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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
骨折
競馬シリーズ
ディック・フランシス 出版月: 1978年01月 平均: 7.00点 書評数: 5件

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早川書房
1978年01月

早川書房
1978年01月

No.5 7点 ことは 2021/08/28 21:11
久しぶりのディック・フランシス。
フランシスを何作か読んだのはだいぶ前だが、世評の高い初期作品より、(2、3作読んだ)中期の作品のほうが面白かった記憶がある。
このサイトの書評を色々読んで、中期はサイド・ストーリーを膨らませているのだなと認識し、「なるほど、私はフランシスについては、メイン・ストーリーよりサブ・ストーリーのほうが好みなんだ」と思い、本サイトでサイド・ストーリーの評価の高い本作を読んでみた。本作のメイン・ストーリーが「敵との戦い」なら、サイド・ストーリーは「少年との交流」になる。
うん、これは確かにサイド・ストーリーのほうが好み。いいなあ、フランシス。ハードボイルド風の語り口。ストイックで有能な主人公。せまる敵。おそってくる苦痛。こういうものが一体となって「これがフランシス」という世界がつくられている。
これは、中期のフランシスをいくつか読んでみよう。

No.4 8点 人並由真 2020/10/16 17:14
(ネタバレなし)
 1971年の英国作品。競馬スリラー(競馬シリーズ)第10作目。

 また私事の述懐になるが、評者は最初にリアルタイムで『煙幕』を読んで以来、ポケミス元版時代のこのシリーズはほぼ全部10~20代の大昔に読んでしまった。ハードカバーの初版をすぐ読まなくなったのは、どの辺からだったか……。
(そういうわけでシリーズの中盤までなら『興奮』『大穴』の完成度は認めるものの、とにかく偏愛するのは『度胸』と『転倒』の二冊。冗談抜きにして、この二冊には(以下略)。)

 そんななかでポケミス時代の競馬スリラーで唯一読み残していたのが、この『骨折』であった。
 なお現状で本サイトにもAmazonにも登録がないが、元版のポケミス1174番は1971~72年ごろに刊行(評者は72年6月に発売の、ポケミスの再版で今回、読了。)

 それでまた例によって、いささか回り道の思い出話になるが(汗)、20世紀のミステリマガジンには、読者がポートレイト付きで誌面に登場し、あの青木雨彦さんのインタビューを受ける形で当人のミステリへの思い入れを語る愛読者コーナー「街角のあなた」という連載記事があった(遡ればその前身的な企画も、日本語版EQMMの頃からあったのだがそれはまた別の話。SNSが隆盛した現代、ああいう企画はもう二度と復活することはないだろうが)。

 そしてそのなかの一回で、どちらかに在住の競馬スリラーファンの男性が登場。インタビュアーの青木さんも本シリーズが好きなので話が弾む。その会話の流れのなかで「でもこないだの『骨折』はちょっと変わってましたね」(読者氏)「どこがどう変わっていたのかは、もちろんここでは書くわけにはいかないが~」(青木氏)というやりとりがあり、このくだりがなぜか当時、とても印象に残った。
 それでこれがきっかけで、当時まだ若かった自分は「なんかしらないが『骨折』はシリーズの変化球作品?」的な警戒(?)感を抱いてしまったのだった(汗)。
 もちろんイイ年をして、当時のHMM誌面に登場した読者氏や青木雨彦さんのせいでシリーズの一角と縁が遠くなった、などと、アホな子供みたいな難癖をつける気など毫もないが(笑・汗)

 いずれにしろ書庫をかき回していたら少し前にこれが出てきたので、前述の一連の記憶が浮上。さてそういえばこの作品、結局、何十年も放っておいたままだった、しかし実際に、どこがどう「変わっている」のだろう? という興味を込めて読み始める。

 結果、あまりにも力強い物語に引き込まれて、一晩で読了。
 雪さんのおっしゃる<競馬シリーズ版『初秋』>は言い得て妙だが、個人的には<自分のメンツを優先する裏社会の大物に脅迫されて、その息子を訓育するように預けられる主人公>という文芸は、ハドリイ・チェイスのマイベストワン作品『射撃の報酬5万ドル』の主人公ジェイ・ベンスンがおちいった逆境を想起させた。それ以上は言わない。
 
