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[ 社会派 ]
飢餓海峡
2005年版は作者が全面改訂
水上勉 出版月: 1963年01月 平均: 7.83点 書評数: 12件

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朝日新聞社
1963年01月

新潮社
1969年08月

中央公論新社
1976年10月

朝日新聞社
1978年10月

新潮社
1990年04月

河出書房新社
2005年01月

No.12 5点 ボナンザ 2024/04/14 18:26
濃密な描写と哀切迫るラストは松本以上に社会派らしさを感じさせる。

No.11 3点 レッドキング 2023/09/18 20:39
「飢餓海峡」! おお懐かしい。松本清張「ゼロの焦点」や映画(清張でなく)「砂の器」、「白夜行」や「火車」なんかと同様に、The twilight(darkでなく) Side of The modan日本 の半ピカレスク浪漫やね。

No.10 9点 みりん 2023/09/17 23:06
take5様の書評に釣られて高得点配布おじさんが駆けつけてきましたよ(王者の如き〜は大好きな作品ですけどね笑)
社会派はほぼ食わず嫌い状態なのでチラッと読んで合わなかったらやめようと図書館で借りると、一気に200ページほどノンストップで進んでしまいました。60年前に書かれたとは思えないほど文章が読みやすい(これ大変ありがたい^^)上に風情があり、1000ページの長さを感じさせない抜群のリーダビリティです。

蟷螂の斧さんと斎藤警部さんも仰っていますが再度警告を。
【新潮文庫で読む方は裏のあらすじを絶対に読まないこと】
これめっちゃ大事です。そこが作品の真価でないにしてもネタバレのオンパレードで笑ってしまいました。

【ネタバレがあります】


1963年刊行の作品ですが最初の舞台は終戦直後の1947年。とうもろこしが6円で買える時代。船の転覆事件に扮した2つの身元不明死体が発見され、事件の影には六尺の大男。六尺ってそんな大きいのかと調べると180cmらしく「アレ?そこまで目立たなくね?」と思ってしまった。

上巻では貧困と病魔が蔓延る退廃的なこの時代における娼婦の艱難辛苦がありありと描かれ、読み応え抜群。そういえばそれこそ三津田先生の物理波多矢シリーズもこの時代&こんな雰囲気でしたねぇ…『飢餓海峡』が好きな方はぜひ。
下巻ではガラリと雰囲気が変わり、警察の執念の捜査編。倒叙ミステリの色が濃くなります。上巻に登場したキャラクターが10年後に再登場するこの同窓会感には込み上げるものがあります。私が再会したのは数時間後でも、作中で10年経っていれば私の脳内でも10年後になっているのです。

下巻p110より引用
「徒労の日々が、今大きく助けになったと、弓坂はよろこんでいるのである。10年前の苦労を、弓坂はいま、いっきに思い起こしたのだ。誰にぶつけるようにも出来なかった10年の憤懣を、いま、消し飛ばすことが出来たのだ。」
その中でもやっぱり弓坂警部が報われるここがグッときましたね。

主題は"刑余者保護制度の欠陥"だと思われますが、東京という魔都や舞鶴・大湊などの田舎が抱える種々の問題点、そして人間としてのあり方など1000ページの中に大小様々なテーマが見え隠れします。


正直なところは8点だけど、大作を読み終わった後の達成感+犯人の独白に心打たれたので9点に。なにより説教臭くなく、全てのメッセージが物語に自然に落とし込まれているところがイイですね!

※本格だらけのランキングに紅一点の社会派 
1件目の空様の書評から13年を経て10件揃うって本サイト新参者の私でも何か感慨深いものが…

No.9 9点 take5 2023/08/11 22:37
満足しました。

戦後日本の混乱期に、実際に起きた
2つの事件を元に物語は始まります。

設定や背景に説得力があって、
社会派小説としても読みごたえあり。
しかし、作者が後書きで述べていますが、
○○小説とくくるのではなくて、
とにかく面白いものは面白いのです。

警察の執念を感じる調査、
函館、舞鶴、亀戸、倶知安、
全国をかける人間模様。
悪人善人と決めつけられない
貧困からくる人間の業。

上下合わせて700ページ
ああ本当に満足です。



※あと1つの書評で、
 上位2つの
 『王者の如き在るもの』を
 抜くんですよ。
 どなたかお願いします!

No.8 8点 クリスティ再読 2020/12/31 21:27
いつぞやの年の大晦日に映画「飢餓海峡」をTV放送していたのを見たことがあった。それを懐かしんで、今年は大晦日に本作を読んで年納めとしたい。
結局映画は3回くらい見ている。3時間の長丁場をダレない名作であるのはいうまでもなし。しかし狼狽して「犬飼やあらしまへん」と叫びながら左幸子の首を絞めて殺す三国連太郎と比べると、原作の方が冷酷に思えるなあ...で、鷽替えとか爪とか札を扇にして徳利に刺して、といった庶民の風習をうまく使ったデテール部分で、映画の方に工夫がいろいろあるし、ぬめぬめした関西弁でしゃべるのに精悍な三国やら、ちょっとイっちゃった演技を見せる左幸子、シリアスな伴淳といった役者の楽しみも豪華、宗教性を感じさせる荘厳な演出の老巨匠内田吐夢...60年代という戦後復興がカタチになり豊かさを感じさせた時代に、つい先ごろまでの「貧しい日本」の記憶をそのまま封印した名作でもある。
だから逆に、若い人たちが本作を読んでどう感じるのか?とか聞いてみたいようにも思う。評者あたりの世代なら、さすがに戦後の混乱期のことは親の思い出話で聞くなり、70年代までの各種エンタメの素材として親しいものだったから、それなりの(実体験ではなくても想像の上での)リアリティを感じるのだが...

