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[ ハードボイルド ]
動く標的
リュウ・アーチャーシリーズ
ロス・マクドナルド 出版月: 1958年01月 平均: 5.71点 書評数: 7件

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東京創元社
1958年01月

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1981年01月

東京創元社
2018年03月

No.7 6点 斎藤警部 2020/06/29 12:50
「わたしをロマンチックな気持にさせないでもらいたいな。」
HB的魅力の面では、チャンドラーからシビレの感覚を少し差し引いたようで特筆も出来ないが、それより何気にクリスティ的な、そしてドラマチックな犯人隠匿術にやられる。
「友情のために。質の違う友情のために。」
リュウ・アーチャー、手探りのデビュー作。 個性は薄いが、悪かあない。
「ほかの男の仕事を継いでやってるんだ」 「お父さんの?」 「ほかの男と言っても、若いころの自分自身のことさ。若いころは。。。。」

No.6 6点 クリスティ再読 2018/05/31 21:28
「かわいい女」が「ブルース・リー大あばれ」な評者の世代だと、「動く標的」というと「(ルー・)ハーパー」なんだよね...アーチャー初登場の本作、ちゃんとハードボイルド探偵小説のフォーマットに即して書かれたもので、出発点はハードボイルド。評者に言わせたらロスマクの後期は全然ハードボイルドじゃない(まあこれはチャンドラーだって..)からで、要するに「徐々にハードボイルドじゃなくなったけど、最初はハードボイルドだった」という出自の話なんだね。
今回読みなおして「そういえば、ロスマクってナイトクラブの描写を他で見た記憶がないなぁ」なんてバカなことに気がついたりした。ロスマクの登場人物って、夜遊びしないんだよね(笑)。アル中でも家飲み派ばっかり。憶測で言っちゃえば、ロスマクって人は実は中流のコチコチの堅物で、全然遊んでないんだけど、「ハードボイルドって言えばヤクザが経営するナイトクラブとか、ワケアリなクラブ歌手が付き物だし」というテンプレに従って、本作は「定番だから入れておくか」というくらいで書かれたような気がしないでもない。お手本は「ミス・ブランディッシの蘭」かしら....あれも「でっち上げハードボイルド」だけどね。
だからバイオレンスがてんこ盛り(当社比)でも、ハードボイルドらしい「猥雑なほどの現実感」とか「通俗な下世話さ」みたいなものがまったくない、「清潔なハードボイルド」という得体の知れないものに本作はなっているように思うんだよ。「借り物」と言っていいのかもしれないけど、最終盤などロスマク好みのブルジョア家庭の悲劇を立ち上げたりして、後年に繋がる部分が窺われなくもない。達者さと不器用さと頑固さが入り混じった、成功しているわけじゃないけど失敗しているわけでもないし、「らしい」し「らしくない」奇妙な読後感である。
うんだからやっぱり本作はリュー・アーチャーじゃなくて、ルー・ハーパーなんだろうよ....

No.5 6点 2017/05/13 17:56
リュウ・アーチャー(本作ほか創元版では「リュー」表記です)初登場作のタイトルは、セリフの中に出てきます。抽象的に「むき出しの光り輝いている、路上の動く標的」という言葉を他の人物が語った後、リュウ自身が「あいつこそ……わたしの動く標的なんだ」と言うのです。シリーズ第3作『人の死にいく道』あたりから既に、リュウはそんな言葉を口に出す探偵ではなくなってきます。
ストーリー自体かなり暴力的で、これもリュウのセリフを引用すれば「二日に三回も殴られれば、大てい頭も悪くなるさ」といった誘拐事件です。そのワイルドさは、チャンドラーよりハメットの亜流でしょう。ただやはりプロットのひねりはあり、あと80ページも残っているのに、誘拐犯の一人の正体に気づき、対決することになるので、この後どう展開するのかと思わせてくれます。で、結末だけは未熟ながら、後期にもつながる悲劇性を帯びることになっていました。

No.4 5点 mini 2015/05/20 09:53
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第1弾ロス・マクドナルドの3冊目

初期のロスマクは筆名を安定させるのに苦労した
ロスマクの本名はケネス・ミラーである、妻は言うまでもなくマーガレット・ミラーだがこちらは本名である
そう結婚して姓が変わった奥さんが本名で書いて旦那の方が筆名なのである
ただし再販以降は全てロスマク名義で出版されているが当初の4作はケネス・ミラー名義だった、既に作家として知名度の有った妻と混同されない為に5作目からジョン・マクドナルド名義になるのだが、ここでイチャモンを付けられる
イチャモン付けた作家はジョン・D・マクドナルド、要するに名前が紛らわしいと言うわけだ、せっかく妻とは筆名が紛らわしくないようにした矢先だったのに
不思議なのはジョン・Dの長編第1作が1950年、ロスマクが名義変更したのが1949年の第5作だからロスマクの方に優先権が有りそうなものだが、ジョン・Dは短編の名手でもあり既にパルプマガジンなどで短編を書いていた
その後2度の名義変更をするが面倒だから経緯は省略、最初の名義変更した第5作が「動く標的」で、この作でリュウ・アーチャーが初登場するのである
そもそもアーチャーという名前の由来がハメット「マルタの鷹」に登場するサム・スペードの相棒から採っており、色々な点で初期のロスマクには先達の影響が色濃い

