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[ 社会派 ]
飢餓海峡
水上勉 出版月: 1963年01月 平均: 8.50点 書評数: 8件

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朝日新聞社
1963年01月

新潮社
1969年08月

中央公論新社
1976年10月

朝日新聞社
1978年10月

新潮社
1990年04月

河出書房新社
2005年01月

No.8 8点 クリスティ再読 2020/12/31 21:27
いつぞやの年の大晦日に映画「飢餓海峡」をTV放送していたのを見たことがあった。それを懐かしんで、今年は大晦日に本作を読んで年納めとしたい。
結局映画は3回くらい見ている。3時間の長丁場をダレない名作であるのはいうまでもなし。しかし狼狽して「犬飼やあらしまへん」と叫びながら左幸子の首を絞めて殺す三国連太郎と比べると、原作の方が冷酷に思えるなあ...で、鷽替えとか爪とか札を扇にして徳利に刺して、といった庶民の風習をうまく使ったデテール部分で、映画の方に工夫がいろいろあるし、ぬめぬめした関西弁でしゃべるのに精悍な三国やら、ちょっとイっちゃった演技を見せる左幸子、シリアスな伴淳といった役者の楽しみも豪華、宗教性を感じさせる荘厳な演出の老巨匠内田吐夢...60年代という戦後復興がカタチになり豊かさを感じさせた時代に、つい先ごろまでの「貧しい日本」の記憶をそのまま封印した名作でもある。
だから逆に、若い人たちが本作を読んでどう感じるのか?とか聞いてみたいようにも思う。評者あたりの世代なら、さすがに戦後の混乱期のことは親の思い出話で聞くなり、70年代までの各種エンタメの素材として親しいものだったから、それなりの(実体験ではなくても想像の上での)リアリティを感じるのだが...

でまあ今回読み直しての感想としては、本作「海」の話だ、ということ。評者が本作の転回点と思うシーンは、引退した函館の弓坂を、舞鶴の味村警部補が初訪問して...

「そうです。わたしは十年前に、ちょうど、あなたと同じように、その男のために、足を棒にして、調べて歩いたんです。この海峡も何ど渡ったか知れやしない」
坂道の曲がり角にくると、家々の屋根が急に空を割っていて、紺青の海が鏡を敷いたように光ってみえた。
「あなたは、津軽海峡をごらんになるのは最初ですか」

津軽海峡、雷電海岸から岩幌、下北の仏ヶ浦、そして舞鶴。この日本海を繋ぐ古くからの海の回路を通じて、人間の貧しさと本質が暴き出されていく話なんだ...樽見は悪人であると同時に善人でもある。善意は悪に基盤をもち、最悪の殺人も善意がきっかけである。そういう「日本海のレ・ミゼラブル」として本作を読んでみよう。

(あと、原作でうまいな~と感心したのは、東京時代の八重と恋仲になるがうどん粉の横流しで捕まる小川の話が、後半に微妙につながるあたり。この男も小型の樽見なんだよ)

No.7 9点 蟷螂の斧 2019/11/17 14:52
(再読)「東西ミステリーベスト100」第31位 新潮文庫(1990年版)の裏書はひどい!!!。社会派ミステリーと謳いながらネタバレを書く無神経さ、特に(下)がひどい。まあ、言い分としては、人間ドラマがメインだからいいじゃないかということなのでしょうか?。言わずもがなの名作ですね。「砂の器」(1961年)に通じるものがあります。映画では左幸子さんの名演が忘れられない。

