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ALFAさん
平均点: 6.65点 書評数: 182件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.182 7点 ぼくらは回収しない- 真門浩平 2024/07/22 09:10
本格、青春ミステリー、日常の謎など、多彩な5短編。

お気に入りはまず「街頭インタビュー」。一件落着のあとに本当の主題が立ち現れる鮮やかなプロットで、社会派の味わいもある良作。
そして「追想の家」。ごくささやかな日常の謎だが、骨格は本格ミステリー。読後感もいい。
「カエル殺し」はホワイダニットの問題作だが、動機が動機だけに更なる説得力が欲しかった。そこが補強されていれば名作になったはず。
敏感すぎる名探偵速水士郎君はシリーズで活躍してほしいなあ。一ノ瀬をワトソン役にして。

どれも精妙なプロットと整理された文体で楽しめる。
ただわずかな雑味もエグ味もないミネラルウォーターのような文章は、リアリティを少し希薄にする。
「カエル殺し」と「ルナティック・レトリーバー」はいずれも高度なホワイダニットを問う作品。フーダニットやハウダニットに比べて、より深く人間の持つ醜さや矛盾を描かねばならない、とすればもう少し違うアプローチが必要かもしれない。

No.181 5点 りら荘事件- 鮎川哲也 2024/07/19 08:20
新版で再読。猛烈に殺されて、「誰もいなくなり」そうな展開。これだけたくさんの殺人につじつまを合わせて着地しているので、パズラーとしては楽しめる。

一方、小説としては評価できない。
まず構成。犯行はクローズドサークルスタイルだが設定は閉ざされていない。だから「なぜ逃げない?」となる。そもそも極端に仲の悪い同士が合宿する必然性は? 人物造形は外見中心でキャラクターは立ってこない。
そして文体。ユーモアは空回り、修飾や比喩表現は時代性を差し引いても不適切。「醜女」「白豚」「ホッテントット」等、読む方が居心地悪くなる。これはもう作品の品格に関わるだろう。
そしてあの「美白」。古い都市伝説めいたものはあるがエビデンスは全くない。重要なトリックに使うのはルール違反。

作者は本格の大家とされているが、むしろ「ミステリーパズルの名手」とすべきではないか。

No.180 10点 春にして君を離れ- アガサ・クリスティー 2024/07/15 09:07
「終わりなき夜に生まれつく」と並ぶ最上のクライム・フィクション。

実はずっと以前に読んでいたのだが、どう評しても言い尽くせない気がして今に至った次第。
二編ともに、自己意識の歪みを描ききった名作である。

No.179 6点 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉- 鮎川哲也 2024/07/14 09:25
本格ありファンタジーあり、バラエティに富んだ11編。
トリックも緻密なもの、大胆なもの、ちょっと笑えるものなど多彩で作者のミステリー愛を感じる。
ただ残念なことに構成は単調で、事件の記録とトリックの解説をそのままノベライズしたかのよう。地の文もセリフもひたすら「説明」に忙しい。結果として人物も記号的になる。文体も洗練にはほど遠く、一編の小説として味わうには至らない。

なかでは「赤い密室」の緻密なトリックや「達也が嗤う」の大胆な叙述が面白い。
「碑文谷事件」は「点と線」の向こうを張った列車トリックだが、こちらにも大きな欠陥がある。そもそもこの証人自体が犯人にとって致命的ではないか。
同じ鉄道ものなら「下り"はつかり"」の笑えるトリックが楽しい。
「死が二人を別つまで」の悪魔的なネタは現代の作家で読み直してみたいものだ。

No.178 6点 陰獣- 江戸川乱歩 2024/07/07 09:00
乱歩らしからぬ?本格のプロット。
構成や文体にはさすがに時代を感じてしまう。
動機面は丁寧に整合がとれているが、犯人のキャラや犯行の偶然性は気にはなる。
モヤッとしたエンディングはいい。

No.177 6点 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 2024/07/06 09:04
刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。
刀城の助手である天弓馬人が無類の怖がりで、持ち込まれる怪異話に必死に合理的な解決を見い出すという趣向。

正編のような緻密なミステリーとホラーのハイブリッドを期待してはいけない。気楽にスピンオフを楽しむのがいい。作者お得意の妙な人名、地名の当て漢字も笑える。
中では表題作がホラーファンタジーとしていい。黄昏の「亡者道」を思い浮かべると納涼になる。

No.176 7点 黒牢城- 米澤穂信 2024/07/05 17:47
「折れた竜骨」と並ぶエンタメ大作。「イングランド辺境の島」となると私にはファンタジーの世界だが、こちらの有岡城址は実に徒歩の距離。今や快速電車の止まる駅前となり、かつて天守を支えた石垣は明るいショッピングモールの足元でひっそり。

連作ミステリー短編を組み込んだ歴史小説。城主荒木村重が持ち込む謎を、囚われの黒田官兵衛が解くという趣向はユニーク。
ただ残念なことにミステリーより歴史小説としての出来の方が圧倒的にいい。それぞれの話はミステリーとしては小ぶりで、「謎を解かねば城が落ちる」ほどのものとは思えない。
終盤に明かされる企みや黒田官兵衛の深意はドラマチックではあるが。

