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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1051件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1051 8点 少女が最後に見た蛍- 天祢涼 2024/02/13 20:50
 神奈川県警生活安全課の婦警・仲田蛍。弁護士になるために「軍師」キャラで高校生活をやり過ごそうとしている正義感の強い少年が目撃した、同級のいじめっ子のひったくり強盗(十七歳の目撃)。両親を思う気持ちゆえに、SNS上の言動から国会議員宅に暴挙を仕掛けた少年(言の葉)。青少年の心に寄り添い、理解しながらも正しい道へ導こうとする警察官・蛍のどこか心が温まる連作短編集。

 有名ランキング等で華々しく耳目を集めてはいるわけではないが、天祢涼は個人的に非常に信頼を置いている作家である。読みやすい文体、リーダビリティの高い構成、満足感の高い結末。本短編集も、その期待に沿う快作といえる。シリーズものの主人公が、青少年時代から異彩を放つ存在であった、という体はまぁよくあるパターンではあるが、どんな作品を読んでもそのたびに面白いのだからよい。
 表題作以外は人が死ぬこともない、いわゆる「日常の謎」(犯罪はあるが…)のような作品集だが、「殺人」という極端で分かりやすいミステリではない題材で、ミステリとして仕上げるのはかなりの腕前が必要なのではないか、と本作のような短編集を読むとつくづく感じる。
 いずれにせよ、好きなシリーズ(そして作家)になっている。そしてハズれないという信頼もある。本作以降も期待したい。

No.1050 6点 アンリアル- 長浦京 2024/02/13 20:25
 両親の死の真相を探るため、警察官となった19歳の沖野修也。警察学校在校中、二件の未解決事件を解決に導いたが、推理遊び扱いされ組織からは嫌悪の目を向けられていた。その目は、暗がりの中で身構える猫のように赤く光って見えるー。それが、沖野の持つ「特質」だった。ある日、「内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」という聞きなれない部署への出向を命じられた。そこは人知れず、諜報、防諜を行う、スパイ組織であったー。(「BOOK」データベースより)

 「悪意、敵意をもっている人間の目が赤く光って見える」という特異能力を有する主人公の、SF?特殊設定?仕立ての、スパイ小説。
 こうした仕立ての作品によくあるように、登場人物たちが超人的な技能をもちながら、ある意味「淡々と」それを行使し日常業務的に過ごしている。毒殺や爆殺の危険がそこかしこにありながら、その先の先を読んで防護したり、仕掛けたりとか。まぁ現実的にはありえないスペシャリスト感なのだが、「現実的にはあり得ないスペシャリスト感」だからこそ面白いのであって。ある意味アニメ的な。
 ということで、小気味よく面白かったことは間違いない。ただ、主人公の一番の核である「事故死とされた両親の真相」が、結局何ら解明されないまま終わっているのはいかがなものか。続編へと続くということなのだろうか。だとしてもこの問題は、本作の中で完結しておくべきだったのでは…と思う。

No.1049 5点 野火の夜- 望月諒子 2024/02/11 20:03
 血まみれになった五千円札を大量に各所で両替し、刷新しようとしていた事件から、25年前の田舎町で起きた放火殺人の真相が紐解かれていく。なかなかのプロットのもと組み立てられた、よくできた物語なのだが…
 なぜか、非常に頭に入ってきにくい感じがあった。5千円札事件、豪雨の日の記者の死亡事件、池袋のビル下で起きた死亡事件、と複数の筋を行き来して話が展開し、さらには終戦後の満州の話に及ぶなどめまぐるしく場が広がっていくなど、頭がなかなかついていけなかったのが正直なところ。
 文章には力があり、人間描写も巧みだと感じるのだが、作中の情報の消化が追い付かず、作品本来のよさを感じきれずに読了してしまった感があった。

