皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 障害 競馬シリーズ |
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ディック・フランシス | 出版月: 1979年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1979年01月 |
早川書房 1982年07月 |
No.2 | 6点 | 雪 | 2019/04/10 00:45 |
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会計士でもあるアマチュア障碍騎手ローランド・ブリトンは、専属騎手の故障により掴んだチャンスを生かし、思わぬ僥倖から厩舎の最高馬タペストリ号に乗る機会を得、さらにはチェルトナム・ゴールド・カップに優勝する。
夢のような時間に浸るローランドだったが、彼はそこから一気にどん底に突き落とされる。レース終了からわずか一時間後に、負傷した騎手と救急係を装った男たちに誘拐され、エーテルを嗅がされ運び出されたのだ。目覚めた時には周囲は真の暗闇に包まれていた。 手足を縛られ、真っ暗な中で、発電機の近くの棚のようなものの上に横たわっている。押し寄せてくる感じの音。船体を打つ波の音。自分は船に乗っているのか? 誰が? いったい何のために? ローランドは何も分からないまま、必死に状況を把握し束縛から逃れようと試みるが・・・ 1977年発表のシリーズ第16作。前作「追込」と共にはかばかしくない扱いを受けていますが、実の所はかなり意外性のある良作。ねちっこくかつ断続的に肉体的ピンチが続く為、うまいこと伏線が忘れ去られるというおまけも着いてます。よく出来たハウダニット物の第9作「査問」よりも難易度は上。評価が低いのは、五里夢中のまま延々とストーリーが進むからかな。 主人公に助力する智的な女子中等学校の校長などはこれまでにないポジションのキャラで、他にも馬主の女性やヒロインなど魅力的に描かれた人物が多く、傑作「利腕」前の停滞期として一括りに捨て去るにはいかにも惜しい。少なくとも佳作未満の位置は主張出来るでしょう。 結末を知ると、冒頭の拘束シーンは作者が最初から切り札を見せている訳で、構成上必然的な意味があったことが分かります。しっかりとした背骨の通っている、目配りの行き届いた作品です。 |
No.1 | 6点 | tider-tiger | 2019/03/18 23:32 |
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~ローランド・ブリトン三十四歳。独身。職業は公認会計士。趣味アマチュア騎手としてレースに出場すること。このたび初めて優勝を経験し、その一時間後に初めての誘拐(受身形)を経験する。
ローランドは暗闇の中で目を覚ます。ここから物語ははじまる。~ 1977年イギリス作品。あまり話題にならない作品で地味な印象ありますが、それなりに新しい試みはあるし、まあまあよくできているのではないかと思っています。キャラはそれぞれ無駄なく配置されております。好き嫌いはともかくとして、かなりインパクトのあるシーンも用意されております(メインのプロットに直接の影響はないシーンですが)。 初っ端から主人公が誘拐されるのは『骨折』と同様ですが、本作では監禁や船酔いによって主人公が肉体的、精神的に追い込まれていくさまがよく描かれております。 前回書評した『追込』には印象的な中年女性が登場しましたが、本作にもいい感じの校長先生が登場します。少々身勝手で、あまり賢くもありませんが、ローランドを一途に信じて騎乗を依頼する馬主の女性も個人的にはお気に入りです。 誘拐が繰り返されるのでやや単調になり、そこはよろしくありません。黒幕の動機が後出しっぽいところや敵がちょっと甘いところ(これは多くのフランシス作品に見られます)、造船業を営む都合の良い友人の存在などなど疑問符もつきますが、意外と細かいところにまで目端が利いており、不自然に感じたいくつかの部分が後からなるほどと納得させられたりもして、個人的にはなかなか楽しめる作品です。 最終的にローランドが追い込まれる状況は公認会計士という職業が活かされての恐怖。そこに別種の恐怖も付加されます。目を見張るようなものではありませんが、着実に積み上げられた恐怖であり、彼が下さなくてはいけなかった決断はけっこうきついものです。ただ、この主人公は精神的にかなりタフですね。 原題『Risk』邦題『障害』となっておりますが、 『暴走』『転倒』『追込』『障害』とここらあたりは作品の特徴がまったく邦題に表れておりません。さらにはどの作品にも当てはまってしまうような熟語なのでさらに始末が悪いのです。 フランシスの主人公は「常識が負けて」みんないつも『暴走』しがちだし、途中で悪人にやられて『転倒』もするし、悪人を執拗に『追込』むし、いつだって彼らの行く手には『障害』が待ち受けています。こうしたタイトルは作品についてなにも言っていないに等しく思えてしまいます。その作品独自の要素を抽出してくれないと、どれがどれだかよくわからなくなり、読者が――かつての私のように――同じ本を二冊買ってしまったりするわけです。 最後に文庫の表紙について。 本作や『査問』『混戦』などなど。旧版では久保田政子さんという方が一部の表紙絵を描いております。これらの表紙絵がとても好きです。作品をきちんと読んだうえで表紙を描いていらっしゃるような気がします。 気になって調べてみましたら、馬の絵を専門に描いていらっしゃる方のようで『追込』の主人公と同じですね。この表紙絵をもっと続けて欲しかった。 |