歴史小説としては楽しく読みごたえ十分だが、このサイト的にはやや控えめにこの評点。

No.175 7点 日の名残り- カズオ・イシグロ 2024/06/15 12:29
作家カズオ・イシグロの名を不動のものにした作品。無論ミステリーとして書かれたものではない。

由緒ある屋敷の執事スティーブンスは、再雇用のために元の女中頭ミス・ケントン(現ミセス・ベン)を訪ねる。6日間のドライブ旅行が独白体で綴られるが、過去30年に及ぶ屋敷での想い出が挿入されるから物語の奥行きは深い。
内省的な独白の中に精妙な詐術が仕掛けられている。スティーブンスの自己欺瞞や巧みな言い訳が初読時にはかすかな違和感として、再読時にはレース編みのように透けて見える。最後に主人公は、自身の頑なさのために幸せを逃していたことに気づいて涙する。

旅の終わりに浜辺で出会った元同業者に励まされ、新しいアメリカ人のご主人のためにジョークを「練習」しようと決意するエンディングが可笑しい。

身につかないジョークを練習する老執事にも、まもなく孫に恵まれるミセス・ベンにもしばしの残光が射すだろう。こうして表題を回収して物語は閉じる。
スティーブンス個人の物語であると同時に、執事として仕えた対ナチス融和派ダーリントン卿の破滅を通して大英帝国の衰退を描く全体小説にもなっている。

小説としては満点だがミステリーとしては控えめにこの評点。

No.174 5点 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 2024/05/25 07:21
特殊設定そのものは精緻で面白い。一方ミステリーとしては密室トリックを含めて驚きはない。謎解きが、特殊設定の妙を味わう単なる道具になっている。
まあ、ファンならシリーズとしての楽しみはあるかもしれないが。

この作者では「アミュレット・ホテル」あたりがミステリーと特殊設定の馴染みがよく楽しめた。

No.173 7点 カクレカラクリ- 森博嗣 2024/05/17 09:09
山あいの古い町、対立する二つの旧家。
横溝や三津田を思わせる設定だが、怪異も殺人も起きない。
120年前に仕掛けられて、ちょうど今年動き出すはずの「カラクリ」をめぐる本格謎解き。

精緻とはいえないが、さらっと気持ち良く読める文体で読後感も爽やか。

No.172 8点 折れた竜骨- 米澤穂信 2024/05/15 09:18
ときは中世、ところはイングランド辺境の島。領主ローレント・エイルウィンが何者かに殺される。
多彩なサイドストーリーが楽しい冒険ファンタジー風だが、その本質はピュアなミステリー。マニア心をくすぐる特殊設定が仕掛けられている。
(ネタバレします)


殺しの仕組みは、暗殺を望む者A、暗殺の請負人B(暗殺騎士)、そしてBに魔術をかけられ無自覚なまま殺人者となるC(走狗)から成り立つ。
したがって読み手としては動機(A, who&why)と機会や手法(C, who&how)を切り分けて考える必要がある。その上、無自覚な者がいることで情景描写や叙述も疑ってかからねばならないから読み解きは複雑。
結果的にBとCの正体や謎解きは多いに満足だが、Aの解明はほとんどないのが残念。

話し手をはじめたくさんの登場人物が皆魅力的。
表題のネタ割りを伴った余韻豊かなエンディングもいい。


No.171 9点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2024/05/04 14:02
もはやSFのレジェンドだが、特殊設定本格ミステリーとして楽しめる。
二つのアリバイ?トリックが壮大にして爽快。

ところで作品発表は1977年、現在はそろそろ作中の2030年代に近づいているので意地悪く未来予測の当たりハズレをご紹介。
まず当たり オンライン決済、ネット会議、自動運転(もうすぐ)。
ハズレ ソ連(とっくに崩壊)、イギリスでの給料は欧州ドル?建て(いまだにポンド建て)、会議中のタバコ休憩(今はあり得ない)、スマホならぬPC電話、そして何よりも世界平和(世界政府など夢のまた夢)。
月旅行や他の惑星への移動はSFとしての設定だからまあ別かな・・・

「ダンチェッカー!!」「なんでっかー?」「あんたの最後の演説、植民地主義的人類礼賛で気に入らんわ!」「さいでっか~」・・・で1点減点。

邦題が詩的でいい。読みごたえ十分の名作。

No.170 7点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2024/05/02 09:23
本格派フーダニットの見本のような作品。
丁寧に伏線が張り巡らされている。容疑者候補もたくさんで楽しい。
ただ、話者がニュートラルな人物のせいもあって全体に地味。

