海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1112件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1112 7点 貸しボート十三号- 横溝正史 2024/10/14 21:39
「湖泥」
 とある農村で、村一番の器量よしとされ、村の良家のせがれと結婚が決まっていた娘がお祭りの晩に殺された。北神家と西神家という、確執ある村の両家という舞台設定は横溝作品のテンプレート。祭りの夜の不可解な逢引きや手紙など、雰囲気を盛り立てる道具立てはまずまず。それなりによかったのだが、動機が…抽象的かな


「貸しボート十三号」
 表題作。公園の水辺に浮かんだボートに男女の死体。何と、2人とも首を切断されかけたままの状態、ボート内は血の海。表紙絵のイメージも頭に浮かび、おどろおどろしさ満点。大学のボート部を舞台に、男女の愛憎劇が展開される。一番の謎「切断されかけ」たままの首の意味に対する答えとしては、まずまずだったように思う。

「堕ちたる天女」
 白昼、トラックの荷台から道路に落ちた石膏像。その中に、人の死体が塗りこめられていた。事件関係者はストリッパー界隈の人々。そこに同性愛の様相も絡んできて、いかにも乱歩・正史時代の作品っぽかった。

 各話とも、横溝正史作品のイメージに沿う劇場的な話で、満足した。
 ちなみに、本作の表紙絵はどうしても、湖底に女の顔が浮かんでいるバージョンが欲しかったのだが、手に入れることができてうれしい。

No.1111 7点 死はすぐそばに- アンソニー・ホロヴィッツ 2024/10/14 21:10
 門と塀で囲われた中に、6軒の家が集う高級住宅地、リヴァービュー・クロース。そこに最近越してきた、騒音や傍若無人な振る舞いで住民に疎んじられていた男性が、クロスボウでのどを射抜かれて殺された。我慢を重ねてきた住民全員に動機があるこの難事件の捜査に、警察から招かれた探偵ホーソーン。事件はホロヴィッツとホーソーンが知り合う前の5年前、相棒はダドリーという元警察官だった。事件を解決した、というホーソーンに過去を聞き出し、小説にまとめようとするホロヴィッツ。

 裕福な層が集う高級住宅街で、住民トラブルが殺人にまで発展するという舞台設定は目新しくはないものの、興味深いストーリーではある。相変わらずホーソーンの煙に巻く物言いが読者をじりじりさせるものの、それが謎を高めていく魅力でもある。
 今回は、ホロヴィッツも一人独自に動き、事件関係者へ話を聞きに行くなどするが、その過程で真犯人をあっさり明かされてしまう。当然その結論そのままであるはずがないので、より物語が深まっていく展開となり面白かった。
 ホーソーン自身の過去がシリーズを通しての謎として描かれているが、本作ではそちらについての進展も今まで以上にあり、上手く構成されていた。

<ネタバレ>
 真犯人の意外性はなかなかだったが、密室殺人やアリバイトリックといった、犯罪の手法に関する部分については、現代的技術のツールを多用しており、ちょっと拍子抜けだったかも。

 作中で、ホロヴィッツが「最高の密室ミステリは日本から生まれている」と受戒する部分があり、島壮「斜め屋敷の犯罪」と正史「本陣殺人事件」を絶賛しているくだりは、なんだか嬉しかった。

No.1110 6点 悪魔の降誕祭- 横溝正史 2024/10/05 22:57
 近々殺人が起こるのではないか…と危惧して金田一のもとを訪れた女性が、事務所で殺害されていた。殺されていたのは、近頃売り出し中のジャズシンガーのマネージャーだった。やがて、そのジャズシンガーが開くクリスマスパーティーで、さらなる悲劇が起こる(表題作)

 2件目の、ジャズシンガーのパーティでの殺人事件解明が物語のメイン。密室ではないものの、なかなか不可解状況での殺人で、その真相もなかなか興味深いものだった。併せて収録されている2編もまずまずの仕上がりで、個人的には特に「霧の山荘」がよかった。


 とはいえ、「霧の山荘」。私立探偵が、遺体を発見しておきながら、即通報もせずに懇意の警部とともに秘密にしておくなんて……しかもそれを捜査本部に明かしたときに、咎められもしないなんて……ありえないよね

