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[ 本格/新本格 ]
難問の多い料理店
結城真一郎 出版月: 2024年06月 平均: 6.40点 書評数: 5件

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集英社
2024年06月

No.5 6点 パメル 2025/12/16 18:39
ゴーストレストランを舞台に、オーナーシェフが配達員を使い、不可解な事件の謎を解く6編からなる連作短編集。オーナーシェフが構える店は、店は一つなのに店名を複数掲げて、世界中のあらゆる料理を出す。そして料理の特定の組み合わせでの注文は、オーナーへの謎解きの依頼なのだ。
「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」大学生の梶原涼馬のアパートで起きた火災で、その焼け跡から彼の元交際相手である女性の焼死死体が発見される。火災中にアパートに駆け込んでいった女がいたという目撃証言があった。思わぬどんでん返しもあり、真実は必ずも一つではないというオーナーのスタンスが示される。
「おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件」交通事故で亡くなった夫の遺体の指が2本欠けていたことに気付いた妻が、指を欠損した理由を知りたいと依頼する。事件の謎以上に真実を知った結末に考えさせられる不気味な余韻が残る。
「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」空き巣未遂事件で捕まった犯人が、取り押さえられた直後に「嵌められた」と呟いた。事件の裏に誰かが糸を引いているのではないか、全貌を明らかにしてほしいと依頼する。虚偽の情報や誹謗中傷という現代的なテーマを扱っており、物語のテーマと語り手の私生活が巧みにリンクしており、他人事ではない感覚にさせられた。
「異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件」10回連続で同じ配達員が現れ、さらに注文していないマフラーが紙袋に入っていたという不可解な状況の調査を依頼する。オーナーが単なる謎解き人ではなく、自ら牙をむく者には容赦しない危険な存在であることを示唆し、物語のトーンが一気にダークな方向に傾く。
「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」孤独死があったマンションの空室に、なぜか立て続けに置き配が届く。その不可解な現象について納得できる説明を依頼する。語り手がお笑い芸人ということもあり、ほっこりしながらも社会の裏側を覗いたような少し不気味な味わいがある作品。
「知らぬが仏のワンタンコチュジャンスープ事件」マンションの一室から住人が忽然と姿を消したという謎。連作短編として散りばめられてきた伏線が一気に回収される最終話。失踪した男・梶原の正体と、その結末は猟奇的ですらあるほどの凄惨なもので強い衝撃と戦慄を覚える。
本作は設定の新奇さ、各エピソードの現代性、そして連作としての伏線の回収が光る。物語は軽妙なタッチで始まり、ユーモラスな展開や心温まる場面もあるが、基本的にクールで不気味である。

No.4 6点 HORNET 2025/04/15 22:22
 "ビーバーイーツ"の配達員が注文を受けて向かったレストランには、超イケメンのオーナーシェフが。シェフは、商品の配達だけでなく「お願いがあるんだけど…」と怪しげな依頼を提案してくる。どうやらこのレストランは、メニューの注文を符丁にして調査依頼を請け負う影の探偵社らしい。―「空き室に届き続ける置き配」「謎の言葉を残して火災現場に飛び込んだ女」「指のない轢死体」…不可思議状況を鮮やかに解決する、"シェフ探偵"の連作短編集。

 各短編で提示される謎がどれも魅力的で、一話一話のリーダビリティが高い。人死にの事件もありながら、そのリドルストーリーは日常の謎風。ただ断片的な情報から真相を看破する展開はかなり飛躍があり、読者は当て推量はできるものの推理は無理かな。
 奇抜なメニューを注文することで暗号的に探偵と依頼者がつながるという設定だが、それは物語の色付けになっているだけで謎解きに影響はない。そう考えると、このような物語設定に必ずしもする必要はなかったような…

No.3 6点 まさむね 2024/12/07 20:11
 レストランのオーナーシェフが探偵役を務める連作短編集。
 1話目を読んだ時点では、あれれ?といった印象もあったのですが、徐々に盛り返してくれた感じ。相棒?となるフードデリバリー配達員が各話ごとに異なっているのも、背景に変化が出て良かったと思います。
 一方で、自分がフードデリバリーを利用しないからなのか、多少入り込みにくかった面も。総合的にこの採点で。

No.2 7点 人並由真 2024/08/25 16:08
(ネタバレなし)
 全6編の連作短編。

 探偵役は同じで、毎回のワトスン役の方が交代する趣向というのがちょっと面白く 適度に話のバリエーションを感じさせた。
(名前未詳の探偵役というのは、隅の老人や三番館シリーズなど同様、この手の一種の安楽椅子探偵もののトラディッショナルという印象だが。)

 各話は日常の謎と犯罪事件とのグレイゾーンのようなものが多く、その辺は「ブラックウィドワーズ・クラブ」などを想起させるが、個人的にはなかなかオモシロイ(読み手の興味を刺激する)謎のネタがあって楽しい(切断されていた指の件や、置き配の件など)。
 最終的には、あくまで真相の仮設であり思考実験的な決着に至る解決も多いが、その上で作者らしいロジカルさが随所に伺え、心地よかった。

 連作短編集としては最後のエピソードで一区切りを迎えたので、続きはないかもしれないけれど、もう一二冊くらい、同じパターンでの続刊があってもいいかとも思う。

No.1 7点 メルカトル 2024/08/12 22:22
ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、注文を受けて向かった怪しげなレストランで、オーナーシェフと出会う。
彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。
そうして多額の報酬を貰っているうちに、僕はあることに気づく。
どうやらこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。
Amazon内容紹介より。

第一話がやや低空飛行で第二話で上昇し、又下降するの繰り返しで評価が難しいです。つまり奇数話はまずまずで、偶数話はかなり面白いという感じ。
それにしても探偵役、というか裏稼業で探偵をしているシェフが謎過ぎて内面が窺い知れません。外見のディテールははっきしりているのですが、何を考えているのか分からない不気味さがあり、得体の知れなさが浮き彫りになっています。名前さえ与えられていない探偵というのはどうなんでしょうねえ。

採点はやや甘めで、どうしようか迷った末最終話が結構盛り上がったので、この点数にしました。何となく期待していなかったのですが、その期待は上回ったと思います。
真相自体は何でもない様に思えても、それを解明する過程が面白いので、その意味では高評価です。最終話>第四話>第二話>>>>その他。意表を突かれる様な結末もあったりして楽しめます。


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