での犯人のパフォーマンスを見ると、黄金時代パズラーもかくやの、タイトなスケジュールの綱渡りなんですね。 バロネス・オルツィやアガサ・クリスティーが好きな筆者としては、目をつぶってあげたくなりますが、常識的には・・・まあ単独犯では無理だろうなあ。前記のレディたちのように、きちんと共犯者を使わないとw ラストの処理も、賛否が分かれるところかもしれません。主人公があんなふうになって(探偵役の退場というシニカルさは、前作――一応こう書いておきます――『海を見ないで陸を見よう』にも通じるか)、おまけに犯人まで、いったいどうなったの? という終わりかたですから。 う~ん、犯人のほうは、闇に葬られたんでしょうねえ。 権力者たちの謀略が、最終的には市井のから騒ぎなど圧殺してのける――時代ミステリの締めとして、これはこれでアリと筆者は考えます。読後感は確かに苦い。でもその苦さこそ、作者が意図したもののはず。 文庫版の解説を「(・・・)梶作品の“明治ロマン”として本篇の読後感には、まことに爽やかなものがある」と結んだ武蔵野次郎氏は、はて、何を読んでいたのか。 |
No.2 | 6点 | こう | 2012/04/23 23:41 |
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明治時代を舞台に実在した黒田清隆の妻殺し疑惑を絡めた本格推理小説でした。
人物誤認のトリックは現代よりは明治時代の方がまだ説得力があるかもしれませんが個人的にはあまり好きではありません。 黒田清隆は総理大臣経験者、開拓使初代長官のイメージしかなかったんで書いてある内容は結構驚きでした。 下手な女子大生が出てくる作品程文章に不満はなくそこそこ楽しめました。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2010/05/05 13:04 |
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明治初期、創設まもない警視庁の密偵を主人公にした時代ミステリ。
黒田清隆(当時、北海道開拓使長官)自身の妻殺し疑惑を中心に据えた謀略ミステリの様相で物語が進行していくところは、山風の明治ものを彷彿とさせますが、後半は本格ミステリになっています。 意外性がないことはないですが、全体的に作風が地味でリーダビリティに欠ける感じがしました。 |