海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 警察小説 ]
ハートの刺青
87分署
エド・マクベイン 出版月: 1960年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1960年01月

早川書房
1976年01月

No.3 6点 斎藤警部 2025/10/18 14:08
“その刺青は、明らかに間違いだった。”

小銭稼ぎの街角詐欺事件が連発。 一方では女性の水死体が二体、相次いで見つかる。 死体の共通点は ’手’ に遺された特徴ある刺青。
エドらしい(微妙にムズムズさせる)良い演説で始まる長篇。 ちょっと甘く、あっと言う間に終わってしまうが、読み応えはある。 演説は随所に放り込まれ、物語に加速と落ち着きとを同時にもたらす。 ある場面では、地の文でなく重要な登場人物が自ら演説をぶち、一つのハイライトを形成している。

「立派な先生がいなくなるな。 世間から、立派な先生が姿を消すってわけだ」
「そういう見方はいけないね。 おれは州刑務所に立派な先生が来る、と考えたいね」

刺青師1のチャーリー・チャンことチャーリー・チェンがとても良い(刺青師2もいるのがちょっとしたミソ)。 【→→ 厳しく見ればストーリーのネタバレとなるが →→】 最後まで良い奴で被害も受けず(これがもしディーヴァーだったら・・)、要となる役割、象徴的な役回りをしっかり果たしてくれて本当に良かった。 彼がある人物に向け放った、ちょっと失礼ながら温かい台詞が、また別の人物が置かれた状況の真逆に近い所を意味しているのは面白く、構築美の支えにもなった。

「愛はアメリカの最大の産業ですよ。 ほんとうですよ」 彼はにっこりした。 「ぼくはその株主ですよ」

心の病を連想させる、物語上の装飾にしか見えない、ほとんど無意味な或るこだわりを、やむなく棄てた途端に、逃げ場を失った犯人。
折角の◯◯なのに、◯◯と◯◯◯◯◯◯が出来ない、哀れな犯人。
長い目で見れば割に合わない悪事を繰り返してしまう、ばかな犯人。
↑ おっと、叙述トリック入った?

ミュートならではの工夫と、ミュートならではのピンチ。 このへんのサスペンス高値安定なロングシークエンスは発汗を促す。
警察小説らしく、怠惰なバカ刑事のバカ行動がバカサスペンス、ではなく本物のサスペンスを焚き付けるくだり、ベタだが安心安定のハラハラドキドキである。

最後に、ちょっとした叙述トリック(ですよね? 私はそう思いました)が明かされて終わるとはね!

tider-tigerさん
> 楽しい店舗が盛り沢山の雑居ビルって感じ
同感です。 だったらもう一つ二つ事件を並行させちゃいなよユー、なんて思っちゃいますが
> それでもそこそこ楽しく読めてしまえるのがこのシリーズのすごいところ
だし、ここで止めておくのも良いのでしょう。

クリスティ再読さん
> なぜかポケミスの登場人物一覧がテディ・キャレラを落としている
私の読んだハヤカワ文庫旧版(‘76年)でも落とされてます。 本作ではクライマックスのサスペンス醸造主であり、ほとんど準主役なのに、おかしいですね!

ところで旧文庫表紙の女性は、消去法で行くと・・

「フェニックスには、たくさん小鳥がいますわ」  ← この台詞のために、ある登場人物の地元をフェニックスにしたんだろうなあ・・ 良い洒落だと思います。

No.2 6点 クリスティ再読 2024/12/23 11:29
87の四作目。三作目「麻薬密売人」のラストで瀕死の重傷を負ったキャレラが、見事復帰。シリーズはめでたく継続。というわけで、真の意味でのシリーズ開始作、と言ってもいいのかもしれない。
2〜4作は原題でいうと"The Mugger","The Pusher","The Con Man" と、「強盗」「売人」「詐欺師」と犯罪者の類型が作品タイトルになっている。そういう狙いがあったんだろうね。
というわけで本作だと「ハートの刺青」をした女の死体が川から続いてみつかる話と、ケチな詐欺師の話がカットバック。女殺しも結婚詐欺の凶悪なタイプのわけで、「人生すべて詐欺の連続」という「大テーマ」によるまとまりを狙っている。まあけど、これって「気の利いた人生の教訓」というもので、説教くさいな(苦笑)2つの事件が関連が薄い、というご批判もありがちだが、ここらへん初期の試行錯誤のうちだろう。本作だとハヴィランド刑事の油断がテディのピンチにつながるわけで、「暴力刑事」として不人気なハヴィランドは次の「被害者の顔」でお役御免。ここらへんも初期の試行錯誤が露わなあたりだろう。

とはいえ、テディ大活躍の本編、テディのファンにはうれしいよね。あとクリングくんも刑事としてサマになってきて、クレアとの恋も進展。事件も結婚詐欺で冴えないオールドミスの恋が背景。そんなラブラブな話が人気の理由じゃない?
(でも、なぜかポケミスの登場人物一覧がテディ・キャレラを落としている。失礼ではw)

No.1 6点 tider-tiger 2015/10/23 06:39
ハーブ河で若い女の水死体が上がった。死体の指には『MAC』という文字入りのハートの刺青が彫られていた。被害者の身元を洗いつつ、キャレラ刑事は犯人を追う。