No.6 8点 斎藤警部 2018/08/27 13:06
「あの人の顔を見たのはあたしだけなんだから…」

戦後。津軽海峡を挟んだ道南側にて、天災からの大型船転覆事故。続いて大火災。シビレる混沌の奥から主人公らしきモノがじわりじわりと浮上して来た、と思うと、海峡挟む下北側にて、ゆったり謎めいたヒロイン候補が更に前面に。この二人が出遭ったばかりのシーンの思わず空気もゆがむ豊かさよ。全体で見れば『砂の器』を連想させる本作ながら清張には見出し難い穏やかな時間の流れが見られて私は満足。かと合点すれば、その出遭いのシークエンス後半から、、やるではないか。。。。 海に浮かぶ事故屍体の山と、すぐそばで起きた殺人事件。。 サスペンスの早朝市場が存外早く蠢き出し、核心の見えない焦(じれ)ったさこそ漫(そぞ)ろ継続ながら、実録物文書から白々しい部分を潰して息を呑むスリルだけあぶり出したようなシビアな娯楽作の矜持が突き上げる、ここに不朽感あり。

微細な歴史講釈がそのままハードボイルド即物心理描写になるなど気の利いた大技も見逃せない。また或る人物の描写に限って徹底したHB文体と、それ以外は普通かそれ以上に熱い直接心理描写という対照の妙は『白夜行』を思わせるが。。 ヒマワリの葉。。。。

探偵役を含む数多の警察官が捜査にのたうち回る割に、本命容疑者(ホンボシ)ロックオンが小説的に妙に早いが、それまで奇妙なほど語られなかった人物像含む背景の闇の暴き立て作業がぐいぐいと進み、そのズブズブといつまでも追求の手足を癒やすいとまも無い無間展開に心酔させられるのは決してプロ社会派読者乃至プロ犯罪小説読者だけではないでしょう。 釜を焚く汽車に揺られた苦い旅情に、素敵な牽引力あり。

「わたしは永年、この丘から海の表情を眺めているもんですからな、つまらんことにも気がつくんですよ」

結末にて、遂に、真打ち登場!! しかしながら、その結末なんだよな、、それまでの怒涛のストーリー圧力を受け止め切れていないのは。急にくにゃりと折れ過ぎではないかな、●●●(?)の愛他大車輪の屈強なる筈の枢軸が。あの殺人&アリバイ工作もちょっと取って付けた感が見えますね。いっそ、その部分はやめて「●●●●●は●●の●●は●●も●●ちゃ●●●った」って結末にしてしまったらどうだったろうか、と妄想します。 以前、本サイト『ゼロの焦点』の評で、かのストーリーの放つ巨大運動エネルギーを結末がよくぞしっかり受け止めたとの感動を記したものですが、本作の場合はそれが出来なかった所で大きく減点させていただきました。が、激烈に面白い小説である事には異を唱えようがありません。可読性(リーダビリティ)の高さも特筆級ですが、そこを抑えて敢えてゆっくり読みたくなる魅力があります。

尚、石川さゆりさんの同名ヒット曲、歌詞に、原作ではなく昔の映画版のネタバレ要素があるようで、無いような。。 絶妙なやり方をしています、吉岡治さん。

ところで、新潮文庫裏表紙のあらすじ書きは先に読んだら絶対アカん!!上巻終わってもまだダメ!!上下巻読了後にすること!!推理小説(というか小説)をナメんなよと言いたくなる核心晒し過ぎのストーリーネタバレは配慮と創意工夫に欠け過ぎ。 山田風太郎『太陽黒点』廣済堂文庫のそれに準ずる罪深さだと思いまする。 (まぁ、それ先に読んじゃっても充分面白くイケる上等なブツだとは思います)

No.5 8点 測量ボ-イ 2016/09/21 18:54
東西ミステリ-に2回にわたって上位ランクインしている、固定的支持
のある作品。
今回ようやく縁あって読みましたが、満足度は高かったです。
決して本格ものではなくむしろ社会派に属する作品ですが、リ-ダビリ
ティが高く、その長さ(文庫上下巻500頁×2)を感じさせません。
ミステリ通を自称するなら、好きなジャンルにかかわらず読んでおく
べき一遍だと思います。
採点は基礎点7点に、古の名作に敬意を表してプラス1点。

(余談)
前半の主役は樽見京一郎よりもむしろ杉戸八重か?彼女もまた数奇な
運命ですねえ・・

No.4 9点 あびびび 2013/04/05 23:12
ある意味、松本清張の「砂の器」に似ていると思った。人間、成功するには個人の才能、努力だけではなく、色々な犠牲を強いられる場面もあり、それが思わぬきっかけで露呈する。

