皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1141件 |
No.1141 | 6点 | 愚か者の祈り- ヒラリー・ウォー | 2025/02/08 21:19 |
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著者の作品は初めて読む。「このミス」2025年度版で、青崎有吾のインタビュー中に出てきて興味がわいたので、読んでみた。
王道の警察小説で、捜査官のコンビが捜査を進める中で少しずつ真相に至っていくという至って地道な展開。だが、「とにかく事実。事実の積み上げのみが大事なんだ」というダナハー警部と、推測や推理で真相を探ろうとするマロイ刑事のコンビネーションが面白い。一足飛びに犯人を推理しようとするマロイ刑事をダナハーはたびたび一喝し「クソ刑事」とまで言うのだが、なんだかんだで互いをリスペクトしている様子は読んでいて心地よい。 ひょんな興味から手に取った一冊だったが、読んでよかった。 |
No.1140 | 7点 | ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。- 辻村深月 | 2025/02/08 21:04 |
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平成らしい「女子」世界の価値観と、親子関係、愛情の在り方といった家族観の問題が巧みに絡められた作品。桐野夏生作品にも似たような、リーダビリティの高い一作だった。
みずほの旧友、チエミが母親を殺めて行方をくらました。チエミの母娘は、昔から周囲も認める仲良し母娘だったが、そのあまりの距離の近さに危うさやおかしさを感じる人たちもいた。とはいえ当のチエミは意に介さず、母親を慕っていたはず。どうしてそんなことになってしまったのか、神宮司みずほは独力でチエミの行方を追おうとする。 ジャーナリストとして都会で華々しく生活するみずほと、内向的で保守的なチエミ。対照的な2人を取り囲む、若いころの友達関係。コンパ、男選び、結婚と、平成の女性群像を如実に描き、さらにその渦中にある一人一人の心を描き出しているのは非常に面白い。たどり着いた真相はやるせなくも心を打つものであり、印象に残る作品だった。 |
No.1139 | 6点 | 架空犯- 東野圭吾 | 2025/02/08 20:41 |
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高級住宅地にある邸宅で起きた火災。焼け跡からは、都議会議員と元女優という、著名な二人の遺体が発見された。しかし、男の遺体には絞殺の跡があり、首吊り状態で発見された妻の遺体も、自殺を偽装した跡が。捜査一課刑事・五代努は、所轄の山尾という警部補と組んで捜査に当たることになるが、山尾の言動に何か不審なものを感じる―
<ネタバレ要素あり> 死んだ元女優・藤堂江利子夫人が、山尾の同級生であったこと、さらに山尾の親友の死に関わっていたことなど、隠された人間関係が明らかになっていくにつれ、読者の想像はある方向に持っていかれるが、それを想定したうえでの後段の企みはある程度成功しているとは思う。親友・永間を裏切った存在であるはずの藤堂になぜ山尾が協力するのか、深まる謎に対する答えとしてはなかなかだった。 今回も期待する水準は満たしている一作と感じる。安定した人気もうなずける。 |
No.1138 | 6点 | 転落- 永嶋恵美 | 2025/02/02 18:02 |
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冒頭の、小学生の少女に恵みを施されているホームレスの話から、物語は意外な広がりを見せていく。ホームレスが殺人事件の容疑者として指名手配されているとという状況が分かってきて、さらに読み進めていくと、「わが子を殺した女性を匿っている被害者女性」といういびつな状況が分かり、これはどういうことなのかという不可解さを抱く。「その始末は自分でつける、警察にやらせるわけにはいかない」といったような復讐心かと思いきや、どうやらそういうことでもないらしい。
最終段で明かされるその真相は確かに意外であり、よく企まれた一編であるとは感じる。小出しにせずに、事件の背景をもう少し読者に分かりやすく示してくれる方が読みやすいのに、とは思ったが、基本的に十分なリーダビリティで楽しんで読むことができた。 |
