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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 決着 競馬シリーズ |
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ディック・フランシス | 出版月: 1994年11月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1994年11月 |
早川書房 1998年12月 |
No.1 | 6点 | 雪 | 2018/08/06 16:38 |
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6人の子持ちである建築家リー・モリスは、突然ストラットン・パーク運営責任者たちの訪問を受けた。故老男爵から遺贈を受けた9人の株主の一人として、彼の愛した競馬場を救って欲しいというのだ。リーは亡き男爵への想いから、「ストラットン一族と関わってはだめ」という母の忠告を破り総会に参加するが・・・。
競馬シリーズ第32弾。一族のはぐれ者が愛情と誠意で確かな絆を結び直すという、26作目「黄金」の変奏といえる作品です。あちらの真相もフランシスにしてはやや陰惨でしたが、こちらはある意味もっとキツい。それを緩和してくれるのがコメディリリーフである主人公の5人の子供たちです(一人はまだ赤ん坊)。 株主総会で新たに取締役に選ばれたのは老男爵の3人の息子たち。そのうち次男坊はかつてリーの母と別れたDV夫。遺贈を受けながら役員に就けなかった孫世代も、諦め悪く策を巡らします。 そして総会を仕切るのは、男爵の妹であり一族の知恵袋である老婦人。競馬場存続派である彼女は内密にリーを引き止め、売却派である次男の金銭調査と、男爵位を継いだ長男を操る高慢な建築家の身元調査を依頼するのでした。 思わぬ展開に戸惑いながらも承知するリーですが、総会後間髪を入れず競馬場が爆破され、彼は崩壊する中央階段から息子を救う際に重傷を負ってしまいます。しかし彼は、傷ついた身体に鞭打って徐々にストラットン競馬場を再建していきます。 仮説テント等野外サーカス用の仮設備、色彩設計や空調、観葉植物や安全面への配慮など、レース場復興に向けて崩壊したスタンドが生まれ変わっていく過程は感動的です。 ミステリとしては母を虐待した宿敵である男爵家次男との対決を軸に「スタンドを爆破したのは誰か?」が主な謎ですが、最初から悪玉組がハッキリしているので難易度は高くありません。ですが「大した事は無いのかな」と思っていると、最後に結構な地雷が用意されています。ただし最終的に綺麗に解決するような問題ではないので、ややビターエンドなのが悩ましいところ。 総合的な出来は「黄金」の方が上ですが、子供たちの存在をスパイスに楽しみながら読める作品です。 |