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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
勝利
競馬シリーズ
ディック・フランシス 出版月: 2001年05月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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早川書房
2001年05月

早川書房
2006年11月

No.3 7点 人並由真 2024/01/29 02:54
(ネタバレなし)
 世紀が切り替わる時局。騎手のマーティン・スクリューが障害レース中に事故死した。友人だったそのマーティンからいわくありげなビデオテープを送られた「私」ことガラス工芸職人で、30歳のジェラード・ローガンはテープの中身も確認しないうちにそれを何者かに盗まれてしまった。こうしてジェラードは否応なしに実態も不明な事件のなかに巻き込まれていく。

 2000年の英国作品。長編カウントで競馬スリラー第38弾。

 気が付いたらしばらくフランシス作品にご無沙汰だったので、未読の後期作品の中から、ブックオフの100円コーナーで出会った、古書として状態のいい文庫の本作を読んでみる。

 まさに長い作家生活、円熟期の一冊で(まあ、そもそも実作していたのは奥さんメアリーの方だったと昨今では噂されているらしい? が、ここではその件はとりあえずノーコメント)、全体に安定した面白さで楽しめた。
 
 主人公が直接は競馬界に関係しない、別の専門職のプロで、競馬スリラーとしては「専門業界もの」路線(勝手に命名)の一作だが、後半でその設定は消化し、文芸を山場の盛り上がりに繋げてあるのも手堅い。
 その辺を含めて、事件に巻き込まれ型のスリラー、市民レベルでの凶事への対策、シンプルながら軸足の定まった謎の見せ方……と、後期フランシスの系譜に当方が期待するものはおおむね、ちゃんと提供されている。

 キーアイテムとなるビデオテープに関しては、良くも悪くもあくまでマクガフィンだろうと察していたが、意外に派手な真相が出てきたのに軽く驚いた。
 真面目に考えるなら、現実のあれやこれやを慮っていささか無責任というか無神経な気もしないでもない中身だったが、娯楽小説でそこまで怒る当方の方が野暮かもしれない。
 
 ちなみに20世紀から21世紀に切り替わるタイミングの物語なので、2020年代の現在の視点で読むと当時のPC技術への傾斜がなかなか興味深くもあった。厳密に正確な考証をしている作品かはしらないが、時代の過渡期という空気はよく感じられる。

 弱点は、読者への求心力=謎として設定された「第四の襲撃者」の正体が見え見えなこと。作者がサプライズを狙うならこの人物だろうと思っていたら、まんまとその通りだった。しかも作中のリアルを考えるなら、悪人側にとっても結構リスキーだったんじゃないの? この悪事の座組?
 
 悪役といえば、本シリーズで久々の? 女性悪役(前半でわかるので書かせてもらうが)がなかなか新鮮な感じだったが、確か、旧作でもなにかあったはず。
 
 あと主人公がもう一歩二歩、積極的に警察の介入を願えばいいのに、それをしないのは悪い意味で本シリーズらしい感触であった。
 ここらへんは結局は、生涯最後までシビリアン・パワーに夢を求めすぎる作者の悪癖だったのかも。
 主人公の奮闘を抜きにして公安や警察が事態を解決したらスリラーにならないというのはその通りかもしれないが、現代の作品ならもう少し書きようはあるんだろうしな。

 とはいえ良い意味で定番的にいつものフランシス作品、おなじみの競馬スリラーの面白さであったので、おおむねは満足。翻訳刊行から20年以上経った旧作で冷静に読めるから評点は7点だけど、ハードカバーの翻訳をリアルタイムで手にしていたらその年の収穫の一つとして8点あげていたかもしれない。
 まあシリーズ総体の中では、Bクラス以下の出来だとも思うけれど。

No.2 4点 E-BANKER 2020/03/08 21:07
競馬シリーズ第39作目となる長編。
原題は“Shattered”ということで、主人公ローガンの職業であるガラス細工職人と掛けている模様。
2001年の発表。

~真冬の寒い日、レース場で起きた惨劇に観客たちは凍り付いた。目の前で騎手が落馬し、馬に押しつぶされて死亡したのだ。親友の突然の死に哀しみにくれるガラス職人のローガンだったが、間もなく彼のもとに一本のビデオテープが届く。それは親友が命を賭して彼に遺したものだった。だが、中身を確かめる間もなく、押し入った何者かにより、テープが強奪されてしまう。謎を秘めたテープを巡る熾烈な争奪戦が今始まる!~

