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[ ハードボイルド ]
縞模様の霊柩車
リュウ・アーチャーシリーズ
ロス・マクドナルド 出版月: 1964年01月 平均: 7.82点 書評数: 11件

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早川書房
1964年01月

早川書房
1976年05月

No.11 7点 蟷螂の斧 2021/10/09 17:43
ハードボイルド系は本格ものと違い、探偵が歩きまわって少しずつ情報を積み上げてゆく。このパターンは致し方ないのですが、正直なところ中盤までかなりきつかったです。もう少し緩急があれば8点以上献上したいところです。なにしろ後半の二転三転は見ものですから。

No.10 8点 人並由真 2020/11/29 05:36
(ネタバレなし)
 私立探偵リュウ・アーチャーは、初老の退役軍人マーク・ブラックウェル大佐の年下の妻イゾベル、そしてマーク当人を、続けざまに自分のオフィスに迎える。夫妻の用向きはともに同じ案件で、マークの実娘でイゾベルの継子である24歳の娘ハリエットが悪質な彼氏に引っかかった疑いがあるので、その相手の若者の身元確認を願うものだった。ハリエットはじきに25歳になると伯母エイダの遺した莫大な財産を相続できるので、恋人の貧乏画家パーク・デイミスは、それを目あてに彼女と結婚したがっているらしい? アーチャーはブラックウェル家の近所にある、若者たちが暮らす同家の別荘に赴くが。

 1962年のアメリカ作品。アーチャーシリーズの長編第10弾。

 アーチャーシリーズの転換点といわれる『運命』以降の作品が、全部で12編。評者はその大半を中学~高校生時代にポケミス(『ブルー・ハンマー』は当然ハードカバー)で飛ばし読みしてしまい、初読全般がかなりいい加減だった自覚があり、いつかしっかりと各作品を読み直したいと思っている(まあそういう若気の至りで付き合ってしまった作家は、ロスマクだけじゃないんだけれど・汗)。

 それで、そんな中期以降のアーチャーもののなかで、たぶんまだまったく未読だったはずなのが、本作と『ギャルトン事件』『ドルの向こう側』の3冊のみ(6~7年前に、4冊目の未読だった『ブラック・マネー』は楽しんでいるので)。

 そして本書はなかなか評判がよい作品で、本サイトでも平均点が最高。
 これはしっかり腰を据えて読まなければならないかなと思いつつ、ウン十年前に購読したままだったポケミス、その巻頭のページを開く。
 するとあまりにも掴みのよい序盤の流れで、もうそのまま止められなくなる。確実に、小笠原豊樹の流麗な翻訳が功を奏しているね。

 しかしそのポケミスには、登場人物の名前一覧がわずか13人しか記載されていないが、自分で実際に人名リストを作ると端役をふくめて約70人もの名前が並んだ(!)。
 ポケミスの人名一覧からは、かなり重要な人物が最低でも10人前後は欠損しており、このへんはHM文庫版ではどうなってるのか、機会があったら検証してみたい。
(ポケミスを改訂した流れのHM文庫は、それなりに手を加えられていることもあれば、ほとんどそうでないこともあるので。)

 それで肝要の作品の内容だが、ネタバレにならないように語るなら、アーチャーが駆け落ちみたいに? いなくなった若い男女の行方を追うなかで、隠蔽されていた殺人事件が露見。
 お話そのものは前述のとおりに登場キャラクターの頭数こそべらぼうだが、人物メモを作りながら読み進めるなら、かなりスムーズにスラスラ読める。
 特に前半~中盤の流れは実にハイテンポで、中期以降のロスマクってこんなに読みやすかったっけ? と軽く驚いたほどだ(笑)。

 とある重要な登場人物の(中略)が(中略)してゆく半ばの意外性も読み手へのよい刺激になる。くわえて、次第に物語のなかで比重を変えていく複数の事件のバランス取りが絶妙。
 ああ、確かにこれは評判がよい作品だな、という感じである。

