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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
利腕
競馬シリーズ/シッド・ハレー
ディック・フランシス 出版月: 1981年01月 平均: 7.44点 書評数: 9件

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早川書房
1981年01月

早川書房
1985年08月

No.9 8点 愚か者 2024/09/19 13:29
馬潰しのトリック、不正疑惑の意外な黒幕、元義父の信頼に応えるマン・サーチャー物語、そして誇りの喪失と再生。よくぞこれだけのプロットを盛り込んだものと感心。

10点満点で採点し直しました。4点→8点

No.8 8点 斎藤警部 2024/05/29 13:16
友情、最高だな。(ジョン含む)

時を置かずして調査員シッドに託されたのは、三つの犯罪乃至犯罪を窺わせる事象。うち二つは競馬に関する、質の異なる不正行為。残りの一つは。。
油の滴る濃密エンジンスタートを擦り付けるが如く見せ付け、裏側ではアプリコットジャムを煮詰めた大いなる甘みを匂わす、異例のパンプアップ突入型オープニングの迫力に押されてストーリーは驀進の一途。 期待しか見えない。

「すまないが …… シャツを脱いでもらいたい」
「ぜひ脱いでもらいたい」

或るアクションシーンで明かされたタイトルのダブルミーニング ..? には意外とクスッと来た。邦題の工夫も良い。
冒険時に役立った「アレ」の伏線がもすこし長いスパンで回収されてたらもっとキマってたかな。

しかしこの、ちょっと言葉では纏めづらい、思慮と絶望から何かが浮かび上がった、というだけでもない多面体のラストシーンは沁みる。このラストシークエンスこそ命と誇りを賭けた非日常の謎解き。更に沁みるのが、エンディングとエピローグの手に手を取った聯関性が突き上げて迫り来る味わい。(「探偵役が有名人」という設定が重要ファクターになるのもまたこそばゆし..) 復讐に軸足刺し、不可視の支点と不死身の作用点を探って意地の張り合い。遂にはあるものの奪還。よくやった。

熱気球大会からの冒険、元妻友人との関係、何より元妻絡みのあの事件等、色々放りっぱなしな所もあるが、それらのアンバランスは、主人公を裏切った自分自身への落とし前と、その強さと不即不離の元妻との苦い関係性、この二つのテーマの大樹の蔭が色濃過ぎて隠れてしまった。 なおかつ物語の彩りとして素晴らしい活躍をしてくれた。

No.7 7点 ◇・・ 2022/07/26 17:08
勝利を約束されたような人気の本命馬が、次々とレースに負けていく不可解な現象が起こっていた。ハレーは、ジョッキイ・クラブの不正疑惑と先妻の巻き込まれた詐欺事件を調べる傍ら、調査に着手する。
大がかりな謀略も派手なアクションも登場しない。にもかかわらず、最後まで惹きつけて離さないのは、いったん脅迫に負けて自尊心を失ったハレーが、いかにしてそれを取り戻すかが軸になっているからだろう。

No.6 6点 E-BANKER 2017/08/11 22:58
「大穴」以来、二度目の登場となる隻腕の元騎手シッド・ハレー。
D.フランシスといえば、シッド・ハレーという印象があるくらいだから、当然期待してしまう・・・
1979年の発表。何と「アメリカ探偵作家クラブ賞」「英国推理作家協会賞」のW受賞作!

~片手の敏腕調査員シッド・ハレーのもとに、昔馴染みの厩舎からの依頼が舞い込んだ。絶対ともいえる本命馬が、つぎつぎとレースで惨敗を喫し、そのレース生命を絶たれていくというのだ。馬体は万全、薬物などの痕跡もなく、不正の行われた形跡はまったくないのだが・・・。調査に乗り出したハレーを待ち受けていたのは、彼を恐怖のどん底へ叩き込む恐るべき脅迫だった! 「大穴」の主人公を再起用しMWA、CWA両賞に輝く傑作~

割と正統派の私立探偵小説、という印象が残った。
今回シッド・ハレーが請け負った調査はつぎの三つ!
①(紹介文にもある)ガチガチの本命馬がつぎつぎと惨敗していく事件、②元妻の今の彼氏が詐欺事件を引き起こした後始末、③英国競馬協会での不正事件
他の方も書かれているとおり、①~③はそれほど有機的に結び付いているわけではないので、ハレーは一人三役となって調査に挑むことになる。(①と③はまずまず関連しているけど・・・)
プロットの主軸となる①については、ハレーの懸命の調査が実り、終盤には僥倖を迎えることとなる。
そして、いくつかのピンチ(フランシス作品にはお決まり!)の後、ラストに決まるどんでん返し!
この辺のまとめ方は「さすが」の一言。

そして、本作を名作と呼ばせる所以が、シッド・ハレーの「生き様」。
どんなピンチを迎えようが、不屈の精神で乗り越えてしまう。
終章で元妻のジェニイがハレーに向けて放つ台詞!
強い男としての「孤独感」が浮き彫りにされる名シーンだろう。

ということでさすがの出来栄えなのだが、「大穴」のときもそうだったように、本作も世評の高さほどには感じなかったなというのが本音。
なぜだろう? 結構好きなジャンルのはずなのに・・・
まっ、そんなこともあるよね。
(熱気球大会のシーンは私も結構お気に入り。これほどの尺が必要だったのかというのは置いといて・・・)

