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[ ハードボイルド ]
ファーガスン事件
ロス・マクドナルド 出版月: 1961年01月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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早川書房
1961年01月

早川書房
1980年01月

No.4 6点 E-BANKER 2019/08/24 10:34
ロス・マクというと反射的に“リュウ・アーチャー”って感じがして、私自身も最近リュウ・アーチャーものを続けざまに読んできた。
で、本作は珍しく“非アーチャー”の長編で、主人公は若手熱血弁護士(という形容詞がピッタリ)のガナースン。
1960年の発表。

~頻発する強盗事件の犯人一味として逮捕された若い看護婦エラ・パーカーは、脅されたのか一向に事情を話そうとしなかった。が、盗品売買の相手が殺されたと知った途端、彼女の態度は一変した。彼女の言葉を頼りに調査を始めた弁護士ガナースンを待ち受けていたもうひとつの事件・・・富豪ファーガスン大佐の夫人が誘拐されたというのだ。波乱含みの展開を見せるふたつの事件に絡む謎の男たち。複雑な人間関係を解き明かそうとファーガスン夫人の故郷を訪れたガナースンが掴んだ真相とは?~

いつもの私立探偵アーチャーシリーズとはどこか違う雰囲気を纏った作品だった。
もちろん、それが作者の狙いなんだろう。
初期はともかく「ウィチャリー家」以降のアーチャーというと、個人的には「ドライ」で「静謐」はたまた深い「余韻」という形容詞が思い浮かぶんだけど、本作は「ウェット」で「熱い」、「野性的」などという言葉が浮かんでくる作品。
それもそのはず。
ガナースンは身重の妻を持つ新進気鋭の弁護士。
愛する妻、そして産まれてくる我が子のためにも情熱的&一直線に突き進んでいく、のだ。

それはいい意味でもあるし、悪い意味でもある。
巻末解説では“詰め込みすぎ”というニュアンスで書かれているけど、私としてはどうも安っぽいハリウッド映画のような映像が思い浮かんでしまって、そこがアーチャーものとの格差に繋がっているような気がしてしまう。
プロットとしてはいつものロス・マクらしく、「家族の悲劇」に行き着くんだけど、そこに貧しい出自やスペイン系アメリカ人の恵まれない境遇なんかが絡んできて、そこがどうもやりきれないというか、“安っぽい”雰囲気を作り出しているのかもなぁー

でも決して悪い出来ではない。
あくまでアーチャーシリーズの傑作群との比較であって、フラットな目線で見れば十分楽しめる作品だと思う。
今回の影の主役“ホリー・メイ”もなかなか印象的。
ファーガスンの純愛も何となく理解できる年齢になった自分がいて、うれしいような寂しいような・・・(要は羨ましいだけだったりして)

No.3 6点 クリスティ再読 2019/04/08 23:00
ロスマク最後の非アーチャー物である。主人公は若手弁護士のガナースンで、愛妻サリーが臨月である。まだからハードボイルドという雰囲気は薄いが、ロスマクなので小洒落たユーモアのある...とは絶対にならない(苦笑)。「ブルー・ハンマー」と似た明るさがあるので、「ブルー・ハンマー」の後に余力があったら、本作の続編でも良かったのかもしれない。中年男アーチャーよりもずっと若くて、熱血というか、沸点が低いというか、頭に血の上りやすい印象がある。弁護士のクセに終盤殺されかけて這々の体で脱出するアクションシーンもあり。
病院を利用した窃盗団一味の容疑がかかった看護婦の弁護を引き受けたガナースンは、この一味に関わる殺人に出くわすが、この一味の首領らしい男は、元女優を誘拐して大金持ちの夫に身代金を要求した。この夫の法律顧問として、ガナースンは事件に関わっていく....
ロスマクというと、話がどう転がっていくか全然見当のつかないタイプの小説(「ブラック・マネー」とかそうだね)がたまにあるけど、本作もそういうもの。最終的には「父親探し」もあったりして「ロスマクだねえ」なんだけども、悪徳警官物?と思わせたり、悪女モノ?と思わせたり、なかなか配球を読ませないや。全然先が見えなくて、話の転がり方で絵面が切り替わる妙味を楽しむタイプの小説だから、やや楽しむのに度量の必要だろう。そういうあたりで初心者向けではない。悪徳警官?という線があるから、本作はアーチャーじゃないのかもしれないな。私立探偵ゴトキじゃ、悪徳警官には手が出ないからね。

さて、ロスマクもあと一つ。「縞模様の霊柩車」も本は確保済。

No.2 7点 2014/08/25 22:29
ロス・マクドナルドが『ウィチャリー家の女』の前に書いた本作は、久々にリュウ・アーチャーの登場しない小説です。ただしやはり一人称形式で、私立探偵でこそありませんが、弁護士が活躍する話ですから、アーチャーものとそれほど違うところはありません。探偵役が変わったことによって多少雰囲気は変わりますが。また、真相はその弁護士が見破るのではなく、事件関係者から説明されることになりますが、必ずしもそうしなければならなかったわけでもないでしょう。
巻末解説では、様々な要素を詰め込みすぎていると評していますが、ストーリーの流れは自然で、複雑すぎるという印象はありませんでした。久々の再読で、内容もすっかり忘れていたので、記憶が理解を助けたわけでもなさそうです。この作者らしく、最後には様々な出来事がきれいに収束していきますが、その最後の「事故」だけはちょっと作り過ぎかなと思えました。

No.1 6点 kanamori 2011/05/23 18:58
ロス・マクといえば私立探偵リュウ・アーチャーですが、本書は、50年代後期に”家庭の悲劇”をテーマとするスタイルを確立して以降の作品のなかで、唯一アーチャーが登場しない長編です。

石油成金ファーガスン大佐の妻で元女優のホリーが誘拐された事件に関わることになる弁護士ガナースンの捜査方法は、事件関係者と会い、”質問者”となって彼らの虚飾を剥いでいくというアーチャーの探偵法と同じです。
ただ、彼には家庭があり、妻とまもなく誕生する子供についてたびたび言及されるなど、あまりハードボイルドっぽくないですね。このあたりが一般的に評価が高くない理由かもしれませんが、複雑なプロットとどんでん返しというロス・マクの特徴は本書も健在です。


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