皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 人喰いの時代 探偵・呪師霊太郎 |
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| 山田正紀 | 出版月: 1988年02月 | 平均: 6.75点 | 書評数: 8件 |
![]() 徳間書店 1988年02月 |
![]() 徳間書店 1994年03月 |
![]() 角川春樹事務所 1999年02月 |
![]() 角川春樹事務所 1999年02月 |
| No.8 | 8点 | 斎藤警部 | 2025/10/07 06:34 |
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| 特高警察が跋扈する、昭和初期の北海道某市が主舞台の連作短篇。 二人の主役級(片方は探偵役)が、どちらも相手の素性に深い謎を感じているという構造が不思議で面白い。
奇妙礼太郎みたいな奇妙な名前の探偵役には驚いた。 ファム・ファタール的人物が登場する作がいくつかあるが、その人物の物語内機能がどれも全く異なる所に、作者の並々ならぬ工夫の一端が見える。 人喰い船 樺太へ向かう客船の中、財界の重鎮が変死。 奇妙な目撃談も出た。 積み上がって、最後トップに晒される殺人動機が渋い! これ韜晦でも強がりでもない、本音なんでしょうね。 着衣脱衣のトリックは多少ギャフンだが、それをも吹き飛ばす動機と事件全貌の強さがある。 7点 人喰いバス 山道を往くバスの中、特高警察の蛇蝎が変死。 すると乗客たちに運転手までが意外な行動に出る。 細かい犯行トリックに、ちょっとした××風トリック、ダメ押しに探偵側のトリックまで重なって、小ぶりながら興味津々の一篇。 6点 人喰い谷 山中にて、恋敵と目される二人の男が遭難、谷底に墜ち、行方不明とされる。 ××トリックはちょっと見え透いていたが、それでなお、真犯人と、その殺人 “以外” の或る動機には不意を突かれた。 また超小粒な××トリックも “文字通り” 彩りを添えた。 6点 人喰い倉 密室状態の倉庫内、死体で見つかった男は、勤務する会社社長令嬢の花婿候補。 凶器消失トリック、まさかアレではあるまいなと ・・・ いや、これは見事にやられた! 最後の一文でようやく一息に明かされる、もう一つ心理の峠を越えるトリックと、凝りに凝った反転と、××云々の伏線暴露と、真相解明をも吹き飛ばす大解決、この四つ全て! 8点 人喰い雪まつり 雪の小学校校庭にて失血死していた男。 彼は “主義者” だったが、死後、警察のスパイだったのではとのスキャンダラスな噂が流れた。 こんな泣かせる雪の密室トリックは初めてだ。 警察の “或る行為” に纏わる逆説も光った。 まだ若い “おばあちゃん” の回想に始まり、回想で締める、騙し絵のようであり、社会派のようであり、反転と半反転そしてトリック解明の噛み合わせが心に沁みる話。 良い意味で甘口連城のよう。 8点 人喰い博覧会 一身上の都合により粗筋は書かないが、連作の締め、やっぱキターーーッ感がやばい。 ページ数も本作だけ多い。 長くとも緩むこと皆無、恐るべき展開の読者拘束力。 魅力と予見のムズムズに溢れた大時間差カットバック。 そこで “おれたち” に傍点! 精神的拷問のたまらない残酷っぷり! 不意打ちの××指向さえ瞬殺で置き去る新展開と、その心地良い複雑性への予感。 最後に、連城とブラウン神父が結託したのか・・ 小樽市のことをずっとO-市と記載していたのに何故 ・・・ の謎も、カタリと溶けましたよ。 おや、本作もまた。。 いえ、言わずにおきましょう。 だが、だとしても、しっかり生かされている・・(←だから余計なこと言うなって) いや、これだけはどうしても(..悲鳴)・・・・ と思った矢先、再びストーリーの先を駆け出すなにものか。 アア、ソコに嵌るんですか。。 何かを挟んで、或ることの意味合いが変わった。 だが、謎解きのクライマックスはまだ続くようだ。 贅沢にも程があるというものだ。 伏線回収美も、心憎いばかりにアチラコチラとガッチリ握って離さなかった。 参りました。 本作のみ、単独採点は伏せます。 ××べきだった命。 ××れてしまう命。 財力と権力の乖離、時に善き牽制をもたらすこの事象が、時としていかに罪深い働きを具現化するものか。 もし連続ドラマ化されたら、この物語にこそハンバート ハンバートの歌う主題歌を添わせてほしいものよ。 |
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| No.7 | 7点 | 虫暮部 | 2023/04/27 13:26 |
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| 思うまま書いたらネタバレしてました――。
作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。 |
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| No.6 | 6点 | パメル | 2022/02/13 08:27 |
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| 探偵役の呪師霊太郎とワトソン役の椹秀助のキャラクターがいい味を出している5つの短編と1つの中編が収録されている。
「人喰い船」服を着ていたはずの死体が、いつの間にか下着姿になっていた。トリックは今ひとつだが動機は衝撃的。 「人喰いバス」温泉旅館を出たバスの運転手を含めた5人が姿を消した。バスからどのように人間が焼失したのかと描かれる展開、大胆な伏線がうまく生かされている。 「人喰い谷」誤って谷底に転落したと思われた2人だが谷底に死体はなかった。真相は、ある程度予想ついてしまう。 「人喰い倉」密室で手首を切って自殺したと思われたが現場に刃物はなかった。密室からの凶器消失の謎解きと後味の悪い真相が楽しめる。 「人喰い雪まつり」雪まつりの校庭で喉を切られた少女の父親。死体の周囲には足跡一つ残っていなかった。かなりのイヤミス。 「人喰い博覧会」昭和12年の事件と現代の事件が描かれる。心臓麻痺ですでに死んでいた宮口を放送塔から落としたのはなぜか。プロットは面白いが、真相はそれほどでもない。 特高や思想犯といった昭和初期の時代に避けては通れない人物を登場させ、現代では味わえない良さがある。 |