 いびつな人間たちがそれぞれに自己主張したり、あるいは歪みを警戒しながらも流されてしまった事態、その累積の結果で起きた悲劇で事件、という文芸は、正にド真ん中のこの時期のロスマクの作風。

 そして物語全体のキーパーソンといえる人間は少なく見ても5~6人間いるんだけれど、最後の最後に本当の事件の底が割れると、そのキーパーソンはわずか(中略)に絞られる。
 ある種の反転の醍醐味を実感させる物語の構造がすごく鮮やかで、自分もこれはアーチャーシリーズのベストクラスに置きたい。
 終盤の切れのいい(中略)が、いまだ余韻となって胸中に残っている。うん。文句なしに傑作でしょう。

 ちなみにこの作品、ポケミス70ページめの昔の学生時代に続く? 夢のくだりとか、同113ページ最後の「へー」となる心の動きとか、同157ページの(中略)についての情報とか、アーチャー自身の内面や素顔の細かい書き込みの豊かさも印象的。同162ページのジョーク? なんかは当時のアメリカ人にはわかるのであろうか。



【以下、もしかしたらネタバレ~なるべく曖昧に書くつもりだが】
 ただ一カ所、ラストまで読んであとから疑問に思ったのが、ポケミス版289ページの最後の一行の件(関連した叙述はほかにもあるが)。これは結局、何だったのだろう? 
 あえて好意的に解釈するなら(中略)が(中略)したんだろうけれど、そのあとに納得のいく説明などはなく、どうにも舌っ足らずだよね?

No.9 9点 青い車 2020/03/20 21:50
 『さむけ』も『象牙』もいいですが、私にとってロスマクといえばこれです。私立探偵ものとしては珍しくない導入でありながら、お得意の家族悲劇を抉り出してノンストップで読ませてしまう展開の良さが際立っています。リュウ・アーチャーは自己主張しない人物ではあるのですが(本作でも結婚経験があると言いつつ詳しくは全く説明していません)、その落ち着いたクールな語り口も面白さにつながっていると感じました。

No.8 7点 クリスティ再読 2019/05/06 00:30
さて評者的にはロスマク最後の1冊で初読。楽しみにしてた。
本作はタイトルに大きな意味があるんだと思うんだよ。霊柩車を中古で買って、縞模様(というかサイケに)塗りたくって乗り回して遊ぶ若者世代(これにハリエットとキャンピオン、ラルフが含まれる)と、その親世代の断絶がやはりテーマなんだからね。ほぼネタが同じな「ウイチャリー家」が社会的な視点を欠いていたために、「不幸自慢」みたいにしか見えなかった弱点を、本作だと克服しているように思う。というかね、本作の紹介で「放縦な娘ハリエット」としているのはかなりのミスリードで、それこそ「太陽族」とか「怒れる若者たち」とかロックンロールな世代と、ロスマクを含む親の世代の対立を背景に、ロスマク自身の娘に対する罪の意識を折り込みながらハリエットと大佐の親子関係に形象化した、という風に読むべきなんだろう。
だからね、大佐の造形はロスマク自身をかなり投影したもののように感じられるんだ。本作が一番ロスマクの「プライベートな作品」になるんじゃないのだろうか。もし本作に迫力を感じるのならば、そういうロスマクの自身の自己投影にあるんだろう。ロスマクも「お母さん子」だったのかなあ。
あと思うんだが、いわゆるツートップという評価には、実のところ小笠原豊樹訳、というのがかなり強い影響をしているんじゃないのかな。「ウィチャリー家」は過大評価だと評者は思うが、本作も小笠原豊樹訳。しっくりしたいい訳。

でコンプ記念でベスト5。
1.「一瞬の敵」、2.「運命」、3.「ドルの向こう側」、4.「犠牲者は誰だ」、5.「さむけ」、次点で「人の死に行く道」「ギャルトン事件」
やや異端気味かな。「一瞬の敵」が頂点だと思うんだがねえ。