No.1048 7点 ちぎれた鎖と光の切れ端- 荒木あかね 2024/02/11 19:51
 ある孤島に夏のバカンスを楽しむために集まった8人の男女。その中の一人、樋藤清嗣はうえ、自分以外の全員を殺害する計画でいた。ところが、滞在初日の夜、樋藤ではない何者かの手によって参加者の一人が殺害される。混乱し、焦る樋藤を尻目に、殺害は次々実行されていく―

 連続殺人を企図していた人間の目の前で、自分ではない誰かによって進められていく惨殺劇。斬新というほどではないが十分魅力的な展開で、第一部は本格ミステリを堪能できた。
 場面が変わっての第二部も、一転して現代的な小気味よいテンポで、その対照性が作品の面白さを増していたと思う。総じて面白い一作だった。
 ロジカルな謎解きに仕立て上げるために、物語を緻密に仕組んでいる手腕は十分わかるが、それゆえに強引にならざるを得ないところがあったのも確か。場の勢いで一人の男を殺めてしまった犯人が、一気にここまで犯罪を飛躍させるか?(それをここまで隙なくやり遂げるか?)クーラーボックスの中身を見ただけで、皆殺しの企みを「確信的に」知りえるか?…など。
 まぁ、ミステリとしての謎解きを楽しむため、と振り切って楽しむべき。

No.1047 6点 一夜- 今野敏 2024/02/04 20:27
 人気小説家・北上輝記が誘拐された。著名人の誘拐事件に緊張が高まる警察だったが、犯人からの接触は一切ない。ようやく届いた犯人からの要求は、「この誘拐事件を世間に公表しろ」というもので、金銭その他の要求はなし。いったい犯人の目的は何なのか?おかしなところが散見される事件に、竜崎伸也が挑む。

 同じ日に都内で起きた殺人事件の話が出てきたところで、だいたい真相が見えてきて、実際その通りだった。ミステリ的な仕掛けとしては本サイトの方々であれば予想の範囲内だろう。周囲の、世俗的な余計な配意を一蹴する竜崎節も本作ではあまり目立たず。相変わらず小気味よく無駄のないテンポで非常に読み進めやすいが、シリーズとしては平均作の印象。

No.1046 6点 あなたが誰かを殺した- 東野圭吾 2024/02/04 20:14
夏の閑静な別荘地で恒例となっていた、近隣同士の四家でのバーベキュー・パーティ。ところががその晩に、5人が殺害される連続殺人が起きた。突如起きた惨劇に、悲しみに暮れる親族たちだったが、犯人はすぐに自首。四家族とは縁のない外部犯だったのだが、あまりに不可解な事件の様相を解こうと、関係者たちで「検証会」を行うことに―

 「〇〇が〇〇を殺した」のタイトルによる加賀恭一郎シリーズは、これまでは作中で犯人が明らかにされず、読者が真相を推理するという仕組みの作品だったのだが、本作はそうではない。言ってしまえばいたって「普通の」フーダニットのミステリだった。
 作品前段で早々に犯人が自首するのだが、当然それがそのまま真相であるはずはなく、「真犯人」が別にいるという暗黙の了解で物語を読み進めることになる。些細な違和感をもとに推理の突破口を見出す加賀刑事の慧眼は健在で、そこから真相を紐解いてく過程は本格ミステリの純度が高い作品ではある。ただそれ以上でもそれ以下でもなく、いたってオーソドックスな(良い意味でも)仕上がりの一作だった。

No.1045 8点 ジェンダー・クライム- 天童荒太 2024/01/22 23:50
 土手下に転がされていた男性の遺体。遺体には、性的暴行の痕が残るうえに、あるメッセージが残されていた―「目には目を」。なんと被害男性の息子は、3年前に起きた集団レイプ事件の加害者だった。これは、3年前の事件の復讐なのか?八王子署刑事課・鞍岡警部補は、いけ好かない捜査一課の志波刑事と共に事件捜査に乗り出す。

