皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
zusoさん |
|
---|---|
平均点: 6.20点 | 書評数: 266件 |
No.266 | 5点 | QED 百人一首の呪- 高田崇史 | 2025/06/30 21:34 |
---|---|---|---|
会社社長が自宅で撲殺された。手に握りしめていた百人一首の札はダイイング・メッセージなのか。博覧強記の薬剤師・桑原崇は、友人のジャーナリスト・小松崎良平の相談を受け、事件の解明に乗り出す。
百人一首は単なる季歌集ではなく、編者の藤原定家によって何らかの意図が込められているという説は、複数の先例があるが本書における解読の鮮やかさと華麗さは別格。現代の事件と結び付け方もユニーク。 |
No.265 | 5点 | 雫の街 家裁調査官・庵原かのん- 乃南アサ | 2025/06/30 21:29 |
---|---|---|---|
離婚や相続など家庭に関する多種多様な事件を扱った7編からなる短編集。
いずれも予想と違うところに着地して思わず涙することも。家族の様々な諸相を捉えていて厚みがあり、大いに胸に迫るものがある。 |
No.264 | 7点 | 柔らかな頬- 桐野夏生 | 2025/06/21 21:26 |
---|---|---|---|
不倫相手との密会を目的に訪れた別荘地で、幼い娘を神隠しのように失ってしまう主人公・カスミ。カスミの切実な心情と心を苛み続ける罪悪感が丹念に積み重ねられ、夫、不倫相手、事件の再捜査をする元警察官ら、カスミが関係する男たちが変わっていくさまが描かれている。
人の想像の中では失踪した娘は生きていたり、無残に殺されていたりする。そのどれもがリアルに描かれ、真実とは何かということも考えさせられる。 |
No.263 | 6点 | クドリャフカの順番- 米澤穂信 | 2025/06/21 21:20 |
---|---|---|---|
全編に渡り文化祭の楽しさが活写されている一方、終盤ではその祭りが終わる際の一抹の寂しさも描き出している。その雰囲気とトーンを合わせた謎解きの中身も絶妙。 |
No.262 | 4点 | 歪んだ創世記- 積木鏡介 | 2025/06/12 22:14 |
---|---|---|---|
気が付くと一切の記憶をなくした状態で、見知らぬ部屋にいる男と女、そして惨殺された三人の死体。
序盤から濃厚なメタミステリの匂いを漂わせつつ、物語は時間が不連続に過去へと遡るだけでなく、ページを前後し予断を許さない。 読み手を翻弄しながら、突入するクライマックスが、これまたやりたい放題で凄まじいのだが、真相は筋が通っている。 |
No.261 | 5点 | デジタルリセット- 秋津朗 | 2025/06/12 22:10 |
---|---|---|---|
まず連続殺人鬼が描かれる。身近な人々の言動をチェックし、×印の数が閾値を超えると関係をリセットできる。
鉈で首を飛ばしたりして最終的には、跡形もなく関係を消す。続いて主人公の男性が登場し、失踪した姉一家の行方を探り始める。更にヒロインも参戦し、物語はどんどん弾けていく。そして衝撃的で予想外な幕切れ。殺しの閾値というデジタルな感情を主人公たちのアナログな感情と両立させたエンタメ小説。 |
No.260 | 6点 | コメンテーター- 奥田英朗 | 2025/06/01 21:31 |
---|---|---|---|
低迷するワイドショーに、リモートで伊良部が出演。コロナ禍問題に忖度なしの本音発言によって視聴率が急上昇するのが表題作。常に物事の本質を鋭く突く伊良部の特質が、乱暴に見える言動を支えていて気持ち良い。
忘れてはならないのが看護士のマユミちゃん。表題作では伊良部の背後で腰をくねらせながらギターを弾き、SNSもバズらせ、「ピアノ・レッスン」ではパニック障害に悩むピアニストを、自分が率いるロックバンドに加えてライブを敢行。その結果完治させてしまうなど、たっぷりとフィーチャーされているのが嬉しい。 |
No.259 | 6点 | 時計泥棒と悪人たち- 夕木春央 | 2025/06/01 21:25 |
---|---|---|---|
舞台は大正時代の東京。井口という青年画家を主人公に、元銀行員でその後、泥棒になって逮捕されたという過去を持つ友人の蓮野を探偵役として、密室事件や誘拐事件などに挑む。
いずれの短編も、強烈無比かつ個性的な逆転劇を愉しませてくれる。中でも第二話の密室殺人の動機や第六話の虎を積んだ船での殺人の動機は、奇矯すぎて愛おしくなる。第一話から第七話へと事件や人間関係が滑らかに流れていて美しい。 |
No.258 | 5点 | 博士の愛した数式- 小川洋子 | 2025/05/21 21:47 |
---|---|---|---|
交通事故の後遺症で、八十分しか記憶することの出来ない天才数学者の「博士」と、その博士の家に派遣された家政婦の「私」と、私の息子。
三人がそれぞれに、お互いを思いやりながら過ごした日々。淡々と静かな小説なのに心の芯が熱くなるそんな小説。 |
No.257 | 6点 | 急行霧島: それぞれの昭和- 山本巧次 | 2025/05/21 21:43 |
---|---|---|---|
昭和三十六年、鹿児島から東京へ向かう急行霧島を舞台にし、鉄道という半閉鎖空間に材をとった群像劇ミステリ。