No.1109 5点 仮面城- 横溝正史 2024/10/05 22:48
ジュヴナイルということで、少年探偵団張りの活劇要素が強い。表題作などは、まさにそう。現実離れした、いかにも小中学生向けの過剰に動的な展開で、ミステリや推理を楽しむというよりは少年向けのスリラー小説といった感じ。

 決して悪いわけではないが、そういうことで評価はこのぐらい。

No.1108 7点 すべての罪は血を流す- S・A・コスビー 2024/09/29 21:32
 ヴァージニア州の高校で、卒業生が教師を射殺。犯人の黒人青年は、警察の呼びかけに対して校舎から出てきたが、彼もまた白人保安官に射殺される。人種対立の残る街がにわかに騒ぎ出す中、町の保安官・タイタスは捜査に乗り出すが、射殺された高校教師の携帯電話には、何人もの黒人の少年たちを惨殺する信じられない動画が保存されていた―

 残されていた動画に記録されていた殺人犯は、高校教師・スピアマンと、射殺犯の黒人青年・ラトレル、そして狼のマスクをかぶった人物の3人。この「第3の人物」が本物語の事実上の「犯人」で、その正体を突き止めるという謎はある。
 が、どちらかというと物語の主軸は、未だにアメリカに根強く残る人種差別と、とりわけその対立が色濃い田舎での激しい人間模様にある。主人公の保安官・タイタスは黒人で、彼に対する差別や非難は、レイシストの白人だけでなく、「白人社会に身を売った」という見方をする黒人からもある。両者からのそれぞれの不当な見方に挟まれ、苦悩しながらも、保安官としての矜持、人としての信念を貫いていこうとするタイタスの姿は力強い。
 真相へたどり着く捜査・推理も、明らかになった真犯人も、読者が手がかりをもとに推理するような類のものではないので、フーダニットのミステリとは言えないが、殺人が重ねられていく動的な展開と、人種差別問題をとらえた濃いストーリーは魅力十分だった。

No.1107 7点 この限りある世界で- 小林由香 2024/09/27 21:59
 15歳の少女が同級生を刺殺。加害少女は、「小説の新人賞の最終選考で落ちて、悲しいから人を殺す」と作品と共にネットに上げていた。世間では、この加害少女の作品のほうが受賞作より優れていた、受賞作のせいで殺人が起きた、などと受賞者への誹謗中傷が起こり、追い詰められた受賞者は自死してしまう。加害少女は少年院に収容されるが、社会復帰を手助けする篤志面接委員に「私の本当の犯行動機を見つけてください」と意味深な言葉告げる。志願して篤志面接委員になった結実子は、緊張と不安を抱えながらも加害少女と向き合っていく―



<ネタバレ>
 純粋な教育への志をもった新人篤志面接委員が、闇を抱える少女の言動に翻弄されながらも真摯に向き合い、心を開かせていく―そんなストーリーに思えた読書の感覚が、終盤見事に覆される。「同級生を刺した少女の真の犯行動機は何なのか?」という中心となる謎を抱えつつ、自死した新人賞受賞作家の編集者の苦悩、無責任にSNSで放言する一般市民、加害少女の背景にある家族環境など、さまざまな要素を巧妙に絡ませながら物語は進行する。
 中心となる「少女の真の犯行動機は?」に対する解答はそれほど目を見張るものではなかったが、別に仕掛けられた作者の企みにはまずますの手応えを感じた。作者の作風として最終的にはダークにはならず、読後感もよい一作である。
 このような、罪ある子どもに対峙する大人、という構図が好き(得意)な作者でもあり、それだけにさすがのリーダビリティと面白さがあった。

No.1106 7点 あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか- 天祢涼 2024/09/24 21:37
 食品卸売会社に勤務する藤沢彩は、引っ込み思案で人付き合いも苦手。そんな彩が仕事で思い悩んでいた時、いつも無口な同僚の男性・田中心葉が声をかけてきた。その後もさり気ない心遣いで自分を支えてくれる心葉に、次第に心惹かれていく彩。だがある日会社の朝礼で心葉は、何の前置きもなく「ぼくは人を殺したことがあります」と告白をした―

