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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
審判
競馬シリーズ(フェリックス・フランシスとの共著)
ディック・フランシス 出版月: 2008年12月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
2008年12月

早川書房
2011年05月

No.2 7点 人並由真 2020/05/24 04:30
(ネタバレなし)
 久々に読んだ「競馬スリラー」(息子フェリックス単独の『強襲』を新刊で楽しんで以来、4~5年ぶり!)。

 後期作品にはまだまだ未読&積ん読のものも多く、今回もあくまで気が向いた一冊をつまみ食いでので楽しんだので、雪さんみたいなシリーズの流れを俯瞰したレビューはできないんだけど、単品作品として、とても面白かった。
 北方謙三か前川裕の(一部の?)作品みたいな、精神的にグロテスクな悪役が登場。生々しい暴力の恐怖に主人公が怯える辺りは、かつて『利腕』でシッド・ハレーが味あわされたストレスの再生のように見えたが、こちらは周囲の人間まで狙ってくるという執拗さと遠慮の無さにおいてまたちょっと差別化できた感触はある。

 とはいえ(ワケあり的な流れで、警察に救援を願うのが消極的になるのは仕方がないにせよ)、ブライアン・ガーフィールドの『反撃』とかケンリックの『バーニーよ銃をとれ』とか読んでいると、この危機的状況にあってなぜ主人公のメイスンはプロのボディガードや荒事師(人間的に一応はマトモなタイプの)に応援を頼まないの? という疑問も生じる。少なくとも中盤で自宅を狙われる時点では二週間の短期決戦とか想定してるんだから、カネのある弁護士先生なら少なくともそういう選択肢を一回は検討してもいいよね? 私立探偵を雇って張り込みさせて、悪事の証拠を押さえてもよい。この辺はお話作りの上で、都合の悪い要素にはあえて目を瞑った感じであった。あと自宅への奇襲が数回に及んで、その可能性もあらかじめ予期していたのに、何やら大事なものらしい書類とかをそのまま置いておいたってのもヘンだし。
 何より、スティーヴのアリバイを証言してくれる(中略)、物語の後半、事態がどんどん悪くなっていくなかで、そのまま放りっぱなしってのは、作中のリアリティとしてどーなんでしょうか(……)!?

 それでも良い意味で、競馬界のトリヴィア的なものを見せつけてくれた犯罪の真相はかなり面白かったし、何より最後の決着の付け方は他の英米作家のいろんな作品を想起しながら感慨深いものを抱かされる。完成度から言えば佳作、読み応えとしては十分に秀作であった。

 しかしこのお仕事とファミリーネーム(セカンドネーム)ゆえ、さんざ「ペリイ」とからかわれる主人公だけど、誰かひとりくらい「ランドルフ」と呼んで、主人公によくわかんないギャグだポカーン、という反応をさせて欲しかった。いやまあ、ぢつにどーでもいい話だけど(笑)。

No.1 6点 2019/02/28 11:14
 法律事務所に勤務する傍ら、アマチュア騎手としても活躍するバリスタ、ジェフリイ・メイスン。彼はある日シャワー室で嫌われ者騎手スコット・バーロウが、不仲のライバル、スティーヴ・ミッチェルに殴り倒されて横たわっているのを目撃する。
 その2日後ジェフリイは加害者スティーヴからの電話を受けた。スコット殺害の容疑で逮捕されたというのだ。自宅で発見された被害者は農作業用のピッチフォークで胸を貫かれて殺され、その先端にはスティーヴの購入した馬券が突き刺さっていた。スコットは規則を犯す騎手たちの名を理事たちに告げ口しており、ピッチフォークもスティーヴの持ち物。残された血痕その他の証拠も、彼の犯行を指し示していた。
 気乗りせぬジェフリイは、スティーヴに他の弁護士を紹介する。だがその前後から、携帯電話やメールに謎の伝言が届き始めた。「言われたとおりにしろ」と。
 不安に囚われるジェフリイ。間もなく彼は事務所前で、バットを持った暴漢に手酷く痛めつけられる。かつての依頼人ジュリアン・トレント。その凶暴性から何度も傷害事件を繰り返し、有罪となるも公訴官の不正行為から釈放された男だった。
 傷ついた身体を抱え事務所に辿り着いたジェフリイだが、そこで待っていたのは「ミッチェルの弁護を引き受け、そして負けろ」という新たな脅迫状。同封されていたのは、自宅前に立つ七十八歳の父の写真だった。
 恐怖と職業倫理の狭間で悩むジェフリイだったが、新しい恋人との出会いを通じ、彼はついにスティーヴを弁護し、全ての脅迫に打ち勝つ決意を固める。
 2008年発表の競馬シリーズ第42作。実息フェリックスとの共作としては「祝宴」に続く2作目。無難に仕上げた感じの前作に比べるとかなり大胆な作品で、凶悪さを全面に押し出した仇役が登場します。
 主人公は七年前に妊娠した妻を失った弁護士ですが、家財道具はメチャクチャにされるわ亡妻の写真は破られるは、満身創痍になるわ、その他さらにヘビーな境遇にとえらい目に。「司法と脅迫」が主なテーマで、作中では一九二〇年代のシカゴに君臨したアル・カポネのエピソードが挿入されます。
 レベルとしてはフランシス単独作品後期位の、出来の良い作品まで戻った感じ。どうやって被告スティーヴの自動車キーを手に入れたのとか、部外者のくせに騎手仲間のウラにやけに詳しいじゃんとか、そのへんの説明が少ないのが難ですが、仇役ジュリアンはそれなりに狡猾な犯罪者として描かれているのでまあ問題ないことにしましょう。
 裏に潜む黒幕の動機もかなり考えられた意外なもの。法廷シーンの痛快さと併せ、リーガルに分類しても良かったかもしれません。もっともラストの主人公のショッキングな決断は、それとは対極にありますが。


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