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37の短篇(傑作短篇集) 世界ミステリ全集18(早川書房) 石川喬司 編 |
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| アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 不明 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
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| No.2 | 8点 | クリスティ再読 | 2026/04/03 20:04 |
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| さてこの本でハヤカワの世界ミステリ全集が評者はコンプになる。普通は3冊分くらいのボリュームになる異例の本。早川書房が総力を挙げた名作アンソロになっている。だから後に「天外消失(2008)」と「51番目の密室(2010)」で別途ポケミスから出版されることになったのだが、それから漏れた作品もまだある。この頃に手に入れやすい作品が落とされたみたいだ。サーバー「虹をつかむ男」ケメルマン「九マイルは遠すぎる」トマス・フラナガン「北イタリア物語」ダール「おとなしい兇器」マシスン「長距離電話」ハンター「歩道に血を流して」スレッサー「死刑執行の日」フィニイ「死者のポケットの中には」イーリイ「ヨット・クラブ」リッチー「クライム・マシン」ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」というのが落ちたもののラインナップ。もう一冊のアンソロがあれば「J.D.カーを読んだ男」かな?
全37作読んで(評者は既読作も基本読み直す)の感想は、やはりどの作品も「語り口」が上手。だから意外なくらいにストレスなしに読み進めることができる。名作短編って、ネタやオチ以上に、読者の興味を惹きつける独自の「語り口」が重要なんだと思うんだ。その条件の上でネタやオチが優れた作品が残っているのだろう。だから巻末の対談で石川喬司・稲葉明雄・小鷹信光の三人が一致して推したブランドの「ジェイミイ・クリケット事件」は、カーっぽい密室・怪奇の要素以上に語り口と皮肉なオチの強烈さが評価されているとも感じる。 このハヤカワの世界ミステリ全集といえば、「カーもクロフツもいない」モダンな編集方針が徹底していたために、マニアからは嫌われた「ミステリ全集」だった。だからこのアンソロも実際パズラー枠は1/3程度、しかしパズラー枠にパロディ的な作品が目立つという興味深い選び方である。「五十一番目の密室」「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」「最後で最高な密室」「長方形の部屋」といった選定に密室興味が目立つのと同時に、パロディ的な処理も目立つわけで、これはオーソドックスな密室パズラー短編を素直に書くことの「無理さ」がパロディの含羞への逃避とフィージビリティ問題を回避しようとする心理の表れだろう。「新本格のお約束」に逃げることができない時代なんだよ。そういうパロディ+密室だとスティーヴン・バーの「最後で最高の密室」が一頭地抜いていると思う。 このアンソロでは紙数制限で100枚以下が設定されていたために、わりを喰うのはハードボイルド短編で、ブレット・ハリディ「死刑前夜」と「マンハント」からはエヴァン・ハンター「歩道に血を流して」、アル・ジェイムズ「白いカーペットの上のごほうび」だけ。ハードと言うよりどうしても人情っぽい方向に流れることになる。「歩道に血を流して」はいうまでもなくヒューマンな名編。 「異色作家短篇集」作家の比率は高くて、サーバー・ブラウン・ブロック・ダール・マシスン・フィニイが採用されている。でもブロックはポオの「灯台」を加筆完成した「燈台」で、これいいなあ。ブラウンはミステリ枠での採用でトリッキーな「後ろを見るな」なのは納得。「奇妙な味」が盛りだくさんなのが、ハヤカワらしい。「異色作家短篇集」にもし第四期があればイーリイ「ヨット・クラブ」やジャック・リッチー「クライム・マシン」、あとホック「長方形の部屋」の世界だったろうね。「クライム・マシン」はよくできているよ。「ヨット・クラブ」は大好き。 でも、個人的なイチ押しはC.B.ギルフォードの「探偵作家は天国へ行ける」。眠っている間に刺殺された男が天使に掛け合って、大きく状況を変えないことを条件に死の前日を再体験して(まだ実行していない)犯人を捜す話。ユーモア感とミステリ感・華麗なオチが素晴らしい。次はどうかな、心理派のクライムストーリーとして評者は、リース・デイヴィス「選ばれた者」が好き(これは少数派だなwややシャーリー・ジャクスンっぽい) まあ、明らかに遊びで選んだバロウズ「ジャングル探偵ターザン」とか、SFクロスオーバーでパロディ色がある、ポール・アンダースン「火星のダイヤモンド」などの珍品も収録した「モダンなアンソロ」として、やはり全篇を通して読むのがいいようにも思う。大変だけどね(苦笑) |
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| No.1 | 6点 | 弾十六 | 2025/03/31 08:50 |
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| 1973年出版。確か書籍でも持っているはずなのだが、書庫を探すのが大変。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
巻末の石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光の座談が非常に楽しい。稲葉さんが「C・O」と言ってて何?と思ったら「コンチネンタル・オプ」のことでした。 一つ一つ、ゆっくり読んで行きますよ。総合評価は暫定6点で。 ---------- (2) Human Interest Stuff by Davis Dresser(Brett Halliday) (初出Adventure 1938-09、挿絵画家不明)「死刑前夜」ブレット・ハリデイ作、都筑道夫 訳: 評価6点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。初出誌は全ページ無料公開されている。イラストは二枚だが雰囲気良し。 原文と比べると最後の一行はなんか違う。ハリデイさんの長篇は読んだことはないけど、短篇数作を読んだ印象からとっても良い人なんだろうと感じる。何せヘレン・マクロイを妻にしてた人だしね。 ---------- (8) Don’t Look Behind You by Fredric Brown (初出?EQMM1947-05) 「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン作、曽我四郎 訳: 評価6点 稲葉さん推薦作。座談会では最初は雑誌の最後の短篇として印刷…というふうに書いてあって、そういう組み方の初出?雑誌(イラストもあった)をどこかで見た記憶があるのだけれど、上記EQMMでは三番目の短篇。あれ?と思った。短篇集Mostly Murder(1954)では最後になってるけど… 作品の書きっぷりから言って、雑誌最後の短篇じゃないと成り立たないようにも感じるので、本当の初出はマイナーなパルプ雑誌なんだろうか? ところで翻訳の曽我四郎って誰でしたっけ?早川関係だったような朧げな記憶が… 作品内容は才人ブラウンらしいちょっとトリッキーなもの… ってみんな大体知ってるよね? p157 ロナルド・コールマン(Ronald Colman)◆ 1920〜30年代のスター。なので1947年だとすこし古臭い感じ。 p158 細字の思い切った草書体(freehand cursive style) ---------- (9) Off the Face of the Earth by Clayton Rawson (初出EQMM 1949-09) 「天外消失」クレイトン・ロースン作、阿部主計 訳: 評価7点 稲葉さんが本作を推してるのが意外だった。マリーニ探偵の不可能犯罪もの。トリック、ちゃんと出来るかなあ、と思うのと、やる側の心理(プラン立てたとして、これで上手くいく、と思える?)がちょっと不満。TVドラマで見てみたいなあ。 p176 ジプシー・ローズ・リー◆ Gypsy Rose Lee(1911-1970) 1930年代後半ごろからが最盛期か。英Wiki参照。 p177 ペパーの幽霊魔術(Pepper’s ghost)◆ 1862年ロンドンで大評判になったマジック。 p177 ドロシー・アーノルド◆ 米国で有名な失踪者。英Wiki “Dissapearance of Dorothy Arnold”参照。1910年12月10日午後、ニューヨークで失踪。五番街で友達と別れたときセントラル・パークを通って帰ると話していた。当時25歳。 p180 クレイター判事◆ Joseph Force Crater(1889年生まれ) ニューヨーク州最高裁判所判事。1930年8月6日午後9時半ごろ、ニューヨーク西45番街のレストランを出て、二人の連れと別れ、一人タクシーに乗り込んだ後、行方不明となった未解決事件。 ---------- (26) Contents of the Dead Man’s Pocket by Jack Finney (初出Collier’s 1956-10-26) 「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ作、福島正実 訳: 評価7点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。とってもコワイ話。まあ結末はこれで綺麗だけど、でも不満だなあ。 ---------- (29) The Sailing Club by David Ely (初出Cosmopolitan 1962-10) 「ヨット・クラブ」デイヴィッド・イーリイ作、高橋泰邦 訳: 評価6点 小鷹さんお勧め。言いたいことは何となくわかるけど… ファンタ爺に過ぎる。当時作者35歳か。ならジジイの気持ちなんてわかるはずないよね。 ---------- (32) The Man Who Read John Dickson Carr by William Brittain (初出EQMM 1965-12)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン作、伊藤守男 訳: 評価7点 小鷹さんお勧め。実に気が利いている。 p632 ドアは五インチもある厚いかしの木製で、それをしめるためには、両側の壁にがっちりとはめこまれた鉄のとめ金に重い木のかんぬきをさしこまなければならない(a two-inch-thick oak door... could be locked only by placing a ponderous wooden bar into iron carriers bolted solidly to the wall on both sides of the door)◆ 密室ドアの鍵関係のサンプル (2025-04-03記載) ---------- (33) The Locked Room to End the Locked Room by Stephen Barr (初出EQMM 1965-08)「最後で最高の密室」スティーヴン・バー作、深町真理子 訳: 評価7点 著者は経歴不詳となっているが、Stephen Richie Barr(1904-1989)生まれは英国Uxbridgeだが、米国で活躍、数学分野での著作が多い。マーチン・ガードナーの友人、父は米国人数学者James Mark McGinnis Barr(1871-1950)と判明している。 原タイトルは「密室にケリをつける密室」密室論議はこれでオシマイdeath、というようなニュアンスかな? よく出来た密室もの。正しくは「密屋敷」だが。 (2025-04-05記載) ---------- (37) The Gemminy Crickets Case by Christianna Brand (初出EQMM 1968-08)「ジェミニイ・クリケット事件」クリスティアナ・ブランド作、深町真理子 訳: 評価7点 上記のお三方が三人とも「お気に入り」と認めているのが、本作。大昔に読んだはずだけど、すっかり忘れていた。自然な流れが非常に良い。タイトル、由来はJiminy Cricket(ジーザス・クライスト!の言い換え語)なんですね。クリケットが登場するのかな?と期待しちゃった。ワールド・カップ決勝の日(土曜日)が事件の日となっているが、1966年サッカー・ワールド・カップはイングランドがホスト国で、イングランドが初優勝している。(1960年にイングランドで開催されたラグビー・ワールド・カップの可能性もあるかな。こちらも英国が二度目の優勝)。まあ戸外に誰も出ていない、という熱狂ぶりなのでフットボールのほうだろう。ただし「二十年以上前」の事件のはずなので、作中現在は未来なのかな?(1990年ごろか) 「[ワールドカップなので]誰もがテレビにかじりついてる」という文言があった。最初のTV中継は1954年のワールドカップが最初。(訂正: 事件が二十年以上前、ではなくて、登場人物が再会したのが二十年ぶり、という事でした。とすると、作中現在は初出1968年でも大丈夫ですね) |
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