No.5 9点 tider-tiger 2015/12/03 07:15
シッド・ハレーの元に立て続けに三つの依頼が舞い込みます。
まずは超有名調教師の妻さんからのご相談です。「夫の調教している馬が立て続けに死んでいます。馬に危害を加えている人がいるんじゃないかと心配です」
次に元海軍提督のパパ(シッドの元義父)さんのお悩みです。「ジェニィ(シッドの元妻)が知らないうちに詐欺の片棒を担がされて、下手をすると監獄行きになる」
最後はフィリップと呼んでくれ伯爵さんのご不満です。「私が出資しているとあるシンジケートの登録馬たちが実力通りの成績を上げていない。不正が行われているのではなかろうか」

三つの事件が同時進行ですので、ちょっとこんがらがるかもしれませんが、無関係に思える三つの事件がきちんと絡み合うのが気持ちいい(一つは結びつき脆弱ですが)。文章も人物造型も余裕の安定ぶりで、シッドとジェニィの関係も一段落。ミステリ的な仕掛けがいくつか施されていて楽しいし、ラストも素晴らしい。ディック・フランシスのベストはこの作品で異議ありません。
大穴の方が好きなんですが、点数はこちらの方に9点つけます。

ちなみに気球レースのシーンと知り合いの調教師に頼まれてシッドが騎乗するシーンがもっとも好きです。双方ともプロット上は重要性の低いシーンで、なくてもいいくらい。ですが、こういう無駄なシーンを楽しませてくれる小説が私にとってのいい小説。

No.4 9点 2013/02/28 21:03
フランシス中期の代表作との前評判に違わぬ傑作でした。フランシスが一人称で男の生きざまを描く作家であることは先刻承知なのですが、いやあ、ここまでやられるとまいったと言わざるを得ません。最初のうちはまだ、普通同一主人公を使わない作家のくせになんで『大穴』のシッド・ハレー再登場なんだ、とケチもつけていたのですが、これは納得。
開幕早々、シッドは次から次へと3つの事件を引き受けてしまい、それぞれが裏でつながっているわけでもなさそうなのに、どうするつもりなのかと、心配していたのですが、それも杞憂に過ぎませんでした。こんなふうに全体としてまとめることもできるんですね。
また、フランシスの作品では悪役は不愉快な、残忍なというだけの人物が多いようですが、本作のラスト・シーンで示される悪役の思考、行動には驚かされました。この息詰まる対決シーン、まさに名場面です。

No.3 8点 kanamori 2010/07/20 19:07
隻腕の元騎手・シッド・ハレー再登場の本書が「東西ミステリーベスト100」海外編の48位。
基本的に、冒険スリラーなどで、同じ主人公を使用したパートⅡの出来が前作を凌ぐのは難しいと思っていますが、本書は例外に入るでしょう。
屈服と再生、男の不屈の精神というテーマを極めていますし、ミステリ趣向としても読みごたえのある傑作でした。

No.2 8点 mini 2010/05/04 10:04
発売中の早川ミステリマガジン6月号の特集は”ディック・フランシスの弔祭” 追悼特集ってわけね

前評判が高過ぎる作品はどうしても身構えて読んでしまうし、結果的に期待外れでガッカリすることも多い
それに「利腕」の場合はシッド再登場という要素が余計に評判を押し上げているのではないかと先入観と偏見を持っていた
しかし杞憂だったのである
これは傑作でしょ!定評に違わぬ傑作だ
CWA賞、MWA賞、両賞W受賞は伊達じゃない
初期作品に原点回帰だとか、作者が10年続いた低迷期を脱し復活の狼煙を上げた作品とか言われているが私はそうは受け取らない
少なくとも「重賞」を読む限りでは低迷期と言われている時期の作品も低迷してるとは思わない
低迷期を脱したのが「利腕」が傑作になった理由ではないと思う
「利腕」は単なる原点回帰ではなく初期作よりも物語の膨らませ方に厚味があるのだ
「利腕」以降の作は未読なので、これが一発ホームランなのか、その後の新たな展開に踏み出したのか判断は出来ない
しかし「利腕」が傑作であることは疑いの余地はない
格好良いラストに至るまで”不屈の精神”という作者の永遠のテーマが貫かれ、それが抽象的なテーマ性のためのテーマに陥らず、動機など謎解き要素にまで絡んでくる
フランシスもここまでの高みに至る作品を書くようになったのかと感慨を新たにしたのであった

No.1 4点 江守森江 2010/02/15 21:39
英国ミステリー&競馬界の巨星墜つ!
作者の御冥福をお祈りします。
競馬での不正がテーマだが、現代の日本競馬と当時の英国競馬を取り巻く環境の違いを念頭に置いて読まなければならず、現代の馬券ファンにはとっっき難い。
しかも、日本では主流ではない障害レースが中心なのも馴染めない。
逆に言えば、競馬ファン以外な方々には先入観がなく適している。
探偵役で再登場となるシッド・ハレーは作者の分身に思える。
当時の英国にタイムスリップ出来るだけでも価値があるかもしれない。
シッド・ハレーが脅迫にビビる自分の弱さを乗り越えるハードボイルド的作品でミステリー色は薄い。


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ディック・フランシス
2011年01月
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