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[ ハードボイルド ]
幻の殺意
旧題『幻影の絆』
結城昌治 出版月: 1964年01月 平均: 7.25点 書評数: 4件

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角川書店
1964年01月

KADOKAWA
1971年03月

東京創元社
2022年07月

No.4 7点 zuso 2024/11/13 21:34
秘密を持つ者の過去が暴かれ、それによって家族がバラバラになるという家族崩壊の物語で、そこに殺人事件が絡んでくる。
一体、夫婦の絆とは何か、親子の血のつながりは何かを正面から力強く、実にエモーショナルに謳い上げている。特にラストシーンが切々たる響きを持ち、激しく胸に迫る。

No.3 7点 斎藤警部 2024/08/13 11:25
「人間の屑と遊ぶときの方法を知りたい」
「あたしをバカにしたつもり?」
「聞こえない方の耳に言ったんだ」

真面目だった高校生の息子が急に夜間外出を始めた。 数日後、息子は殺人の容疑で逮捕される。 刺殺された被害者は、片腕の無いやくざ者。 全く心当たりの無い父は息子の無実を信じ、友人の郷田弁護士を頼り、自らも私立探偵まがいの調査活動を始める。 心労で母は寝込んでしまう。 父はやがて、息子の中学時代の同級生で、やくざな道に両脚突っ込んでしまった少年に出遭う。

「かまいません。あんな子はさっさと野たれ死にでも何でもしちまえばいいんだ」

サスペンスに始まり、ハードボイルドに終る、短い長篇。 ダークな方の結城昌治だが、適時ユーモアも弾ける。 だが圧の強い、渋いムードが魅力。 息子の父の即席ディテクティヴ気取り(探偵に化けたり、刑事のふりしたり)が、不思議と鼻に付かずリアリティを削いでもいない。 決してフラットでもフレンドリーでもない関係の男女が交わす殺伐軽妙な会話、男女間だからこその独特なハードボイルド感覚、頻繁に登場するこいつがどれも面白過ぎる。 これが男同士の会話となるとたちまち明からさまな直球勝負かと思いきや、方向性の色合いがちょっと違うだけで、うつむき加減の独特なワイズクラックはやはり同性/異性間共通の味わい。 実にイカしている。

「感じのいい女で、わたしだって好意をもっていたくらいです」

謎の核心がチラッと晒されるチョイ前までの寸止め海峡で、ますます深まる、チョイ社会派を匂わす射程少しばかり絞った謎の深みを覗き込む感覚が刺激的。 このあたりから物語はサスペンスからハードボイルドへと速やかに軸足を移動し始める。 どうも、謎の本籍地への道筋が思いのほか入り組んでいるようだ。 あからさまに光るワンフレーズも待ち構えていたりする。 ストーリーとタイトルとの連関性もそろそろ気になる所(でしたが、空さん仰る通り、初版時タイトル『幻影の絆』こそが内容に則しておりますね)。

第四章「四人の語り手」では、ストーリー構成上のツイストが効いた、その一方で非常に重い展開が押し寄せる。 Tetchyさん仰るロスマク風家庭の悲劇の原点がここで暴露される。 だが、頁数はまだまだ残り、或る心理の謎(というか白黒判定)がまだ残る。 最後に残った、前述の白黒をはっきりさせる、『手紙』。 力強さと不安定さが入り混じる最終シークエンス。 リーダビリティは強烈でアッという間に読み進んでしまいますが、前述の第四章「四人の語り手」前あたりで一時停止しないと、すぐに謎が解けてしまっては勿体無い、なんて思っちゃったりする。 それ程の魅力が、本作には深く埋め込まれていると思います。

No.2 7点 2012/02/29 21:42
最初に読んだ結城昌治作品が、本作でした。そのため、作者に対しては叙情的ハードボイルドという印象がしばらくは残っていたものです。今回再読してみると、初読時に感心した人間関係による謎作りとその解答は、多少記憶に残っていたことを考慮しても、たいして意外でもないなと思いました。犯人の設定も、いまひとつ。それでもその人間関係の描き方、事件解決後部分でのテーマの盛り上げ方はやはり感動的です。登場人物中、逮捕された息子の中学時代の同級生だった男が、意外になかなかいい役です。
初版時のタイトルは『幻影の絆』で、その方が内容には合っているでしょう。改題後の角川文庫版を持っているのですが、これは1971年3月が初版出版となっています。一方同年4月には本作を基にした映画『幻の殺意』が公開されているので、ひょっとしたら映画の方にタイトルを合わせたのではないかと勘ぐりたくなります。

No.1 8点 Tetchy 2008/04/27 01:41
殺人犯人の容疑者として逮捕された息子の無罪を晴らそうと父親が独力で真相を探る。
終戦20年後という高度経済成長期を舞台にした話で、あの頃にはこういう話がよくあったのだなぁと思われる。

250ページ弱の長編で、淡々と物語は進み、実際すぐに読み終わったが、読後じわじわと感じるものがあった。
ロスマク風家庭の悲劇を扱っているのも味わい深い。

最後の

「そして幸福は、あるいは愛は、無知の上のみ築かれていくのか」

この一文が痛い。


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