後期の名作のようなドラマチックな展開はない。

No.169 6点 陰陽師 女蛇の巻- 夢枕獏 2024/04/24 08:18
この巻で第一巻から実に31年経過。
晴明も博雅もすっかりジジイに・・・なってはいない。変わらず酒を愛で、「ゆこう、ゆこう」と徹底したワンパターン。
初期の謎解き要素は影を潜め、怪異とあっさりとした真相開示で一種のホラーファンタジーに。淡いエンディングは禅味すら感じさせる。
そんな中、辛口の逆説が効いて怖いのは「相人」。現代的な主題である。

賀茂保憲が連れている黒猫の名をわざわざ「沙門」と紹介していて引っ掛かったが多分「MON CHAT」かな。漠先生、別の巻では月の満ち欠けを司る仙人の唸り声を「むーん、むーん」としてたし。

No.168 5点 時計泥棒と悪人たち- 夕木春央 2024/04/23 08:42
大正シリーズ第三弾。
本格のミステリー短編集と意気込まずに、時代設定とシリーズキャラを楽しむつもりで読めばいい。
ただそれにしてはこのキャラ、それほど魅力的でもない。元泥棒紳士の蓮野はまあいいとしても、主人公たる画家の井口は影が薄い。脇役の晴海氏に負けている。
「サーカスから来た執達吏」の『ユリ・鞠』コンビで脱力感満載の短編を読みたいものだ。
第一話「加右衛門氏の美術館」はチェスタートン張りの逆説が面白い。

No.167 5点 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 2024/04/21 08:29
ホラーとミステリーのハイブリッドが謳い文句の刀城シリーズ。
人気作「首無」や「忌名」は凍るようなホラーと緻密な謎解きが融合した傑作で、このサイトでもすでにレジェンド。

長編第5作となる本作品はホラー描写がややマイルド。起こる怪異も、霊感の強い人物による幻視幻聴とも読める。一方のミステリー部分は犯行実現性(フィジビリティ)が弱い。
導入部が刀城とお仲間キャラの怪異談義というのもツカミとしてはぬるい。
一方、主人公たち母子家族の放浪物語は読みごたえがある。
エンディングもいい。大洪水のあとにまるで虹が掛かるようなエピローグは神話的。
ところでこの方言、何だか違和感があるんだが。

No.166 8点 十戒- 夕木春央 2024/04/18 17:24
大ヒット作に続く「旧約聖書」シリーズ第二作。それにしてもクローズドサークル二連発とは大胆な。

今回は登場人物の描き分けも的確で、落ち着いて展開を味わえる。
終盤、緻密なロジックで開示されたあげくの反転は見事。こちらは情が絡まない分、好ましい。
そして「・・・いっつも、自分が助かることしか考えてないかも。」ウーンこの趣向、嫌いではない・・・
考えようによっては今回の方が大技かも。
曖昧な書きようだが、そういえば何かが奥歯に・・・  ウ~ン高評価。

No.165 6点 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 2024/04/14 16:04
キッチュで楽しい、作り物感に満ちた短編集。と思ったら、そういえば作者はマジシャンでもあった。たしかにマジックショーのような作品が並ぶ。
お気に入りは本格風味の「曲がった部屋」と設定がユニークな「掌上の黄金仮面」。

ただ、どの作品も構成はモッサリと単調。冗長な展開部と名探偵亜による急転直下の謎解き。「DL2号機事件」などチェスタートンばりの逆説なのに構成で興が削がれる。
どの作品も本筋と関係ない部分が妙に可笑しい。

No.164 5点 サロメの断頭台- 夕木春央 2024/04/14 15:24
シリーズ最新作。
精緻なロジックが張り巡らされているが、そもそもの謎、つまり「誰が何のために贋作を描いたのか。」の真相があまりに貧弱。
そのためせっかくの多彩でドラマチックなトピックが活きてこない。
これでは富豪ロデウィック氏も登場のしがいがないだろう。

大技一発の「方舟」や軽快なテンポの「サーカスから来た執達吏」に比べると今一つ締まりのない読後感になってしまった。

No.163 8点 サーカスから来た執達吏- 夕木春央 2024/04/10 09:42
旧約聖書シリーズと交互に発表される大正シリーズの快作。

デフォルト状態の子爵家に乗り込んだ借金取りのユリ子と、担保として身柄を拘束された令嬢鞠子との冒険ミステリー。
元サーカス少女ユリ子のキャラ造形がほとんど特殊設定レベルで愉快。
立派な黒馬の名前が「かつよ」だったり、「こんにゃくが入ってます」の置き手紙(読んでのお楽しみ)など笑いのツボもたくさんあるが、本筋はちゃんとした乱歩風味のミステリー。
ただ、時効狙いの「逆監禁」はいささか強引かな。

ミステリーも、トリックがどうのロジックがどうの、という前にまずは豊かな物語として楽しめるのが肝心。
ユリ子鞠子コンビの続編を期待!!

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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.65点   採点数: 182件
採点の多い作家(TOP10)
宮部みゆき(23)
アガサ・クリスティー(21)
松本清張(15)
三津田信三(14)
連城三紀彦(14)
横溝正史(7)
青山文平(7)
G・K・チェスタトン(5)
夕木春央(5)
北森鴻(4)