No.7 8点 2017/12/21 19:27
最初に読んだロス・マクが本作で、本当に久しぶりの再読です。初読当時は、特にラストのリュウと犯人との対話と、その後歩き始める「水の涸れた川床のような道」の情景に圧倒的な感銘を受けたものでした。
今回読み直してみると、事件の構成は意外にシンプルだと思いました。前後の作品のような大胆なアイディアもありません。まあ真相を知っているため、様々な出来事の裏の意味がわかるからというところもあるのでしょうが。それでも自然な形での結末の意外性は充分にあり、ミスディレクションも効いています。最初の方で出て来る縞模様の霊柩車が、ただ象徴的な意味を持つだけでなく、重要な手がかりを提供することになるのも、うまくできています。そしてストレートに突き刺さって来るアメリカの「家庭の悲劇」。
リュウが頭を枝から下がったマンゴーにぶつける場面などユーモラスなところも記憶に残っていました。

No.6 8点 E-BANKER 2016/06/19 18:04
1962年発表。
作者十六番目の長編にして、もちろんリュウ・アーチャー登場作品。

~幼くして実母に捨てられたハリエットは、いつか孤独で放縦な性格を身につけた女性になっていた。そして、二十五歳になり五十万ドルにのぼる叔母の遺産を自由にできる今となっては、誰も彼女の行動を抑えられなかった。そんな彼女が突然、メキシコから得体の知れない男を連れ帰った。財産目当てのプレイボーイか? 彼女の父と義母の不安は募った。男の身元調査を依頼されたアーチャーは、早速調査を開始した。しかし、車をとばす道中で行き交わした縞模様の霊柩車は、アーチャーの眼にただならぬ悲劇の前兆として映った!~

これは想像以上の傑作だった。
他の方も触れているように、本作は作者の代表作として名高い二作品(「ウィチャリー家の女」と「さむけ」)のちょうど間に挟まって発表された作品。
どうしてもロス・マクというと、かの二作品が有名すぎて、本作はコアなファン以外は“知る人ぞ知る”といった程度になってしまう。
でもまぁよく考えれば、まさに作者の絶頂期とも言える時期なんだよね。
アーチャーの造形やキャラクターも定着し、プロットも十分に練り込まれている。
これなら作者の「ベスト3」と呼んでも差し支えないだろう。

で、肝心の中身なのだが・・・
正直なところ、中盤まではちょっとかったるいというか、方向性の定まらないような展開でやきもきさせられる。
ところが、“ボタンの取れたコート”という重要な証拠物件が発見される終盤以降は一転。
事件の構図は突然読者の前にくっきりと浮かび上がってくるのだ。
更には、「コイツって悪人だよなぁ・・・」と読者に思わせといて、最後にひっくり返しと悲劇が待ち受けるラスト。
うーん。やっぱりさすがとしか言いようがない。

何より、本作は登場人物ひとりひとりの書き込みが素晴らしい。
ハリエットやマークといった主要な登場人物以外の脇役でさえ、何とも言えない“渋み”を備えて描かれている。
それもこれもリュウ・アーチャーという探偵の存在に負うところなのだろうけど、何とも物悲しい、切々としたストーリーに実に嵌っている。
高評価せざるを得ないよなぁ・・・
(「縞模様の霊柩車」を乗り回す若者って・・・どんな奴?)

