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[ 警察小説 ]
たとえば、愛
87分署
エド・マクベイン 出版月: 1963年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1963年01月

早川書房
1979年11月

早川書房
1979年11月

No.1 6点 2019/05/14 13:32
 巡査に押しつけられたガス・マスクを頭からかぶり、ガラスの破片で足の踏み場もない階段を登りながら、コットン・ホースはかつて人間だったものの残骸の上を歩いている事実に目をつぶろうとしていた。アパートの一室を訪問したセールスマンが、ガス心中の巻き添えを食って爆死したのだ。
 ガス・マスクの曇った眼鏡から見える寝室はまるで手もふれてないみたいで、ベッドの上にはパンツとパンティしか身につけていないふたりの男女が横たわっていた。死因は一酸化炭素中毒。床にはウィスキーの空きビンが二本あり、一本は倒れていた。
 一見何の変哲もない心中と思われたが、トミー・バーロウとアイリーン・セイヤーの二人に自殺の兆候はなにもなく、解剖の結果性交もしておらず、酒も呑んでいない事実が判明する。他にもいくつか不審な点がありスティーヴ・キャレラ刑事は殺人と睨むが、手掛かりが一向に掴めないまま捜査は難航の気配を見せる。
 1962年発表のシリーズ第17作。間の「空白の時」が中編集なので、衝撃の第15作「クレアが死んでいる」の実質次回作に当たる、いわば87分署シリーズリハビリ編。
 前々作での恋人クレア・タウンゼントの死から約半年後、傷の癒えないバート・クリングは順調にポンコツ刑事の道を歩んでおり、刑事部屋の雰囲気も完全に元には戻っていません。そんな中キャレラが、男に振られ飛び降りようとする二十二歳の娘を説得するシーンで物語は幕を開けます。
 説得は見事に失敗し、彼女は十二階下の路上にダイビング。珍しく妻に当たりちらしたキャレラはそのまま塞ぎ込み、「俺刑事やめよかな」などと考えます。
 その後冒頭の事件を挟み、コンビ担当のマイヤー刑事や科研のグロスマン警部と遣り合うキャレラ。ジョークを一つ二つ飛ばすうちに気分も復調し、まあ人生いろいろあらあな、というキモチになってきます。このへんやはり上手いですね。クリングは当分ダメだから、周囲に刺激を与えて徐々に雰囲気を戻していく。フランシスとは異なる長期シリーズならではの心配りを感じさせます。
 悲喜劇的なものも含めて笑い所の多い作品。キャレラは本筋に関係なく二度に渡って八つ当たりで襲撃され、今回は散々。捜査はタイミングを外した形でそのまま進行し、なんとラスト近く、刑事部屋全員による多数決で、未解決事件として本当に処理されてしまいます。

 「主任にこの件をシベリヤ送りにするのに賛成な人は?」だれも手をあげなかった。
 「ぶっこんじまえ」「ぶちこみ」「ぶっこんじまえ。お蔵いりだ」
 これで、みんなの意図や目的はどうあろうと、この事件はおしまいになってしまったのだった。

 本当にここで終わったら凄いんですがまさかそんな筈もなく、恋人との会話からある事実に気付いたホースが、土壇場で某人物にハッタリを掛け大逆転。とはいえやるせない真相に、刑事部屋には寒々とした空気が漂います。息詰まるような緊張感とは無縁ですが、結末も含め結構好きな作品です。


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