今の読者の多くはロスマクというとまず定評ある後期作から読む、いや後期作だけ読むという風潮があるが、私はこの「動く標的」を1番初めに読んだ珍しい読者なのである、多分アーチャーものの1作目というのが理由だったのだろう
その後は順番通りには読まず風潮に則って(苦笑)後期作やちょっと遡って中期作と単発的に読んだ
そうなるとだ、「動く標的」のファーストインプレッションは鮮明に覚えていなければならないのだがこれが殆ど忘れているのである(再苦笑)
やはりねえ原因は先達の影響が強過ぎだからでしょう、初期はチャンドラーの亜流という世間一般的な評価も仕方ないところだろう
もっとも通俗ハードボイルドも読む私としてはこういうのも決して嫌いじゃないんだけどね(再々苦笑)

No.3 6点 E-BANKER 2015/05/04 15:08
1949年にジョン・マクドナルド名義で発表されたハードボイルド長編。
私立探偵リュウ・アーチャー初登場ということでも記念碑的な作品。
原題“The Moving Target”(ってそのままだな・・・)

~テキサスの石油王ラルフ・サンプスンが失踪した。まもなく十万ドルの現金を内密に用意しておくようにとの本人の署名入りの速達が届く。どうやら誘拐事件のようだ。夫人から調査を依頼された私立探偵リュウ・アーチャーは眉をひそめた。金を渡したからといって本人が生還する保証はないし、それにこの手紙には胡散臭い点が多すぎる。こうしてアーチャーは複雑に絡み合う事件の中に、そして四つの殺人事件へと足を踏み入れていく・・・~

ということで、リュウ・アーチャーである。
ロス・マク作品は、「さむけ」「ウィチャリー家の女」というツートップ以来久々に読んだわけだけど、他の方も書かれているとおり、本作の“彼”は確かに未完成だ。

挫折や屈折、諦めなどどこか暗い影を持つ登場人物たち。
事件の謎を追い、彷徨うなかで、“彼”は事件の輪郭や真相そして登場人物たちの抱えている闇や光までをも明らかにしていく。
饒舌さはなくても、ひとつひとつの台詞や行動がドラマを生み出し、読者には何とも言えない寂寥感を与えていく・・・
そんな役どころを見事にこなしてくれるのが“彼”なのだけど、本作での“彼”は結構饒舌だし、勇み足や暴走も多い気がする。
(まぁ第一作目なのだから、キャラクターが固まってないのも当然なのだが・・・)

プロットもツートップ作品に比べれば単純で、そうなるよなぁという所に落ち着いている。
人間にはいろいろ複雑な感情やしがらみはあるけど、結局は金と色ということか?
本作にはミランダという小悪魔かつ魅力的な女性が登場するのだが、結局彼女さえいなかったらこの犯罪は起こってなかったってことだよね。
(アーチャーも途中でかなり彼女に惹かれることになる)

でもやっぱりハードボイルドってこういう乾いた街が似合うよなぁーって感じた次第。
LA然り、NY然り、新宿然り。(大阪なんかはやっぱり・・・)
評点としてはこんなもんだけど、決して駄作ではない。
リュウ・アーチャー初の事件としてファンには必読だと思う。

No.2 5点 Tetchy 2009/05/23 00:05
探偵リュウ・アーチャー初登場ということで、「質問者」という位置付けはある程度規定されているものの、どうも三文役者に成り下がっている印象が濃い。人の間の渡り方がどうにも不器用で、未熟である。
またプロットが平板で落ち着くであろう場所に落ち着いたという感じ。
う~ん、残念。

No.1 6点 ロビン 2008/10/21 17:33
私立探偵リュウ・アーチャーの初登場作品。正直、ロスマクの初期作品はあまり期待していなかったのですが、結果予想通りなものに落ち着いたかなという印象。悲劇の訴求力も、中~後期の作品に比べて全然足りない。
っていうかアーチャーのキャラがなんか違う。スタートはこんな情けない奴だったのか。後の「質問者」というスタイルもまだ確立されていない感じ。それでも終盤の展開はそれなりに満足できるものでした。


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