皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ サスペンス ] 夕暮まで |
|||
---|---|---|---|
吉行淳之介 | 出版月: 1978年09月 | 平均: 4.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 新潮社 1978年09月 |
![]() 新潮社 1982年05月 |
No.1 | 4点 | 斎藤警部 | 2025/09/12 11:30 |
---|---|---|---|
「今日は、なにを食べる」
「鳥がたべたいわ」 十三年に渉って発表された短篇八篇を七篇に再構成して世に問うた、不思議とおだやかな日常のサスペンス連作短篇集。 ただし刊行された本には 一章~七章 と長篇の体で章タイトルが付いている。 実際に読んでみると、基本ストーリーが(ほぼ)時系列順になっている事が手伝い、長篇のような感覚である。 だが、元が短篇として書かれた小説の集合体ということもあり、特に読了後、一篇の長篇(長さは中篇)として横に読んだというより、個々の短篇を透明なスライドにして重ねて上方から縦に眺めたような感覚に包まれるかも知れない。 そこは智と情に訴える興味のポイントだと思う。 ただ、肝心の小説の中身は ・・・・ 人によって好みや評価が分かれることでしょう。 中心となるのは、妻子持ち中年男と若い女との奇妙な関係。 女は男に××はさせる、××はしてくれる、××まで許すというのに、××だけは断固させない(最後のは ‘口づけ’ じゃありません)。 結果として変態的濡れ場が居並ぶ実に不道徳な(?)内容になるのだが、男には彼女以外にも若い女数人との付き合いがあり、彼女らとのおノーマルな関係はあっさりと描かれる。 また年相応な相手との交流もあるが、このあたり、前述の “上方から縦に眺めた” 時の面白い構成要素になっていると思われる。 二度登場する、警官に免許証の提示を求められるシーンや、各々の門限をターゲットとした消極的アリバイ工作(?)のシーンは、良いサスペンスとヴァイブスをくれる。 あとそうそう、あの “バイク” のシーンがね。。 「驚いているんだ。 それで、死んだのか」 「死んだのか、って、聞き方はないでしょう」 刊行時話題をさらったこの本のタイトルから、おじさんと若い女の交際を意味する 「夕暮れ族」 なる流行語が派生したというが、なんと皮相で浅はかな言葉遊びでしょう。 おまけに愛人バンクの名前にまでなりました。 君たちは、分かっていない! なんて、自分も分かっちゃいないくせに、言いたくなります。 そういやかなり昔、吉之助(よしのすけ)というシンガーソングライターがいました。 インタビューで、好きな吉行淳之介から芸名をもらったと語っていた気がします。 この本を買ったとき、お店の方が 「いやあ吉行淳之介はいいよ~う」 と熱く語っておられました。 新刊書店の若い女性だったら引いたかも知れませんが、古本屋でチョイ悪ジジイ風の人だったので、今も良い思い出です。 嗚呼、オリーブオイル。。。 |