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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
再起
競馬シリーズ/シッド・ハレー
ディック・フランシス 出版月: 2006年12月 平均: 4.67点 書評数: 3件

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早川書房
2006年12月

早川書房
2008年11月

No.3 4点 びーじぇー 2019/10/03 18:58
二〇〇〇年、執筆の良きパートナーであった愛妻の死で、筆を折ることを決意したという作者の再起を願ったファンは多かった。しかし、作者は一九二〇年のお生まれ。年齢的にみても、新作はないよなあと、六年の沈黙の間にあきらめの境地に達したファンも多かったに違いない。それが、まさかの再起。その喜びを語る人に出会うたび、御大が日本の読者にいかに愛されているかが伝わって、稀有な作家であることを再認識させられた。
しかも本書の主人公は、あのシッド・ハレーである。ハレーは、「大穴」「利腕」「敵手」に続く、四度目の起用となり競馬シリーズの中では別格の扱い。いや、作者が復活を遂げるには、不屈の男シッドでなければならなかったし、編集者が選ぶタイトルは「再起」でなければならなかった。
内容?そんなものは二の次だ・・・。と言いたいところだけれど。
悪役の影は薄いし、事件の底は浅いし、なんといっても解決方法がフランシスらしくない。

No.2 6点 2019/03/28 14:45
 障害競馬の最高峰チェルトナム・ゴールド・カップの当日、競馬調査員シッド・ハレーは元義父チャールズの頼みで、上院議員ジョニイ・エンストーン卿から持ち馬の調査を依頼される。騎手と調教師が馬を抑えているというのだ。騎手はヒュー・ウォーカー、調教師はビル・バートン。二人は第一レースで勝利したにも関わらず、激しく罵りあう所を観衆に目撃されていた。
 メインレースは素晴らしかった。だが僅差で三冠を達成した競走馬、オーヴン・クリーナーは勝利した直後に突然よろめき、馬主を道連れにしながら芝生にくずれ落ちた。心臓麻痺だった。
 チャンピオン馬の死に悲嘆に暮れるスタンドの観衆たち。だがその陰でもうひとつの事件が起こっていた。テレビ中継車の間でヒューが胸に三発の銃弾を撃ち込まれ、殺害されていたのだ。
 事件前、脅しに怯える彼はシッドの留守番電話に何度も連絡を入れ、八百長レースの告白と、このままでは殺されるというメッセージを残していた。さらに内閣の審議機関責任者アーチイ・カークから請け負った、インターネット・ギャンブル不正との関連も考えられる。「ヒューを殺した犯人を見つけてくれ」との父親エヴァンの懇願を受け、シッドは本格的に調査を開始するが・・・
 シリーズ第40作。前作「勝利」から6年の歳月を置いて2006年に発表された、最後のディック単独名義作品。内容よりもそのあたりのいきさつを酌んだ邦題だと思います。
 事件としてはこの後ヒューの射殺に続いて調教師のビルが銃により自殺。終結するかに思われた捜査にシッドが疑問を投げかけた段階で恋人マリーナ・ファン・デル・メールが襲撃され、これ以上追及を行わぬよう、犯人に脅迫されます。
 いつもの路線なんですが「利腕」のようにどん底になるまで葛藤を続ける訳でもなく、そのへんが弱いっちゃ弱いですね。勿論ちゃんとテコ入れはされますけど。土壇場でのアクションシーンが中途半端に終わるのも、低評価の理由かな。
 でもそこまで嫌いな作品ではありません。描写に多少の弛みはありますが、内容的には十分後期の水準をクリアしてるので。ヒーローとしてのシッド・ハレーにそれほど思い入れが無いからかな。「敵手」の方が首を傾げる部分は多かったです。5.5点の採点にフランシス復活の思い出もプラスして、甘めで6点。
 私見になりますが「フランシスといえばシッド・ハレー」という括りには異論があります。シッドのキャラクター設定をフルに生かした傑作「利腕」以外は、競馬シリーズ内でそれほど出来の良い作品群ではないと思います。「大穴」の読了がだいぶ前なので、もういっぺん読み返さないと確言できませんが。これも宿題かな。

No.1 4点 tider-tiger 2016/10/26 21:41
つまらなかった作品は書評しない方針ですが、思い入れのある作家なので書きます。
久しぶりに未読のフランシスに手をつけましたが、残念ながら本作は今まで読んだ中で最低の出来でした。
理由は三つ。文章の劣化、シッド・ハレーの変容、薄味のプロット。

まず文章。最初に嫌な予感がした一文。
『彼の胴回りは、彼の銀行預金残高よりも速いペースで増えつつある』
冴えないなあ。はずしてるなあ。数頁後、さらに酷い文章が来ます。
『こと競馬情報に関するかぎり、パディはグーグルをしのぐグーグルだと言っていい。この業界で最上のサーチ・エンジンだ』
もうちょっとましな表現があったのでは。
例えば→競馬情報に関しては彼に聞いてわからないことはグーグルでいくら検索したところでわからないのだ。
うーん『グーグル』という単語自体がフランシス作品と親和性がないような。
菊池さんがお亡くなりになって訳者が変わっております。確かに違和感はありました。しかし、真の問題は翻訳ではなくて、フランシス自身の筆力の低下だと感じました。
文章勝負の作家でなければスルーしますが、フランシスですから言わずにはおれません。
ちなみに『大穴』の書き出し→『射たれる日まではあまり気に入った仕事ではなかった』
え、どういうこと? と思わせておいて実はシッド・ハレーの本質を一発で炙り出している非常に含蓄ある一文。これがフランシス。

続いてシッド・ハレーの変容
シッド・ハレーは自分本位な人間です。それだけに周囲で起きる出来事はすべて自分に責任があると考える男でありました。ですが、本作では他罰傾向が目につきます。また、フランシス作品にはどの分野であれプロへの敬意が溢れていました。ところが。
シッドは恋人のためにボディガードを雇います。この男が「身内にやられるケースは非常に多い」などと主張し、ジェニィ(シッドの元妻)が訪問してきた時でさえ持ち物検査を要求する徹底ぶりを見せます。シッドは彼を少々煩わしいと思ったようで、筋肉男などと揶揄します。彼を少々煩わしく思いながらもプロとしては認めるのがシッド・ハレーではなかったでしょうか。

最後にプロット。過去の作品を踏襲しており、フランシスらしいと言われればその通り。ですが、特筆すべき点がないのです。驚きなし、高揚感なし、利腕のような重層的なプロットの妙なし、つまらなくはないが薄味のフランシス。利腕と同じテーマを匂わせつつも踏み込み足らず、やたらとシッドの過去の話に言及するのも悪印象。

結論。私にとって本作はシッド・ハレー版『あの人はいま』。シッド・ハレーは敵手で終わったと考えたい。今思えば敵手は7点をつけてもよかったかもしれません。本作はフランシスだけに厳しく4点。
未読作品はまだあるので、再起を期待したいところ。


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ディック・フランシス
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