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[ 日常の謎 ]
本と鍵の季節
図書委員シリーズ
米澤穂信 出版月: 2018年12月 平均: 6.10点 書評数: 10件

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集英社
2018年12月

集英社
2021年06月

No.10 6点 びーじぇー 2023/08/25 22:52
語り手である堀川の目に映った松倉は、皮肉屋で大人びた頭脳明晰な少年として描かれる。このような場合、普通は松倉が天才名探偵、堀川がワトソン役という役割を分担となることが多い。実際、先輩女子の依頼で開かずの金庫の開け方を推理することになった松倉が、堀川には見えていなかった真実を看破してみせる第一話「913」を読むと、本書もそのパターンなのかと思わせる。しかしその後、二人の関係はそんな読者の予想から逸脱してゆく。
テストの問題を盗もうとしたという嫌疑をかけられた後輩の兄のアリバイを証明しようとする第三話「金曜日に彼は何をしたのか」では、二人の倫理観の相違が微妙な読後感を醸し出す。そして決定的なのが、その次の「ない本」だ。「913」とは逆に、松倉に見えない真実が堀川には見えていて、両者の探偵としての資質が補完関係にあることが窺えるが物語の決着は、ミステリにおける探偵役は当事者の私的領域にどこまで踏み込むことを許されるのかを問うような苦いものだ。
そして「昔話を聞かせておくれよ」と、そこから続く最終話「友よ知るなかれ」で、その苦さは更に増し、読者の心をも鋭く抉りつける。言わなくてもいいことを口にしてしまった経験がある読者なら、堀川の子供時代の思い出を読んでいたたまれない思いをするだろうし、倫理的な正否は別として、最終話で松倉が見せるある種の弱さを断罪しきれない読者もいるかもしれない。理想と現実の割り切れない関係の間で揺れる友情を、青春ミステリの枠で描いて見せている。

No.9 6点 猫サーカス 2022/10/13 18:04
主人公の堀川次郎は高校二年生の図書委員。相棒は同じく図書委員で皮肉屋の松倉詩門。利用者の少ない図書室で暇を持て余す二人のもとに舞い込む厄介事や頼まれた事が、連作短編の形で綴られる。この謎解きが実に多彩で、開かずの金庫に挑戦する「913」は暗号ミステリ。美容師の一言から思わぬ事実が導き出される「ロックオンロッカー」。テスト問題を盗んだ疑いを掛けられた生徒を助ける「金曜に彼は何をしたのか」はアリバイもの。自殺した先輩が最後に読んだ本を知りたいという「ない本」は、証言から真相に到達する安楽椅子探偵もの。収録されている謎解きは趣向こそ違えど、第二話以外はすべて何かを「探す」話である。それは高校生という、何かを探して足搔く年頃のメタファのように思える。本書は、今の自分では出せない結論を、それでも懸命に探す若者の物語なのだ。若い世代にはもちろん、幅広い世代の人たちに読んでいただきたいほろ苦い青春ミステリ。

No.8 5点 ボナンザ 2021/11/07 20:27
想像以上にブラック要素の強い短編集。結構好き。

No.7 7点 makomako 2021/08/09 09:24
 米澤氏は力のある推理作家であることは間違いないと思いますが、私にとって作品によってかなり好き嫌いがわかれる不思議な方です。
 古典部シリーズなんかは大好き。小市民シリーズは毒が強くてどうも好きになれない。
 この作品は連作で、初めのうちは古典部シリーズの味付けに似通っておりとても気分良く読めましたが、最後に行くに従い作者の毒がじわっと出てきて、ちょっと好みを外れる感じとなりました。
 とは言え、なかなか興味深い内容がしっかりと描かれており、読んで損はない作品であることは間違いないと思います。

No.6 6点 パメル 2021/07/26 08:31
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。ある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を当ててほしいというのだが。図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生二人が挑む全六編。
「913」先輩女子から開かずの金庫の番号を当ててほしいと頼まれる。
「ロックオンロッカー」美容院に行った彼らが店に漂う不穏な空気を感じ取り、その事情を推理する。
「金曜日に彼は何をしたのか」テスト問題を盗んだ疑いがかけられた兄のアリバイを見つけてほしいと相談を持ち込む後輩男子。
「ない本」自殺した級友が最後に読んでいた本を探す。
「昔話を聞かせておくれよ」「友よ知るなかれ」どこかへ隠されたお金を探すことに。隠された現金は発見できるのか。
1話から4話までは、2人が本や鍵にまつわる謎に対し、異なるアプローチで推理力を発揮、時に食い違い、時に補完し合って事件を解決していく内容。5話から6話では、謎に向き合うなかで、彼らの意外な苦悩が見えてくる。内面の屈折とほろ苦さが魅力の作者らしい青春ミステリに仕上がっている。

No.5 7点 白い風 2020/01/04 16:13
高校生図書委員の二人が本にからんだ日常の謎を解決する6篇の短編集。
最初は松倉がシャーロックホームズで堀川がワトソン的な存在かと思った。
しかし、後半は堀川が松倉の過去を解く展開に・・・。
高校生の話だったけど、内容はちょっとビター味でしたね。

No.4 5点 まさむね 2019/07/28 21:00
 男子高校生のコンビでしたが、「古典部シリーズ」や「小市民シリーズ」から連なる雰囲気を感じることができましたね。コンビといっても、ホームズ&ワトソンという位置づけにしていない辺りもイイと思います。でも、ミステリーとしての驚きは少なかったかも。ちょっと無理やり感も抱いたりして。

No.3 5点 虫暮部 2019/05/28 11:25
 高校生が推理合戦に興じる状況設定に苦心している印象で、素直に読めたのは最後の“宝探し”くらい。また、私の読み方が浅いのか、二人の資質の差異があまり感じられなかった。
 “人気がない図書室”の読み方はどっちだ? (とわざわざ書くのも大人気ないが……)

No.2 7点 sophia 2019/02/25 19:23
図書委員の男子高校生二人の友情(?)物語。謎解きは基本的に松倉君が主導権を握っているのですが、堀川君の方も単なるワトソン役には収まらず、後半の話では松倉君を上回る冴えを見せます。地味ではありますが、日常の謎という括りで見ればどの話も高い水準にあって楽しめると思います。

No.1 7点 青い車 2019/01/29 08:08
 また高校生が主人公?と若干悪いマンネリも疑っていたのですが、読んでみると最近の流行に媚びず端正にまとまった良作だと感じました。『913』の暗号(江戸川乱歩短編に類例あり)の扱いや、『ない本』のシリアスで哀しみを帯びたオチが印象的です。安易にハッピーエンドで締めないのが米澤作品らしく、それは初期の頃から変わってない所です。


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