 アレサンドロが(中略)に(中略)のは予想の範疇というか、むしろそこは絶対に外しちゃいけない、というストーリーの重要な道筋だ。
 しかし着地点がどうなるかの予見が可能な上で、この物語は中小の紆余曲折に満ちている。悪役である父親の、後半になって明かされる劇的な文芸、最後の衝撃的なクライマックスをふくめて英国流スリラーとしての上質さを担保する。
 さらに立体的な構図として主人公ニールと彼自身の父親との対峙という文芸まで用意してあったことが本作のキモ。
 クライマックスその2を読み通した際には心地よい疲労感に包まれた。

 なおtider-tigerさんの、主人公ニールが警察に駆け込まないのが不自然という指摘はまったくもって冷静で適確な読み方だとは思うが、恥ずかしながら評者はまったく今回はその発想に至らなかった(汗)。その手のツッコミはそれなりに得意なつもりだったが、心のどこかで「競馬スリラー」の世界観にはなまじっかな司法捜査組織の介入は不要、という意識があったのかもしれない。まあフランシスもさすがにのちのちこの辺に気をつかうようになったから『審判』での一応のイクスキューズとか用意しているのであろうけれど。
(実際、主人公ニールは、そばで暮らしたいという恋人ギリイに対して「君が自分の生活圏にくると、悪党に攻撃される弱みになる」と言えるくらい冷静なんだから、警察に相談することへの消極さに対して、なにか説明がほしいというのは、その意味でもよくわかる……。)

 デティルアップの余地はまだあることを認めた上で、個人的にはかなり高評価の一本。前期の競馬スリラーでは、たぶんマイベスト5に入るかどうかを検討できるくらいにスキです。
(ちなみに本作の主題である<親子の距離感>という文芸だけれど、現実の場でその作者に育てられた後継者がフェリックスなんだよな。あー、止まっている未訳の作品もどんどん出してほしいな。)

 だけど読み終えてどこがどう「(競馬スリラーとして)ちょっと変わってた」のかは、いまひとつわからない(汗)。
 競馬スリラーのほかの作品にはない、この一編ならではの特化した個性というか成分は確かにあるだろうけれど、しかしそういう見方をするなら『飛越』も『煙幕』も『重賞』もみんな「ちょっと変わっている」と思うのだが。

No.3 7点 tider-tiger 2019/04/30 23:25
~ニール・グリフォンは入院した父親に代わって臨時に厩舎の運営を行っていたのだが、誘拐され奇妙な脅迫を受ける。
「俺の息子がおまえの厩舎に行くから、そしたらアーク・エィンジェルに騎乗させるのだ。さもないとおまえの厩舎で不幸が起こるのだ」
このアーク・エィンジェルはダービー優勝を狙えるような馬。「どこの誰かは知らないけれど」な人間に騎乗させるわけにはいかないのだ。
だがしかし、翌日、脅迫者の息子アレサンドロが本当にニールの厩舎にやって来る。
「これでいいのだ」と、ご満悦なアレサンドロ。
「ちっともよくないのだ」と、歯噛みするニール。~

1971年イギリス作品。冷静に考えるといささかバカげた幕開け。ニールはどうして警察に行かないのか。本作の最大の謎というか、大きな瑕疵です。
こんな無理をしてまで開幕させた物語ですが、これがとても読ませるのです。脅迫者の息子アレサンドロを仕方なく騎手として迎え、性格に難ありではあるものの騎手としては才能の煌きを感じさせるこの若者にニールは複雑な感情を抱きます。事件が起きて、若者は成長し、それゆえに最大の危機が訪れます。緊張と緩和が交互に訪れる筋運びは素晴らしく、ラストもいい。強引な初期設定ではありましたが、無理をした甲斐があったというものです。
脇役もうまく設定されていますし、敵もかなりぶっ飛んでいます。そうとう残忍なことをしでかすくせに、その目的は息子を名馬に騎乗させたいからと。巨悪ではありませんが狂悪です。無理なプロットもこのオヤジのキャラ設定で少しバランスを取り戻しました。
個人的に好きな点は競馬ネタが豊富なところ。アレサンドロがニールと話し合い、レースの際に綿密に作戦を練ったりするので、レースの様子が頭に浮かんで楽しかったです。
タイトルもよく決まっています。