No.1137 | 5点 | 長い長い殺人- 宮部みゆき | 2025/02/02 17:42 |
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刑事、探偵、目撃者、被害者…犯人と、それぞれの「財布」を視点人物としてリレー形式で事件を描くという構成は面白かったが、あくまで「一風変わった描き方」という域を出ず、つまりはその利点はあまり感じられなかったという印象。
明らかに容疑の濃い立場でありながら、むしろ積極的にメディアに露出し、日本中の話題をさらうという様相は80年代に一時日本中のワイドショーを独占したあの有名な疑惑を彷彿とさせ、既視感を感じるものがあった。 しかし真相は、犯罪の起点がちょっと都合のよすぎる偶然に感じ、これだけの長編で、凝った演出(財布語り)をつないできた構成の受け皿としてはやや物足りなさがあった。 |
No.1136 | 7点 | まず良識をみじん切りにします- 浅倉秋成 | 2025/02/02 17:21 |
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日々増幅する、取引先の役員に対する憎しみ。ついに男は復讐を計画する(「そうだ、デスゲームを作ろう」)。結構披露宴で、突然花嫁が「気持ち悪い」の言葉を残して部屋にこもってしまった。原因は何?(「花嫁が戻らない」)。試合終盤に突然、自チームの足を引っ張るプレイを全力でし出したプロ野球選手。その真意は?(「ファーストが裏切った」)
日常を逸脱したちょっと異常なシチュエーションを舞台に、ブラックユーモアを交えた痛快な作品が並ぶ短編集。 一作目の「そうだ、デスゲームを作ろう」から面白かった。日々の苦渋に耐え、いつかそれがデスゲーム決行へのモチベーションになっていく中、その思いは果たせるのか―と純粋に結末が楽しみに。「行列のできるクロワッサン」は、ありえないバカバカしさながら、週刊誌報道に右往左往する昨今の日本の群集性が思い浮かんでくるところもあり、痛快な皮肉を感じた。 印象的な一編は「ファーストが裏切った」。選手の奇行には最後まで明確な理由はないが、理由のない人間心理の危うさを描くという趣旨は面白かった。 |
No.1135 | 7点 | 六色の蛹- 櫻田智也 | 2025/02/02 16:54 |
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昆虫好きの青年・魞沢泉(えりさわせん)。その興味のもとに全国処々を訪ね歩く彼は、行く先々で事件に遭遇する―ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件(「白が揺れた」)。ある日花屋に来て、季節外れのポインセチアを欲しがった女子高生の真意は?(「赤の追憶」)。ピアニストの遺品から一枚だけ消えた楽譜の行方は?(「青い音」)。とぼけたキャラながら実は人に寄り添う優しさをもつ、魞沢の精度の高い謎解きと叙情漂う良質なドラマ6編。
切なくそして心温まる「赤の追憶」、先行書評にもあるように結末を待たずとも真相は見当がつくが、その予感も含めてじんわりとした感動があってよい。その後日譚が、最終話「緑の再会」により描かれているのも嬉しかった。 個人的にはそれ以上に、「白が揺れた」の続きが描かれている「黄色い山」が最も印象に残った。 |
No.1134 | 5点 | にわか名探偵 ワトソン力- 大山誠一郎 | 2025/01/13 21:59 |
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その場に居合わせた人たちの推理力が格段に向上する、という特殊能力「ワトソン力」(本人は変わらない)をもった警視庁捜査一課・和戸宗志のシリーズ第二弾短編集。
主人公が私生活の場で殺人に遭遇し、限られた登場人物=容疑者の中で推理合戦を繰り広げるというテンプレート。人物描写や心情描写も浅く、完全に推理に特化した「推理クイズ」的な各編。そういう趣旨を踏まえた上で、肩の力を抜いてその推理クイズを楽しめればよい、という感じ。 7話で計250ページ、あっという間に読めて手軽に楽しめる。 |
No.1133 | 9点 | 檜垣澤家の炎上- 永嶋恵美 | 2025/01/12 22:00 |