その重荷は、本人がずっと背負っており、一度犯した罪は決して消えることはない。この作品は映画も最高で、自分の中のベスト5に入っている。

No.3 9点 TON2 2012/11/04 02:52
この作品を原作とした内田吐夢の同名映画が名作だというので、この本から読んでみました。読みごたえのある作品ですが、大変面白かった。
終戦直後の日本の混乱と庶民の貧しい生活がよく描かれています。純真で明るい娼婦、職務に忠実で退職後も事件を追いかける刑事、十分な矯正をしないままに出所した受刑者が大事件を起こしたことに責任を感じる刑務所の看守。
凶悪犯であるはずの犯人が悪人には思えません。むしろ、心の中には温かい血が流れながら、運命のいたずらに巻き込まれた弱い人間に思えます。

No.2 8点 kanamori 2010/07/29 21:02
この大作は、「虚無への供物」と同じく青函連絡船・洞爺丸事故が創作の契機のようです。ただし、時代を遡って昭和22年を事件の発端にしていますが。
過去に強盗殺人を犯し隠蔽工作をし名前を変えて暮らす男と、恩人の男をかばう元娼婦、執拗に男を追及する捜査陣、と抒情的な文章で壮大な人間ドラマを堪能できます。若干、物語の進行に冗長さを感じる点もありますが、読み応え十分の名作と言えるでしょう。

No.1 9点 2010/02/03 22:05
水上勉がミステリを離れる間際に書いた大長編、久々の再読ですが、長さ以上の読みごたえを感じました。
今回図書館で借りた中央公論社の水上勉全集では、作者自身が解説に「犯人を出しておいたのだから、もう推理小説としては落第だと思っていた」と書いています。しかし、やはりこれは推理小説(ミステリ)でしょう。本作の大部分は、刑事たちが地道に事件を追っていく過程です。すでに聞き込みで判明したことが捜査会議で再度語られるなど、無駄とも思える重複はありますが、大きなうねりのような話の流れは、迫力が感じられます。その途中に、犯人に出会った娼婦の視点から書かれた部分がところどころ挿入されているのです。
昭和22年の強盗放火殺人事件に始まり、その事件が迷宮入りになった後、10年後に起こった殺人事件。この部分は殺し自体が描写されますが、ここだけはヒッチコック風な省略法を使った方がよかったかなと思います。ここまでで半分くらいで、警察はすぐに犯人の目星をつけてしまい、後は犯人の過去をたどり証拠をつかむための捜査になってきます。後半は犯人の性格に外側から迫っていく構成なわけです。
読み終えて何とも言えない気持ちにさせられる傑作です。


水上勉
1985年04月
修験峡殺人事件
1982年12月
蟲の宴
平均:5.00 / 書評数:1
1976年08月
ヨルダンの蒼いつぼ
平均:5.00 / 書評数:1
1965年01月
海の墓標
平均:5.00 / 書評数:1
1964年01月
吹雪の空白
平均:6.00 / 書評数:1
1963年01月
薔薇海溝
平均:6.00 / 書評数:1
死火山系
平均:6.00 / 書評数:2
飢餓海峡
平均:8.50 / 書評数:8
1962年01月
平均:6.00 / 書評数:1
若狭湾の惨劇
平均:6.00 / 書評数:1
海の葬祭
平均:4.00 / 書評数:1
死の流域
平均:6.00 / 書評数:1
1961年01月
野の墓標
平均:5.00 / 書評数:1
雁の寺
平均:3.00 / 書評数:1
1960年01月
火の笛
平均:6.00 / 書評数:1
平均:5.00 / 書評数:1
巣の絵
平均:6.50 / 書評数:2
海の牙
平均:6.33 / 書評数:3
平均:5.00 / 書評数:1
1959年01月
霧と影
平均:8.00 / 書評数:1