 女性蔑視をテーマとした作品名ではあるが、良い意味で、その色が作品全体を覆っているというほどではなく、ミステリとしての魅力が十分充溢していた。
 レイプ被害に遭った娘と、その家族の苦悩だけではなく、狭いヒエラルキーの中で罪に加担してしまった加害少年の後悔も同時に描かれ、そのことが最終的に両者の奇妙な関係を生んでいくというストーリーが強引でなく上手く組み立てられており、心を動かされるものがあった。
 同時に進行する鞍岡警部補と志波刑事の物語も面白く、作品に厚みを持たせている。そのうえで、最後には冒頭の事件の真犯人が意外な側面から明らかにされるなど、丁寧な構成がきちんとミステリとして組み立てられており、満足できる一冊だった。

No.1044 6点 狙撃手の祈り- 城山真一 2024/01/22 23:18
 東京で楽器店を営む青井圭一。雑誌記者である妻の沙月とはあることで仲違いをしていたが、そんな中、取材旅行に出かけた沙月が電話で「このまま家に帰ったら、許してくれる?」という言葉を残したまま消息を断つ。残された沙月の品から、28年前の未解決事件・警察庁長官狙撃事件を追っていたことが分かる。沙月が追っていたものは何だったのか、どこへ行ったのか。同じ事件を掘り起こそうとしていた刑事と共に、真相を追い始める圭一だったが―

 平成7年に実際に起きた警察庁長官狙撃事件が下敷きとなっているらしいが…あまりその事件を知らない。ただ純粋に、厚みのある警察小説として楽しめた。
 28年前の狙撃事件の犯人は誰なのか?が当然主となる謎であるが、そのことに主人公・圭一の親族がどうかかわっているのか、沙月は何をつかんだのか、など、そこにたどり着くまでの付随した謎が一つ一つ解かれていく展開は地道ながら読み応えがあった。
 真犯人は正直、うすうす推理できてしまう人物ではあった。また、中盤以降から明かされる主人公の境遇が唐突な展開に感じるところもあり、設定に一抹の強引さを感じるところもあったが、全体としては面白い物語だった。

No.1043 7点 レッドクローバー- まさきとしか 2024/01/13 21:17
 東京のバーベキュー場で起こったヒ素による大量殺人。記者の勝木は、12年前に北海道で起きたヒ素による一家殺害事件を思い起こす。高1の長女ただ一人生き残ったその事件で、勝木はその長女を一度だけ目にしていた。東京の事件は別の容疑者が現行犯で逮捕されたが、二つの事件は無関係なのだろうか―?個人的な思い入れも含みながら、勝木は12年前の事件を再度調べ出す―

 読者を引き込む魅力的な展開は相変わらず。12年前の事件があった北海道・灰戸町の住人たちの前時代的なムラ社会文化の描写がまた面白い。真相は結構入り組んでいて、偶然ができすぎているきらいもあるが、それらがダイナミックな仕掛けに結び付いているのだからまぁ…致し方ない。
 ヒールである赤井三葉に、ヒール足りうる魅力を感じざるを得ないが、それ自体がひっくり返されていく後段は、なかなか怒涛の展開だった。

No.1042 8点 案山子の村の殺人- 楠谷佑 2024/01/13 21:04
 合作推理作家の大学生コンビ・宇月理久と篠倉真舟は、取材旅行も兼ねて同級生の地元「宵待村」への帰省に同行することにした。宵待村は、別名「案山子の村」とも呼ばれるほど、町興しも兼ねて案山子が林立している村。だが2人が着く早々、村にある看板に毒の矢が射込まれ、ついに殺人事件が勃発する。現場はいわゆる雪の密室の様相を呈していた――。

 定期的に読みたくなる、純粋な本格推理モノ。〈読者への挑戦状〉も挿入され、往年の本格ファンには堪らない一作では。
 始めの謎として立ち現れた「雪の足跡」に関する真相はちょっとチープではあったが、犯人の動機、真相を絞り込むまでの過程、クローズド・サークルにふさわしい舞台演出など、本格推理欲に十分応えてくれた満足感。
 堪能しました。