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大正時代、横濱で知らぬ者なき富豪一族、桧垣澤家。当主の妾の娘、高木かな子は母を亡くしこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様、スヱ、互いに美を競い合う三姉妹と、桧垣澤は女が主権を握る家だった。ある夜、婿養子が不審な死を遂げ、いよいよ桧垣澤家は女系一族に。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館で、かな子は策をめぐらせながら自身の立身を目論む―
序盤に婿養子・辰市の不審な死が描かれるものの、700ページを超える物語の中盤大部分は、かな子が桧垣澤家で自身の立ち位置を守るために知略をめぐらせるさまが描かれるストーリーで、ミステリ色は薄い。が、表裏を使い分けるしたたかな女性たちの物語はそれ単体でも十分面白く、のめり込んで読めた。 そして終盤、序盤の事件の真相だけでなく、桧垣澤家に隠されたさまざまな秘密がドミノ倒しのように明らかにされていく。その段では、そこまで描かれていたストーリー中の諸所に仕込まれていた伏線が見事に回収されていき、ミステリとしての魅力が一気に表出される。唸らされた。 緻密に編み込まれ、人間ドラマとミステリが見事に融合した重厚な一作。見事だった。 |
No.1132 | 8点 | Q- 呉勝浩 | 2025/01/12 21:24 |
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長姉のロクこと睦深 (むつみ)、次女のハチこと亜八(あや)、末弟のキュウこと侑九(たすく)の3人きょうだい。2019年、ハチは傷害罪で執行猶予中の身となり、清掃会社でバイトをしていた。そんな折、距離をとっていたロクからキュウに関する緊急の連絡が。ダンスに天賦の才があり、芸能界デビューを果たしたキュウに邪魔者が現れたという。自分たちの希望であるキュウを守るために、姉妹は立ち上がる―
策士のロク、凄みと繊細さ併せ持ったハチ、天真爛漫なキュウという三者三様のキャラクターが織りなす厚みある物語。その中で、次女・ハチを中心の視点人物に据えた構成は当たっている。典型的な「天才肌」で、周囲を振り回しながら生きるキュウと、知力と計略でそれを支えていこうとする長女ロク。2人それぞれとの微妙な関係に揺さぶられ、彼らと一線を画しながら生きていこうとする次女・ハチの立ち位置が、物語を非常に魅力的なものにしている。 キュウ=Qの才能に魅了される者、商業的な利権を狙う者、自らの社会進出に利用しようとする者―さまざまな思惑が跋扈する中を、悲惨な生い立ちを共有したきょうだいが駆け抜けていく。 読み応えのある一作だった。 |
No.1131 | 5点 | 鬼の哭く里- 中山七里 | 2025/01/02 17:13 |
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岡山県津山市姫野村。人口 300 人にも満たないこの限界集落には、70余年前、村人 6 人を惨殺した巌尾利兵衛の呪いにより、数年に一度、鬼哭山から利兵衛の咆哮が轟き、仇なした者を殺すという呪縛を恐れていた。そんな村に、一人の男が東京から移住してきたことをきっかけに、呪いの犠牲者と思しき死者が出てしまう。移住者の排斥に昂ぶる閉鎖的な村民たち。いったい、事件の真相は―?
冒頭は、「津山三十人殺し」を彷彿とさせるよう。著者策の「ワルツを踊ろう」も同様な色付けだったから、何となく既視感が… <ネタバレ> 「咆哮が聞こえることは、死者が出たとき以外も何度もあった」という記載から、「まぁ、自然現象っていうオチなんだろうな」とは思っていた。それでも一番最後に一仕掛けするのはさすがで、ブラックな結末ではあるがらしさが感じられる一作だった。 |
No.1130 | 5点 | 不死蝶- 横溝正史 | 2025/01/02 16:58 |
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鍾乳洞、夢遊病…金田一シリーズでよく用いられる題材ではあり、横溝作品らしい雰囲気とはいえる。もう一本収められている「人面瘡」にしても。
<ネタバレ> 上に書いたように、23年前の失踪事件、古い村の名家二家による争い、鍾乳洞…と、横溝正史らしい作品舞台はばっちり。ただ、起きた殺人事件の真相自体は、ある意味それらとは無関係で、いたって世俗的、短絡的、衝動的なもので…まぁそういう逆方向での「意外な真相」ではあるのだが、つくりの粗さは否めなかった。 「人面瘡」のほうがむしろ、真相は過去の人間関係に根差したものがあり、長さ的にもちょうどよかった気がした。 |