でまあ今回読み直しての感想としては、本作「海」の話だ、ということ。評者が本作の転回点と思うシーンは、引退した函館の弓坂を、舞鶴の味村警部補が初訪問して...

「そうです。わたしは十年前に、ちょうど、あなたと同じように、その男のために、足を棒にして、調べて歩いたんです。この海峡も何ど渡ったか知れやしない」
坂道の曲がり角にくると、家々の屋根が急に空を割っていて、紺青の海が鏡を敷いたように光ってみえた。
「あなたは、津軽海峡をごらんになるのは最初ですか」

津軽海峡、雷電海岸から岩幌、下北の仏ヶ浦、そして舞鶴。この日本海を繋ぐ古くからの海の回路を通じて、人間の貧しさと本質が暴き出されていく話なんだ...樽見は悪人であると同時に善人でもある。善意は悪に基盤をもち、最悪の殺人も善意がきっかけである。そういう「日本海のレ・ミゼラブル」として本作を読んでみよう。

(あと、原作でうまいな~と感心したのは、東京時代の八重と恋仲になるがうどん粉の横流しで捕まる小川の話が、後半に微妙につながるあたり。この男も小型の樽見なんだよ)

No.7 9点 蟷螂の斧 2019/11/17 14:52
(再読)「東西ミステリーベスト100」第31位 新潮文庫(1990年版)の裏書はひどい!!!。社会派ミステリーと謳いながらネタバレを書く無神経さ、特に(下)がひどい。まあ、言い分としては、人間ドラマがメインだからいいじゃないかということなのでしょうか?。言わずもがなの名作ですね。「砂の器」(1961年)に通じるものがあります。映画では左幸子さんの名演が忘れられない。

No.6 8点 斎藤警部 2018/08/27 13:06
「あの人の顔を見たのはあたしだけなんだから…」

戦後。津軽海峡を挟んだ道南側にて、天災からの大型船転覆事故。続いて大火災。シビレる混沌の奥から主人公らしきモノがじわりじわりと浮上して来た、と思うと、海峡挟む下北側にて、ゆったり謎めいたヒロイン候補が更に前面に。この二人が出遭ったばかりのシーンの思わず空気もゆがむ豊かさよ。全体で見れば『砂の器』を連想させる本作ながら清張には見出し難い穏やかな時間の流れが見られて私は満足。かと合点すれば、その出遭いのシークエンス後半から、、やるではないか。。。。 海に浮かぶ事故屍体の山と、すぐそばで起きた殺人事件。。 サスペンスの早朝市場が存外早く蠢き出し、核心の見えない焦(じれ)ったさこそ漫(そぞ)ろ継続ながら、実録物文書から白々しい部分を潰して息を呑むスリルだけあぶり出したようなシビアな娯楽作の矜持が突き上げる、ここに不朽感あり。

微細な歴史講釈がそのままハードボイルド即物心理描写になるなど気の利いた大技も見逃せない。また或る人物の描写に限って徹底したHB文体と、それ以外は普通かそれ以上に熱い直接心理描写という対照の妙は『白夜行』を思わせるが。。 ヒマワリの葉。。。。

探偵役を含む数多の警察官が捜査にのたうち回る割に、本命容疑者(ホンボシ)ロックオンが小説的に妙に早いが、それまで奇妙なほど語られなかった人物像含む背景の闇の暴き立て作業がぐいぐいと進み、そのズブズブといつまでも追求の手足を癒やすいとまも無い無間展開に心酔させられるのは決してプロ社会派読者乃至プロ犯罪小説読者だけではないでしょう。 釜を焚く汽車に揺られた苦い旅情に、素敵な牽引力あり。

「わたしは永年、この丘から海の表情を眺めているもんですからな、つまらんことにも気がつくんですよ」

結末にて、遂に、真打ち登場!! しかしながら、その結末なんだよな、、それまでの怒涛のストーリー圧力を受け止め切れていないのは。急にくにゃりと折れ過ぎではないかな、●●●(?)の愛他大車輪の屈強なる筈の枢軸が。あの殺人&アリバイ工作もちょっと取って付けた感が見えますね。いっそ、その部分はやめて「●●●●●は●●の●●は●●も●●ちゃ●●●った」って結末にしてしまったらどうだったろうか、と妄想します。 以前、本サイト『ゼロの焦点』の評で、かのストーリーの放つ巨大運動エネルギーを結末がよくぞしっかり受け止めたとの感動を記したものですが、本作の場合はそれが出来なかった所で大きく減点させていただきました。が、激烈に面白い小説である事には異を唱えようがありません。可読性(リーダビリティ)の高さも特筆級ですが、そこを抑えて敢えてゆっくり読みたくなる魅力があります。

