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[ 警察小説 ]
殺意の楔
87分署
エド・マクベイン 出版月: 1960年01月 平均: 6.50点 書評数: 4件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1972年01月

早川書房
1977年01月

早川書房
1977年01月

No.4 8点 クリスティ再読 2024/04/26 15:49
87でも異色作にはなるけども、評者は傑作だと思う。

突如刑事部屋を拳銃とニトロで占拠した女。非常事態に大の男が揃った刑事部屋もただならぬテンションで金縛りとなるが、それでも刑事部屋の日常は続いていく....この非常事態と刑事部屋のデテール、そして普通ならば何気なしに見逃される刑事部屋の日常の出来事がクローズアップされてくるのが、実は眼目なんだと思う。

それでも占拠女お目当てのキャレラ刑事は帰ってこない。

これがちょっとした不条理劇のような様相を呈してくる。かかってくる電話もごく当たり前な刑事部屋の日常だが、応対には占拠女の目が光り、刑事たちも四苦八苦。占拠女もイライラ。刑事たちもイライラ。でもウィリス刑事が逮捕したプエルトリコ娘は能天気!

評者は本作を完全に密室劇のコメディとして読んでいたなあ。不条理コメディとしてぜひ舞台化したいと思うよ。「キャレラを待ちながら」とかね(苦笑) キャレラが電話をかけてきてもいいじゃないかな....でも妙な思い込みと行き違いで事情が伝わらないとかね。ヘンテコな電話が続々かかってくるとか、どう?

まあだからキャレラが解決する密室殺人はおまけみたいなもの。刑事部屋の密室(劇)との対比をしたかったのだろうけども、考えオチみたいでこれはグッドアイデアとは思わない。ひょっとしてマルティン・ベックの「密室」は本作の改良版なのかな。

No.3 6点 2019/01/06 08:17
 十月はじめ、グローヴァー公園があざやかな色彩に燃えたつころ、ジョークで賑わう87分署の刑事部屋に女がそっとはいってきた。蒼白な顔に黒革の手提げカバンをしっかりとかかえた姿は、ちょっと死神のように見える。キャレラ刑事をたずねてきた彼女はミセズ・フランク・ドッジと名乗り、そのまま刑事部屋に居座ろうとした。いぶかしむ刑事たち。だがそんな彼らに、いきなり・三八口径が突きつけられるのだった。さらに彼女は、カバンの中に建物が吹っ飛ぶほどのニトログリセリンの瓶を持っているという。
 その頃スティーヴ・キャレラはハーブ河のへりにしがみついたスコット屋敷で、当主ジェファースンが縊死した事件を捜査していた。それぞれが父親を憎むスコット家の三人息子たち。だが、その現場は完全なる密室状態だった・・・。
 87分署シリーズ第8作。1959年発表ですが、その5年ほど前にジョルジュ・アンリ・クルーゾー監督の仏映画「恐怖の報酬」が公開されています。こちらは油田火災を消し止めるために、ニトロ満載のトラックで南米ベネズエラのジャングルを踏破する話。触発されて「いつか俺もやってやろう」と思ってたんでしょうね。
 いつもとは異なり、ほぼ刑事部屋内に舞台が限定された密室劇。かかってくる電話は親子電話で、全てミセズ・ドッジことヴァージニアに握られた状態。刑事たちは必死に外部と連絡を付けようとするのですが、このへんの描写はかなりねちこいです。
 同時進行のキャレラの捜査も密室事件ですが、鑑識の報告で「鍵はかかってなかった」「にもかかわらず大の男が三人かかっても開けられなかった」と読者には判明しているのでたいしたもんじゃありません。その原因が刑事部屋の状況とダブルミーニングでタイトルに掛かってくるのがミソ。
 シリーズ中の異色作で高評価されてはいますが、読んでみるとメインとなる占拠事件の主役、ヴァージニアのキャラ付けが薄いのが難点。動機付けが希薄で、シチュエーションありきで行動しているという感じが否めません(作品内に「こんなことをしなくても階下でキャレラを待って、うしろから弾丸を撃ちこんでやればいい」という独白アリ)。密室事件はカットして、その分人物像を練ればもっと良い作品になったでしょうね。とは言え標準以上の出来なので、6.5点。

No.2 6点 E-BANKER 2014/07/30 22:04
1959年発表の87分署シリーズ作品。
シリーズとしては第九作目の長編。十月初旬のグローヴァー公園の鮮やかな彩りが眩しい季節・・・という設定。

~秋の静かな昼下がり。87分署の前に蒼白な顔で黒い服の女が立っていた。女はキャレラ刑事に恨みを抱いている。彼に逮捕された夫が獄中で病死したのだ。彼女は署にキャレラがいないと知るや刑事部屋に押し入り、刑事たちに隠し持っていた拳銃とニトログリセリンの小瓶を突きつけた! 復讐の鬼と化した女と刑事たちとの熾烈な心理闘争。刻一刻と迫るカタストロフィ。息詰まるスリルとサスペンスで描くシリーズ屈指のサスペンス~

やはり本シリーズらしい味わいのある作品だった。
事件は急に起こる。
紹介文のとおり、突然87分署の刑事部屋に拳銃とニトロの液体を持った女が押し入る場面から始まるのだ。
たった二つの武器で屈強な刑事たちを釘付けにする女と刑事たちの緊張感たっぷりの対決。
電話や来客など、途中に発生する予想外の出来事を挟みながらも、ラストまでこの展開は続いていくのだ。
ラストを知ると、「じゃあ最初からそうしとけよ!」っていう突っ込みがありそうなのだが、そこは言わぬが華だろうな。

ただし、本作は上記以外に、女のターゲットとなるキャレラ刑事が挑む密室殺人事件の場面も並行して描かれる。
マクベインが密室トリック? というと意外感たっぷりなのだが、トリックそのものは・・・まぁこれも言わぬが華。
(J.Dカーを意識したようなセリフを登場人物がじゃべっているのが笑わせる)
二つの事件に直接のつながりはないのだが、事件を解決して刑事部屋に戻ってきたキャレラ刑事が最後に電話を取るシーンがなかなか気が利いている。

それほど派手な展開があるわけではなく、サスペンス感もほどほどだけど、それはそれで作者らしい味わいが良い。
悪く言えば、一昔前の刑事ドラマのようなのだが・・・

No.1 6点 mini 2009/07/25 10:06
本日発売の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”密室がいっぱい!”
便乗企画として本格以外の密室ものを

私が初めてこのサイト訪れた時に登録済みの海外作家名で驚いたのが、とにかく本格に偏ってるなぁという印象
本格だと書評書く人いるのかいな?と思うようなマイナー作家まで細かく拾ってる割には、巨匠であっても本格以外は無視されチャンドラーもハメットも登録されてなかったりで、唯一ロスマクの名はあったが、どうも本格の延長という観点で読まれてる風だし
警察小説もスルー状態で巨匠マクベインの名も無かった
現在でもマクベインの書評は私がこれ書く前はたったの1件
とは言うものの、警察小説が好きな私でもマクベインはちょっと苦手なんだよな
じみ地道な捜査過程が好きな私としては、警察小説とは言ってもやや方向性が合わない感じでね
でもマクベインの名が無い総合書評サイトなんて考えられないので一応書く
「殺意の楔」は半分は密室ものである
あとの半分は87分署を脅迫に来た女によるサスペンスで、この互いに無関係の二つの事件が交互に同時進行で進むモデュラー型だ
題名の「楔」というのが実に意味深


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エド・マクベイン
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