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[ ハードボイルド ]
ギャルトン事件
リュウ・アーチャーシリーズ
ロス・マクドナルド 出版月: 1960年01月 平均: 8.00点 書評数: 5件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1982年01月

No.5 9点 人並由真 2021/09/11 06:00
(ネタバレなし)
 アーチャーが見つけた「大富豪の未亡人の孫」は本物か? 偽物か? メインプロットはきわめてシンプル。
 しかし、序盤からのサイドストーリー的な殺人事件という大きなパーツの組み込ませ方があまりに見事。
(いや正直、前半では、たまたまほぼ同時に起きたのかもしれない二つの案件をむりやり結びつけようとするかに見えたアーチャーの強引さに、いささか呆れたりもしたのだが。)
 真犯人のものの考え方には、かなり新本格パズラー的な側面を見やったりもする。

 そして終盤の二転三転の展開の果てに、こういうテーマというかメッセージ性が浮き彫りになってくるとは、予想だにしなかった! まだまだロス・マク読みとして、自分は修行が足りない。
(と言いつつ、実はすでに大昔に、大半の作品は一度は読んでいるのだが、まるで心の肥やしになってないね・汗。それぞれの再読が楽しみだ。)

 しかしこの作品では、第24章でアーチャーのやさしさ、第30章で同じく厳しさ、その双方の極北を見せてもらった思いもある。

 『さむけ』『ウィチャリー』はいずれいつかまた読み返す(かな)として現状で(この数年に読んだ&再読した)アーチャーシリーズのベストは『縞模様の霊柩車』だが(次点は『犠牲者は誰だ』)、これは全体の密度感では『縞模様』に一歩二歩ゆずるものの、その分、小説としての味わいで得点。同じくらいにスキかもしれない。
(アーチャーが出会った浮浪者のおじいさんのエピソードなんか全くの点描なんだけど、ああいうのが実にいいなあ。)

 そして評点は、自分にとってこの作品のどこがスキかが『縞模様』よりもはっきりしている分、さらに高くなる。
 傑作ということなら『縞模様』、お好みということなら、本作だ。

No.4 9点 あびびび 2018/11/05 00:35
最近ずっとロスマクに物足りなさを感じていたが、これは力作。リュウ・アーチャーの推理が一転、二転するが、最後はほのぼのとして読後感が良かった。自分の中では、「さむけ」と互角、いや、全体的評価としてはナンバーワンかも知れない。

No.3 8点 クリスティ再読 2018/04/02 18:13
本作とか「運命」とか、ロスマクの転回点として重要作になるのだけど、なぜかポケミスでしか出なくて文庫にならなかったんだよね。「さむけ」とか「ウィチャリー家」とかがミステリ文庫の初期の目玉の扱いだったのと、なんでこんなに差のある扱いなんだろうか....というわけで、ちょいと判官びいきの点をつけます。
文庫にならなかった理由は本当に不明。一応本作は70年代あたりだとロスマク代表作級の扱いを受けてた記憶がある。文庫になるならないで知名度に差が出ちゃった...としか言いようがない出来。巨額の財産を継承すべき20年前に失踪した息子を探せ、という依頼を受けたアーチャーが、その息子?の死体が発見された件、依頼をした弁護士の使用人殺し、そしてその息子の息子が見つかるが、その身元に疑念が...というあたりの謎を解いていくことになる。
本作の一番いいのは、その孫息子の身元疑惑とその解決なんだよね。これ意外に小説として難しい「謎」で、「ほんもの」だと周囲の事件と絡ませにくいし、「ニセモノ」だと小説としての捻りがないし...とこの隘路を小説としてかなり上手に処理できていること。パズラーじゃないので殺人が結構行き当たりばったりで、ワルい奴らが右往左往しているけども、かえってそのくらいの方がハードボイルドらしくてイイように感じるよ。「一瞬の敵」みたいな家族・血統の中だけの話になると、因果話みたいになって閉塞した感じになるから、このくらいのオープン感が評者は好きだな。
(あれ、今 amazon で何となく検索したら、ボッタクリな高額出品以外ひっかからないや...そんなに入手性が今悪いのかしら。もったいない)

No.2 7点 こう 2010/07/19 01:51
 20年前の失踪人を財産相続のため探しだすという今では手垢のついた題材がこの作品の依頼内容です。
 マクドナルドらしい血統、血筋をテーマとしていますし最後に真相のひっくり返しもあります。但し登場人物の語られる行動面に納得いかない所が後半部分に何箇所か、何人かあります。ひっくり返される真相も確率的にはかなり低いと思います。そのため最後までよんでもさほど衝撃もなくやられた感じもしませんでしたが結構楽しめました。

No.1 7点 2009/12/17 22:38
象徴的なタイトルの多いロス・マクにしては、なんともそっけないタイトルです。
ハードボイルドではよくある失踪人探しといっても、なんと20年も前にいなくなった人の行方を捜すという、雲をつかむような依頼を受けたリュウ。どんなふうに話を進めていくのかと思っていたら、まだほとんど手もつけていないうちに意外な所で殺人が起こってしまいます。その殺人が失踪人とどうからんでくるのか、このからませ方が精密に考えられていて、しかもそこが小説のテーマにもなってくるところ、さすがロス・マクです。ただ、まだ真相が判明していない時点での首切り殺人犯人の人物描写が、振り返ってみると違和感を感じました。
途中、「あなたって、聞き上手、聞き出し上手の顔をしてるのね」「この顔でお役に立つんならお安いご用だ」なんて会話が出てくるところ、他のハードボイルド探偵にはないリュウの個性でしょう。


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