紹介文のとおり、“テープを巡る争奪戦”というのが本作を貫くプロットとなる。
なぜテープを狙うのか、謎が謎を呼ぶ序盤から中盤。
なのだが、テープの中身が凡そ判明した終盤以降、盛り上がりは急速に衰えていく・・・
そして、本シリーズのお約束ともいえる、主人公の大ピンチを経て、ハッピーエンドのラストを迎える。

久々に本シリーズを手に取ったわけだけど、やっぱりこのマンネリズムは辛い。
テープの中身や襲撃犯の正体だけでこの長編を引っ張るのは無理があるように思う。
刑事の彼女がいながら単独で正体を探ろうとする主人公も主人公だし、全体的にどうも登場人物の動き方もギクシャクしている感が強い。(妻の蛮行を止められないどころか加担する夫とか・・・)
2000年代というと作者最晩年の作品だろうし、作者も寄る年波には勝てなかったということかな。

ローズのキャラもなかなかスゲエな・・・
水道の蛇口を凶器にする女性なんて、そんな奴今までいたかぁ?
ローガンをはじめ、みんながローズを恐れるんだけど、こんな奴こそ早めに警察に通報してた方が良かったろうに。
こういうところも、どうもご都合主義が強すぎて、違和感を感じてしまった。
ところで「勝利」って、何に対する「勝利」なんだろ。漠然としすぎててよく分からんタイトルになってる。
どうにも褒めるところが見つからなかったな・・・

No.1 6点 2018/12/05 22:26
 一九九九年十二月三十一日、チェルトナム競馬場の大障害レース。最終障害で転倒した馬体は空中で仰向けになり、半トンもの巨体が下敷きになった騎手を押しつぶした。
 友人マーティン・ステュークリイの突然の死に呆然とするガラス工芸家ジェラード・ローガン。悲しみにくれる彼は騎手介添人のエディに、マーティンからレース前に言付かったという包みを渡される。その中にはありきたりのビデオ・テイプが一本入っているだけだった。彼は包みを店舗の〈ローガン・ガラス〉に持ち帰るが、ミレニアム到来を祝い店を開けたその夜、短時間のうちに包みも売上金も盗まれてしまう。
 さらに一夜明けた元日、未亡人ボン‐ボンを訪れたジェラードは、意識を失って倒れている家族たちを発見する。彼らを介抱しようとした瞬間、後頭部をボンベで殴られるジェラード。意識を回復した彼は、マーティン宅と彼の家のテイプというテイプが、全て持ち去られていた事実を知るのだった。
 盗まれたビデオ・テイプにはいったい何が記録されていたのか? ジェラードは自分の身を守るため、テイプの秘密を突き止める事を決意する。
 競馬シリーズ第39作。訳者の菊池光さんが珍しくあとがきを寄せておられます。内容は夫人メアリさんの死と、フランシスがこれで筆を擱くのではないか?という伝聞情報について。その菊池さんもほどなく亡くなられ、第40作「再起」からは北野寿美枝さんが新たな翻訳担当に。
 かようないわくつきの作品ですが、後期ではなかなかのもの。ジェラードに相対する敵集団のボスはなんと女性ですが、凶暴性はシリーズ中でも屈指。従えた男たちを手足のように使い、彼を付け狙います。
 テイプの行方を聞き出そうと、何度も襲われる主人公。知り合いにボディーガードを頼みますが、防戦一方では攻撃側の圧倒的有利。一気に決着を付けようと、罠を張って乾坤一擲の勝負に出ます。
 〈ローガン・ガラス〉を舞台に最後の闘いが展開されますが、相手に裏を掻かれて店員二人を人質に取られ、高熱のガラス竿を突きつけられて脅迫されるジェラード。さらに人数は一対四。店外に味方はいるとはいえ、この危機からどう逃れるのか?そしてテイプの行方は? 勿論伏線はしっかりと張ってあります。
 平行して描かれるジェラードの調査の過程で現れる事実や、謎の第四の覆面の男の正体など、意外性もそこそこ。ヒロインであるキャザリン刑事の影が薄いのが難点といえば難点でしょうか。
 日本語版タイトルは「勝利」ですが、犠牲者も出るやや苦い結末。ガラスに引っ掛けた原題の SHATTERED(粉々になった、砕けた)の方がより内容には合っています。今気付きましたけど、これ大ネタの伏線ですね。


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ディック・フランシス
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