皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ハードボイルド ] 人の死に行く道 リュウ・アーチャーシリーズ |
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ロス・マクドナルド | 出版月: 1954年10月 | 平均: 6.60点 | 書評数: 5件 |
早川書房 1954年10月 |
早川書房 1972年01月 |
早川書房 1977年10月 |
No.5 | 7点 | クリスティ再読 | 2018/08/27 18:29 |
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死顔はやはり美貌だった。どこの葬儀屋でも、こういう美男を扱えば気分がいいだろう。
と、本作は後期と違って、突き放したような非情さが目につく作品である。本来のハードボイルドってこういう非情さがポイントのはずなんだけども、浪花節を強調しがちなのは日本の国民性だろうか?斜めに構えたあたりが少々チャンドラー臭いところもあるけども、本作あたりが「らしさ」が堂に入って熟してきた感じで、ロスマク初期の「ハードボイルド」完成形のような気がする。タイトルだって邦題が直訳でわかったようで分からない迷訳だとは感じるけど、「The way some people die -> 奴らの死にざま」くらいが適切なんだろう。まさに、ハードボイルドなタイトルだ。 というかねえ、どうも日本の読者はロスマクを家モノ作家みたいに捉えすぎな気がするよ。本作だとヘロインを巡る抗争が背景にあるし、犯人像もハードボイルドの大定番な犯人だし...と、ハードボイルド読んだ、という読書感があるのが一番イイあたり。ハードボイルドが登場した20世紀前半のアメリカというと、ギャングの抗争が「リアル」だった時代だ、というのを皆さん忘れがちではないのかな。しかも、本作の「非情さ」がラストの犯人の家族と馴れ合わず「分かりあえない」アーチャーの姿として現れているのが、本当にいい。カウンセラー化しちゃう後期よりもずっと、ね。 |
No.4 | 5点 | E-BANKER | 2016/10/27 22:16 |
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1951年発表。
作者の第七長編であり、リュウ・アーチャー登場作としては「魔のプール」に次ぐ四作目に当たる作品。 原題は“The Way Some People Die” ~キャリイが姿を消したのはクリスマスの数日前だった。一通のクリスマスカードを送ってきたきり連絡を絶って二か月・・・。今その母親からの依頼で捜索を開始したアーチャーの胸にはすぐに思い当たることがあった。娘は看護婦だった。そして、彼女が最後に看護したのが重傷を負って病院に担ぎこまれたギャングの仲間だったのだ・・・。果たして娘はある名うてのギャングとともに姿を消していた。しかし、ふたりの行方を追うアーチャーの前にはまったく別の男の死体が待ち受けていた!事態は予期せぬ展開を見せ僅かな糸口は絶たれたかに見えたが・・・~ やっぱり初期作品っぽさが残る作品だなという感じ。 名作「さむけ」や「ウィチャリー家の女」が発表された絶頂期の雰囲気&アーチャーの造形とは少し異なる印象だ。 今回の主役はかなりの美女として描かれているキャリイ・ローレンスその人。 物語は彼女を中心に動き、彼女が通った後には都合五人の男の死が残ることとなる・・・ ニヒルな探偵リュウ・アーチャーでさえも、彼女の魅力には抗いがたいのか、事あるごとに彼女に関わろうとしているように見える。 やっぱり、ハードボイルドの世界には美女が似合うね。 金も暴力も権力も、結局は美しい女性がいてこそのもの、というのは古今東西を問わず共通ということだろう。 プロットはちょっと錯綜していて、アーチャーの捜査行が描かれる中盤は、何だかよく分からない展開になる。 麻薬の動きを探って、LAやサンフランシスコ、リノなど西海岸の街を彷徨っているうちに、いつの間にか終盤に突入といった具合。 ラストの収束ぶりは他の方の書評どおりで、一応明快なんだけど、個人的にはモヤモヤ感が残ってしまった。 絶頂期の作品では暴力と距離を置いているように思えたアーチャーも、本作ではエンジン全開。ギャングたちと殴り合いを演じて見えたりする。 その辺りが若気の至りというか、初期作品の熱量を感じて、かえって微笑ましく見えるのは私だけだろうか。 でもまあやっぱり、代表作との比較ではかなり落ちるという評価に落ち着いてしまうかな・・・ (男ってやっぱりバカだね) |
No.3 | 7点 | 空 | 2011/07/03 11:11 |
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妙に堅苦しい直訳タイトルですが、ひらたく言えば「ある連中の死に方」、ハードボイルドっぽいタイトルです。
本作の中では結局5人の人間が死にますが、そのうち最後の1人は本当に自殺なのかどうか、はっきりしません。ただその人物が死ぬことによって、一つの新たな生活が始まることになります。中心となる事件の真相に限らず、そういったストーリーのまとめ方、他にもアーチャーが途中でギャングのボスから受け取る500ドルの使い道なども含めて、すべてが収まるべきところにきれいに収まっていく収束感はTetchyさんも指摘されているとおりで、チャンドラーはもとよりハメットにもなかなか見られない構成作法です。ギャングの事件へのからめかたも、後から考え直してみるとうまくできています。 事件解明後の最後の場面が後年の作品への萌芽を見せてくれているとは言え、中期以降の家庭の悲劇を期待していると、不満があるかもしれません。しかし謎解き度の高いハードボイルドとしては、過不足ない作品だと思います。 |
No.2 | 7点 | ロビン | 2009/10/25 18:33 |
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お決まりの失踪人探しに、ギャングが絡んでくる進行は、典型的なハードボイルド。やはり初期の作品だけあって、ロスマク的な家庭内悲劇の色は薄い。分かってはいたけれども、どうしてもそこを望んでしまうので多少の物語的「深み」不足を感じてしまう。
しかし、興味深いのはこの母娘像。なんだか後期の家族造形に相通じるものがあるように感じました。 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2009/05/09 01:30 |
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失踪人捜しの依頼に、その中途で何者かに襲われ、気を失う、といった一連の流れは非常にチャンドラーと似ている。
しかし最後で明かされる真相がピタピタと頭の中で当て嵌まっていくというその作者の手腕にただひたすら平伏。物語の切れ味はチャンドラーよりも上か。 ただ題名は、その内容とあまり合致していないのでは? |