No.1041 7点 鏡の国- 岡崎琢磨 2024/01/13 20:42
 大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿「鏡の国」が見つかった。担当編集者の勅使河原は、著作権を相続した姪のもとにやってきて、本作の出版に関していろいろと相談をしていた。その折に彼は言う「この話には、削除されたエピソードがあると思います」―。勅使河原いわく、作中にそのことを匂わせる記述があるという。叔母が残したメッセージとは何なのか。主人公(姪)は改めてその原稿に向き合う―

 作中作に仕組まれた謎を、主人公と一緒に読み解いていくという構成だが、作中作それ自体も単体でかなり面白いので、心地よく読み進められる。
 最後に開示される作中の「違和感」=室見響子の隠されたメッセージ自体は、正直 些細過ぎて、「そんな仕込まれ方がされていたのか!」と瞠目するほどではなかった。ただ、作中作の「仕掛け」は読者の先入観を巧みに生かした上手さがあり、純粋にそれがよかった。
 ラストに二重三重の解体がされるのは昨今の流行りか。にしてもそれを組み立てられる作家の技量には、毎回頭が下がる思いだ。

No.1040 8点 恐るべき太陽- ミシェル・ビュッシ 2023/12/31 21:53
 人気作家・ピエールが選考で選ばれた女性5人を招いての創作アトリエを孤島で開催した。5人の顔ぶれは、強い小説家志望の女性から、ブロガー、警部、真珠養殖業者夫人などさまざま。参加者たちは滞在中に、ピエールから随時与えられる小説課題に答えて過ごすのだが、「行方不明から始めて、続きを考えよ」という課題を出した直後、ピエール自身が行方不明に。ピエールの何らかの企みか…と思っていた面々だったが、その後、参加女性が次々に死体となって発見される―

 帯に「クリスティへの挑戦作」とあるように、様相はまさにクリスティの最有名作品。今までいくつも踏襲されてきたこのパターンで、さて今回はどんな…と思っていたら―驚愕の仕掛け!

 「小説家志望たちを集めた創作アトリエ」という設定がこんな風に作品の仕掛けの下敷きになっているなんて。うーん。これは見事にやられたなぁ。
 (当たり前だが)そんなことはつゆ知らず読み進めていたので、真相が開示されてからの衝撃はすごかった。とはいえ、とても読み返す気力はなかったが…。
 何にせよ、作者(&翻訳者)の発想と考え抜かれ、気を配られた描写による優れた「作品」に脱帽した。

No.1039 5点 哀惜- アン・クリーヴス 2023/12/31 16:24
 マシュー・ヴェン警部は、ジョナサンという男性と同性結婚している辣腕刑事。パートナーのジョナサンは、障害をもつ人たちの社会支援を趣旨とした施設を運営している。ある日、マシューの住む近所の海岸で男性の死体が発見された。事件として捜査を進めるうち、男性の人間関係はパートナー・ジョナサンが運営する施設へとつながっていく。自分は捜査を外れたほうがいいのか?―迷いながらも地道に捜査を進めるマシュー。果たして、事件の背後にあったものは?

 まさに地に足の着いた、地道な警察捜査の丁寧な描写による物語。奇を衒う変化球もない、正道の展開である。間違いのなさで安心して読み進められるが、展開的に派手さもなく、最終的な重要度に関わらず関係者の捜査が押しなべて丁寧に描かれるので、中盤やや退屈でもある。
 真相解決も非常にまっすぐな内容であり、いわゆる「読者を裏切る大どんでん返し」もないが、重厚な本格ミステリとして充実した一作ではあった。