 昨今の社会派ミステリで、ちらほら見られるようになった犯罪の「加害者側」を取り上げた作品。心を入れ替え、更生をめざす加害者と、「犯罪者」という見方を変えず、それを絶対に許さない世の中という構図はテンプレートではあるかもしれないが、それでも本作は、加害者である心葉に心を寄せる側の葛藤や、更生しつつある心葉の姿に揺れる被害者側の気持ちなどが丁寧に力強く描かれていて非常に面白い。
 被害者遺族と加害者である心葉の予期せぬ邂逅などは確かに非現実的だろうが、「加害者」「加害者を慕う者」「被害者」「無関係な第三者でありながら加害者を叩く者」というそれぞれの立場が巧妙に描かれており、非常に読み応えがある。
 被害者の母親が殺害されるという事件が、フーダニットのミステリとして組み込まれるのだが、その推理と解明は「ミステリ」といってよいものであったとも思う。
 相変わらずのストーリーテーリングと仕掛け。面白かった。

No.1105 6点 ボタニストの殺人- M・W・クレイヴン 2024/09/24 21:17
生放送の番組中に、女性差別主義者で世間から批判も強い男性ジャーナリストが倒れ、死亡した。捜査により、男性は衆人監視下でありながら「毒殺」されていたことが判明する。男性は番組中で、自身に脅迫状が送られてきていることを話していた。ほどなくして同様の脅迫状が、汚職スキャンダルがあった下院議員のもとへ。ジャーナリスト同様、複数人が見守る状況下に関わらず、またしても毒により殺された。一体どのような方法で、殺人は実行されているのか―

 今あるシリーズものの中で、私が最も好きな「コンビ」がこのポー&ティリーのコンビ。武骨で歯止めの利かない根っからの刑事ポーと、世間知らずの天然ながらITの天才・ティリーのコンビネーションは最高。
 今回は、脅迫状を送付後に毒殺を実行する「ボタニスト」の事件と、一方でポーの長年にわたる仲間、エステル・ドイルが容疑者となってしまった事件の2本立てでも物語が進行していく。どちらも密室状況と思われる殺人で、2本の大きな謎を抱えての展開に心が躍った。


<ネタバレ>
 ただ「ボタニスト」事件のほうの密室毒殺事件の真相は、結局最新の科学・医学によるものと分かり、トリックとは言い難い。ボタニストの正体も、物語中の主要人物の中から明らかになった感じではない。それでもラストに「一仕掛け」するところはさすがで、ただでは終わらせない企みを感じることはできた。
 前段にも書いたように、ポー&ティリーの獅子奮迅の活躍が楽しめるだけで個人的には満足できるが、ミステリとしての手応えを採点するならこの点数。

No.1104 6点 フェイク・マッスル- 日野瑛太郎 2024/09/15 20:56
 「週刊鶏鳴」編集部に勤める松村健太郎は、ある日潜入取材を命じられる。それは、人気男子アイドルグループのメンバーが、最近ボディビルの大会で入賞したことに関してドーピング疑惑をもたれていることについて、彼がその後プロデュースを始めたフィットネスクラブに潜入して調べよ、というもの。慣れない筋トレに悲鳴を上げながらも、あの手この手で疑惑に迫ろうとする松村。すると事案の様相は、警察も巻き込む予想外の展開に広がっていき―

 280ページ、軽快な文体も手伝ってあっという間に読める。芸能タレントのマッスルドーピング疑惑を、週刊誌編集者がスクープ狙いで探る、という面白い物語題材もあって、よくいえばリーダビリティも高い。
<ネタバレ>
 疑惑の男性タレントの「彼女」については、まったくの予想通りで「やっぱり」だった。まぁデザイナー・ステロイド取引に関する真犯人・真相は、まずまずの面白さだったし、総じて楽しめた一作ではある。
 ただ、いやしくも大乱歩を賞の名に関する乱歩賞受賞作品というと…うーん…作風としてもレヴェルとしても若干…違和感があったのは否めない。

No.1103 5点 サロメの断頭台- 夕木春央 2024/09/15 20:36
 時は大正時代。画家の井口は、元泥棒の蓮野を通訳として連れて、オランダの富豪、ロデウィック氏の元を訪ねた。美術品の収集家でもあるロデウィック氏は井口の作品をいたく気に入り、高額での購入を考えるものの、「そっくりな作品をアメリカで見た」と言い、贋作でないことが証明されれば買い取るという。未発表の絵を、誰がどうして剽窃したのか?蓮野と共に盗作犯を探す井口だったが、その最中に戯曲『サロメ』に擬えたと思われる連続殺人が発生してーー