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| No.5 | 6点 | nukkam | 2016/06/17 18:11 |
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| (ネタバレなしです) SF小説の大家として知られる山田正紀(1950年生まれ)の初のミステリー作品が1988年発表の本書だそうですが、あとがきによればミステリー作家として認知されるようになるまでにはそれから10年近くを費やしたそうです。探偵役として呪師霊太郎(しゅしれいたろう)が活躍する6短編を収めた本格派推理小説の短編集で、探偵役の名前と全作品が「人喰い」を付けたタイトルを持つことからさぞオカルト色の雰囲気が濃い作品だろうと思ったらそうではありませんでした。推理のプロセスはそれほど丁寧に説明されず、どちらかといえば事件の背景(主に動機)描写の方に力を入れています。連作短編集となっており、最後の「人喰い博覧会」の風変わりなプロットが奇妙な読後感を残します。 | |||
| No.4 | 7点 | E-BANKER | 2014/11/13 22:44 |
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| SF作家としても名高い作者の処女ミステリー作品。
~昭和初期の小樽(作中ではO-市となってますが)を舞台に、放浪する若者二人-呪師霊太郎と椹秀助が遭遇した六つの不可思議な殺人事件を描く、奇才による本格推理小説の傑作~ ①「人喰い船」=樺太へ向かう船が嵐に遭い小樽へ臨時寄港することに。その船中で不可思議な格好で発見された変死体・・・。不可思議な格好には意外な理由があった。本編の序章とも言える一編。 ②「人喰いバス」=小樽郊外の山中を走る路線バス。最後部に座っていた特高刑事が毒殺される。ただし、彼には誰も近づいていないはずなのだが・・・という謎。 ③「人喰い谷」=よこしまな恋心を持つ者が下ると必ず遭難するという“邪恋谷”。ひとりの女性を奪いあう男二人がその谷でぷっつりと消え失せる・・・。ラストはいわゆる「反転」が待ち受けている。 ④「人喰い倉」=小樽は昔から倉の町として有名ですが・・・というわけで、とある密室状態の倉で死体が発見される。自殺かと思われたが、どこにも凶器が存在しない・・・? まぁ普通の密室トリックではありませんが・・・ ⑤「人喰い雪まつり」=「雪まつり」とはいっても札幌や横手の雪祭り」ではありません。戦中の北国で起こった悲しい事件。その舞台は小学校のグランドで行われていたつつましい雪まつり。不可能味を醸し出してはいるが、そこがテーマではない。 ⑥「人喰い博覧会」=①~⑤までの各編を受け、連作の種明かしの役割を持つ本編。「過去」と「現在」という時空を超え、作者の仕掛けたトリックが明らかにされるのだが・・・。動機、そして舞台背景の意味、作者の狙い・・・成る程ねぇ・・・ 以上6編の構成。 本作はとある書店で「店員のオススメ本」として紹介されていたのだが、「なかなかのセンスあるねぇー」と思わせる、とにかく雰囲気のある作品だった。 本格ミステリーと銘打っており、実際作中には密室やら不可能趣味というコード型のガジェットが盛り込まれてはいるが、そこはあまり響かなかった。 ①~⑤まで読み進めるうち、徐々に本作に対する“熱”や“思い”が高まっていくような感覚。最終編ですべてが明らかにされるカタルシス。 それこそが連作形式ミステリーの真骨頂だと思うし、そういう観点では本作は合格水準だろう。 山田正紀は本作が初読となる。「ミステリ・オペラ」など、前々から気になっている作品も数多くあるので、引き続き手にとっていくようにしよう。 (巻末解説で触れているけど、1988年発表=綾辻の「十角館」発表の翌年に当たる・・・というのが意外だった) |
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| No.3 | 7点 | STAR | 2014/06/02 19:25 |
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| 本のタイトルがいいですね。昭和というのは、人が喰われていく時代だったのでしょうね。
それぞれの短編がそれなりに面白かったです。 特高が出てくる小説はあまり読んだことがなっかたのですが、当時はこんな感じだったのか?という雰囲気も出ています。 小樽に行ったことがあったので、そのあたりも楽しめました。 帯に「連作の最後の章に待つ大仕掛けにあなたは必ず驚愕する」とありましたが、これはずいぶん大袈裟では。 大仕掛けではなく、見えて生きていた動機の部分がはっきりとしてくるという感じでした。全てがひっくり返る等は期待しないほうがいいですね。 |
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| No.2 | 6点 | kanamori | 2011/04/11 20:44 |
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| 日中戦争の翳が見え隠れする昭和初期を時代背景にした連作ミステリ。設定された時代やメタフィクションを取り入れた最後の真相など、後の大作「ミステリ・オペラ」に通じるものを感じます。
作者のミステリ小説の第1作らしいのですが、本格ミステリを意識しすぎたきらいがあって、不可能トリックがチープで無理もあるように思います。この時代の世相を反映したホワイ・ダニットものの歴史ミステリとして充分面白いので、トリックに拘る必要はなかった。 各編のタイトルに付いた「人喰い」とは、この時代の国家そのものを表わしているのだろうか。 |
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| No.1 | 7点 | ギザじゅう | 2003/10/19 01:43 |
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| 探偵小説としても見事ながら、それを盧溝橋事件などの暗い時代背景と結びつけた見事な連作。
最後の「人喰い博覧会」ではそれに現代をからませ、現代ミステリーとしての面白さも十二分に発揮されている。 ただしホワイダニット色が強いので、トリックなどを期待すると失敗するかも・・・。 |
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