散りばめられた謎が絡み合いつつ進行し、やがてそれぞれ種明かしされていく中で、読者の目の前に昭和の時代相が示される。昭和、戦後高度経済成長期の光と闇を閉じ込めた時代ものと言える |
No.256 | 5点 | 裏切りの日日- 逢坂剛 | 2025/05/09 21:38 |
---|---|---|---|
ビル最上階の役員フロアに立て籠もり、身代金を奪った犯人がエレベーターに乗り込むがそのまま姿を消してしまう。同じ頃、大物右翼がスナイパーによって狙撃された。
狙撃事件と人間消失を扱った本格ミステリ的な謎を絡ませた作品。物語の中心となる公安刑事が強烈な存在感を見せる。 |
No.255 | 6点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2025/05/09 21:33 |
---|---|---|---|
痴漢冤罪や出版業界の内幕を描くなど、謎解き以外の部分に多様なテーマを織り交ぜている。
身近なある物を利用したアリバイトリックも面白く、読者の発想の柔軟性を試すようなユニークさがある。 |
No.254 | 5点 | 雲州下屋敷の幽霊- 谷津矢車 | 2025/04/25 21:41 |
---|---|---|---|
江戸期の様々な事件に材をとった短編集で、思わぬ仕掛けが施されている。
歴史と物語、近世と近代、そして虚と実。数々の表裏一体の存在と人間の業を追求する作者の眼差しには、つい居住まいを正すほどの冷ややかさが垣間見える。残酷で恐ろしく、不思議にも美しい物語。 |
No.253 | 6点 | 観覧車は謎を乗せて- 朝永理人 | 2025/04/25 21:37 |
---|---|---|---|
安全装置の誤作動で停止した観覧車が舞台で、六つのゴンドラでそれぞれの物語が展開されれる。
ゴンドラ内での刺殺事件を巡る謎解き、恋の告白、殺し屋による狙撃など、六つのドラマが意外な結末を迎え、同時にそれらを結ぶかすかな糸が明らかになる。設定と伏線の技巧派冴えており、語り口も軽やか。 |
No.252 | 5点 | ささらさや- 加納朋子 | 2025/04/12 21:38 |
---|---|---|---|
突然の事故で亡くなった夫が、佐々良という小さな田舎町に移り住んだ妻のサヤとまだ首もすわらない一人息子のユウスケを、ゴーストになって見守り続ける。
八つの物語は、いわゆる「日常の謎」だが、読後に受ける印象は、優しさと切なさ。恋の先にある愛のかたちとしてミステリ的要素以外にも読みどころはある。 |
No.251 | 7点 | 幽霊人命救助隊- 高野和明 | 2025/04/12 21:35 |
---|---|---|---|
天国と現世の中間に留まっていた、四人の自殺者たちが天国に昇天するために、百人の自殺志願者の命を救うというSF設定の作品。
自殺志願者と向き合ううちに、四人の幽霊たちも救われていく様を、ある時はコミカルに、ある時は切なく描いている。「未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである」という登場人物の台詞には心打たれる。 |
No.250 | 5点 | 火喰鳥を、喰う- 原浩 | 2025/03/31 21:42 |
---|---|---|---|
主人公の久喜雄司の現実が、別の現実によって塗り替えられていく怪異と恐怖を描いている。
太平洋戦争の末期に南方で死んだ雄司の祖父の兄の日記が七十年以上経過して久喜家に戻っってきた。それを契機に雄司の日常が揺らぎ始める。ひたひたと迫り来る静かな恐怖と、アクションと流血に宿る恐怖を、日記を軸に巧みに一つの物語に編み上げている。 |
No.249 | 7点 | 幽玄F- 佐藤究 | 2025/03/31 21:38 |
---|---|---|---|
主人公の透の感覚と独特な感性や戦闘機への執着に理由を求めたくなるが、僧侶である祖父に育てられた彼が目にした風景や出会った人、時に起こる乱闘の描写と、織り込まれた三島由紀夫の言葉が、読者の欲求に釘を刺しているように感じた。突き抜けた死生観を感じる。 |
No.248 | 6点 | 残り火- 小杉健治 | 2025/03/19 21:32 |
---|---|---|---|
妻に先立たれてすっかりふさぎ込んでいた水木弁護士は、かつて彼に息子の冤罪を証明してもらった人物から、連続殺人の嫌疑をかけられている青年の無罪を証明してほしいと依頼されて再び立ち上がる。
弁護士が主人公の法廷ミステリでは、冤罪テーマは見せ場を作りやすいため作例が数多くあるが、本作はそれらの中でも結末の意外性はトップクラスだろう。 |
No.247 | 7点 | 私雨邸の殺人に関する各人の視点- 渡辺優 | 2025/03/19 21:29 |
---|---|---|---|
山奥の大豪邸で当主の老人が殺され、推理小説研究会所属の推理好きの大学生、地元雑誌の編集者、当主の無職の孫の三視点から顛末が語られる。彼らに限らず登場人物はそれぞれ事情を抱えており、途中で「全員が一つづつ嘘をついている」と明かされるなど、全員信用できない。
多重推理も結構な迷走を見せ、放蕩に解決するのかと思っていると、意外な伏線が拾われて一気に解決する。その後の展開もなかなか面白い。 |