 井口の作品の剽窃事件から、物語の中心は次第に井口が属する芸術家の集まり「白鷗会」の贋作疑惑に移り、全体の様相が複雑になっていく。「サロメ」に模された殺人が次々に起こるという展開自体は面白かったし、真犯人と真相もなかなか良かったとは思うが、いかんせん井口作品の剽窃については、そのいきさつも理由も最後には適当にされている感じで、ちょっと肩透かしだったかな。
 しかしながら真犯人が最後に仕掛けたからくりは壮絶だったな。なかなか冗長な展開で、退屈さを感じるところもあったが、最後は目が覚めた。

No.1102 7点 警官の酒場- 佐々木譲 2024/09/15 20:23
 闇バイトで知り合った男らが、強盗に入った資産家の家で思い余って家主を殺してしまった。強盗殺人の一報を受け、捜査に乗り出す道警本部の津久井巡査部長ら。一方同時期に札幌では、携帯電話の盗難事件が相次ぐ。捜査に当たった三課の佐伯警部補らは、厚真で起きた強盗殺人との関連を疑い出す―

<ネタバレ要素あり>
 物語序盤から、闇バイトで集った男らが犯罪を犯す場面が描かれていき、倒叙的な構成のストーリー。ただ中盤からは、ハジけてしまった実行犯の一人が予定外に殺人を重ねていってしまう展開により、真相がだんだん不明になっていく面白さがある。
 道警内で不遇をかこつているシリーズメンバーが、それぞれの部署でそれぞれに捜査している事案が、偶然にも結び付いていく、という構成は相変わらずだが、それが本シリーズの柱なので。
 しかし、津久井、佐伯、新宮、そして小島が、それぞれに新しい一歩を踏み出す決意をして終わる結末を読んで…読み通してきた身にとっては感慨に浸るものもあった。北海道、ジャズ、大人の恋愛、組織の体質…いろんな要素を上手く絡めて、武骨な筆致ながら心を打つ物語にまとめ上げてきた本シリーズ。よかった。

No.1101 6点 コメンテーター- 奥田英朗 2024/09/10 21:39
 このシリーズが出るの17年ぶりなんだそうな。初読が早くなかったから、そんなに間が空いていたとは知らなかった。

 伊良部のとぼけっぷり(天然)と、看護師マユミのケミストリーはますます勢いを増し、シリーズの魅力健在。こちらも「お気楽な読み物」として読めるから、十分に楽しい。
 タイトル作「コメンテーター」はじめ、どの作品も昨今の世相を映しながら、コメディタッチの中にその世相への皮肉が込められているようで思わず二ヤリ。「ラジオ体操第2」で主人公がする妄想なんかは、多くの人が経験したことがあるのでは?
 デイトレーダーで大儲けした若者に、伊良部&マユミがたかろうとする「うっかり億万長者」などは、収入で人生の価値を測り、それでもってマウントを取り合おうとする昨今の世情に一石を投じているようで…
 これからも、「リバー」のようなガチから、「家族」シリーズや本シリーズのようなほんわかまで、筆者の幅広い筆力で楽しませてほしい。

No.1100 8点 黒い糸- 染井為人 2024/09/10 21:23
 結婚相談所で働くシングルマザー・平山亜紀は、顧客とのトラブル後、無言電話などの嫌がらせに苦しめられている。同じ時期に、息子・小太郎が通う小学校で、同級生の女子が行方不明になる事件が。身の回りで続く不穏な出来事に不安を抱きながら生活する亜紀だったが、小学校ではさらに事件が続き―。いったい、亜紀の周りでは何が起きているのか?