No.1038 7点 アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 2023/12/31 16:04
 世を忍ぶ犯罪者たちが集う会員専用ホテル。守るべきルールは2つ…「ホテルに損害を与えない」「ホテルの敷地内で障害・殺人事件を起こさない」。そのルールが破られ、ホテル内で犯罪が起きたとき、ホテル探偵桐生VS.犯罪者の頭脳戦が始まり、濃密なロジックで犯人をあぶりだされる。連作短編集。

 1話ずつがなかなかよくできたパズラーで、サクサクと楽しく各編を読み進めることができた。パズラーたるためのトリックというような、複雑で凝りすぎなものもあるのは否めないが、謎解きが好きな読者には好まれそう。
 私も好きなので、かなり楽しめた。

No.1037 7点 金環日蝕- 阿部暁子 2023/12/31 15:47
 知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風は、その場に居合わせた高校生の錬とともに咄嗟に犯人を追ったが、間一髪で取り逃がす。犯人の落とし物に心当たりがあった春風は、ひとりで犯人探しをしようとするが、錬に押し切られて二日間だけの探偵コンビを組むことに。かくして大学で犯人の正体を突き止め、ここですべては終わるはずだった──。(東京創元社HPより)

 事件に出くわした大学生が、そこで知り合った高校生とともに素人探偵として事件捜査を始める―ここまではまぁありがちな話運びなのだが、物語中盤から繰り出されるひっくり返しに読者の意識も一転する。

 高校生離れした企みをもち、いくつもの顔を使い分けて器用に立ち振る舞う錬の姿にも脱帽だが、主人公・春風のそれも負けていない。2人のそれぞれの過去が明らかになるにつれ、複雑ながら精緻に組み上げられた物語の仕組みに感心する。
 初めて読んだ作者だが、ストーリーテラーとして確かな力を感じる良作だった。

No.1036 7点 頬に哀しみを刻め- S・A・コスビー 2023/11/26 17:52
 殺人罪で服役した黒人のアイク。出所後は真面目に働き、小さな会社を経営していたが、ある日息子が殺害される悲劇が起きた。ゲイである息子は、パートナーとともに顔を撃ち抜かれたのだ。生前、息子の性的志向に向き合えず、冷たく接してしまっていたアイク。身を切るような悔いを抱えたアイクは、パートナーの父親で酒浸りのバディ・リーとともに、息子たちの敵を討つために立ち上がるー。

 「息子たちを殺したのは、その黒幕は誰なのか?」を探すという意味ではミステリの体をもってはいるが、主軸は息子の性的志向を受け入れられないまま、息子を失ってしまった男たちの償いの物語。多分に暴力的で、目を背けたくなるような描写も多々ある。
 武骨で不器用な男たちの、激しく切ない生き様を読む物語として大変魅力的だった。
(しかし、本作のジャンル登録には迷った。確かに主人公たちが敵をことごとく殺していく「犯罪者」ではあるのだが…「クライム小説」というのは、計画的な犯罪の遂行の顛末を、犯人側から描くもののような気がして、ちょっと違和感が。)

No.1035 8点 ヨモツイクサ- 知念実希人 2023/11/26 17:16
 北海道旭川に《黄泉の森》と呼ばれ、人々が怖れてきた禁域があった。そこには未知なる生物「ヨモツイクサ」がいて、迷い込んだ人間を食い殺すとの言い伝えが。その禁域を大手ホテル会社が開発しようとするのだが、ある日事務所が荒らされ、作業員全員がいなくなっていた。警察は、「ヒグマの仕業」と見込んで捜索をしようとする。一方、地元病院に勤める外科医・佐原茜は、7年前に家族が忽然と消える「神隠し事件」に遭っており、今も家族を捜していた。2つの事件は繋がっているのか。失踪した家族の手がかりがつかめるのではと、茜も捜索隊に参加するが…