本作はけっこうな異色作でしょう。メインプロット(脅迫者との対決)がサブプロット(脅迫者の息子と主人公の交流)に取って代わられています。以前の書評でサブプロットの良さがフランシスの強みの一つだと書きましたが、本作はサブプロットが目立ち過ぎてミステリ要素、冒険小説要素がかなり薄められております。主客転倒小説とでもいいましょうか。
これは若者の成長譚であり父子の物語でもあります。ニール自身の父親との関係も絡み、三つの父子関係が入り乱れております。
息子が妙な話し方をするとの御指摘ありましたが、考えられる理由が二つあります。一つはイタリア人なので英語があまりうまくないから。もう一つは心を病んでいるため、ああいう話し方になってしまっている。おそらくは前者ではないかと思います。

この『骨折』や『煙幕』あたりは一般的にはフランシスの上位作品ではないのでしょうが、一部ファンに偏愛されていそうな気がします。どちらも最初に読むフランシスには不向きですが、フランシスを何冊か読んで作風が気に入った方にはぜひ一読をお薦めしたい作品です。8点をつけたい作品ですが、ミステリ要素の希薄さと大きな瑕疵を顧慮して7点とします。

No.2 7点 2019/03/03 08:03
 父ネヴィルとその助手の自動車事故により、ニューマーケット有数の調教厩舎、ロウリイ・ロッジの運営を臨時代行するビジネスマン、ニール・グリフォン。彼はある夜、二人組のゴムマスクの男たちに厩舎から連れ去られる。誘拐先で待ち構えていた肘掛け椅子の男、エンソ・リヴェラは恐るべき威圧感で彼に告げる。「自分の息子アレサンドロを騎手として雇い、ダービイの本命馬、アークエインジェルに騎乗させろ。さもなければお前の厩舎をつぶす」と。
 気ちがいじみた命令。だがエンソは本気だった。時計商を隠れ蓑に盗品を売買しながら世界中を渡り歩き、マフィアとも張り合う男。
 サイレンサー片手の脅迫にニールは雇用を承諾し、彼はふたたび厩舎へと戻される。その翌日運転手付きのメルセデスに乗って現れたアレサンドロは、エンソの傲岸さを受け継いだ冷ややかな十八歳の少年だった。
 脅迫を意に介さず、機会は与えるものの彼を一切特別扱いしないニール。歯ぎしりするアレサンドロにただ「レースに勝ちたいのであれば、最善の努力をしろ」と諭す。
二人の対立が数日続いた後、エンソは行動を開始する。再び傲慢さを取り戻したアレサンドロが手渡した箱の中には、脚を折られた小さな馬の彫刻が入っていた――。
 競馬シリーズ第10作。フランシス版「初秋」という声も挙がる作品。厩舎に押し付けられたアレサンドロはまあかわいくない子供ですが、一方では強靭な意志力と類稀な資質を示し、主人公ニールが"純銀の響き"と譬えるほどの騎乗センスを見せます。
 そのニールも恋人ギリイが"天才児〈ウィズ・キッド〉"と囁くほどのビジネスセンスの持ち主。不仲の父に反発してイートン校を中退してから六ヵ月後には自分で骨董商を始め、その十二年後には十軒の支店を持つ規模にまで。店舗を譲り渡した後は才能を買われ、倒産寸前の企業の問題点を是正しています。
 父親との関係性を含め、本質的には似た者同士の二人。「本物を見分ける経験を長年つんでいる」と語るニールのこと、臨時の腰掛け程度に思っていた厩舎の運営にも本腰を入れ始め、アレサンドロの才能を磨き上げ善導しようと試みます。
 ニールに感化され次第に父親に疑問を抱き始めるアレサンドロ。息子に偏執的な父性愛を持つエンソはそれに激高し、ニールへの憎悪は高まっていきます。
 ミステリ的にどうこう言う作品ではないですが、まずストーリーが面白い。文章も最初から最後まで緊張感が保たれています。初期のフランシス作品はやっぱりいいなあ。読んでいて甘い話ではないですが、最後に子供のような笑い声を上げるアレサンドロの姿に報われた気がしました。

No.1 6点 mic 2012/12/31 11:06
ストーリー的にはかなり面白かったが、実際にこういうことが
起こるかというと、やはり進行以前に警察に相談するだろうなあ。
黒幕である父親も、なにか漠然としていて現実味が足りない。
それに加えて18歳の息子もその喋り方がロボットみたいで不自然
だった。だが結末の展開は読み応えがあった。


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ディック・フランシス
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