原題はThe con man(詐欺師)。邦題の方が目を魅くのですが、原題の方が内容を端的に示している。邦題のハートの刺青が作中で謎の一つとなっているのですが、その秘密があまりにもしょぼい。「それだけのことかよ」と脱力してしまいました。
シリアスなものとややユーモラスなもの、二つの事件が並行して進んで行きます。本筋の殺人事件はスティーヴ・キャレラ刑事、詐欺事件は本シリーズ初登場にして黒人のアーサー・ブラウン刑事が担当します。二つの事件は絡み合うことはありません。マクベインの作品では複数の事件が同時進行することが多いのですが、それらが一つに収斂していくような快感はなく、完成度が高いとは言い難い。楽しい店舗が盛り沢山の雑居ビルって感じですね。

この作品はファンの間で評価が高いようですが、実は私はあまり好きではありません。
終盤の緊迫感がどうにも作為的に感じられ、とあるキャラの無茶な行動もちょっと頂けない。
ラストも映像としては美しいのですが、文化の違いというか、日本人男性のほとんどは少し引いてしまうのでは。
まさか、スワロウテイルバタフライ(映画)ってこの作品から着想を得た?
それから、本作の主人公であるキャレラ刑事。どうにも弱みがなさ過ぎて。すごくいい奴なんですよ。でも小説の登場人物としては面白くない。私は他のキャラにスポットが当てられている作品の方が当たりだと感じることが多いのです。作者もキャレラがシリーズの主人公とみなされることに抵抗を示しており、何度かキャレラを本当に殺そうとしたとまで言っておりました。確かにキャレラはいくつかの作品で死にそうな目に遭っています。
刑事ドラマにするにはうってつけの内容かもしれませんが、個人的には87分署シリーズの鼻につく部分が凝縮されている作品でした。
それでもそこそこ楽しく読めてしまえるのがこのシリーズのすごいところなんですが。


キーワードから探す
エド・マクベイン
2006年05月
最後の旋律
平均:5.00 / 書評数:1
2004年12月
歌姫
平均:6.00 / 書評数:1
2003年11月
でぶのオリーの原稿
平均:5.00 / 書評数:1
2001年11月
湖畔に消えた婚約者
平均:6.00 / 書評数:2
2000年12月
最後の希望
平均:4.50 / 書評数:2
2000年05月
ノクターン
平均:6.00 / 書評数:1
2000年04月
寄り目のテディベア
平均:5.00 / 書評数:2
1998年05月
小さな娘がいた
平均:5.50 / 書評数:2
1998年01月
ロマンス
平均:5.00 / 書評数:1
1996年05月
メアリー、メアリー
平均:4.67 / 書評数:3
1996年01月
悪戯
平均:5.00 / 書評数:1
1994年04月
キス
平均:5.50 / 書評数:2
1993年02月
寡婦
平均:3.00 / 書評数:1
1992年06月
三匹のねずみ
平均:5.50 / 書評数:2
1990年08月
ジャックが建てた家
平均:5.00 / 書評数:1
1989年07月
長靴をはいた猫
1989年02月
魔術
平均:7.00 / 書評数:1
1988年10月
シンデレラ
平均:4.00 / 書評数:1
1988年08月
毒薬
平均:6.00 / 書評数:1
1987年09月
白雪と赤バラ
平均:7.00 / 書評数:1
1987年04月
八頭の黒馬
平均:5.00 / 書評数:1
1986年07月
ジャックと豆の木
平均:5.00 / 書評数:1
1985年01月
凍った街
平均:8.00 / 書評数:1
1984年07月
美女と野獣
平均:5.00 / 書評数:1
1983年09月
熱波
平均:5.00 / 書評数:1
1983年02月
黄金を紡ぐ女
平均:6.00 / 書評数:1
1982年09月
幽霊
平均:5.00 / 書評数:1
1981年07月
カリプソ
平均:5.00 / 書評数:1
1980年10月
金髪女
平均:5.00 / 書評数:1
1980年05月
夜と昼
平均:5.50 / 書評数:2
1978年09月
血の絆
1978年03月
死者の夢
平均:6.00 / 書評数:1
1977年12月
魔の拳銃
1977年11月
命ある限り
平均:5.00 / 書評数:1
1976年05月
われらがボス
平均:6.00 / 書評数:1
1976年01月
はめ絵
1974年01月
サディーが死んだとき
平均:7.00 / 書評数:1
1969年01月
ショットガン
平均:5.00 / 書評数:1
1968年01月
警(サツ)官
平均:5.50 / 書評数:2
1967年01月
八千万の眼
カリブの監視
平均:7.00 / 書評数:1
1966年01月
人形とキャレラ
平均:6.00 / 書評数:1
1965年01月
被害者の顔
平均:5.00 / 書評数:1
灰色のためらい
平均:6.00 / 書評数:3
1964年01月
平均:6.00 / 書評数:1
1963年01月
たとえば、愛
平均:6.00 / 書評数:1
10プラス1
平均:6.00 / 書評数:2
1962年01月
空白の時
平均:6.00 / 書評数:2
電話魔
平均:6.60 / 書評数:5
クレアが死んでいる
平均:5.50 / 書評数:2
1961年01月
死にざまを見ろ
平均:7.00 / 書評数:1
1960年01月
通り魔
平均:5.33 / 書評数:3
死が二人を
平均:6.00 / 書評数:1
レディ・キラー
平均:6.00 / 書評数:1
大いなる手がかり
平均:5.50 / 書評数:2
ハートの刺青
平均:6.00 / 書評数:3
殺しの報酬
平均:6.25 / 書評数:4
キングの身代金
平均:6.25 / 書評数:4
殺意の楔
平均:6.50 / 書評数:4
麻薬密売人
平均:5.67 / 書評数:3
1959年01月
警官嫌い
平均:6.40 / 書評数:10