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[ 本格/新本格 ]
罠の中
結城昌治 出版月: 1961年01月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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新潮社
1961年01月

集英社
1977年07月

No.2 6点 人並由真 2020/05/03 14:30
(ネタバレなし)
 本作の集英社文庫版の解説(担当:九鬼明)を読むと確かに
「本書「罠の中」は、「ひげのある男たち」「長い長い眠り」に続く書き下ろし長編の第三作として昭和三十六年に新潮社より刊行された。(原文ママ)」
 とあるが、試みに大井廣介の「紙上殺人現場」(現代教養文庫)を紐解くと日本語版EQMMの1961年6月号で『隠花植物』、7月号で本作『罠の中』のそれぞれレビューという順番になっている。

1:大井廣介の新刊チェックの順番が前後した
2:九鬼明の認識が勘違いで『隠花植物』が先に書き下ろし刊行
3:実は『隠花植物』は連載作品だったので、九鬼明の記述はマチガイではない

 ……さあ、どれでしょう(笑)。手をかけて調べればわかるかもしれないが。

 
 でもって内容ですが、うん、これはなかなか。
 最後の真相発覚後に、実はあーでしたこーでしたと語られすぎるあたりは失点だが、作者がこの作品を書く時点で、ミステリとしてのどういう勝負球を用意したのかは、よくわかる。
 あまりくわしいことは言えないが、当時としてはかなり垢抜けた、海外ミステリっぽい作品だったのではないか。
(前述の「紙上殺人現場」でもかなりホメていた。)

 社会派プラスフーダニットのパズラーで、動機の真相もかなり強烈だねえ。口がムズムズするが、とにかくあまり多くは言えない。

 書庫の中からたまたま出てきた一冊を、気の向くままに読んでみたが、これは軽くアタリ。何の期待もなく時たま、こーゆーのに出会えるから、昭和のミステリライフは楽しい(笑)。

No.1 5点 kanamori 2016/08/27 20:39
犯罪者の更生保護施設「新生会」の会長・矢次は、施設の印刷工場で働く収容者からピンハネを続け、社会事業の美名の裏で蓄財に励んでいた。そんなある日、矢次から借金を冷たく断られた軍隊時代の元部下が怪死し、その事件を契機に、旧悪を暴露する脅迫電話や殺人予告につづき遂に殺人が起きる--------。

「ひげのある男たち」「長い長い眠り」に続き、昭和36年に書き下ろし出版された長編の第3作。
今回はノンシリーズですが、軽妙洒脱な語り口と、とぼけたユーモアという作者の持ち味は前2作と変わららない軽本格ミステリです。けっこう重いテーマも隠されていますが、前科23犯のスリの常習者や、女好きのポン引き、大学出でバクチ狂の屑屋ら、施設の収容者である人生の落伍者たちのユーモラスでペーソスも溢れるやり取りで、シリアスな動機が中和されている感がありますね。
一方で本格ミステリの出来栄えという点では前2作よりやや落ちるという印象。
死亡フラグが立ちまくりの矢次を中心に置いた群像劇という構成のなかで、途中から登場するある人物の役割が推測しやすく、ミスディレクションの手法もあまり効果を挙げていないと思えるのが残念です。謎解き面でも、もろもろの伏線の回収については最後に一応の説明はあるものの、終盤のバタバタとした解決がちょっと淡泊に感じてしまいました。


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