 初めて作者の作品を読んだが……これは読ませるなぁ。地に足の着いた現実的な描写の地続きに、非現実的な話が立ち上がっている。作者の筆の上手さであろう、それらが突飛なものに感じられず、自然に入って来る。
 一部予想が当たりつつも、要の部分の真相にはやはりやられた。その「どんでん返し」の場面の描き方もよく、背筋がブルっとするような持っていき方だった。
 とても楽しめた。

No.1099 7点 あんたを殺したかった- ペトロニーユ・ロスタニャ 2024/09/10 21:13
24歳の女性・ローラが警察に「男を殺した」と自首してきた。ヴェルサイユ警察の警視・ダミアンら捜査班は、ローラの証言をもとに捜査を始める。ところが、どこにも遺体が見つからないどころか、事件の形跡らしきものもない。いったい、彼女の言っていることは本当なのか、それとも何か企みがあるのか―

 殺人事件の犯人という者が自首してきたのに、その痕跡が見当たらない。物語スタートの謎としては上々。要所要所で挿入される、ローラ視点で描かれる章がうまく読者の想像を掻き立て、リーダビリティも〇。よく考えられ、構成された良作だと思う。素直に面白かった。
 いわゆる、「一気読み必至」の一作かな。

No.1098 7点 日本扇の謎- 有栖川有栖 2024/09/10 20:59
記憶をなくした青年が京都の海岸で発見された。身元を示す手がかりとなるのは持っていた扇だけ。そこから「武光颯一」という名が分かり、実家に帰った青年だったが、その後しばらくしてその家で密室殺人事件が起こる。いったい事件の背景には何があるのか―臨床犯罪学者・火村英生と助手の有栖川有栖は、いつものコンビネーションで謎の解明に向かうが……

 息つく間もなく次々と殺人が起こったり、物語が急展開したり、なんていう凝った仕掛けもなく、起きた事件を淡々と、地道に捜査する至ってオーソドックスな基本形のフーダニットなのに…なぜこんなに読ませる?この作家を私がイチオシで好きなのも、変化球だらけの昨今のミステリ界で、構えずに落ち着いてストレートな「本格」を楽しめるからなのだろうと思う。

<ネタバレ>
 密室の謎は、現実的であると同時に拍子抜け。とはいえ、物語の核はあまりそこになく、記憶喪失の青年・颯一の真実や、武光家の内実にあるため、そのことによる失望は特にない。最後の真相まで読んで、やはり出色のトリックや仕掛けがあるわけではないのだが…優れた筆者の文章と、物語全体を覆う謎めいた雰囲気に満足できる。
 冒頭で颯一を発見した女性教師が、もう少し物語に絡んでくるのかとも思ったのだが…そこがやや肩透かしを食った点。
 とはいえ、3,500円の「愛蔵版」を買ったものの、(ファンだからというのが大きいが)満足できた。

No.1097 4点 白薔薇殺人事件- クリスティン・ペリン 2024/08/31 22:39
ミステリ作家志望のアニーは、離れた村に住む資産家の大叔母の家を訪れた。16歳の時に占い師に「殺される」と告げられ、それを信じ続けていた大叔母は、訪れたときに本当に何者かに殺されてしまった。「犯人を指摘したものに遺産を授ける」という大叔母の遺言にも動かされ、犯人探しに挑むアニー。そこでは、60年前に起きた、大叔母の友人の失踪事件が絡んできて―

 明かされる最後の真相にはまずまずの仕掛けを感じるものの、何せ登場人物が多く、関係が複雑、しかも必要以上に長い。
 一番腑に落ちないのは、事件捜査に前のめりに乗り出しているアニーなのに、大叔母フランシスの日記をはじめに全部読んでしまわないこと。物語の構成上、大叔母の日記と現在を交互に進行させたいのは分かるが、いくらでもやりようはあったはず。
 「まだ全部読めていないが…」って、読めよ!と思った。

No.1096 9点 青の炎- 貴志祐介 2024/08/25 18:51
 これは…名作。
 殺意を抱くほどどうしようもない元継父、母と妹を守るためにその実行を決意した悲壮な思い。高校生ながらに優れた頭脳を駆使して計画する完全犯罪、不審な様子に気付いて心配する親友、彼女。倒叙モノのミステリとしても、若者の苦悩と葛藤を描く物語としても、出色の一作ではないか。


<ネタバレ>
 だからこそラストはあまりにも切ない。
 結局は衝突せずに…という結末を、多くの読者が切実に望むのではないだろうか…

No.1095 8点 モルグ館の客人- マーティン・エドワーズ 2024/08/25 18:44
 女探偵レイチェル・サヴァナクに助けを求めてきた男が、レイチェルの忠告を無視した結果殺害された。実は男には、他者にりすまして生きていた犯罪者の疑いがあった。犯罪学者のレオノーラ・ドーベルは著書の中でそのことを指摘し、他にも無罪として終わったいくつかの殺人事件に嫌疑を投げかけていた。レオノーラが、嫌疑をかける容疑者たちを一堂に館のパーティに招く。そのパーティにはレイチェルも招かれたのだが、そこで殺人事件に直面する―