No.5 7点 mini 2015/03/16 09:55
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”
今年の生誕100周年作家は不作だった昨年とは一変、大物揃いだ
第1弾ロス・マクドナルドの2冊目

ロスマク後期の代表作と言われる「ウィチャリー家の女」と「さむけ」の間に書かれたのが「縞模様の霊柩車」である、その為か上記の2トップに挟まれて損をしているという評価をよく聞く
つまり2トップに比べて遜色ないのに、書かれた順番が悪くて2トップほど読まれていないのが残念といった意味合いの世間的評価のようである
そういった世のネット上の評価には一理は有ると私も思う、たしかに書かれた順番の前後に「ウィチャリー家」と「さむけ」が有るのは些か不運ではある

ただしかし読んでみると私は別の感想も持った、「縞模様の霊柩車」は2トップとは肌触りがちょっと違うのである
「ウィチャリー家」と「さむけ」はまぁ基本路線としては似ている所が有って、いかにもロスマク後期のハードボイルド小説である
しかし「縞模様の霊柩車」は地道な調査に終始する警察小説の味わいに近いのである、暴力シーンなども殆ど登場しない
2トップに挟まれて損をしているというよりは、そもそも「ウィチャリー家」と「さむけ」に比べて明らかに地味なのである
真相も2トップのような無理矢理なトリックを弄さず無難なところに着地している、それでいて悲劇性を演出しており、ファンの間でマニアックな評価が高いのも肯ける

地味な捜査小説という分野は私の嗜好に合っているので、本来なら高評価したいのだが、問題は”地道な捜査”場面に不満が無くも無い
地道な捜査というものは、探偵役がいくつか調査の選択肢がある中でどれを選ぶのかという面も話の流れの1つだが、「縞模様の霊柩車」に選択肢は無いのだ(苦笑)
例えば、”その事なら誰々が知っていると思う”と捜査先で聞かされると次の章では誰々に会う為にそこへ赴く、そのパターンがシリーズになって話が進められる
つまりさぁ、話の展開がワンパターンなんだよなぁ
全体としては話に深みは有るんだけど、この物語の単調さが2トップに比較した時に豊潤さで劣る印象になっている面も否定出来ないんだよなぁ

No.4 6点 あびびび 2011/10/24 17:18
まず文章がいいと思う。そしてリュウ・アーチゃーの探偵としてのスタンスがいい。

物語は、この作家の得意分野的な流れで、依頼者の過去がだんだん危うくなって行く。それなら「なぜ、探偵に依頼したのか?」という疑問は残るものの、それが心理的な葛藤部分に表れてくる。

No.3 8点 kanamori 2010/11/17 18:08
”家庭の悲劇”をテーマにしているのは同じですが、円熟期の傑作といわれる3作の中では、徒に複雑な人間関係を設定していないぶん、本書のプロットが一番すっきりしているように思います。強引なドンデン狙いのトリックがないのも好印象。ただ、若者たちが乗りまわす霊柩車のエピソードを挿入した意味と、それをタイトルにした理由がいまいち判らないのですが。
メキシコの地を効果的に使っているのは、マーガレット・ミラーの作品を連想せます。メキシコの教会でのラストシーンは作者の作品の中でも印象に残る名場面でしょう。

No.2 10点 Tetchy 2009/05/15 23:00
愛に飢えた人々が家族という一番小さな、そして身近な社会集団を形成した時、こんなにも哀しい事件が起こるのか。
愛されるという事を欲望という形で求めるが故、視える物も視えなくなり、無我夢中に貪欲なまでに模索し、踠く。

一番手に入れたかった父親の愛を形として求めたがため、実感できなかった娘。
その事実を何もかも無くしてしまった最後に告げられる残酷な結末。

終わり間際に真相通告人として太陽のような娘を選んだ作者の意図は何だったのだろうか?

No.1 8点 ロビン 2008/11/14 23:57
娘の婚約者の素性を調べてほしいという依頼をその父親から受けて、捜査に乗り出したアーチャー。その人物には二重、三重の殺人容疑があることが徐々に判明し、お決まりの「質問者」として過去に起こった殺人事件の真相を暴いていく……。
今回はかなり意外な犯人だった。あまりに突然で、ちょっとドンデン狙いが感じられてしまったかな。
それにしても、こんな愛情は狂気だな。『容疑者Xの献身』というタイトルが当てはまりそうな、いやそれ以上の悲劇です。


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