尚、石川さゆりさんの同名ヒット曲、歌詞に、原作ではなく昔の映画版のネタバレ要素があるようで、無いような。。 絶妙なやり方をしています、吉岡治さん。

ところで、新潮文庫裏表紙のあらすじ書きは先に読んだら絶対アカん!!上巻終わってもまだダメ!!上下巻読了後にすること!!推理小説(というか小説)をナメんなよと言いたくなる核心晒し過ぎのストーリーネタバレは配慮と創意工夫に欠け過ぎ。 山田風太郎『太陽黒点』廣済堂文庫のそれに準ずる罪深さだと思いまする。 (まぁ、それ先に読んじゃっても充分面白くイケる上等なブツだとは思います)

No.5 8点 測量ボ-イ 2016/09/21 18:54
東西ミステリ-に2回にわたって上位ランクインしている、固定的支持
のある作品。
今回ようやく縁あって読みましたが、満足度は高かったです。
決して本格ものではなくむしろ社会派に属する作品ですが、リ-ダビリ
ティが高く、その長さ(文庫上下巻500頁×2)を感じさせません。
ミステリ通を自称するなら、好きなジャンルにかかわらず読んでおく
べき一遍だと思います。
採点は基礎点7点に、古の名作に敬意を表してプラス1点。

(余談)
前半の主役は樽見京一郎よりもむしろ杉戸八重か?彼女もまた数奇な
運命ですねえ・・

No.4 9点 あびびび 2013/04/05 23:12
ある意味、松本清張の「砂の器」に似ていると思った。人間、成功するには個人の才能、努力だけではなく、色々な犠牲を強いられる場面もあり、それが思わぬきっかけで露呈する。

その重荷は、本人がずっと背負っており、一度犯した罪は決して消えることはない。この作品は映画も最高で、自分の中のベスト5に入っている。

No.3 9点 TON2 2012/11/04 02:52
この作品を原作とした内田吐夢の同名映画が名作だというので、この本から読んでみました。読みごたえのある作品ですが、大変面白かった。
終戦直後の日本の混乱と庶民の貧しい生活がよく描かれています。純真で明るい娼婦、職務に忠実で退職後も事件を追いかける刑事、十分な矯正をしないままに出所した受刑者が大事件を起こしたことに責任を感じる刑務所の看守。
凶悪犯であるはずの犯人が悪人には思えません。むしろ、心の中には温かい血が流れながら、運命のいたずらに巻き込まれた弱い人間に思えます。

No.2 8点 kanamori 2010/07/29 21:02
この大作は、「虚無への供物」と同じく青函連絡船・洞爺丸事故が創作の契機のようです。ただし、時代を遡って昭和22年を事件の発端にしていますが。
過去に強盗殺人を犯し隠蔽工作をし名前を変えて暮らす男と、恩人の男をかばう元娼婦、執拗に男を追及する捜査陣、と抒情的な文章で壮大な人間ドラマを堪能できます。若干、物語の進行に冗長さを感じる点もありますが、読み応え十分の名作と言えるでしょう。

No.1 9点 2010/02/03 22:05
水上勉がミステリを離れる間際に書いた大長編、久々の再読ですが、長さ以上の読みごたえを感じました。
今回図書館で借りた中央公論社の水上勉全集では、作者自身が解説に「犯人を出しておいたのだから、もう推理小説としては落第だと思っていた」と書いています。しかし、やはりこれは推理小説(ミステリ)でしょう。本作の大部分は、刑事たちが地道に事件を追っていく過程です。すでに聞き込みで判明したことが捜査会議で再度語られるなど、無駄とも思える重複はありますが、大きなうねりのような話の流れは、迫力が感じられます。その途中に、犯人に出会った娼婦の視点から書かれた部分がところどころ挿入されているのです。
昭和22年の強盗放火殺人事件に始まり、その事件が迷宮入りになった後、10年後に起こった殺人事件。この部分は殺し自体が描写されますが、ここだけはヒッチコック風な省略法を使った方がよかったかなと思います。ここまでで半分くらいで、警察はすぐに犯人の目星をつけてしまい、後は犯人の過去をたどり証拠をつかむための捜査になってきます。後半は犯人の性格に外側から迫っていく構成なわけです。
読み終えて何とも言えない気持ちにさせられる傑作です。


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水上勉
1982年12月
蟲の宴
平均:5.00 / 書評数:1
1976年08月
ヨルダンの蒼いつぼ
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修験峡殺人事件
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1963年01月
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1962年01月
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海の葬祭
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1961年01月
野の墓標
平均:5.00 / 書評数:1
雁の寺
平均:5.00 / 書評数:2
1960年01月
火の笛
平均:5.50 / 書評数:2
平均:5.00 / 書評数:1
巣の絵
平均:6.50 / 書評数:2
海の牙
平均:6.00 / 書評数:4
平均:6.00 / 書評数:2
1959年01月
霧と影
平均:7.50 / 書評数:2