皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 警察小説 ] キングの身代金 87分署 |
|||
---|---|---|---|
エド・マクベイン | 出版月: 1960年01月 | 平均: 6.25点 | 書評数: 4件 |
早川書房 1960年01月 |
早川書房 1977年09月 |
早川書房 1984年07月 |
早川書房 2024年08月 |
No.4 | 6点 | クリスティ再読 | 2020/11/16 22:00 |
---|---|---|---|
昔の映画って、原作があっても原作通りに、とはいかないのがカツドウヤの心意気、というものでね、ミステリ映画だったら「原作読んでる観客だって、ビックリさせてやる!」がアタリマエだった。まあだから「天国と地獄」とその「原作」の本作が、大雑把な設定は借りてても、展開も犯人像も違うのは、そういうものなんだよ。どっちか言えば「キングの身代金」から「状況によっては、対象を間違って誘拐したとしても、身代金請求に応じざるを得ないこともある」というキモのアイデアを借りたことを映画は隠さないわけだから、とりあえず「原作」として原作料を支払う、ということで落着した、というくらいのことだろう。原作厨とかいない時代だよ。
「天国と地獄」のラスコリニコフみたいに鬱屈した反抗的インテリの犯人と違って、「キングの身代金」は悪党のヤクザと気弱な技術者、その善人の妻、とまあ普通の悪党たち。身代金受け渡しがうまく成功、一旦は完全犯罪が成立して...は映画の話。「キングの身代金」はずっとあっさり終わる。黒沢組ライター集団の優秀さが証明されたような脚本である。 「キングの身代金」は87分署だから、ふつうに87分署。シリアスで緊迫感のある状況でも、87だから刑事たちはいつも通りジョークを飛ばしている。そこらは彼我の文化の差みたいなものだが、違和感はある。キャレラやらマイヤーやらホースやら、お馴染みのキャラの「お馴染みさ」が、本作だと逆に弱点になっているようにも感じてしまう。「着眼点が優れている」のが、逆に作品としてうまく機能しないで終わった...という惜しい作品、でいいだろう。 |
No.3 | 7点 | 蟷螂の斧 | 2018/04/08 17:14 |
---|---|---|---|
「天国と地獄」(黒澤明監督)の原作とのことで拝読。設定が同じであって、展開や犯人像は全く別物でしたね。誘拐もの小説として十分楽しめました。主役のキング氏が変な妥協をしないところがかえって良かった気がします。またキャレラ刑事も淡々としており魅力的でした。
以下「天国と地獄」のネタバレ~映画はモノクロですが、犯人が身代金の鞄を燃やすと煙がピンク(パートカラー)となって立ちのぼるシーンがあります。それが非常に印象的でした。 |
No.2 | 6点 | tider-tiger | 2016/10/19 22:21 |
---|---|---|---|
最近はほとんど聞かなくなりましたが(報道されないだけ?)、私が子供の頃はときおり営利誘拐というやつが発生しておりました。ですが、子供心にも私(我が家)が狙われることはなかろうとさほど気にしておりませんでした。なのに余計なことを思いついてしまい急に怖ろしくなったのです。一緒に遊んでいた友人の中にえらい金持ちの子がおりました。誘拐犯が彼と間違えて自分をさらったりしたら、どうなるのだろう? 怖かったのでそれ以上深く考えませんでしたが、この作品はその一つの回答であります。
誰をさらっても誘拐は成立する。このアイデアは画期的なものだったと思うのです。私の本作の評価はこの素晴らしいアイデアを活かし切れなかったやや不満の残る作品、名作になり損ねた作品です。 誘拐する子供を間違える、それでも構わずに身代金を要求。せっかくの前代未聞な導入から予想通りの凡庸な展開となり、人間ドラマに終始、ちょっといい話にしてみました的なラスト(個人的には嫌いじゃない)。キング氏と妻の論戦など読みどころはあって小説としてはなかなか面白いのですが、警察小説としての興趣は乏しいと言わざるを得ません。 子供を誘拐された男が子供助けたさにキングの家から金を持ち逃げするとか、なにかもう一つ波乱が欲しかった。 警官嫌いの書評の中で、87分署シリーズの異色作をいくつか挙げましたが、本作もその中に含めるべきだったかもしれません。本作の主眼はあくまで犯人側と被害者側の人間模様であり、有名作ではあっても通常の87分署シリーズとは愉しみが異なります。最初に読むべき作品ではないように思います。 最後に。作品内でキング氏はかなり非難されますが、個人的にはちょっと気の毒な気がしました。 |
No.1 | 6点 | E-BANKER | 2013/05/10 23:34 |
---|---|---|---|
アメリカ警察小説の名シリーズといえば「八七分署シリーズ」。
その中でも一、二を争う名作といえば本作という方も多いのではないだろうか。シリーズ10作目にして初めて「誘拐」というテーマを扱った作品でもある。 ~グレンジャー製靴株式会社の重役キングは、事業の不振を利用して会社の乗っ取りを画策していた。必死に金を都合し、長年の夢が実現しかけたその時、降って湧いたような幼児誘拐事件が起こった。しかも、誘拐されたのはキングの息子ではなく、犯人は誤って彼の運転手の息子を連れ去ったのだ。身代金の要求は五十万ドル。キングは逡巡した。長年の夢か、貴重な子供の命か・・・。誘拐事件に真っ向から取り組んだシリーズ代表作~ さすがに雰囲気のある作品だ。 本作が黒澤明監督の名作「天国と地獄」のモチーフとなったのは有名な話だが、本作のプロットの鍵となるが「誘拐対象の取り違え」だ。 文庫版あとがきを読むと、「誰を連れ去ろうとも誘拐は成り立つ・・・」という点に黒澤氏が大いに感化されたというエピソードが紹介されていて、当時はそれだけ斬新なプロットだったのが分かる。 ミステリー的な謎とトリックという観点からは特段見るべきものはないのだが、それでも「シリーズ代表作」として今でも語り継がれている理由は、「誘拐する側」「誘拐される側」の双方で繰り広げられる濃密な人間ドラマのせいに違いない。 特に、キングと妻との間のやり取りは強烈だ。 長年の苦労で手に入れた大金を手放すかどうか、ギリギリのところで悩む主人公、「払わない」という答えに激怒する妻・・・ そして、誘拐犯の側でも罪の意識との葛藤が始まっていく・・・ やっぱり、盛り上げ方の手練手管は見事という他ない。 誘拐犯・サイの最後の「プライド」にも心を動かされた。 ということで、やはり水準以上の作品だとは思うが、評点としてはこんなもんかな。 シリーズ初読なので、評判のいい作品は続けて読んでいきたい。 |