No.1129 | 6点 | あの本は読まれているか- ラーラ・プレスコット | 2025/01/02 16:39 |
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CIAのタイピストとなった女性の、スパイとしての裏の顔と、反体制の文学作品を書き上げたロシア人作家とその愛人の物語。戦争という時勢に翻弄されながら、強く生き抜く女性たちの人生を描いた厚みのある作品。
当時の世界情勢について改めて学びつつ、「ドクトル・ジバゴ」という作品が世に出されていった数奇な軌跡を非常に興味深く読んだ。スパイ小説の部類になるかもしれないが、作品としてはドキュメンタリー的な魅力のほうが濃く、ミステリの楽しみとはまたちょっと違う位置づけになるかなとは思う。 |
No.1128 | 6点 | 禁忌の子- 山口未桜 | 2024/12/29 19:52 |
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救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。第34回鮎川哲也賞受賞作。
<ネタバレ注意> 搬送され、死亡した男性が自分と瓜二つだった、という不可解で衝撃的な冒頭は非常に魅力的。その後、不妊治療専門クリニックにたどり着き、「すべてを話す」と約束した院長がその約束の日に死んでいた…と、読ませる展開が続くのだが、一方で主人公・武田と「キュウキュウ十二」の関係はそこでうっすら見えてきてはしまう。その後は、その「答え合わせ」を進めていくようなところもあって、謎がどんどん深まっていくという展開とは違った。 ただ最後にとんでもないどんでん返しがあり…さすがに予想外ではあったし、唸るものがあった。 |
No.1127 | 8点 | イッツ・ダ・ボム- 井上先斗 | 2024/12/29 19:39 |
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「日本のバンクシー」と耳目を集めるグラフィティライター界の新鋭・ブラックロータス。公共物を破壊しないスマートな手法で鮮やかにメッセージを伝えるこの人物の正体、そして真の思惑とは。(第1部 オン・ザ・ストリート)
20年近くストリートに立っているグラフィティライター・TEEL(テエル)。ある晩、HEDと名乗る、イカしたステッカーを街中にボムってい青年と出会う。二人は意気投合し、ともに夜の街に出るようになるがある日、HEDはTEELに〝宣戦布告〟を突き付ける―。(第2部 イッツ・ダ・ボム) グラフィティライター界という、これまでにない舞台を題材とした物語が単純に興味深く非常に面白かった。特に、第1部を踏まえた第2部がグッと引き寄せる感じで、登場するグラフィティライターの美学も含めたミステリは読ませるものがあった。200ページほどの一冊で、まさに一気読みできてしまう。面白かった。 |
No.1126 | 8点 | 身代りの女- シャロン・ボルトン | 2024/12/29 19:28 |
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卒業を間近にしたパブリック・スクールの優等生6人。悪ノリした「肝試し」で泥酔して道路を逆走、母娘3人の命を奪う大事故を起こしてしまう。パニックになる仲間たちに、「私が罪をかぶる」と申し出たメーガン。20年後、刑期を務めた彼女が、国会議員、辣腕弁護士と、いまや成功した人生を享受している5人の前に姿を現す。メーガンは、彼らに何を求めているのか―自己保身に戦々恐々とする5人と、真意の読めないメーガンの言動とが交錯していく先には……一気読み必至のサスペンス
将来を嘱望される優等生たちの裏の顔、悪ノリで始まった罪が、その後の人生を苛む。出所してきたメーガンの真意が読めない中、次々と仲間が不幸に遭っていく…これぞ、サスペンス。物語の枠組みも、展開も非常に私好みで引き込まれた。 「今面白いサスペンスは?」と誰かに言われたら、真っ先に薦めたい一冊かも。 |
No.1125 | 5点 | バーニング・ダンサー- 阿津川辰海 | 2024/12/29 19:10 |