 ゾンビ系のホラー映画さながらの設定。DNAだの遺伝だのといった科学的理屈をそこまでつけなくてもいいような気がするが、医師でもある作者だからこそか。また、これらの理屈による「心神喪失状態」が、本作の目的そのものと言ってもよい「最後の一撃」の根幹になる設定であるので、そう考えれば不可欠であった。
 今でも「禁忌」とみなす向きもあるこの着地の仕方を、物語の設定によって潜り抜け、衝撃的な「一撃」(まるまる1ページ使って…)を食らわせる作者の企みは成功していると思う。
 私も、巧みにちらつかせられた"レッドへリング"にまんまとパクついていたので、その上をいく一撃には完全にやられた。
 作者の作品の中でも秀でた一作として位置づけられるのではないかと思う。

No.1034 6点 灰色の家- 深木章子 2023/11/26 16:42
 常駐看護師の冬木栗子が勤める老人ホーム「山南涼水園」で、男性入居者が滝壼に飛び込んだ。なぜ止められなかったのか…自責の念に駆られた栗子が調べ始めると、遺産問題、派閥争い、色恋沙汰…と、平穏に見える施設内で渦巻く老人たちの黒い秘密が露わになっていく。見えない暗部に栗子の不安が高まる中、入居者の“自殺”がさらに続けて発生してしまうー。

 ミステリの体はとりながらも、高齢者福祉施設が抱える人間模様の問題を描くことにも力点が置かれており、読んでいて大変興味深い。フィクションの物語ではあるが、実際にこうした施設で起こっていることを下敷きにしていることは容易に想像できる。
 「元刑事」の入居者が、秘密捜査と称して栗子を唆す件はいかにも眉唾物で、この入居者が一番胡散臭く映っていたが、真相は違う方向に行き、よい意味で予想が外れた。要所要所で挿入されるSNSの発信者が、施設内の人間であることはうすうす予見できた。
 しかし、施設内に遺体が隠されていることを承知していながら、犯人を炙り出すために放置するなんて…ありか?

 

No.1033 5点 夏に祈りを ただし、無音に限り- 織守きょうや 2023/11/03 22:07
 天野春近は、やたら怪我をしてくる園児がいるので調べて欲しいと、保育園の園長から相談を受けた。虐待の懸念もある事例だが、父子家庭である当該児童の親子関係ははた目から見ても極めて良好で、その気配はない。以前の事件で知り合った中学生の楓とともに、夏休み中の保育ボランティアに参加し、様子を見てみることにしたが…。すると、園児の散歩の道中で、こちらを指差すような動きをする子どもの霊に気づく―“霊の記憶”が視える私立探偵・天野春近の事件簿。

 事件の原因となった、園児・悠樹の先天的疾患が本作品の一番の仕掛け。それも最後の局面で類推できたし、中盤くらいからほぼ真相は見抜けていたので、「早くそれを確かめて読了したい」という感じになってしまった。
 面白い仕掛けではあるが、長編にするまでの物でもない、と感じた。

No.1032 7点 可燃物- 米澤穂信 2023/11/03 21:50
 太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か?なぜ放火は止まったのか?犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが…(「可燃物」)。連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。(「BOOK」データベースより)

 米澤氏が「警察小説」という新境地に踏み出した一作と言えよう。とはいえそこは十分な力と実績のある作家、間違いはない。組織の中で、上司にとっては扱いづらい有能な刑事という設定はまぁベタではあるが、それが間違いないからベタなのであり、結局…本作も面白い。全体的に、横山秀夫の短編のような雰囲気があった。
 「ねむけ」は、主人公・葛らの不眠不休の捜査ぶりを伏線にしながら、真相と結び付けている企みが〇。ミステリ的な仕掛けでは「命の恩」が一番良かった。どんでん返し的な面白さがあったのは最後の「本物か」。
 しかし、帯にある「本格ミステリ×警察」って何なんだ。警察小説ってだいたいみんなそうだと思うけど。

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ひとこと
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有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1051件
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今野敏(47)
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東野圭吾(34)
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