 レイチェル・サヴァナクシリーズの第2弾。第一作では、レイチェルが善なのか、悪なのか―という非常に特異な面白さがあったのだが、当然これは一作目にしか使えないネタ。よって本作は正面からの本格ミステリ勝負ということになる。
 葬儀列車に乗り込む男を止めようとするレイチェル、という場面から物語が始まり、謎めいた始まり方は分かるのだが、何が何だかよく分からない話をしばらく読み続けることになり、物語の枠組みを理解するのにだいぶ時間(ぺージ数)を要する。謎めく魅力と分かりにくさは表裏一体だと感じる。
 作品紹介では、犯罪学者・レオノーラの館に犯罪容疑者が集う話が中心のように書かれているが、実際にその館に集う場面は物語のかなり後半。各事件の内容や背景を読み解いていく前半から中盤はそれはそれで読み応えがあったが、やや複雑で冗長だった感もある。
 真犯人の出しどころは、なかなか読者の盲点をついていて成功しているのではないかと思う。伏線がかなり丁寧にちりばめられていて、なんと巻末には「手がかり探し」として逐一その説明がなされているが、正直一文一文そこまで注意を凝らして読んでいたらもたないなぁ…
 面白かった!

No.1094 8点 籠の中のふたり- 薬丸岳 2024/08/25 18:07
 父親を亡くしたばかりの弁護士・村瀬快彦は傷害致死事件を起こした従兄弟の蓮見亮介の身元引受人となり、釈放後に二人は川越の家で暮らし始める。小学6年生のときに母親が自殺し、それ以来、他人と深く関わるのを避けてきた快彦だったが、明るくてお調子者の亮介と交流することで人として成長していく。だが、ある日、母が結婚する前に父親の安彦に送った手紙を見つけ、衝撃の事実を知る。母は結婚前に快彦を妊娠していて、快彦に知られてはならない秘密を抱えていた。そして、出生の秘密は亮介の傷害致死事件とも繋がっていく。二人は全ての過去と罪を受け入れ、本当の友達になれるのか――。(出版社紹介より)

 従弟・亮介が居酒屋で起こした傷害致死事件の真相、亮介と、快彦の父・安彦との約束、快彦と元カノ・織江の行く末―など、複線的に進行するそれぞれのストーリーがどれも目を離せず、興趣が尽きない展開。謎解きとしての興趣はもちろんだが、亮介に心を解かれ、次第に変容していく快彦の人間的成長や、そのことにより距離が縮まっていく二人の様子がヒューマンドラマとして非常に魅力的。着地点の読後感もよく、非常に充実した読書体験だった。

No.1093 5点 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン 2024/08/13 20:29
 大実業家・アシュトン・マッケルの息子デインは、父親の信じられない秘密を知ってしまった。それは、同じアパートメントのペントハウスに住む有名服飾デザイナー、シーラ・グレイと道ならぬ仲になっていたことだ。義憤に駆られたデインは、シーラに接触するが、あろうことかデイン自身もシーラに恋してしまう。そしてある日真実を問い詰めようとしたデインは、興奮するうちにシーラの首を絞めてしまった。危うく正気を取り戻したデインは手を放し、シーラは助かるのだが、デインが立ち去ったすぐ後に、シーラは何者かによって銃殺されてしまった―

 父子が絡んだ男女問題のストーリー、それなりに面白かった。問題は、シーラを殺害した真犯人は誰か、という本作の核だが・・・。デザイナーという職業をうまく題材にして、関わった男性たちを辿るという仕掛けはまずまずだったと思う。ただ、それを経たうえでの最後の真相(いわゆるどんでん返し)はちゃちな仕掛けだったと言わざるを得ないかも。それだったら、どんでん返しなく当初の解決の方がよかったような気もしてしまった。

キーワードから探す
HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1112件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(40)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(34)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
横溝正史(18)
佐々木譲(18)
島田荘司(18)