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2年前のある日、隕石が落下し、この世に百人の異能力者──「コトダマ遣い」が誕生した。彼らは「燃やす」「放つ」「伝える」「硬くなる」など、それぞれに異なる能力を持つ。必然、能力を悪用する犯罪者が現れ、警視庁に「公安部公安第五課 コトダマ犯罪調査課」が立ち上げられる。ある事件により相棒を失い、捜査一課を追われた、自身も「コトダマ遣い」である刑事・永嶺スバルはそのメンバーとして召集される。就任早々、全身の血液が沸騰した死体と、炭化するほど燃やされた死体という、異様な事件が勃発する―
異能力者「コトダマ遣い」の犯罪者に、同じく「コトダマ遣い」のメンバーが対峙する…下手するとアニメのような物語設定だが、そこはさすが作者、ミステリとしての線は外さずに物語を仕組んでいる。 特殊設定ミステリとして標準的に面白いが、設定された異能力の範囲や限界が最初にはっきりしていない感じもあって、後になって「実はこういうことも可能」と後付けされるような印象もややあった。 ラストの真相も、はっきりそうだと分かっていたとまでは言わないが、どんでん返すならまぁ、きっとそうだろう…という意味でうっすら見えていた感じはあったかも。 |
No.1124 | 4点 | 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿- 市川憂人 | 2024/12/07 20:59 |
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マリア&漣のシリーズをはじめ、作者の作品は好きなんだが…これはハマらなかった。
<ネタバレ> 殺人の指南本と目されている本の、事件の様相を描く描写を細かに観察していく中で推理を進めていくのだが…細かすぎてついていけない。人物の言動を詳らかにしながら「…するつもりだったら、こんな行動はしないはず」「そもそも…したいのなら、こんなことをする必要はない」など… 論理的と言えばそうなのだろうが、ロジックが細かすぎて途中でついていく気力が失せてしまった。 だいたい、「配本師」による事件は日本全国で起きているということなのに、ピンポイントでこの学校に「未完図書委員」の杠が来ていることの説明もないし、実際にそこで事件が起きることについてもそう。事件のからくりに関しては細かく仕組まれている割には、そういう物語の設定・大枠の部分で不自然さがあり、なんだかちぐはぐな感じがした。 |
No.1123 | 5点 | 吸血蛾- 横溝正史 | 2024/12/07 20:41 |
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蛾が添えられた死体、嚙み切られた乳房、衆人注目の中での殺人発覚…など、見映えのある展開が続き飽きさせないのだが、ファッションデザイナーという華やかな舞台設定により、横溝氏の代表作のような陰惨さがイマイチ感じられず。金田一もかなりの終盤まで動く気配がなく、お呼びがかかってからも次々と人が殺されているにも関わらず傍観しているような感じで。
<ネタバレ> 最後の最後に一応金田一の推理が真相を射当てるのだが…まぁ真犯人はミステリに読み慣れた読者なら十分予想の範疇。 しかし時代とはいえ、これだけひとつのデザイナー事務所で殺人が続いているのに、犯人がいつもスルスルと現場に入れてしまうのは…まぁやっぱり時代なのかな。 |
No.1122 | 7点 | ほんとうの名前は教えない- アシュリィ・エルストン | 2024/11/28 23:11 |
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冒頭から”エヴィ”を名乗る主人公は、実は正体を偽って対象を調査する闇組織に属する女性。今回結婚を約束するまで近づいた男性ライアンも調査対象者。ところが任務を遂行するエヴィの前に、自分の本名”ルッカ”を名乗る、自分そっくりの女性が現れる。彼女も「組織」の人間なのか?だとしてもなぜ自分の前に?エヴィが疑念にとらわれる中、事態は次々に急展開し―
結婚を見据えた幸せなカップルのような冒頭の物語が、あれよあれよと姿を変えていく。実は”エヴィ”の調査対象であった、婚約者のライアンにも後ろ暗いところがあり、さらには自分の本名”ルッカ”を名乗る女性も、自分に仕掛けられた刺客だった。いったい”エヴィ”のボスは何を企み、そして誰なのか―?「現在」と”エヴィ”のこれまでの様子が描かれた過去が交互に描かれる章立ての中、常に動き続ける展開から目が離せない。 読み進めるにつれて、ミステリを嗜んでいる皆さんならボスの正体は見当がついてくるとは思う(私もそうだったし)。が、それを踏まえても物語の行く先への興味は尽きないリーダビリティがある。 面白かった。 |